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究極の食事"地中海食"は本当に有効なのか

プレジデントオンライン / 2018年5月29日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/MarianVejcik)

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)という本が話題だ。ここで紹介されている食事法は「地中海食」と呼ばれているもの。健康効果が科学的に実証されているというが、その内容はどういうものなのか。その科学的なエビデンスを、医師があらためて調べた。その結果とは――。

最近、糖質制限ダイエットがブームになっていますが、実はこの糖質制限と同じくらい医学界で多数研究がされていて、健康効果が実証されている食事法に「地中海食」というものがあります。皆さんはご存じでしょうか?

つい最近だと、私の聖路加国際病院の先輩でもある津川友介先生(現在UCLA助教授)の著書『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)でも地中海食について取り上げられ、話題になっています。

今回は、その「地中海食」について、具体的に証明されている健康効果を3つご紹介しながら、詳しい実践方法についてもお伝えします。私自身も調べながら食事が少し変わったので、皆さんもぜひ参考にしていただければと思います。

■データではっきり見える3つのメリット

地中海食は、主にギリシャや南イタリアなどの地中海沿岸でとられる食事形態のことで、1960年代にAncel Keysらによって定義された食事法です。細かな食事方法は後で解説するとして、まずは、これまで医学的に示された効果からお伝えします。

メリット1:心筋梗塞や脳卒中の発症率を下げる

地中海食は、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを大幅に下げることがわかり、研究が盛んになった歴史があります。代表的な研究の1つが、美食の町として知られるフランスのリヨンで行われた研究です(*1)。

この研究では、心筋梗塞で一命をとりとめた患者を対象に、以下2つのグループに振り分けました。

1.いつも通り食事を続けてもらうグループ
2.地中海食を中心に取ってもらうグループ

2.の地中海食のグループでは、牛肉・豚肉を少なくし、バターを減らしてオリーブオイルで作ったマーガリンなどを使用しました(日本のマーガリンは様々な原料があるため、一概にマーガリンが良いというわけではありません。ただ、この研究ではオリーブオイルをより身近にするためにそれを用いたようです)。

すると、5年間の追跡調査で大きな差が生まれました。生死に大きく関わったのです(図表1)。図の横軸は患者を1.もしくは2.に振り分けてからの年数、縦軸は心筋梗塞後、生存している患者の割合です。地中海食に変えずにそのままの食生活を送っていたグループに比べ、地中海食に変えたグループでは死亡率が明らかに少ないのが見て取れます。

この研究は、心筋梗塞を起こした後の人を対象としていますが、心筋梗塞を起こした人以外でも効果は示されています。スペインで行われた研究では、地中海食の摂取により、心筋梗塞や脳卒中を起こしていない人でも、その発症リスクを約30%低減させることが示されました(*2)。

メリット2:肥満のダイエットに良い。

地中海食のメリットは、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを下げるだけではありません。肥満の方の減量にも効果的です。2005~2007年にイスラエルで行われた研究を引用します(*3)。

この研究では、322人の肥満の方が研究対象となりました(平均BMIは31kg/平方メートル)。対象となった方の平均年齢は52才、男性が86%です。研究対象となった方は、以下の3つのグループに分けられ、2年間体重を追跡調査されました。

1.食事の脂質を制限
2.地中海食
3.食事の炭水化物を制限(いわゆる“炭水化物ダイエット”)

どのグループになるかはくじ引きです。「あなたはこれから2年間こんなように食べなさい」と決められる対象者は、くじを引く瞬間ドキドキだったに違いなかったでしょう。ドキドキの先に待っていた結果が図2です。

どのグループも減量に成功していますが、特徴が異なります。特に最初数カ月で大きく減量したのは炭水化物ダイエットのグループです。しかし、5カ月目くらいを境に大きくリバウンドしています。一方、地中海食は炭水化物ダイエットほどの初速はないものの、その後もジワジワと減量していきます。炭水化物ダイエットグループの方が24カ月目もやや減量効果が高いですが、地中海食のグループもそれとほぼ同じくらいで落ち着いているのがわかります。また、1.脂質を制限したグループと比べると、地中海食および炭水化物ダイエットグループは良好な減量効果を示していることが見て取れます。

メリット3:認知機能の低下を予防する

さらに近年では、地中海食は「認知症予防」にも効果があるかもしれないことがわかってきました。バルセロナで行われた研究でそれが示されました(*4)。この研究では、447人の認知機能低下がない方が対象となりました(52.1%が女性、平均年齢は69.9才です)。

この研究では、対象者は以下の3グループにランダムに振り分けられました。

1.食事の脂質を制限
2.地中海食+オリーブオイル使用(1週間に1Lのオリーブオイルを提供)
3.地中海食+ナッツを使用(1日30gのナッツを提供)

ここでも、「1週間に1Lのオリーブオイルを提供」とみると、スペインと日本の文化の違いを感じますが、それでも前に進みましょう。結果は図3です。薄い色から順番に、地中海食+オリーブオイル、地中海食+ナッツ、脂質制限食を示しています。詳しい説明は省きますが、「記憶」だけでなく、その他の認知機能においても、地中海食の摂取が認知機能の低下を抑えている結果となりました。なお、オリーブオイルをふんだんに使用したグループと、ナッツを使用したグループの間では、大きな差は見られませんでした。

このように、地中海食は、「心筋梗塞や脳卒中の予防」「肥満の方のダイエット」「認知機能の低下予防」など、様々なメリットが研究により明らかにされています。それでは、地中海食とは、実際にはどのような食事法なのかを、次にご紹介します。

■野菜とオリーブオイルを毎食、牛・豚よりは魚介や鶏肉を

地中海食は、主にギリシャや南イタリアなどの地中海沿岸でとられる食事形態で、以下の様な特徴があります。

【地中海食の特徴】
・野菜を多く摂る
・脂肪分は、オリーブオイルなどの良質なものから摂取する
・タンパク質は、魚介類を中心に摂取する
・チーズやヨーグルトも摂取する。
・肉類は、鶏肉を多めに。牛肉や豚肉はごく少量に。

具体的な食事方法としては、「地中海食ピラミッド」として知られる以下のような図式で説明されます。上段にあるものはごく少量、下段にあるものは多く摂取する食事方法です。摂取する頻度ごとに大まかに示すと、図4のようになります(*5をもとに筆者が作成)。

【毎食摂取】
・野菜
・フルーツ
・オリーブオイル
・パンなどの炭水化物(できれば全粒粉のもの)
【毎日摂取】
・チーズやヨーグルトなど1日2品(できれば低脂肪のもの)
・オリーブ、ナッツ類
【週に数回摂取】
・鶏肉など
・卵
・魚介類
・豆類
【週に1-2回程度に抑える】
・じゃがいも
・赤身の肉(牛肉、豚肉、ラム)
・加工肉(ソーセージやハム)
・スイーツ

もちろんこれをキッチリこなせれば良いのですが、なかなかそうもいかないと思います。現実的には、毎日の食卓で考えるならば、以下のようになるでしょうか(ここは、あくまでも筆者の私見です)。

【レストランにて】
・前菜のサラダの品数を多くする。
・メインの料理は肉よりも魚介類。
・お酒はワインを少量。水を多く飲む。
・デザートはフルーツを中心にしたものをチョイス。
【自宅のご飯/スーパーにて】
・入口付近の野菜コーナーで数品目とフルーツをチョイス。
・お肉コーナーよりも魚コーナーへ。
・週に数回チーズなどの乳製品を購入。
・穀類はできるだけ全粒粉のものを(白い炭水化物より、茶色い炭水化物)。
【コンビニにて】
・サラダを1品は選ぶ。
・牛肉や豚肉よりは、魚介系や鶏肉の一品を。
・サラダチキンや低脂肪ヨーグルト、チーズ、ゆで卵なども活用。
・炭水化物は、できれば全粒粉の入ったものを。

■ポイントは脂質の摂り方にあり?

最後に、地中海食はなぜ心血管リスク(心筋梗塞や脳卒中など)を減らすなど身体に良いのでしょうか。栄養学的な特徴の1つは、脂質の摂取方法にあります。

「脂質」といっても、実は様々な種類があります。その代表例が不飽和脂肪酸・飽和脂肪酸です。化学構造による分類なのですが、かなりザックリと話をすると、以下のような特徴があります。

【不飽和脂肪酸】
・魚や植物油に多く含まれる。常温でも液体のことが多い。
・特徴として、心筋梗塞のリスクを減らす(*6)、LDLコレステロールを下げる(*7)、などの効果が知られている。
【飽和脂肪酸】
・肉の油、バターなどに多く含まれる。常温だと、個体のことが多い。
・特徴として、LDLコレステロールを高くしてしまう可能性が指摘されている。

これを見て気づかれた方も多いかと思いますが、地中海食には不飽和脂肪酸を多く含む内容(オリーブオイルやアボガドなど)が多く含まれ、一方で飽和脂肪酸を多く含む牛肉や豚肉は少ないのです。先程挙げた地中海食のメリットは、こういった良質な脂質のとり方にも関連があるかもしれません。

地中海食をなかなか完璧に実践することは難しいかもしれませんが、普段の食事で、オリーブオイルやナッツのほか、フルーツ、海鮮類を「ちょっと足し」するだけでも、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管イベントを抑えたり、適正体重に近づけたりする一歩になるかもしれません。

このように、毎日の食生活を少し見直すことで、ご自身が病気になるリスクを下げることができます。救急現場にいると、心停止や脳卒中になってしまわれた方が毎日搬送されます。しかし、そうなってしまっては既に遅いのです。せっかく頑張って定年間際まで頑張られたのに、そこで脳卒中を起こして寝たきりになってしまっては、元も子もなくなってしまいます。そのような悲劇を少しでも少なくするために、次の食事の一品を変えることで未来のリスクを下げていきませんか。

また、他にも医療や健康についてのご質問や気になることがあれば、「first call」でも医師がお答えしておりますので、ご活用されて下さい。

参考文献:
(*1)De Lorgeril, Michel, et al. "Mediterranean alpha-linolenic acid-rich diet in secondary prevention of coronary heart disease." The Lancet 343.8911(1994): 1454-1459.
(*2)Estruch, Ramón, et al. "Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet." New England Journal of Medicine 368.14(2013): 1279-1290.
(*3)Shai, Iris, et al. "Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet." New England Journal of Medicine 359.3(2008): 229-241.
(*4)Valls-Pedret, Cinta, et al. "Mediterranean diet and age-related cognitive decline: a randomized clinical trial." JAMA internal medicine 175.7(2015): 1094-1103.
(*5)Bach-Faig, Anna, et al. "Mediterranean diet pyramid today. Science and cultural updates." Public health nutrition 14.12A(2011): 2274-2284.
(*6)Pan, An, et al. "α-Linolenic acid and risk of cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis-." The American journal of clinical nutrition 96.6(2012): 1262-1273.
(*7)Mensink, Ronald P., and Martijn B. Katan. "Effect of dietary fatty acids on serum lipids and lipoproteins. A meta-analysis of 27 trials." Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 12.8(1992): 911-919.

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石川 陽平(いしかわ・ようへい)
オンライン健康相談「first call」相談医
医師/聖路加国際病院救急部/東京慈恵会医科大学分子疫学研究部。2007年東京慈恵会医科大学入学後、世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、13年より聖路加国際病院に入職。14年度、聖路加国際病院ベストレジデント。現在は、聖路加国際病院・救急部医師として臨床に従事する一方、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部にて研究を行う。15年にMediplat(現メドピアグループ)の設立に参画し、オンライン健康相談サービス「first call」の企画・運営も行っている。

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(オンライン健康相談「first call」相談医 石川 陽平 写真=iStock.com)

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