橋下徹"トランプが独裁者と付き合う理由"
プレジデントオンライン / 2018年7月11日 11時15分
(略)
■成熟した民主国家が相手なら「政府組織対政府組織」が機能する
トランプ大統領は、成熟した民主国家同士では、トップ同士の関係が少々悪くなっても大丈夫だと踏んでいるのであろう。成熟した民主国家のトップ同士が戦争を起こすことはまずないし、自分ほど独断で無茶苦茶なことをやってくるトップはいないと見ているのだろう。成熟した民主国家においては、メディアや自称インテリたちのキレイごとに左右されるトップが多いので、そこまでの緊密な個人的信頼関係を作らなくても、政府組織対政府組織の関係で何と収まると踏んでいるのだろう。
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だけど、トランプ氏は個人的な信頼関係を築いたとしても、交渉においては厳しく望んでくるはずだ。交渉は交渉と割り切り、人間関係とは切り離す。これも交渉人の典型的特徴だ。ゆえに、この交渉人の特性を逆に利用して、安倍さんは交渉においてトランプ氏と激しくやり合えばいい。トランプ氏も望むところと交渉を楽しむだろう。そしてお互いの交渉結果の出来不出来を肴にして反省会を楽しむだろう。
個人的な信頼関係と交渉事は切り離すのが原則だが、それでも最後の最後は、個人的な関係で泣き付けば、その点は配慮してくれるというのも実社会で苦労を重ねた者や交渉人の特徴の一つだ。ただし見返りはきっちりと求められるけどね。
他方、成熟した民主国家ではなく、最後は国家の指導者の個人的な力量で国家が運営されるような国の指導者相手には、とことん個人的な関係を築いていくのがトランプ流だ。これも交渉人の典型的特徴。交渉相手がワンマン会社であればあるほど、そのトップとの個人的関係が重要になるのと同じだね。
組織同士、国同士は対立しても、トップ・指導者同士ではギリギリの個人的関係を維持する。トランプ氏はそのことを肝に銘じ、北朝鮮の金正恩、中国の習近平、ロシアのプーチン、トルコのエルドアン、フィリピンのドゥテルテや、サウジアラビアにエジプトの国家指導者などなど、その指導者を押さえれば何とかなるという国の指導者とは、個人的な人間関係を築いていく。特に西側諸国が批判するような人物とはあえて個人的関係を築いていく。
米朝首脳会談の直前に行われたG7首脳会談では、トランプ氏は、ロシアを引き入れてG8首脳会談にしようという提案をしたらしい。さらに、西側諸国が徹底批判しているロシアのクリミア半島併合に、トランプ氏は理解を示した発言をしたとの報道があった。「クリミア半島ではロシア語を喋る人が多いんだろ?」と。ある意味このクリミア問題の核心部分なんだよね。クリミア半島はウクライナとロシアのどちらに帰属することが妥当か。クリミア半島をウクライナの領土だと決めつけていないところがトランプらしい。この発言にプーチン・ロシア大統領は大喜びだろう。西側諸国の大親分であるトランプ氏が、ロシアに理解を示したんだからね。西側諸国がどれだけ批判してこようが、プーチン氏はアメリカとの関係がよくなればそれで十分で、ここはチャンスと見ているはず。と思ったら、早速米ロ首脳会談の話が持ち上がってきた。
トランプ氏はプーチン氏に対してはずっと敬意を表してきた。オバマ前米大統領よりはるかに頭が良い、なんてことも言ってたしね。そういうメッセージを出し続けているからこそ、シリア問題においてもアメリカとロシアに決定的な対立は生じない。2017年4月にアメリカがトマホークという巡航ミサイル59発をシリアにぶっ放した時も、きっちりとロシアには事前通告して、ロシア兵に被害が出ないようにしているしね。
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世界から猛批判を受けてでも、事態を動かすために自分の考えをしっかりと主張するトランプの方が、政治家としては誠実だと思うし、交渉人としては力があると感じる。トランプの考えが間違っているなら今度の連邦議会中間選挙や次回の大統領選挙でアメリカの有権者が審判を下せばいい。
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■課題解決には「やり合う」覚悟も必要だ
トランプ氏がやっていることが全て正しいと言っているわけではない。ただし交渉人は交渉を成功に導くために、周辺の味方を得る必要が出てくる。この際には、自分の立場を明確にし、味方に対しては徹底して味方になる。しかし味方になったからと言って、交渉で手加減するわけではない。味方だからこそ、厳しい交渉を仕掛ける。交渉人にとって毒にも薬にもならないのは、不明確なあいまいな立場・ポジションの維持。そんなことでは、自分の力になってくれる味方は増えない。
キレイごとを言う人は、普段は、世界平和だ、人類皆兄弟だ、人間主義だ、と言いながら、自分の価値観と合わない者を徹底して排除するんだよね。ところがトランプ氏は、全てを呑み込んでいく。西側諸国から批判される人物であればあるほど、個人的関係を築いていく。西側諸国から批判されている国家指導者が、そんな中でも手を差し伸べてくれるトランプ氏に対して感謝の念を強くするのは当然だ。そしてそのような人物は、たいてい個人の力で国家運営を取り仕切ることのできる非民主国家の指導者だ。この指導者だけを押さえておけば、その国との懸案事項は何とか解決できるというキーマン。逆に成熟した民主国家の指導者の場合には、その指導者だけを押さえても懸案事項を解決できないことが多い。ゆえに、トランプ氏は成熟した民主国家の指導者との個人的関係をそれほど重視していないのだろう。
そして、このような個人的関係を築いていく上で、トランプ氏は相手を褒めちぎる。聞いている方が恥ずかしいくらいにね。こんなアメリカ大統領はかつて存在したことがない。だいたい政治家というのは自分が一番だし、国家の指導者ともなればメンツを重視するから、他国の指導者のことをそんなに褒めちぎらない。ましてや世界最強の国であるアメリカの大統領がそんなことはしない。
ところがトランプ氏は、相手を褒めるわ、褒めるわ。組織を切り盛りすることのしんどさを知っているからこそだろう。命を狙われながら激しい政治闘争を生き抜き、国家運営を担う者同士に芽生えるある種の共感。政治家であったとしても、自ら国家運営を切り盛りするのでもなく、激しい政治闘争をするのでもなく、単なるお飾り的な存在である者には、こんな共感を覚えることはないだろう。ましてや、そんな世界からかけ離れた安全地帯から口だけでキレイごとを言うだけの学者やコメンテーターなどの自称インテリには、絶対に分からないところだろうね。
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このようなトランプ外交を口だけで批判することは簡単だ。それでもどれだけ激しくやり合っても、最後戦争にはならないという指導者間・トップ間の関係を築くことは非常に重要だ。そもそも激しくやり合うようなことをしなければ戦争になる可能性もないので、トランプ外交のような外交をする必要性はない、と批判する自称インテリも多いだろう。そのようなインテリたちは、世界中に横たわっている無数の課題について、何の解決もせずに放置することを厭わない人たちだ。課題を解決しようと思えば、時には激しくやり合う必要が出てくる。単純な話し合いでは解決しない課題というものが現に無数に存在する。自分たちの損得にかかわらない問題であれば、自称インテリたちのおしゃべりのような話し合いで解決できることもあるのだろうが、国益と国益が激しくぶつかる問題になればなるほど、激しいやり合いが必要になってくる。そして激しいやり合いになればなるほど、トップ同士、指導者同士、交渉人同士の、キレイごとを抜きにした個人的関係が必要、重要となってくる。
(ここまでリード文を除き約3100字、メールマガジン全文は約1万1100字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.110(7月10日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【トランプ式交渉術〈2〉】相手を震え上がらせるのは「強者の譲歩」だ!》特集です!
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=AFP/時事通信フォト)
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