夫が謝っても許さぬ妻の"無限マグマ"正体

プレジデントオンライン / 2018年5月25日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/yanjf)

犬も食わないという夫婦げんか。最終的には夫が「とりあえず謝って」収束するパターンが多い。だが、精神科医の片田珠美氏は「妻は自らの欲求が満たされない状態が続く限り、怒りや恨みを心の奥底に溜め込み、いつでもマグマのように爆発させる」という。「我こそ正義」と昔の話を蒸し返す妻の行動原理とは――。

■なぜ夫婦げんかは最終的に夫が妻に謝るのか?

先日、ある男性から「夫婦げんかで謝るのは結局、僕。なぜ、けんかすると最後は男が女に謝るんですか?」と質問された。もちろん、これは夫の言い分である。実際には妻が謝ることもあるのに、夫が「自分ばかり謝っている」と思い込んでいるだけかもしれない。

ただ、その場にいた他の複数の男性も、「うちもそう。謝るのはいつも自分で、妻は謝らない」と同じ意見だった。それに対して、女性陣からは「妻だって謝るわよ。それに夫の謝り方はおざなりで、心から謝ってないから」と反対の声が上がった。

それぞれに言い分があるだろうし、どちらが謝るかは夫婦によっても違うだろう。ただ、世の男性諸氏の多くは「夫婦げんかで謝るのはいつも男」と思っているようだ。

なぜ、こういうことになるのだろうか? 具体例を挙げながら、その理由を分析したい。

▼「私のこと全然考えてくれてない」……面倒くさいから謝る夫

 以前、本連載でも紹介したことがあるが、30代の男性から聞いた話である。この男性は、息子が入っている少年野球チームのコーチの手伝いをしており、毎週土曜日、朝8時から17時までグラウンドに行っている。もっとも、妻は野球に対してあまり理解がなく、もともと息子が野球チームに入るのもあまり快く思っていなかったようだ。

ある土曜日、夫がコーチの手伝いを終えて、夕方帰宅したところ、妻が明らかに不機嫌な様子で、一向に食事を作る気配がなかった。直接声をかけるのがためらわれる雰囲気だったので、息子に夕食の準備がどうなっているのか尋ねさせると、「作りたくない」という一言が返ってきた。

仕方なく、夫が直接「何を怒っているのか」と尋ねたところ、妻は突如激高して、「毎週、野球なんて自己満足なことばかりして、風呂掃除もトイレ掃除もしてくれない!」と怒鳴りだした。夫は、「風呂掃除もトイレ掃除もしていないのはたしかだけど、普通に言ってくれれば素直に従うのに、そんな言い方はないだろう」という思いにとらわれ、憮然としたらしい。

おまけに、「自己満足」という表現に引っかかった夫が「うるさいことを言うなあ」と言い返したことが、さらに火に油を注ぐ結果になった。妻は「自己満足は自己満足よ。あなたは自己満足の塊よ。私のことなんか全然考えてくれてない」と怒りだし、その日は結局、仲違いしたまま双方寝てしまった。

■冷戦状態を長引かせたくない、と謝る夫にイラつく妻

翌日、夫が外出先からメールで妻に謝り、週に一度は風呂掃除とトイレ掃除をすると告げ、一応収束した。しかし、夫としては、罵声の迫力に負けた気がして、何となく釈然としなかった。自分のほうから謝ったのは、これ以上冷戦状態が長引いて面倒くさいことになるのが嫌だったからだという。

何よりも面倒くさいと思ったのは、「自己満足」について蒸し返されることだ。この男性は、少年野球チームのコーチの手伝いを「自己満足」でやっているわけではない、と自分では思っている。実際、コーチから「他にやってくれる人がいないので、ぜひお願いします」と頼まれて渋々引き受けたのだ。

それでも、妻の目には夫が「自己満足」でやっているように映っているのだから、それ以外にも妻から「自己満足」と批判されるようなことがあるかもしれない。そういうことをいちいち蒸し返され、愚痴をくどくどと聞かされるのは、面倒くさい。

もちろん、「決して自己満足でやっているわけではない」と釈明したい気持ちもあるが、それに対しても妻が反論するのではないかと思うと、何を言っても結局は無駄のような気がする。そんな面倒くさいことに時間をとられるくらいなら、自分から謝ってけんかを終わらせたほうがいい。そう考えて、この男性は自分から謝ったという。

同様の理由から謝る男性が実は多いのではないか。決して心から反省して謝っているわけではなく、面倒くさいから、これ以上長引かせたくないから謝る。そういう心情がわかるからこそ、妻のほうも「私の話を全然聞いてくれてない」と腹が立ち、その怒りがくすぶり続ける。そして、機会があるたびに蒸し返さずにはいられない。

妻に蒸し返されると、夫は「またか」と思い、できるだけ早くけりをつけたくて、自分から謝る。こういう場合、夫の謝り方は往々にしてその場しのぎである。そのため、妻が「おざなり」という印象を抱き、悪循環に陥りやすい。

▼過去の話を何度も蒸し返す妻の「被害者意識」

このように蒸し返す妻は、かなり前の話を持ち出すことが多く、夫はキョトンとする。たとえば、

「あなた、あの子がまだ幼いときにおむつを替えるのを手伝ってくれなかったわよね」
「結婚して初めてのお正月にあなたの実家に行ったとき、私は台所できりきり舞いだったのに、あなたは酒を飲んでいただけよね」

といった話を持ち出す。いずれも10年以上も前の話なので、夫としては「どうして今になってそんなことを言うのか」と首をかしげざるを得ない。

もっとも、こういう話を蒸し返す妻からすれば、時間が経っても許せないものは許せない。これは、自分が被害者だと思い込んでいるからだ。第三者の目にどう映ろうと、子育てに協力しない夫、あるいは嫁に台所仕事をすべて押しつける夫の実家の被害者だと妻が思っており、被害者意識を募らせているからこそ、許せない。

しかも、被害者意識が強くなると、自分に正当性があると信じ、「われこそ正義」と思い込む。この思い込みが強いほど、自分に害を及ぼしたと考えられる相手=“加害者”に罰を与えたいという願望が芽生えやすい。こうした願望を精神分析では「懲罰欲求」と呼ぶが、この「懲罰欲求」ゆえに妻はかなり前の話を蒸し返し、夫が謝るまで許さない。

■溜め込まれた妻のルサンチマンがマグマのように爆発

もっとも、夫が謝ったからといって、それで妻の気がすむわけではない。この手の妻の胸中には、しばしば「ルサンチマン」が潜んでいるからだ。これはフランス語で「恨み」を意味する言葉であり、普段は表に現れず、ちょうど地中のマグマのように心の奥底に溜め込まれている。しかも、怒りのエネルギーを含んだまま、どんどん蓄積していく。

このルサンチマンの最大の原因は、欲求不満である。自分はこうしたいのにそれができない、自分はもっと認められてしかるべきなのに認められていない……といった欲求不満を抱いているからこそ、被害者意識もルサンチマンも強くなる。

▼妻は欲求不満「とりあえず謝っても問題は解決しない」

ここで忘れてはならないのは、夫婦げんかの原因や蒸し返した話とは別のことに対して妻がもっと根の深い欲求不満を抱いている可能性だ。

たとえば、最初に紹介した夫婦でいえば、夫が風呂掃除もトイレ掃除もしてくれないこと自体に妻は怒っているわけではなく、それ以外の夫の自己満足的なふるまいに不満を募らせている可能性がある。

また、夫がおむつ替えをしなかったことを責めた妻も、そのこと自体に対して怒っているわけではなく、別のことに欲求不満を抱いている可能性がある。出産後も自分の仕事を続けたかったのに続けられなかったこと、あるいは夫の帰りがいつも遅くて子育てに関する悩みを聞いてもらえないことが欲求不満の原因になっているのかもしれない。

こういう場合、夫婦げんかを長引かせたくないとか、妻の愚痴を聞かされるのは面倒くさいとかいう理由から、夫がとりあえず謝っても、問題は解決しない。根本的な原因である欲求不満が消えてなくなるわけではないので、しばらくすると、溜め込まれたルサンチマンがマグマのように爆発する。そして、夫はまた謝らなければならなくなる。

だからこそ、世の男性諸氏の多くは「謝るのはいつも男」と思っているわけだが、妻の欲求不満の原因から目をそらし続けている限り、状況は変わらないのである。

(精神科医 片田 珠美 写真=iStock.com)

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