孫正義はなぜ身銭を切らず成功できたのか
プレジデントオンライン / 2018年9月13日 9時15分
■アルバイトをする時間は、事業プラン作りに使え
起業の相談に来る若者や学生の中には、「アルバイトで500万円ためたら起業しようと思います」という人がいます。
それに対する私のアドバイスは、「アルバイトをする暇があったら、今すぐ事業プランをもっと練って、今すぐ始めなさい」です。
お金をためている間に、自分が思いついたアイデアを誰かが先にビジネス化してしまうかもしれません。アルバイトをしている間に世の中の環境が変化し、思い描いていた事業プランが陳腐化してしまうこともあります。
ですから、起業したいならとにかく早く始めるべきです。
そう話すと相手はたいてい不思議そうな顔をして、「元手になる資金がないと、起業できないじゃないですか」と言いますが、そんなことはありません。今の時代は、面白いビジネスのアイデアや事業プランがあれば、お金は集まってくるからです。
最近は、アイデアや計画の段階で出資を決めるベンチャーキャピタルが増えています。個人的に若手起業家に投資するエンジェル投資家も増えています。
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」のように、新たに事業を始める人が無担保・保証人なしで融資を受けられる公的制度もあります。つまり、魅力的な事業プランさえあれば、お金を貸してくれる人はいくらでもいるということです。
■アイデアは出すが、コストは負担しない
逆に言えば、もし事業プランを説明してもお金が集まらないのなら、それはビジネスのアイデアやプランがいまいちだから、という可能性が高いのです。自前のお金がないなら、知恵でお金を集める。これはまさに孫社長が実践してきたことです。
そもそも孫社長は、自前のお金で事業を始めたわけではありません。ソフトバンクの創業資金になった一億円は、自分が発明した携帯型自動翻訳機をシャープに売り込んで得た契約料でした。これも試作機は作っていましたが、実際にはほぼアイデアを買いとってもらったようなものです。
しかも、試作機を実際に作ったのは、カリフォルニア大学バークレー校の研究者たち。もちろん、元々のコンセプトを発案し、研究者たちを口説いたのは孫社長だったが――。
ソフトバンクのビジネスが拡大するきっかけになったのも、NCC-BOXという自動的に電話回線を切り替える機械をフォーバルという会社と共同で開発したことでした。この機械を全国の中小企業に無料配布し、新電電からのロイヤルティーで大きな利益を上げたのです。
ただし、孫社長は開発にあたってアイデアは出したものの、自社のインフラや人手を使って全国に配布したのはフォーバルです。そのためのコストは、孫社長が負担したわけではありません。
■「自分のお金を使わなくても事業はできる」
つまり、孫社長はほとんどリスクをとらずに、大きなリターンを得たことになります。
2017年には、サウジアラビアと共同で10兆円規模の巨大ファンドを設立したことが大きなニュースになりましたが、これもソフトバンクが全額出資したわけではありません。サウジアラビアやアラブ首長国連邦アブダビの政府系ファンド、米国のアップル社や半導体大手のクアルコム、台湾のホンハイ精密工業などが、それぞれ多額の出資をしています。
「自分のお金を使わなくても事業はできる」という考えは、20代でソフトバンクを創業した頃からまったく変わっていないということです。
またもや話が大きくなりましたが、もちろん一般企業のビジネスや商売でも同じです。
知恵さえあれば、お金をかけずに事業を拡大することはいくらでも可能です。
■ソフトバンクの目標達成プロセスの極意
そのことを証明する良い事例を紹介しましょう。
東京に、自由が丘毛皮工房石井という店があります。
夏の時期に街を歩いていてたまたま見つけたのですが、並んでいる商品の値札を見ると相場よりかなり安いので、店主に「この価格では儲からないのでは?」と聞くと、こんな手の内を教えてくれました。
実は、今やっているのは、一般販売ではなく受注会とのこと。店内の商品はいわばサンプルで、来店者がその中で欲しいものがあれば、半金を払って予約すると希望の商品が冬に納品されます。
半金とはいえ、前払いでキャッシュが入ってくるので、それを仕入れに回せば資金繰りのリスクは最小化できます。しかも、「予約の多い商品=今年の売れ筋商品」なので、確実に売れるものに絞って海外に発注をかけることができます。トレンドの読みが外れて、大量の在庫リスクを抱える心配もありません。
こうして仕入れた人気商品は、冬のかき入れ時には受注会の三倍の値札をつけても売れるので、確実に儲かるそうです。
店主の話を聞いて、私はこれぞ経営におけるリスクマネジメントの良いお手本だと感心しました。
コストをかけずに小さくトライして、その結果をもとに最も成功確率が高いところに限られたお金を投資する。やっていることは、ソフトバンクの目標達成プロセスとまったく同じであり、リスクを最小化しながらリターンを最大化する手法として見事なものです。
このように、たとえ個人経営の小さな会社だとしても、知恵を使えばお金をかけずに大きな成功につなげる方法は必ず見つかります。今の時代、「お金がないからビジネスができない」というのは、単なる言い訳になりつつあるのです。
■他人の知恵を借りてアイデアを生み出せ
「知恵を出せと言われても、自分には孫社長のような発明の才能なんてないし……」
そう思う人がいるかもしれません。
でも、大丈夫です。事業のアイデアをゼロから自分で考える必要はありません。
どこかで成功しているモデルを持ってくればいいのです。
孫社長も、他人の知恵を借りてアイデアを生み出してきました。
ソフトバンクを創業する前、孫社長は留学先の米国でソフトウエア開発会社を設立しています。事業内容は、日本で大流行したインベーダーゲーム機を米国に輸入販売するというものでした。すでに日本ではブームが下火になりつつあったので、機械を安く買うことができたのです。これはつまり、日本で大成功したビジネスモデルを米国に持っていったということです。
ある市場で成功したモデルであれば、別の市場で成功する確率も高くなります。少なくとも、ゼロから考えたモデルに勝負をかけるより、リスクは絶対的に小さくなります。
■ソフトバンクの「タイムマシン経営」とは
ソフトバンクは、「タイムマシン経営」だと言われることがよくあります。
ヤフーにしろ、iPhoneにしろ、「海外で成功している最先端ビジネスは、時間差で日本でも成功する」という法則を証明してみせたからです。
その意味で、インベーダーゲーム機の輸入販売はいわばタイムマシン経営のはしりのようなものであり、その後もずっと孫社長は「どこかで成功しているモデルを持ってくる」というやり方を続けていることになります。
1990年代には、時価総額3000億円以上の米国のIT企業と組んで、次々にジョイントベンチャーを設立しました。
これも、すでに実績を上げている会社を取り込めば、ゼロから事業を立ち上げるより速く確実に成功を収めることができると考えたからです。
■自分自身をプロデュースする精神
天才経営者と言われる孫社長でさえ、他人の知恵を積極的に借りているのです。
これからビジネスや事業を立ち上げるビジネスパーソンも、すでにある成功モデルを遠慮なくどんどん活用しましょう。
今回、私が著した『最速! プロマネ仕事術』は、私がソフトバンク時代に、孫社長のむちゃぶりに対して、次々とプロジェクトマネジメント(プロマネ)を立ち上げ、チームとしていかに成功に導いていったかを書いています。
今、私が独立して思うのは、このプロマネの精神は、チームとしての仕事だけでなく、自分に対してもできるということです。一社会人として自分自身をプロデュースしていくことは、まさに「セルフ・プロジェクトマネジメント」に他なりません。
ぜひ、孫社長のように、自分に対して、組織に対して「プロマネ力」を発揮していきましょう。
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トライオン代表取締役
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部経営学科卒。三菱地所を経てソフトバンクに入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもとで「ナスダック・ジャパン市場開設」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収案件」「Yahoo!BB事業」などにプロジェクト・マネジャーとして関わる。2006年に独立後、ラーニング・テクノロジー企業「トライオン株式会社」を設立。『孫社長のYESを10秒で連発した 瞬速プレゼン』(すばる舎)『「英語は1年」でマスターできる』(PHPビジネス新書)『すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)など著書多数。
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(トライオン代表取締役 三木 雄信 写真=iStock.com)
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