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世論調査が通用しない"沖縄の選挙"の行方

プレジデントオンライン / 2018年9月7日 9時15分

2018年9月5日、公開討論会を終え、握手する佐喜真淳前宜野湾市長(左)と自由党の玉城デニー幹事長(写真=時事通信フォト)

9月30日に投開票の沖縄県知事選の情勢が錯綜している。メディアや政党から聞こえてくる世論調査は、故・翁長雄志氏の後継候補で国政野党や一部保守系による「オール沖縄」が推す玉城デニー衆院議員が圧倒的にリードしているのだが、佐喜真淳前宜野湾市長を推す自民、公明の両党などは必勝の構えを崩さない。実際のところ、勝敗はまだ全く読めない情勢なのだという。世論調査と実体の乖離はどこからくるのか――。

■世論調査が「ダブルスコア」でも行方が見えない

今、永田町で「選挙の情勢は……」という会話があったとしよう。その場合の「選挙」は9月20日の自民党総裁選ではなく30日投開票の沖縄県知事選を指す。1地方選にすぎない知事選ではあるが、米軍普天間飛行場の辺野古移設の行方を左右する知事選は、安倍晋三氏の3選がほぼ確定している総裁選よりも、はるかに関心事なのだ。

辺野古移設をめぐり政府と対決していた翁長氏が8月8日に死去したのを受けて9月13日告示、30日投票の日程で行われる知事選。翁長氏を支持する勢力が推す玉城氏、と自民、公明、維新推薦の前宜野湾市長・佐喜真氏の事実上の一騎打ちとなっている。

注目の知事選だけに、早くもメディアや各政党が行う世論調査の数字も飛び交っている。8月下旬から今月にかけて行われた数字は、多少ばらつきがあるが、おおむね傾向は似ている。玉城氏が佐喜真氏を、ほぼダブルスコアでリードしている。

通常、選挙では世論調査で1割ほど差がついていたら優劣がはっきりつき、2割ほど差がつけば、よほどのことがない限りひっくり返ることはないと言われてきた。ましてやダブルスコアとなれば、ただちにゲームオーバーと考えるのが常識だ。

しかし自民党なども、野党側も「まだ予断を許さない」と口をそろえる。これは、自民党の負け惜しみでもないし、野党側が謙遜しているわけでもない。

沖縄の選挙は、世論調査は通用しないのである。

■地元紙に対して「佐喜真氏」とは答えにくい

不幸なことに沖縄では、辺野古の新基地受け入れをめぐり世論が分断されている。厳密に言えば「受け入れ賛成か反対か」と聞けばほとんどが「反対」だが、受け入れることで沖縄振興策が期待できることや自民党などとのしがらみを考慮して、受け入れることを容認するのもやむを得ないという考えの人も相当数いる。ここでは「消極的受け入れ派」と呼びたい。

このような複雑な状況で世論調査を行うとどうなるか。「反対」の人は、声を大にして玉城氏支持と語る。一方、「消極的受け入れ派」の人は、佐喜真氏に投票しようと思ってもなかなか口外しにくい。結局、佐喜真氏支持者も「玉城氏」と答えてしまうことが少なからずあるのだ。

県内では琉球新報と沖縄タイムスという地元紙2紙が覇権を争っている。沖縄2紙は、どちらも辺野古移設に反対の社論を持ち、翁長県政に好意的な報道をしてきている。このことは県民もよく分かっているので「琉球新報です」「沖縄タイムスです」と電話がかかってきて質問されると、やはり「佐喜真氏」とは答えにくいのだ。

■沖縄の選挙では事前の調査は役に立たない

同様の歪みは沖縄以外の地域でもみられる。各マスコミは毎月のように世論調査を行って安倍内閣支持率を発表しているが、総じて言えば安倍政権に近い論調のメディアは内閣支持率が高めに出て、批判的メディアは低く出る。

この歪みは、メディアの論調に同調するような回答をする人がいたり、もしくは自分の意見に反する論調のメディアから電話がかかってきても調査に応じなかったりすることが大きな要因と言われる。沖縄の場合は、その歪みが一層顕著なのだ。

実際、これまで沖縄で行われた選挙でも、事前の調査とはかけ離れた結果が出たことがある。同じく辺野古移設が大争点となってことし2月の名護市長選挙。事前の調査では当時現職で受け入れ反対の稲嶺進氏が圧倒的にリードしていたが、ふたを開ければ自民、公明、維新が推した渡具知武豊氏が、かなりの差をつけて勝った。この時、「沖縄の選挙では事前の調査は役に立たない」ことが立証された。

この経緯はことし2月に報じた「なぜマスコミの情勢調査は大ハズレするか 名護市長選にみる報道不信の構図」を参照いただきたい。

だから、自民党側に敗北感はないし、玉城氏を推す立憲民主党などの「オール沖縄」勢力内にも楽観論はでない。

■「基礎票」では佐喜真氏の方が上回る

世論調査の歪み以外にも読みにくい要素が多い。

2014年の前回知事選で翁長氏は現職だった仲井真弘多氏に約十万票差をつけて勝った。しかしこの時は、県内で8万票の基礎票を持つと言われる公明党が自主投票で、実質的には多くが翁長氏に流れたと言われていた。今回、公明党は佐喜真氏を正式に推薦し選挙戦の前面に立っている。

また4年前は、衆院議員だった下地幹郎氏も出馬して約7万票獲得している。下地氏は今回、出馬せずに佐喜真氏を推す。差し引きすれば、「基礎票」では佐喜真氏のほうが上回るようでもある。

もう1つ読み切れないのが「翁長個人票」の行方だ。もともと保守政治家だった翁長氏の名は保守層にもリベラル層以外にも浸透していた。そして辺野古移設を推し進める政府に対し命を削って対峙した姿は、県民から幅広い支持を受けた。オール沖縄側が「弔い選挙」の構図に持ち込めば、有利な戦いにできる。

■翁長票が、そのまま玉城氏に流れるとはいえない

ただ今回、オール沖縄側から出馬する玉城氏は、「弔い選挙」の後継者として適任とはいえないようだ。ラジオ・パーソナリティーを長く務め、衆院議員を長く経験する玉城氏は知名度も経験も申し分ない。しかし、翁長氏と近いという印象はあまりない。だから翁長票が、そのまま玉城氏に流れるとはいえないのだ。

「オール沖縄」側からは「翁長氏の肉親とか、もしくは翁長氏を支えた謝花喜一郎副知事らが出馬すれば、同情票も含めて圧倒的な票を集めることができた」という声も聞こえる。

世論調査の歪み、そして漂流する翁長票。2つの変数を抱えながら両陣営のせめぎ合いは9月30日の投票日まで続く。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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