"実家"は2022年までに売らないとヤバい
プレジデントオンライン / 2018年7月22日 11時15分
■売ろうにも、売れない時代がきている
今から50年ほど前の高度成長期、地方から都会へ働きに出た農家の次男坊三男坊にとって、郊外にマイホームを持つというのは夢だった。必死に働きローンを支払い、両親がやっと手にした念願のマイホーム。
そんな実家を相続するとなったとき、不動産というだけでそれなりの資産価値がある気になるのも無理はない。しかし、これからの時代、それはむしろ「負の遺産」、不動産ならぬ「負動産」という重荷になるかもしれないのだ。不動産コンサルタントの藤戸康雄さんに聞いた。
「数年すると、団塊の世代が後期高齢者になります。彼らが住んでいるのはたいていベッドタウンの持ち家です」
都心から電車で小1時間。そこからバスで10分にあるニュータウン。敷地に余裕があって緑は多く、近くには商店街も学校も病院もある。エレベーターはない5階建てでも、若いときには苦にならない。1970~80年代、そんなニュータウンは子育てするのにはいい環境だった。
しかしときは巡り、ニュータウンで育った団塊ジュニアも40代。すでに独立し、自分で家を購入したり、通勤に便利な町に賃貸で暮らしていたりするから、今さら古くて不便な実家に戻ろうとは思わない。
「そんな中古物件が大量に市場に出てきます。全住宅流通量に占める中古住宅の割合は約15%にすぎません。これまで人口が減っても世帯数は増えていましたが、2019年をピークに日本の世帯数は減少するので住宅需要は減ります。それでも新しく家は建てられます。新築が増え、買う人は少なくなるのですから、古くて不便な物件を売ろうにも、売れない時代がきているのです」
東日本大震災復興需要やオリンピック需要による極端な人手不足は建設費の高騰を招いた。建設費が高騰すれば、新築住宅価格も高くなる。
「新築物件の分譲価格が高くなると、不動産が上がっていると勘違いしがちですが、土地の価格が上がっていない場所でも、建設費の高騰で分譲価格が上がっています。それが復興需要やオリンピック需要で不動産が上がっているという幻想を生んでいるのです。
■東京ドーム約2200個分が一気に市場に出てくる
現在は新築マンション価格が高止まりしているために中古マンションも高止まりしていますが、ピークを過ぎれば、新築物件の価格は下がり、自ずと中古物件の価格も下がります」
大都市圏の住宅地の大幅下落をもたらす時限爆弾のような要因がもう1つある。「22年問題」と呼ばれる生産緑地法の改正だ。92年、市街化区域にある農地は宅地化農地と生産緑地に分けられた。
「生産緑地に指定されると固定資産税が極めて低くなるとともに、相続税の納税を猶予されるメリットがありました。メリットを受けるには30年間農業を営むことが義務だったのですが、三大都市圏の生産緑地、約1万3000ヘクタールの8割がオリンピックの2年後に30年目を迎えるのです。細々と農業をしていた人も高齢化し、後継者もいないため、東京ドーム約2200個分の土地が一気に市場に出てくると推測されています」
これだけの土地が市場に出れば、ますます売るのは難しくなる。しかし、空き家のままにしていても固定資産税は永遠に支払わねばならない。マンションならば加えて管理費もかかる。火災保険改定で築20年以上の物件の保険料が大幅に値上げされたため、管理費も急上昇している。恐ろしいのはそれだけではない。
「マンションを相続したものの、すでに行った大規模修繕工事で修繕積立金をすでに使い果たしていたとしたら、誰も住んでいなくても、新たに行う大規模修繕工事の際に『各戸あたり200万円拠出してください』と請求される事態も起こります」
■不動産は捨てられないから実に厄介
まさに負の遺産。相続しなければよかったと思っても、不動産は所有権を放棄することができない。相続放棄をするとしても、相続財産管理人の選任の申し立てをせねばならず、これはこれで費用がかさむ。では、どうするか。
「人口減少社会では不動産は上がるのはもちろん、横ばいという物件ですら限られています。安くても売れるものは今のうちに売っておくのが基本的な考え方です。語弊はありますが、タダでも引き取ってもらったほうがマイナスにはなりません。まずは相続するのがどういう不動産なのか、資産として知ることです」
藤戸さんは相続する物件を4つのカテゴリーに分けて考え、選択することを勧める。
「まずは<住む>という選択肢。バブルの頃に1億円以上した一戸建てが、今では3000万円という物件が都心にはたくさんあります。でも相続税の評価額はそれほど下がっていない。そんな一戸建てを相続する方は、生前から親と同居していれば小規模宅地等の特例で課税評価額が80%引きになりますから、将来売るとしても、相続税は節税できます。
次に<売る>という選択。これは先ほど申し上げたように、できるだけ早く売ってキャッシュにすることです。でも、なかなか売れないときは<貸す>ことも考えてみましょう。
特に木造家屋は誰かが住んで使い続けていないと老朽化が進みます。賃借人から雨漏りを修理してくださいなど、いろいろな要求もあり維持管理費はかかるかもしれませんが、住んでいなかったら雨漏りにも気付かず余計に家の状態は悪くなります。
売るにしろ貸すにしろ、広いマーケットでは誰も欲しくなさそうな物件でも、その地域内では需要がある場合があります。隣の家が空き家では物騒だから、格安なら息子に売ってほしいだとか、近所にアトリエが欲しかったという需要です。この辺は人づての情報が重要になります」
■できるだけ早めに対策するしかない
では、<住まない><売れない><貸せない>、いわゆる<どうしようもない>物件はどうすればよいのか。
「借りたくても借りられない高齢の方に貸してくれるのだったら、いろんな支援をしますというような取り組みを始めた自治体もあります。情報を集めてできるだけ早めに対策するしかありません」
不動産の下落の問題は、何も相続物件に限ったことではない。老後は、現在住んでいる家を売却して、その資金を元に有料老人ホームへ転居しようと考えている人も少なくないはずだ。しかし、あなたの家は、誰も買い手が付かない、または、思ったほどの金額では売れない「負動産」である可能性は大いにあるのだ。
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不動産・相続コンサルタント
1961年、大阪府出身。慶應義塾大学卒業。コンピューターメーカー、コンサルタント会社を経て、住宅ローン保証会社で不良債権回収ビジネスに従事。著書に『「負動産」時代の危ない実家相続』。
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(フリー編集者 遠藤 成 写真=iStock.com)
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