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辺野古のサンゴを人質にとる朝日の屁理屈

プレジデントオンライン / 2018年8月9日 9時15分

2018年4月25日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に向けた護岸工事の着手から1年。工事に反対し、カヌーなどで抗議活動をする人たち(写真=時事通信フォト)

沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事が、8月8日、膵臓(すいぞう)がんのため沖縄県浦添市の病院で死去した。67歳だった。2014年の県知事選で初当選し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に強く反対していた。この辺野古移設をめぐって、朝日新聞と読売新聞の社説が意見を対立させている。一体どちらが正しいのか。そして翁長氏の遺志はどうなるのか——。

■正面から対立してきた沖縄県知事と安倍政権

その立場やスタンスの違いでこれほど意見が分かれるのも珍しいと思う。

沖縄県の翁長雄志知事が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設について辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回する考えを示した。7月27日、沖縄県庁で行われた記者会見で表明した。翁長氏は「あらゆる方法を駆使して米軍基地は造らせないという公約の実現に全力で取り組む」などと訴えた。

埋め立ては前知事による承認だった。防衛省沖縄防衛局は、処分取り消しの行政訴訟や執行停止の申し立てなどの法的措置で正面から対抗する。

埋め立て承認の撤回で国の工事は一時中断する。8月17日に予定されている辺野古沖での土砂投入が遅れる見通しだ。ただ対抗措置で国の主張が認められれば、工事は再開される。

この米軍基地の辺野古移設問題では、新聞社の社説が賛成と反対で真っ二つにわかれている。どちらの言い分が正しいのか。読み比べてみたい。

■「マヨネーズくらい」の軟弱地盤を国が隠す?

まずは移設反対派の朝日新聞。7月28日付の社説で「目にあまる政府の背信」(見出し)と訴え、新たに判明した地盤の脆弱さとそれにともなうコストの問題をこう取り上げる。

「今回、県に『撤回』を決断させた最大の要因は、今月初めに沖縄防衛局が県側に部分開示した地質調査報告書の内容だ。埋め立て用の護岸を造成する沖合の海底の一部が、砂や粘土でできていて、想定とは大きく異なる軟弱地盤であることを示すデータが多数並んでいた」
「地盤工学の専門家によると、難工事となった東京・羽田空港の拡張現場の様子に似ていて、『マヨネーズくらい』の軟らかな土壌が、深さ40メートルにわたって重なっている。政府が届け出ている設計や工法では建設は不可能で、その変更、そして費用の高騰は避けられないという」

マヨネーズにたとえられるような軟弱地盤の存在がどうして早い時点で分からなかったのだろうか。こう疑問に思いながら次を読むと、朝日社説は国の“隠蔽行為”を指摘する。

「驚くのは、報告書は2年前の3月に完成していたのに、政府は明らかにせず、県民や県の情報公開請求を受けてようやく開示したことだ。加えて、『他の調査結果を踏まえて総合的に強度を判断する』として具体的な対策を打ち出さず、工法の変更許可も申請していない」

朝日社説の指摘の通りであるなら、ひどい話である。

朝日社説は国側の腹の内を「他の部分の工事を進めてしまえば、引き返すことはできなくなる。設計変更はそれから考えればいい。予算はいくらでもつける。秋には知事選が予定されているので、政府に理解のある候補者を擁立して、県の抵抗を抑えこもう――。そんなふうに考えているのではないか」と推測する。

■朝日社説には「我田引水」「屁理屈」の無理がある

続けて朝日社説は「県と県民を裏切る行いは、これまでもくり返されてきた」と書き、「13年に前知事から埋め立て承認を受けた際、政府は海域のサンゴや海草、希少種の藻を事前に移植すると言っていた。だが守らないまま工事に着手。さらに、来月にも海への土砂投入を始めると表明している。資材の運搬方法についても、陸路を経由させて海の環境を保護する、との約束はほごにされた」と指摘する。

そのうえで「権力をもつ側がルールや手続きを平然と踏みにじる。いまの政権の根深い体質だ。これでは民主主義はなり立たない」と主張する。社説としてはかなり大胆な筆さばきだといっていい。

そもそも埋め立て承認は前の知事の仲井真弘多氏が5年前に行ったものだ。それを2014年の沖縄知事選で仲井真氏を破った翁長氏が承認を取り消した。ところが2016年の最高裁判決では、承認取り消しは違法とされている。

この点について朝日社説はこう言及する。

「安倍首相は『(16年末の)最高裁判決に従って、辺野古への移設を進める』とくり返す。だが判決は、前知事の埋め立て承認に違法な点はないと判断したもので、辺野古に基地を造れと命じたわけではない」

ちょっと待ってほしい。うのみにできない論理展開だ。そもそも司法が「辺野古に基地を造れ」などと命じるはずがない。政権を批判するためだろうか、この指摘には少し無理がある。これでは「我田引水」「屁理屈」と批判されても仕方がない。

■朝日社説と読売社説のどちらが正しいのか

一方、移設賛成派の読売新聞はどう書いているのか。

7月28日付の社説で「工事を止めるために手段を選ばない。政府との対立をあおるかのような姿勢は甚だ疑問だ」と書き出し、「政府は来月17日、護岸工事が終わった海域で土砂の投入を開始する。県は、沖縄防衛局から意見を聞いた上で、土砂投入の前に正式に撤回を決める構えだ。工事を中断させる狙いがあるのだろう」と翁長氏の思惑を指摘する。

さらに読売社説は「翁長氏は撤回の理由について、サンゴの移植など環境保全措置が不十分だと主張したほか、埋め立て海域の災害防止の協議に政府が応じない、と批判した」と書いたうえで、こう主張する。

「政府は、希少なサンゴについては移植の準備を進めている。県との協議も定期的に行っている。県の主張は一方的ではないか」

朝日社説の指摘や主張と真逆である。朝日社説と読売社説のどちらが正しいのだろうか。

環境保全措置は十分なのか、不十分なのか。サンゴの移植はやるのか、やらないのか。今回、2紙の社説を読み比べていると、頭の中が混乱してくる。結局、朝日に言わせれば「環境保全が不十分」であり、読売に言わせれば「環境保全は十分」ということなのだろう。この点を判断するには、「政府は具体的にどんな環境保全措置を講じたのか」という事実に立ち返る必要がある。

■「政府の法的な正当性を認定した司法の判断を軽視するもの」

読売社説は最高裁の判決については、「辺野古の埋め立て承認の問題は司法の場でいったん決着した」と書き、次のように展開していく。

「翁長氏は2015年、前知事による承認手続き時に瑕疵があったとして、承認の『取り消し』を行った。最高裁は翌年、翁長氏の判断を違法と結論づけている」
「県は、『撤回』は承認後の違反が理由であり、『取り消し』に関する最高裁判決は影響しない、と主張している」
「政府の法的な正当性を認定した司法の判断を軽視するものだ。工事停止ありきの姿勢は、強引との批判を免れまい」

「司法判断の軽視」や「強引な姿勢」という指摘は理解できる。読売社説が正論だろう。沖縄県の言い分や朝日社説の主張に無理がある。

読売社説は「沖縄では11月に知事選が行われる。翁長氏は4月にがんの手術を受け、出馬するかどうか明言していないが、工事を遅らせることで基地問題に再び焦点をあてようとしているのだろう」と分析する。見出しもそこを突いて「承認撤回は政治利用が過ぎる」と批判している。

■ボタンのかけ違いを放置したまま突き進めば失敗する

そのうえで読売社説はこう主張する。

「国家の安全保障にかかわる問題を政争の具とすべきではない」
「辺野古移設は普天間飛行場の危険性を除去し、米軍の抑止力を維持する現実的な選択肢である」

保守の読売らしい主張ではある。だが、ここは納得し難い。

なぜなら国家の安全保障を人質に取って辺野古移設の正当性を強調しているからだ。地元沖縄の自然環境はどう守るのか。サンゴが息絶えていけば漁場も消えてなくなる。そこに暮らす漁民ら沖縄県民の生活はどうなるのか。安全保障のために自然環境や地元住民の気持ちを犠牲にしている。

世界から評価される沖縄の海を守りながら、安全保障を確保することはできないのか。自然環境と安全保障をともに生かす方法はあるはずだ。その方法を見つけるにはバランス感覚を養うことだと思う。

撤回、工事の中断、撤回取り消し……。混乱が続く辺野古移設問題を見ていると、空港建設や滑走路新設で揺れに揺れたあの「成田闘争」を思い出す。成田国際空港(千葉県)の問題は、バランス感覚を喪失したボタンのかけ違いから始まったからだ。

なぜ辺野古移設が必要なのか。国は根気強く地元に説明し、きちんと理解を求めていくべきだ。そして地元沖縄も、国の説明にしっかり耳を傾けることが求められる。ボタンのかけ違いを放置したまま突き進めば、不幸が繰り返されるだけだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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