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「福田発言」を叩いても女は浮かばれない

プレジデントオンライン / 2018年5月23日 9時15分

2018年4月18日、辞任を表明し、報道各社の取材に答える福田淳一財務事務次官(当時)(写真=時事通信フォト)

■「おっぱい」「うんこ」「おなら」連発は省内でも有名

福田淳一前財務事務次官のセクハラ報道をきっかけに、セクハラにまつわる議論がかまびすしい。福田氏は、「発言自体がセクハラ」という世論を受けて辞任に追い込まれたわけだが、多くの男性が「女性に対する発言について注意すればよい」と勘違いしつつあるのではないか、と心配している。

発言ばかりに焦点が偏り、議論が矮小化しては、本質的な問題は改善されないどころか、かえって悪化するだろう。私事で恐縮だが、記者になってちょうど30年たつ。私の限られた経験ではあるが、セクハラとはなにかを整理してみたい。

「週刊新潮」の報道からほどなく、テレビから福田氏の声が聞こえるようになった。私は「懐かしい! 相変わらずバカバカしいオッサン!」と爆笑した。15年ほど前、福田氏とはお酒の席をご一緒したことがある。酔いが回ってきたころ、福田氏は「これは仕事? 仕事じゃないよね? 仕事はしたくない」と突然つぶやいたかと思うと、それまでの口数の少ない様子から一変して、報道とほとんど同じトークを始めた。

福田氏の場合、実際に触るなどの動作をするわけでもない。私に対してもそうだったし、別の女性記者から聞いた話もそうである。だが、記者として興味のある話題には全く乗ってこない。女性だからバカにされているのか、と思い、私がとがめるようなことを言ったのだろう。福田氏は、「俺、高校も男ばっかりだったし、女とどう話したらいいかよくわからないままなんだよ。しかも小田原の暴走族にも入っていた」などと、いわゆる“バンカラ”ぶりをやや恥ずかしそうに説明していた記憶もある。

福田氏が「おっぱい」「うんこ」「おなら」という発言を連発するのは、省内でも有名だ。小学生の男子が面白がって言うのと変わらないのだろう。

■テレ朝女性記者の「実害」は?

福田氏は男女を問わずネタを出さない。取材するなら別の人間に聞くのが有効だろう。テレ朝関係者による説明は、こうだ。当該の女性記者は、上司に福田氏のことを「キモい」と訴え、上司も「それなら取材する必要はない」と了承していた。しかし、福田氏から連絡があったのは、NHKが「森友学園問題で財務省が口裏合わせを要請」というスクープを出した直後だったため、女性記者も、今日ばかりは何か言いたいことがあるのかもしれないと、呼び出しに応じた。ところが、行ってみると、これといった話はなかったという。

これがすべて本当なら、セクハラ以前に、業務妨害と言われても仕方がない。

他方、セクハラというからには、実害が伴わなければ合理性がない。女性記者は、「おっぱい触っていい?」などという福田氏の要求に「ダメです」と答え、福田氏から無理やり触られたわけでもない。発言そのものが精神的苦痛だったというが、その場から逃れられないよう監禁されたわけでもない。

個室で話していたわけでもないのだから、大声をあげてもよかったはずである。仮に彼女がそうした行動に出たとして、テレビ朝日を解雇されるわけでもないだろうし、福田氏が財務省の記者クラブから排除する、などといった陰湿な行動をしたとも思えない。仮に「おっぱいを触らせてくれたら教えてあげる」などと言っていれば、明らかなセクハラだが、そのような事実は報じられていない。

福田氏の発言を擁護するわけではないが、発言ばかりを責めても、もっと深刻なセクハラはなくならないどころか、潜伏化しさらに悪質なケースが横行しかねないと考える。

■「深刻なセクハラ」とはなにか

いま話題になっている車中で手を握るとか、エレベーターの中で体を触るというのは、セクハラというより痴漢行為であろう。

では、深刻なセクハラとはなにか。90年代に話題になった米国三菱自動車製造での女性従業員らによるセクハラ集団訴訟の例がある。当時、女性従業員は日常的に男性従業員から性的な行為を強要され、会社公認の「セックス・パーティー」まであったと一部で報じられた。この女性従業員らは、それに応じなければ職を失うという立場にあった。

最近も相次いで報じられている国会議員の秘書や支援者に対する肉体関係の強要なども、秘書はそれに応じなければ解雇される危機にあっただろうし、支援者なら仮に応じたとしてもせっかく築いた仲間との関係が壊れるなどの事態に見舞われたであろう。一般的な職場でも上司の性的要求に対して応じなかったところ、ほどなく左遷されたなどというケースをよく聞く。

こうしたケースは、解雇される、左遷される理由が他にあった、と主張されてしまうことがある。性的要求を拒絶したことが原因であるとの因果関係の証明は難しいことが多い。

テレ朝の女性記者も、関係者から事実上、特定されているとすれば、今後、彼女の取材に応じる官僚は激減する可能性がある。取材に応じない官僚は、その理由を説明する義務もない。

そのように官僚たちから疎外されたとき、彼女はどのような行動に出るのだろうか。それこそ、堂々と「セクハラ」を叫び、出るところに出て、きちんと決着をつけてもらいたい。そうでなければ、今回の彼女の週刊新潮を通じての告発も意味がない。

話を戻すが、発言だけに焦点が偏るのは、こうした実害を伴うハラスメントがまともに議論されず、放置され、事態はさらに悪化するだろう、ということを指摘したいのである。

■女性はもともと疎外されていいた

私はこれまでさまざまな編集部で仕事をした。企業数だけでも6社になる。その中でセクハラだと感じたのは、もっと複雑で構造的なものである。

私が社会人になった30年前、職場のほとんどは男性だった。女性がほとんどいない、ということ自体がセクハラである。仕方なく、男性と同化しようと努力すれば、「オナゴのすることじゃない」などととがめられる。

幸いなことに、週刊誌業界は、少し妙なアプローチから、世の中に蔓延する構造的なセクハラ状態をかわすことができた。汗臭い男性と同じ仮眠室で堂々と眠ることはもちろん、男性ばかりのグループとカラオケボックスに行き、そこにいる皆がズボンやパンツを脱ぎ始めたら、自分も脱いだ。

男性と一緒にキャバクラに行くことは、セクハラどころか、男性の仲間に入れた、とうれしく思った。それほど女性は、もともと疎外されていたのである。

職場で多くの女性は化粧をしているが、なぜ化粧をするのだろうか。化粧をしていなければ「だらしがない」と言われる一方で、きちんと化粧していれば「女を使っている」といわれることもしばしばである。

■元総理に「近い」女性は乳房が豊かだった

10年も記者を続ければ、そんな環境にも慣れてくるどころか、開き直る根性も備わる。ある時、当時も自民党の重鎮だった元総理の女性スキャンダルの取材チームに加わった。命じられたのは、ミニスカートがトレードマークだったある女性秘書との間に男女の関係があるかどうか、直接、元総理本人に確認することだった。どうしたら相手が話に乗ってくるか、必死に考え、その元総理と近いといわれる女性は皆、乳房が豊かだ、ということに気が付いた。私は大きなシリコンカップのついたブラジャーをして追い掛け回した。ようやく捕まえ、一緒にエレベーターに乗ることに成功し、狭い空間の中でここぞと、胸を突き出しつつ、畳みかけるように質問した。すると元総理の硬い表情が緩み、「急いでいるので歩きながら話そう」と取材に応じてくれたのだ。

この「偽おっぱい」について、「女を使った」と一括りに言うことこそがセクハラだと思う。相手の好物を事前に取材し、好きな銘柄の酒や食べ物を持っていくのとどこが違うのか。十分な取材のために相手との距離感を縮める目的で手練手管を使うのは当たり前である。

逆に「女性に大事な話はできない」という男性とも大勢、遭遇してきた。そんなときには、化粧もせず、髪もなるべく小さくまとめ、絶対にスカートは穿いていかない。

大きな乳房であろうが、化粧をして愛想よくふるまおうが、高級料理をごちそうする男性記者と変わりはないはずだ。

■人類の半分は女性である

「女」を特別視することが、そもそもセクハラなのである。

元総理が取材を受け入れたのは、偽物のおっぱいに惑わされたのか、私の質問がうまかったのか、その因果関係はわからない。それをいつか分かるためには、もっと、すさまじいタフなコミュニケーションが必要なのだろう。

特に週刊誌の記者なら、取材相手に「うんこにたかるハエ」などと人権侵害にもあたるような暴言を投げつけられたことがあるだろうが、福田氏の発言そのものが精神的苦痛だというのなら、そうした発言はどうなのか。

人類の半分は女性である。女性にとっては、乳房が豊かであれ、貧弱であれ、もともとついているものであり、男性の身長や肥満の度合いとかわらないはずである。程度にもよるが、人それぞれの特徴に言及してはいけないなどということはありえない。

このままコミュニケーションを極端に萎縮させるだけなら、日本の社会では、男女とも、全員、顔のない「ムジナ」同然になっていくだろう。

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川村昌代(かわむら・まさよ)
ジャーナリスト
1966年生まれ。中部経済新聞、時評社「月刊時評」、ロイター通信、文藝春秋「週刊文春」、朝日新聞出版「アエラ」「週刊朝日」の記者を歴任。

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(ジャーナリスト 川村 昌代 写真=時事通信フォト)

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