小さな生活習慣病が老後家計を崩壊させる

プレジデントオンライン / 2018年8月3日 9時15分

写真=iStock.com/Sean_Kuma

リッチな老後を迎えられる人と、そうでない人。将来の明暗を分けるものはなにか。それはあなたが意識せずに行っている月々の出費や日々の習慣である。今回、4つにテーマにわけて、識者に改善案を示してもらった。第1回は「医療・健康」について――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2017年11月13日号)の特集「金持ち老後、ビンボー老後」の記事を再編集したものです。

■一生涯に使う医療費の半分は「70歳以降」に使う

人ひとりが一生涯に使う医療費の総額は平均で2522万円(厚生労働省「医療保険に関する基礎資料~平成24年度の医療費等の状況~」)。これは健康保険適用前の金額なので、実際の自己負担額はもっと低く抑えられるが、人が一生に使う医療費はけっこうな金額に及んでいる。

とくに気になるのが高齢期の医療費だ。年齢階級別の医療費は高齢になるほど急増し、生涯医療費の半分は70歳以降に使われる。しかも、ここでカウントしている医療費は、診断や手術、入院、投薬といった病院や診療所、薬局などでかかる「直接医療費」と呼ばれるものだけだ。病気になると、このほかに通院のための交通費、食事療法の費用など「直接非医療費」もかかる。

治療のため仕事を休むと収入が減る可能性も。経済学では、ある行動を選択することによって失われる利益を「機会費用」というが、家計全体への病気の影響は大きい。

高齢期の医療費を押し上げる原因のひとつが若いときからの生活習慣。肥満や高血圧症の人は医療費が高くなる傾向が強い。これらを早期に発見し、生活習慣を見直すことが医療費の削減に繋がるのだ。

■糖尿病 60~78歳までの19年間の負担は約727万

実は、その効果のほどを金額に換算したデータがある。

まず過去10年間、ずっと肥満だった人がそれ以降に支払っている医療費は、肥満とは無縁だった人のそれよりも、1年間で約2万円多い(図1)。

その肥満が進むと糖尿病を発症するリスクが高まるが、糖尿病はさまざまな合併症を引き起こすことで負担が大きくなっていく。糖尿病の代表的な合併症である網膜症を発症した場合、健康保険適用前の入院医療費は年47万円。60歳で発症して合併症が増えていったと仮定すると、60~78歳までの19年間の負担は約727万円にも及ぶ(図2)。

また、男性は体重が20キロ重いと糖尿病の医療費が2.5倍になるといったデータもある(女性は16キロ差)。肥満は、見た目が「太った」ということ以上に深く医療費と関係している。(図3)食べすぎ、飲みすぎの習慣が続くと、経済的にもバッドな人生が待っているのだ。ここで留意すべきは歯のケア。歯そのものだけでなく、近年は歯周病と糖尿病との関わりが判明している。老年層が「リタイア前にやるべきだったと後悔している事柄」の健康面のトップは、歯のケアを怠ったことだ(プレジデント誌2012年11月12日号アンケート)。

■肥満、高血圧……「運動不足」は老後医療費アップに直結

生活習慣にかかわるもうひとつの病気が高血圧症だ。過去10年間、ずっと高血圧だった人がそれ以降に支払っている医療費は、高血圧ではなかった人よりも1年間に約3万円も多い(図4)。だが、生活習慣を見直すと、医療費が抑えられて家計も改善される。不健康な生活習慣によって抱えるリスクには「肥満」「高血圧」「高脂血症」「高血糖」が挙げられるが、リスク要因が多いほど医療費も増えていく。リスクが1つから4つに増えると10年後の医療費は年間約3万円増える(図5)。

リスクを減らしていくためには生活習慣の見直しが必要だが、糖質を抑えた食生活や禁煙のほか、運動の習慣もつけたいもの。運動する回数を週1回から2回に増やすだけで病院への受診が1%減少する。さらに、1日1時間以上歩くと5年で約5万円医療費が減るという試算もある(図6)。

こうした疾病は生活習慣のほか、遺伝や社会環境も大きく関係する。生活習慣さえ見直せば病気にならないわけではないが、早期に手を打っておけば症状の悪化を抑え、老後の医療費増大を抑える可能性はある。グッドな老後を送りたいなら、まずは1日1時間のウオーキングを始めてみてはいかがだろうか。

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古川 雅一
東京大学大学院特任准教授
1967年、奈良県生まれ。京都大学大学院経済学研究科修了。京都大学経済研究所、立教大学を経て現職。経済学博士。専門は公共政策、社会保障、行動経済学。著書に『わかっちゃいるけど、痩せられない』ほか。

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(東京大学大学院特任准教授 古川 雅一 構成=早川幸子 撮影=石橋素幸 写真=iStock.com)

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