ゴーン続投で"日産・ルノー統合"は確定か
プレジデントオンライン / 2018年6月12日 9時15分
■日産・ルノー統合報道がヒートアップした理由
フランス自動車大手ルノーと日産自動車の経営統合が現実味を増している。両社を率いるカルロス・ゴーン氏が仏政府の“お墨付き”を得て、ルノーの最高経営責任者(CEO)の続投が決まり、統合論に火を点けた格好だ。
発端は2月。ルノーの取締役会で、ゴーンCEOの続投が決まったことだった。続投にあたりゴーン氏は、15%出資する筆頭株主の仏政府から、ルノー・日産の提携を後戻りできない「不可逆な関係」にすることを求められ、それに同意したものとみられている。
ゴーン氏はルノー、日産、さらに2016年10月に日産の傘下入りした三菱自動車を加えた日仏3社連合を率いる総帥だ。再任を受け、ゴーン氏は次の任期のミッションとして、中期経営計画の目標達成、自らの後継者育成、そして3社連合を持続可能な体制とすること、という3点を掲げている。特に注目されるのは3社連合の将来であり、「3社連合が不可逆的な関係であることを示したい」との発言がさまざまな観測を生んでいる。
ロイター通信は3月7日、日産が仏政府の保有するルノー株式を買い取る検討に入ったと伝えた。また、ブルームバーグは3月29日、ルノー、日産が合併し、統合後の新会社が株式上場の可能性を協議していると報じた。さらに、日本経済新聞は4月17日付朝刊で、ゴーン氏が両社の資本関係を見直す可能性に言及したとのインタビュー記事を掲載した。一連の報道はまさに、3社連合の今後のアライアンスをめぐり水面下で関係者が腹を探り合っていることを連想させる。
確かなことは、ゴーン氏が3社連合の総帥を退いた後もアライアンスが不変であることを切望している点だ。それを表すのが「不可逆的関係」の発言であり、仏政権が突き付けた続投の条件にも合致する。
■かつてゴーン氏は完全統合に抵抗した
仏政権はかつて両社の統合を強硬に推し進めようとした。オランド政権下で15年には2年以上保有する株式の議決権を2倍とするフロランジュ法により、経営統合を強引に進めようとした。その急先鋒が当時、経済産業デジタル相だった現在のマクロン大統領であり、その姿勢はいまも変わりがないとされる。マクロン政権が今回のゴーン氏の続投に条件を提示したのはその何よりの証拠でもある。
オランド政権下での要求に、ゴーン氏はルノー・日産連合についてそれぞれの独立性を尊重し、完全統合に徹底的に抵抗した。しかし、ゴーン氏は最近、「どうして(経営統合が)ないといえるのか」と微妙な言い回しで心境の変化をうかがわせている。
実際、3月1日にルノーと日産の主要部門の機能統合の拡大を発表し、「研究開発」「生産技術・物流」「購買」「人事」の4機能の統合を加速した。4月には三菱自を購買や事業開発などでルノー・日産連合による機能統合に加え、「不可逆的関係」の構築に布石を打ったにも取れる。
ルノーと日産の関係は、経営危機に瀕した日産の救済にルノーが手をさしのべ、1999年に子会社とした日産に「ミスター・コストカッター」で名をはせたゴーン氏が最高執行責任者(COO)として乗り込み、系列の見直しや徹底した合理化で日産を見事によみがえらせた。2005年にはルノーのCEOに就任し、20年近くの長きにわたって強力な求心力でルノー・日産連合を牽引してきた。
さらに、日産は16年10月に燃費試験の不正問題から経営危機に陥った三菱自を救済するかたちで傘下に収め、ゴーン氏は三菱自の会長にも就いた。3社連合は17年の世界販売台数が1060万台に達し、トヨタ自動車を抑え、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)に次ぐ世界第2位の座に躍り出た。しかし、VW、トヨタと比べ、3社連合はそれぞれが独立した緩やかなアライアンスにあり、そのままでは指揮系統や投資効率などで弱点なのは否めない。
その意味で、「ポスト・ゴーン」を見据えれば、ゴーン氏の求心力が健在なうちに統合をまとめあげる案が勢いづく。自らの後継者という点をみると、2月19日付で空席となっていたルノーのCOOにティエリー・ボロレ最高競争責任者(CCO)を充てた。日産も17年4月に就任した西川広人社長兼CEOに経営を託した。しかし両氏はゴーン氏に代わって3社連合を将来にわたってまとめ上げられるだろうか。
■ゴーン流経営の総仕上げ“3社連合”のゆくえ
西川氏は5月14日の決算発表会見で、「18年度以降、資本構成の変更を含めて、できるだけ早いタイミングで次世代に渡せる仕組みにしたい」と語った。西川氏が3社連合の枠組みについて公式に発言するのは初めてだったが、「合併を協議している事実はない」と完全統合には否定的で、日産の独立性は譲らない。
ロイター通信が保有するルノー株を日産が買い取る検討に入ったと伝えられた仏政府は、自国の産業保護、雇用確保を重視する立場から、完全統合の前提がなければルノー株を手放すはずはないとの見方が一般的だ。さらに三菱自は経営の独立性を堅持したい意向であり、完全統合には日仏両政府との調整も不可欠となる。
このように統合実現には当事者それぞれの思惑、深謀遠慮が交錯し、一筋縄でいかない。一方、ゴーン氏には自らが一身で担うガバナンスが3社連合の最大のリスクであるとの認識は強い。その意味でも、次の任期中に難解な方程式を解き、新たな体制の構築が最大の使命であり、ゴーン流経営の最後の総仕上げとなる。
(経済ジャーナリスト 水月 仁史 写真=AFP/時事通信フォト)
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