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ホリエモンが最悪の刑務所に送られたワケ

プレジデントオンライン / 2018年6月19日 9時15分

ライブドア(当時)の粉飾決算事件で証券取引法(現金融商品取引法)違反に問われ、実刑が確定。東京高検へ出頭する直前、報道陣や支援者らに心境を語る堀江貴文元社長(中央)(写真=時事通信フォト)

平成史には、数多のキーマンが登場する。だが、これほど世間での評価が定まらない人物もいないだろう。時代の寵児としてもてはやされ、その後、塀の内側にまで墜ちた元ライブドア社長・堀江貴文氏、45歳。佐藤優氏と片山杜秀氏が、ライブドア社が始動した2002年にまでさかのぼり、稀代のトリックスターの正体を語り尽くす――。(第5回)

※本稿は、佐藤優、片山杜秀『平成史』(小学館)の第3章「小泉劇場、熱狂の果てに 平成12年→17年」の一部を再編集したものです。

■ヒルズ族というニューリッチ

【片山】2002年は日韓ワールドカップがあったり、小泉訪朝があったり、平成史のなかでも印象深い年です。

【佐藤】私はその時期の社会の動きがよく分からないんです。

というのも、02年5月14日から03年10月8日まで「小菅ヒルズ」に勾留されて刑事裁判に追われていました。新聞も読めないうえ、接見も禁止されていた。途中から読めるようになった日刊スポーツで知った大ニュースが、電磁波が人体に有害だと主張するパナウェーブと、多摩川にあらわれたアゴヒゲアザラシのタマちゃん騒動でした。

【片山】パナウェーブは電磁波から身を守るために白装束を着ていた団体ですね。

【佐藤】そうです。檻の中では、不快な出来事が山ほどありましたが、タマちゃんは数少ない愉快なニュースでした。

私が檻の中から出た03年のベストセラーが『バカの壁』だった。最近はびこる優生学ブームの火付け役です。ちなみに16年に話題になった『言ってはいけない』も遺伝学や進化論の見地から年収や容姿、犯罪傾向が決まると書いた優生思想の本です。

【片山】この年には六本木ヒルズが建てられて世間を賑わせました。確かライブドアの堀江貴文ら六本木ヒルズの住人たちをヒルズ族、ニューリッチと呼んでいましたよね。IT産業で儲けた成功者たちは世間の憧れになった。格差が拡大する前で、努力すれば自分も豊かになれると思えた時期だったのでしょう。

■日本のゲーテッドシティ

【佐藤】私には六本木ヒルズがゲーティッドシティに見えた。アメリカ郊外には治安を維持するために住民以外の出入りを制限する門で囲まれた町があります。あれが日本の場合は上に伸びていくのかと感じました。

【片山】永井荷風が暮らした麻布の丘の上に建つ偏奇館からは、低地に広がるスラム街が見渡せた。六本木ヒルズも同じ発想でしょう。森ビルは、低地を買って嵩上げして人工的な丘を造り、ヒルズと名付けた。東京の勾配を活かした閉鎖空間です。私もそこに封建思想というか、棲み分けの思想を感じます。

【佐藤】それに加えて六本木ヒルズの特徴は自家発電と地下水のくみ上げ装置。何かが起きれば、公共インフラに頼らずに生きていける。

【片山】戦争はともかく、災害などの非常時に備えて造られたのでしょう。内乱や暴動が起きて籠城するかも、とまでは想定していなかったでしょうが。

佐藤優、片山杜秀『平成史』(小学館)

【佐藤】でも平成も終わりにきて、暴動が本当に起きてもおかしくない社会になってきた。

東急に代表されるほかのディベロッパーの場合は、低層階にはUR賃貸住宅などを入れて、高層階を富裕層向けに売り出している。つまり中産階級も利用できるようにしている。しかし六本木ヒルズは中産階級以下を完全に排除した。このコンセプトの違いは大きい。

格差が広がったとき、六本木ヒルズは憎しみのシンボルになる。そう考えると東急などのディベロッパーのやり方が利口な気がしますね。

■断絶は社会の緊張を高める

【片山】東急などには、中産階級に一戸建てを買ってもらおうという私鉄沿線文化がありますよね。何もないところと言っては失礼だけれども、農村地帯、田園地帯に鉄道を通して、渋谷まで何分、目黒や五反田や大井町まで何分と言って、サラリーマン階級に郊外の一戸建てを買わせてゆく。もともとは阪急の小林一三が考えたわけでしょうが。本当は金持ちでない人に金持ち気分を味わわせて、上を見させて、夢を与える。それが都心のマンションの低層階に安めに住める抜け穴を残しておく文化につながるのでしょう。階級宥和の思想ですね。

しかし六本木ヒルズを開発した森ビルは高層階の思想に特化しています。企業としてはたいした儲けにならない階層を外すのはまったくもって正しいことになるのでしょうが、断絶を作り出すやり方は社会の緊張を高める方向に作用せざるを得ない。

■天皇制を脱構築する可能性

【片山】断絶を作るヒルズの主とされたのが、堀江貴文らニューリッチと呼ばれる存在でした。ヒルズと同様、彼らの存在そのものが、日本の旧来の価値観を大きく揺さぶるものであったのではありませんか。

【佐藤】はい。たとえばホリエモン的な存在は、天皇制を脱構築してしまう可能性すらあると思っているんです。天皇の存在は認めます。大切にもします。ただしそれはそれ。ひとまず横に置いて何より大切なのは金儲けでしょう。これで天皇制は無力化してしまう。実際にそうした人間は、左右問わず増えたと思います。

慶應義塾大学法学部教授の片山杜秀氏(左)と作家の佐藤優氏(右)

【片山】いちばん大切なものだから、筋を通して守りぬいて、守れないときは殉じます。この迫力がないと守れないものがあると思うのです。でも、いまの右派には筋を通さないで筋を変えても守れればいいんだろうという人や、あった方がいいと言いながら「横に置いて」おける、要するに本気度に疑いのあるホリエモン的な人たちが目立つ気がします。天皇制の認め方がぬるくて甘いゆえにかえって天皇制の基盤を危うくしていっている。味方の内実が危うくなっているということ。こういうのが滅亡サインなんですよね。

で強く記憶しているのは、ライブドアの堀江貴文の近鉄バファローズ買収騒動です。私は三原脩監督時代からの近鉄ファンでして。生きているうちに一度でいいから日本シリーズで勝つのを楽しみにしていたのですが、その前に消滅してしまい、ただ呆然とするのみで。

佐藤さんはホリエモンこと堀江貴文をどのように評価していますか?

■物言う株主が総会屋を一掃した

【佐藤】とても優れた人であることは間違いありませんが、彼は読み違いをした。それは、国家が絶対に許さない通貨発行権に触れたこと。彼はライブドア株をどんどん分割した。それを続ければ、ライブドア株はやがて貨幣の代わりとして使えるようになる。しかも株式と商品の交換は物々交換だから消費税がかからない。偽金作りをしているようなものだった。もしもやるのならビットコインのように誰が作ったか分からないように用意周到に事を運ぶべきだった。

【片山】冷戦以後、アメリカは金融資本主義を推し進めてきました。資本主義の最終段階と言われる金融資本主義という分野に日本でチャレンジしたのが、堀江や村上ファンドの村上世彰らベンチャー経営者だった。しかし国内で彼らは総会屋のようなネガティブな存在として見られた。

【佐藤】総会屋は彼らの登場でいなくなってしまいましたからね。それは「物言う株主」という言葉の流行に象徴されるように、みんなが総会屋になってしまったからです。そうなると職業的な総会屋は必要なくなります。

堀江のもう一つの失敗は日本で権力を握るおじいちゃんたちへの挨拶が足りなかったこと。長幼の序を重んじる日本では挨拶がとても重要なのに、そこが分かっていなかった。だから05年2月にはじまるニッポン放送株買収騒動ではフジテレビの日枝久(当時フジテレビジョン会長)が怒った。

■表舞台から退場させられた2つの理由

【片山】昔の東映ヤクザ映画みたいな話ですね。新興ヤクザや愚連隊は挨拶が足りないとすぐ潰される(笑)。

通貨発行権と挨拶不足で、堀江たちは表舞台から退場させられてしまった。堀江は06年1月に、村上は6月に逮捕された。その結果、金融資本主義という新時代の経験が不十分なまま、日本は次の時代に向かわざるをえなくなった。

【佐藤】村上も堀江も逮捕されましたが、二人には決定的な違いがありました。村上は一審でインサイダー取引で実刑を言い渡されたあと、NPOへの協力やボランティア活動にいそしんで国家の温情にすがった。

【片山】国家権力の恐ろしさを知っていたんですね。

【佐藤】村上はもともと通産官僚でしたからね。

一方の堀江はモヒカンで出頭して国家権力を挑発した。彼は特に厳しいと言われる須坂(長野刑務所)に収監された。須坂には現役のヤクザもいる。夏は気温36~37度で、冬はマイナス。もちろん冷暖房はなし。彼の公判態度を見て国家の裁量で重い懲罰を加えたわけです。

余計なことをしなければ、栃木の喜連川社会復帰促進センターに収監されたはずなんですよ。労働大臣の村上正邦、防衛官僚の守屋武昌、大王製紙の井川意高、そして鈴木宗男。みんな喜連川社会復帰促進センターです。私ももしかしたら収監されるかもしれないと思って調べていたんです(笑)。

【片山】いずれにせよ、堀江の存在は、小泉政権下でレッセフェール――自由放任主義的な方向に向かう社会の象徴のように感じます。同時に、国家が個人を守るという意識がどんどん希薄になっていきました。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家
1960年、東京都生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館などを経て、外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年5月、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受けた。主な著書に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅賞)などがある。
片山 杜秀(かたやま・もりひで)
慶應義塾大学法学部教授
1963年、宮城県生まれ。思想史研究者。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。音楽評論家としても定評がある。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(この2冊で吉田秀和賞、サントリー学芸賞)、『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』などがある。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、慶應義塾大学法学部教授 片山 杜秀 写真=時事通信フォト)

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