総裁選に「地震」を使う安倍首相のセコさ
プレジデントオンライン / 2018年9月10日 15時15分
■予想外の事態をうまく利用しようという魂胆
自民党の総裁選が9月7日に告示され、連続3選を目指す安倍晋三首相(総裁)と、3度目の挑戦になる石破茂元幹事長の2人が、立候補した。投開票は20日。2012年以来の選挙戦は、この2人の一騎打ちとなる。
今回の総裁選は、6日に北海道で起きた地震を受け、9日まで討論会などを自粛する異例のスタートとなった。本格的な論戦は先送りされたが、安倍首相は党所属国会議員の8割以上の支持を集め、かなり優勢だ。対する石破氏は党員・党友による地方票の取り込みを狙っていく。
事実上の首相選びとなるだけに、私たち国民は2人の活発な論戦を期待している。しかし総裁選期間中に安倍首相が外遊するなど論戦の機会が限られている。そのうえ地震の被害対応に当たる安倍首相の動向や言動はテレビや新聞で逐一報じられるが、反対に石破氏はメディアへの露出が減る。
地震による選挙活動の自粛が安倍首相にとってかなり有利になる。安倍陣営は地震という予想外の事態をうまく利用していこうという魂胆だ。
■安倍首相は祖父の岸信介元首相とそっくり
安倍首相と石破氏。今回の総裁選をきっかけに2人の生い立ちなどをあらためて比較してみると、安倍首相も石破氏も政治家になる宿命を背負っていたことが分かる。
安倍首相の父親は自民党幹事長や外相を務めた安倍晋太郎氏である。母は岸信介元首相の娘の洋子さん。次男である安倍首相は、周囲の期待を背負って当然のように「政治家」「総理大臣」を目指した。
小学校から大学まで一貫して東京の成蹊学園で学び、神戸製鋼所での会社員生活を経験した後、父親の晋太郎氏の秘書になった。晋太郎氏の死後、1993年の衆院選で初当選している。
政界に入ると、2000年に森喜朗内閣の官房副長官に登用され、小泉純一郎内閣まで3年務めた。2003年に自民党幹事長、2005年に内閣官房長官。そして2006年には戦後生まれ初の首相に就任した。52歳という若さで、戦後最年少だった。
しかし、2007年の参院選挙で大敗。9月には病気から退陣し、自民党も2009年に野党となった。
自民党が野党のときの2012年に総裁選に再挑戦し、石破氏に勝って総裁に返り咲いた。病気も克服し、戦後歴代単独3位という長期政権を維持している。
おもしろいのは安倍首相の政治に対する考え方が、祖父の岸氏とそっくりな点だ。たとえば日米の安全保障面での政策であり、さらには憲法改正だ。憲法改正などは岸氏ができなかったことでもあり、これを掲げて総裁選に挑んでいる。
■石破氏は田中角栄元首相の勧めで政治家に
対抗馬の石破氏は安倍首相より2つ若い61歳だ。
出身は鳥取県で、鳥取大教育学部付属中学から慶応義塾高校、慶応義塾大学で学び、旧三井銀行に入行している。
あの顔つきの割には、お坊ちゃんなのかもしれない。
父親は鳥取県知事や参議院議員を務めた石破二朗氏だ。二朗氏の死後、二朗氏と親交のあったあの田中角栄元首相の強い勧めで政治家になった。
一端、田中派の事務職員となり、1986年7月に衆院議員として初当選を果たし、以後連続当選11回を果たしている。
1993年に小選挙区導入をめぐって宮沢内閣の不信任案に賛成し、自民党を離党した。そして1997年に復党し、2002年に防衛庁長官として初入閣している。
2008年、2012年と総裁選に立候補し、第2次安倍内閣では幹事長や地方創生相を務めた。
一般的には「国防族」として有名だが、「農林水産」分野の知識も豊富だ。
■「優勢のまま逃げ切ろう」では度量が小さくないか
さて今回の総裁選の告示を新聞各紙の社説はどう書いているか。
しっかり書いていたのは、毎日新聞の社説(9月8日付)である。中盤から主張をこう展開する。
「候補者同士が討論することによってこそ、党員だけでなく、広く国民が首相にふさわしい人物を見極める機会になる」
「一時休戦によって選挙戦の量が落ちる分、討論会を増やすことで質を補うべきではないか」
なるほど、「量」がダメなら「質」で補うか。見出しも「討論会を増やし質を補え」である。
毎日社説は「石破氏は積極的に論戦を仕掛けることで、首相への不満がくすぶる地方の党員票を掘り起こそうと狙っており、石破氏陣営からは総裁選の日程延期を求める意見も出た」と石破氏サイドに立って主張する。
そのうえで安倍首相陣営をこうたたく。
「首相陣営には自粛期間中も政権の実績をアピールできるという計算があり、『災害対応に全力を尽くす姿を見せるのが一番の選挙運動だ』などの声も聞こえてくる」
「実質的な選挙期間を短くして優勢のまま逃げ切ろうという発想だとしたら、度量が小さくないか」
沙鴎一歩が前述したように安倍首相は計算高い。しかも毎日社説が指摘するように「度量が小さい」のである。
■「暮らしにかかわる論戦まで尻込みする理由はない」
東京新聞は9月8日付の社説で、「安倍政治の是非を問え」との見出しを掲げ、後半で安倍首相の度量の小ささをこのように強調している。
「何より避けて通れないのは、政治への信頼回復をめぐる議論だ。森友・加計両学園の問題では、公平・公正であるべき行政判断が、安倍氏の影響力で歪められたかが問われた。関連の公文書が改ざんされ、国会で官僚の虚偽答弁がまかり通るのは異常である」
どうして「もりかけ疑惑」が起きたのか。その根底にあるのは何か。総裁選を通じて「1強」と言われる安倍政権の実態を検証する必要がある。
「法案の成立強行を繰り返す国会運営は強引で、安倍氏は野党の質問に正面から答えようとしない。石破氏が『正直、公正』を掲げるのも、安倍政権下で繰り広げられる、そうした政治の在り方に対する問題提起なのだろう」
「強引な国会運営」「多数の論理で野党の追及を逃れようとする姿勢」など検証する事項は多い。
東京社説は冒頭部分でこうも主張している。
「震度7を観測した北海道での地震対応を優先するためだという。発生直後である。災害対応を優先するのは当然だとしても、私たちの暮らしにかかわる論戦まで尻込みする理由にはなるまい」
その通りである。安倍政権、安倍政治を検証するのが今回の総裁選であるならば、「暮らしにかかわる論戦」まで控える必要はまったくない。
■告示日を変えないなら、投開票日を延ばせばいい
社説として感心させられたのは、毎日と東京ぐらいである。朝日新聞の社説も読売新聞の社説も、はっきり言って「いまいち」だった。
どこが問題だったか。まずは朝日社説(9月8日付)。
冒頭から「事実上の首相選びである。実質的に短縮された選挙期間の中で、論戦の機会を十分に確保し、濃密な政策論争を実現しなければいけない」と訴えるが、当然のことであり、朝日独自の論調を欠いている。
さらに朝日社説はこう書く。
「いっそのこと、告示日自体を遅らせ、選挙全体を後ろ倒しにする、告示日を変えないなら、投開票日を延ばすなどの手立てはできなかったのか」
「石破氏は災害対応と論戦を両立させるため、総裁選の延期を主張した。首相の総裁任期は9月30日まである。国連総会などの外交日程が控えているにしても、柔軟な対応ができないはずはない」
選挙の日程を変えることには賛成だ。おもしろい主張である。
ただ、地震という大災害までも自らの選挙戦略に有利に使おうと考える安倍首相だ。選挙日程を変えれば、石破氏が有利になる可能性も出てくる。安倍首相はそこを慎重に判断して短期決戦としたのだろう。
■アベノミクスの改善策を打ち出す責任がある
読売社説(9月8日付)は全体的に抽象的でおもしろくない。ただ、中盤の次の指摘はうなずける。
「重要なのは、経済政策『アベノミクス』の点検である」
「首相は、名目の国内総生産(GDP)が増え、有効求人倍率も上昇した実績を強調する。一方で、物価上昇は力強さを欠き、賃金も期待通りには伸びていない」
「目標であるデフレ脱却をどう実現していくのか、アベノミクスの改善策を打ち出す責任が首相にはある。金融緩和の副作用への対応も論点となる」
「物価上昇」「賃金格差の解消」「デフレ脱却」など国民にとって大きな関心事である。
安倍首相には読売社説が指摘するように日本経済をどう支えて伸ばしていくか、その具体的道筋を示してもらいたい。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
小池百合子に命運を託すはずだったのに…「卒業旅行」を終えた岸田首相のゾンビ化という悪夢シナリオ
プレジデントオンライン / 2024年4月16日 16時15分
-
「与党でも野党でもない候補」は結局、自民党になびく…乙武洋匡氏の「無所属出馬」にみる拭いがたい違和感
プレジデントオンライン / 2024年4月15日 7時15分
-
安倍派幹部は処分しても、自分の責任は問わない…岸田首相が「国民に判断してもらう」と言い放った背景
プレジデントオンライン / 2024年4月10日 13時15分
-
岸田首相の延命もここまでだ…「安倍派は処分、自分は続投」というサイコパスな判断の重すぎる代償
プレジデントオンライン / 2024年4月6日 9時15分
-
岸田首相、裏金議員に「甘すぎる処分」で墓穴掘る 際立つ「ご都合主義」で"内ゲバ"、政権危機拡大
東洋経済オンライン / 2024年4月6日 8時30分
ランキング
-
1はあちゅう、しまむらに続きニッセンとも「コラボ中止」 開始3時間前に急きょ...本人訴え「未報道の問題抱えてない」
J-CASTニュース / 2024年4月25日 13時26分
-
2首相側近「政権交代も」 自民の党勢低迷に危機感
共同通信 / 2024年4月25日 12時28分
-
3〈那須・焼かれた2遺体〉「いつかこうなると思った」もうひとつの遺体は日頃からトラブル相手を罵っていた妻だった…逮捕された刺青男は「アニキ」と「共犯」について供述を開始
集英社オンライン / 2024年4月24日 20時58分
-
4宝島さんと都内空き家で接触か=逮捕の男の知人、事件当日―女性は妻と確認・那須2遺体
時事通信 / 2024年4月24日 21時38分
-
5「家に郵便物が届かない」日本郵便に“ウソの転居届”、親族宛ての郵便物を自宅に…1年余りで逮捕、43歳の無職の男「ノーコメントで」
北海道放送 / 2024年4月25日 9時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください