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子を逆転合格に導いた「図太い母」の言葉

プレジデントオンライン / 2018年6月23日 11時15分

筆者の最新刊『合格する子どものすごい伸ばし方』(かんき出版)

子供の成績を伸ばすには何が有効なのか。中学受験塾講師の松本亘正氏は、著書『合格する子どものすごい伸ばし方』(かんき出版)で、4つのタイプに分けて、「声かけ」のポイントを解説している。そのうち「コツコツタイプ」の子どもは、手間がかからない分、親の声かけが逆効果になるリスクが高いという。真面目なのに突如スランプに陥り、模試の偏差値が10も下がった女の子。彼女が親の声かけで「逆転合格」するまでを松本氏が紹介する――。

■突然スランプに陥った娘を救った母親の「声かけ」

中学受験専門の塾の代表として、これまでに2000人以上の小学生を指導してきました。塾からは、毎年、麻布や武蔵、桜蔭などの難関校を含む中高一貫校の合格者を出しています。

その経験から、子どもには主に4つのタイプがいると分析しています。それは、「一点集中タイプ」「コツコツタイプ」「お調子者タイプ」「のんびりタイプ」です。簡単にそれぞれのタイプを解説しましょう。

「一点集中タイプ」:天才的、独創的。集中力は抜群で自分でどんどん物事を進めていく。まわりの声が聞こえなくなったり、忘れ物をしたりすることも多い。

「コツコツタイプ」:小さなことからコツコツ地道に努力して真面目。叱られると傷つきやすく、周囲からの評価を気にする面も。

「お調子者タイプ」:つい親が口出ししたくなってしまうタイプ。感情的になることや、手抜きをすることがある。いい意味でも図太さがあり、意外と本番に強い。

「のんびりタイプ」:まわりを気にせずどこまでもマイペース。周囲から好かれるが、勉強では苦労することも。親や周囲の大人のサポートが重要。

▼超難関校を目指すコツコツタイプの女の子の伸び悩み

塾講師としては、比較的指導が楽なのは、努力家の「コツコツタイプ」です。小さな子どもが自らを律して、遊びの誘惑を振り切って、毎日勉強をするわけです。宿題もきちんとやってきます。しかし、だからといって100%第一志望に合格できるわけではありません。長年の講師経験の中には、そうした頑張り屋さんにかかわらず、上昇軌道に乗せられない苦しさを味わったケースもありました。

都内の超難関校を目指して、小学3年生のときに入塾し、頑張っていた女の子がいました。両親のバックアップ体制も万全で、父親が娘の勉強の計画を綿密に立てていました。伸びていく子の典型で安心して見守っていたのですが、どういうわけか6年生になってから急に成績が伸び悩み始めたのです。

■低迷対策で勉強量を増やしたのが逆効果だった

彼女は、社会であれば「栃木県にある世界遺産は何ですか」といった一問一答の問題、算数であれば「食塩水どうしを混ぜて濃度を求める」といった定番問題にはめっぽう強いのですが、計算ミスや問題の読み間違いをしても気づかずに先に進んでしまう傾向がありました。宿題でも何でもぱっぱっと処理することに慣れすぎていたのです。性格的に少しせっかちなところもありました。

小6の夏から秋にかけ、模試の結果がじわじわ下がっていきます。父親がびっしり設定した毎日の勉強スケジュールをしっかりこなしたうえで、さらに勉強量を増やしていましたが、ミスが減ることなく、得点は伸びません。自信を失い、生気が感じられなくなっていました。

▼負のスパイラルから抜けるために緊急面談

このタイプは、問題の解決に「量」で対応するので、方向性を間違えるとより悪い方向に行くことが多いのです。負のスパイラルから抜け出すにはどうすればいいのか。残された数カ月で有効な手だてを講じるため、ご両親と緊急面談を行うことにしました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/imtmphoto)

頑張っているのに結果が出ない。そういった状態のときには、量をぐっと減らしてじっくり解く方向に大幅な軌道修正をはかるべきです。そして気持ちをリセットするために、「勉強しない時間」を意識的に設けることが重要です。

かつて神奈川県の難関校・聖光学院に合格した男の子も同じように悩み、悩みを量で解決しようとして精神的に負のスパイラルに陥っていました。私が「少しは勉強を休んだら?」と声がけしても、まじめな「コツコツタイプ」だからこそ、勉強を休むことができません。だから私は母親と相談して、強制的に半日間、水族館に連れて行ってもらいました。

追い立てられるように勉強していた彼にとって、半日の休養は気持ちを立て直すだけではなく、「不安ばかり募らせてもしょうがない」と割り切るきっかけになったのだと思います。勉強量も一度減らしたのちに徐々に戻し、結果として合格を勝ち取ることができました。

■偏差値60が50へ降下し「パニック」状態に

今回も同じように対応しようと思いましたが、話しているとそう簡単ではないと感じました。彼女は、「お父さんは期待しすぎです。私はもうこれ以上無理だよ」と愚痴をこぼすようになっていました。父親は穏やかな方ですが、受験日が近づくにつれ、冷静さを少し失っていたのかもしれません。ここで「家族の水族館作戦」は、逆効果と判断しました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/paylessimages)

彼女は、懸命に勉強しても結果が出ない不安から、模擬試験であがってしまい、「頭が真っ白になる」と訴えます。偏差値60を取っていたのに、50まで下がってしまい、このままでは受験校すべて不合格という可能性もあります。「えっ、どうして?」と普段の様子からは考えられないような悪い成績を出し続けていたのです。

もはや気持ちをリフレッシュするというだけでは解決できない状態です。何が課題なのかを明確にして、志望校も再検討することにしました。その時に気を付けたのは、直すべき課題を2つか3つに絞りこむことです。

「問題の条件、たとえば『正しくないものを選びなさい』『すべて選びなさい』といった条件を読んでいないミスだけ直せればそれでいいから、問題の条件に丸をつけよう!」
「算数の解けない問題はできなくてもいいから、正解できそうな問題だけ選んで、2回解こう!」

すべての課題を解決しようとすると、解決はさらに遠のきます。解決できる問題だけに焦点を絞ることで、少しでも状況を好転させることを狙いました。

▼モチベーションを保つために塾講師がしたこと

志望校も再検討しました。もともと本人と父親が目指してきた学校があります。その「旗」を簡単におろすことはできません。第1志望である以上、たとえ厳しくてもチャレンジさせたい。そもそも子どもの意思を尊重せずに志望校を変えることはモチベーションを大きく下げます。そうなれば受かるはずの学校にも受からなくなるのです。

そこで本人と何度も話し合った上で、第1志望には偏差値が10以上足らないものの変更せずにチャレンジさせ、第2志望として国立の難関校をすすめました。私が第2志望候補の中で推薦した学校は、問題の難度はそれほど高くないものの、試験時間は私立より短く、合格するには高得点が必要です。偏差値はかなり高いのですが、スピードがあり、基本問題の定着度が高いこの子に向いている試験問題です。ミスが多いという怖さはあるけれど、コツコツ努力してきた彼女であればチャンスはあると踏みました。

■「たかが中学受験、これで人生が決まるわけじゃない」

残念ながら、憧れ続けた第1志望には不合格でした。厳しい受験だと本人も両親も私も感じていましたが、彼女は不合格が分かったときに大泣きしました。もっと早くSOSに気づければチャンスがあったかもしれない、もっと合格する可能性を高められたかもしれない。塾講師として自責の念を感じずにいられませんでした。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mamahoohooba)

第1志望の不合格が分かった日の夜、私はこうメールしました。

「君の第1志望に合格させられなかったのは残念だし悔しい。でも明日は俺(筆者)の第1志望だから頑張って合格してほしい」

結果、彼女は「私の第1志望」に見事合格しました。私は最低限の責任を果たせたという思いでした。彼女が笑顔で塾に報告に来てくれたことを忘れることはないでしょう。

▼塾講師には絶対言えない「言葉」で娘を救った母親

模擬試験になると頭が真っ白になり、まったく問題が解けないという厳しい状況に陥った彼女が、なぜ本来の実力を取り戻すことができたのか。振り返ってみれば、大きな要因がありました。

頑張っているのに結果がでない。そんなときに親が「自分で壁を越えないとダメよ」とか「○○くんはできているのに、あなたは……」という声かけは厳禁です。特にコツコツタイプに対して、結果を否定するような声かけは逆効果になります。

父親が積極的な分、母親は泰然としていて「なるようになる」という感じでした。そのご両親のバランスが、彼女の心の糸を切らさず、受験に立ち向かう力になったと思います。彼女の母親は、私には言えないこんなセリフを言ってくれました。

「たかが中学受験じゃないの」
「受かるにこしたことはないけど、別にこれで人生が決まるわけじゃない」

「コツコツタイプ」の子は、その長所ゆえに、かえって自分を追い込んでしまうところがあります。そんな時は、この母親のように、いい意味で神経が図太く、腹の据わった感じで子どもに対処していく。親の声かけひとつで、劇的に子どもは変わり、合格する可能性を高められるのだと感じます。

物事に動じないタイプに見えたその母親ですが、国立校の合格発表を見に行き、さっそく私に電話報告をしてくれました。でも、その声は嗚咽でよく聞き取れませんでした。

(中学受験専門塾ジーニアス代表 松本 亘正 写真=iStock.com)

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