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締め切りのない仕事にやる気が出ない理由

プレジデントオンライン / 2018年7月3日 9時15分

写真=iStock.com/Tzido

■幸せな人の身体の動きには特徴がある!

人がどの程度幸福か、客観的に測ることができると思いますか。答えは「イエス」。米カリフォルニア州立大学リバーサイド校でポジティブ心理学を研究するソニア・リュボミルスキ教授は、アンケートを用いてハピネス(幸福度)を定量化し、数字にしています。これによると、人の幸せに最も影響を与えているのは遺伝的性質で、全体の50%。一方、健康、お金、人間関係といった、一見幸福感を直接左右していそうな環境要因は、わずか10%でしかありません。

では、残りの40%は何かというと、それは日々の習慣や行動です。行動の結果うまくいったかどうかは関係ありません。積極的に行動を起こす、そのこと自体が幸福感を高めるのです。

行動を起こすかどうかは自分で制御できます。こういうと日本ではすぐに、やる気やモチベーションの議論になりますが、それらは行動の結果生まれるもので、行動の原因ではありません。むしろ、やる気やモチベーションに関係なく行動を始めることやそのための環境をつくるのが大事なのです。

例えば私は以前、仕事に締め切りを設定するのを嫌がっていました。しかし、行動を起こすことの重要性を認識するようになってからは、仕事には必ず締め切りを設定し、他の人に約束するようにしています。そうすれば嫌でも行動を起こさざるを得なくなるからです。締め切りは、幸福への大事なツールです。

■挑戦するための心理的な原資が幸福感

また、幸福度の高い人はそうでない人に比べ、営業における生産性が平均で約37%高く、創造性は300%も高いという結果も出ています。ここでも重要なのは、「仕事ができてクリエーティブだと評価が高まったり収入が増えたりして幸せ感が高まる」のではなく、「幸せを感じている人ほど仕事のパフォーマンスが高く、創造的だ」ということです。

これに関しても定量的な研究が行われています。幸せを感じている人は、困難でも大事なことを行う傾向があることが確かめられています。大事な仕事ほど先が見えなかったり、工夫が必要だったりします。それに敢えて挑戦するための心理的な原資が幸福感なのです。

10年ほど前、幸福感の定量的な研究に関するリュボミルスキ教授の研究結果を知って私は、彼女のもとを訪れ、共同実験を行うことにしました。ある企業の研究開発プロジェクトに集まった技術者たちに、名札型のウエアラブルセンサーを装着してもらって、仕事中の心理的な変化と身体の動きを同時に測定したのです。

すると、幸福度と身体活動との間には関係があるということが確認されました。これを発展させて、幸福と相関する身体運動のパターンを見出したのです。

ただ重要なのは、幸福感と相関する行動自体は千差万別で、人により条件により異なります。たとえば、コミュニケーションが多いほど幸福感が高まる場合もあれば、少ないほど幸福感が高まる場合もあります。身体運動の特徴が、幸福感と普遍的に相関する一方で、どうすれば幸福感が高まるかは、状況に応じて変えるべきことなのです。

だから、一律のやり方を全員が実行するのは意味がなく、実データの計測や解析を使って、それぞれの人に有効な施策を常に見出し、実行することが有効なのです。

■自分を伸ばすのは「少し上」の課題

やる気というのは、行動を起こし没頭することによって初めて生まれるのであって、何もしないで自分の中を探しても見つかりはしません。

米クレモント大学のミハイル・チクセントミハイ教授は、仕事やスポーツで高いパフォーマンスを上げている人たちを研究するうちに、「時間の過ぎるのを忘れる」「自分と周りが一体化する」「自分の思うように対象をコントロールしている」といった共通の状態を彼らが体験していることに気がつき、これを「フロー状態」と名づけました。人は何かに没頭すると、しばしばこのフロー状態を経験します。これは、目の前の行為をやりがいのあるものと感じ、自分の能力を最大限に発揮している状態です。

日常生活や仕事中にこのフロー状態を体験する頻度が多いほど、幸福感が高い傾向があります。

では、どういう状況に置かれると人はフロー状態に入りやすいのでしょうか。

簡単にいうと、自分の能力より少し上の課題にチャレンジしているときです。課題が難しすぎると不安が先立ち集中できないし、逆に簡単で余裕がありすぎると飽きてしまいます。ミスをするのが嫌で、できることしかやらないというのを習慣にしている人は、知らぬ間に自分を幸福から遠ざけているという事実に気づくべきです。

人がフロー状態にあるかどうかは、前出のウエアラブルセンサーでも検証できます。フロー状態と相関性の高い身体運動の指標は、無意識の行動の継続性です。やや速めの身体運動を継続する傾向が強い人ほど、フロー状態になりやすいことが確認されています。ただし、これは無意識な特徴なので、それを無理に意識的に作ることはできません。フロー状態になりやすい行動も、人それぞれ千差万別なので、自分なりのフローになりやすいパターンを見出すことが大事です。

■外科手術とロッククライミングが集中しやすい理由

ちなみに、フロー状態になりやすい状況として、外科手術とロッククライミングが知られています。いずれも状況に合わせて即興的に行動することが求められますが、即興的な判断と行動により人はその行為に没頭していくのです。即興性の求められることを行うことは幸せのために大変大事です。

フローという状態に気づくようになると、実は従来の幸せに関する考え方が覆ることになります。我々は、仕事で成功することで、幸せになると考えがちです。しかし成功は誰にも保証されませんし、結果が得られるまでに長い時間がかかります。これに対し、フロー状態になることはすぐにでも可能です。成功までの長く、不確実な時間を待つ必要はありません。フローを理解し、フローになる練習をすることによってフローを増やすことも可能です。

ここまで、どうすればよりハッピーになれるかという話をしてきましたが、「午前中のデスクワークでハピネスが高くなる状況」「午後に会話をするとハピネスが高くなる状況」「会議が多い日のほうがハピネスが高くなる状況」というように、幸福感を得るのに有効な行動には個人や状況によって異なります。

そこで我々は、多数の働く人の行動データをAIによって分析し、スマートフォンやタブレットで日々の行動をアドバイスするソフトウエアを開発しました。実証実験などでさまざまな業界の企業で使っていただき、画期的な効果を上げています。

従業員の幸福度をいかにして高めるか。今後はこれが最大の経営課題になると私は思っています。

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▼人が成果を上げる本当の仕組み
×やる気がある⇒行動する⇒成果?
行動する⇒没頭する⇒成果!
人はやる気があるから困難に立ち向かうのではなく、まず行動することで「フロー状態」に入る(没頭する)ことができる。その結果、生産性や創造性が向上する。

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矢野和男(やの・かずお)
日立製作所 理事・研究開発グループ技師長
1959年、山形県酒田市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。2004年からウエアラブル技術とビッグデータ収集・活用で世界を牽引。博士(工学)。著書に『データの見えざる手』。
 

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(日立製作所 理事・研究開発グループ技師長 矢野 和男 構成=山口雅之 撮影=永井 浩 写真=iStock.com)

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