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次期首相が色目を使う小泉進次郎の政治力

プレジデントオンライン / 2018年9月12日 9時15分

2018年9月10日、自民党総裁選挙の所見発表演説会に向かう小泉進次郎筆頭副幹事長(写真=時事通信フォト)

「安倍氏の3選確実」と報じられ、盛り上がりに欠ける自民党総裁選。9月10日に安倍晋三首相、石破茂元幹事長が演説会を開いたが、2人の発言内容は「いつも通り」とされ、ニュースでの扱いは小さかった。だが永田町での受け止めは違う。2人の発言を読み解くと、小泉進次郎筆頭副幹事長への「ラブコール合戦」という側面がみえるからだ。2人の「論争」を再現してみよう――。

■基本的には従来の主張を繰り返しているだけだったが……

総裁選は7日に告示されたが北海道地震の影響で3日間、選挙運動を自粛。10日の立会演説会と記者会見が論戦のスタートとなった。演説会は届け出順に安倍氏、石破氏の順で20分ずつ行った。

安倍氏が5年8カ月の安倍政権の成果を強調し、石破氏は安倍氏の強引な政権運営を暗に批判して「真実を語る」政治への決意を語る、といった内容。アベノミクスの評価、憲法論、防災対策などで2人の違いは見えたが、基本的には従来の主張を繰り返しているだけだった。

しかし、この稿では、あくまで「進次郎氏」に絞って分析していきたい。小泉純一郎元首相を父に持つ進次郎氏は、父親譲りに歯切れのいい語り口と、涼しげなルックスで、人気は政界ナンバーワンだ。総裁選でも進次郎氏の支援を得たほうが有利になるため、両陣営が盛んに秋波を送る。

そんな進次郎氏は態度をはっきりさせていない。その経緯は既報の「安倍側近が"進次郎はこっち"と強がるワケ」でも紹介している。そのラブコール合戦は10日にも随所でみられた。

■古典的なエピソードから強引に農政の話に持ち込む

安倍氏は演説の前半、アベノミクスによって経済が成長し、雇用が安定し税収が増えたことを強調した。これは安倍氏の演説では定番なのだが、演説の途中で話の流れを変えた。

「25年前、私は初めて総選挙に挑戦しました。農村地帯を走っておりますと、1人のおじいちゃんが農作業の手を休めて駆け寄ってきました。そして私の手をしっかりと握ってこう言ったんです。『晋三さん、信じちょるけ。この地域を守っておくれよ』。私はこの声に押されて、初当選することができました。農林水産業は厳しい仕事ですが、国の基です。私はこの農林水産業を必ず守ってまいります」と農政の話を始めた。

そして、農林水産物の輸出が過去最高になったこと、生産農業所得が高水準となったことを強調。これからも若者の新規就農者を増やすなど農政改革を進めていく決意を語った。選挙区で老人に語りかけられて奮起する……という演説では古典的なエピソードから強引に農政の話に持ち込んだ印象はいなめない。

■「進次郎氏対策」としか考えられない農政の話題

石破氏も負けていない。

「日本は最も農業、林業、水産業に向いた国。土、光、水、温度。すべてに恵まれている」と切り出し、農業の持っている潜在能力をもっと引き出すべきだと力説した。

農政改革は安倍政権の柱の1つではある。いまでは軍事オタクとして知られる石破氏は、もともと農政族議員として知られていた。ともに農政については一家言あるのだが、それにしても20分の演説の中で、じっくりと語るのは意外な印象を与えた。

その理由は、「進次郎氏対策」としか考えられない。進次郎氏は安倍政権の下で党の農林部会長を務めた。その際、農協改革など大胆な農業政策を進めたことは記憶に新しい。今は部会長を退任して党筆頭副幹事長になっているが、引き続き農協によって農薬の販売価格に差がある問題などについて熱心に取り組んでいる。

安倍、石破両氏の演説は、進次郎氏の関心分野について自分も本気で取り組む姿勢を見せて、支持を得ようという深謀遠慮だといえる。

■石破氏は進次郎氏の国会改革案を「丸のみ」した

ほかにもある。石破氏は記者会見で、安倍政権もとで浮上した森友・加計問題についての質問に答える形で、国会改革に触れ「スキャンダルの追及で予算や法案の審議が十分できなければ国民の負託に応えたことにならない。そのようなものは別の委員会でやる」と語った。

国会改革は、農政とともに小泉氏が取り組んでいるテーマ。小泉氏は自身が中核となる中堅・若手議員で国会改革案をつくっているが、案の柱はスキャンダルや不祥事が起きた時に集中的に調べる特別調査会を国会につくること。石破氏の発言は、その案を「丸のみ」した形だ。

このようにみると「小泉進次郎」の名は一度も出ていないものの安倍、石破の両氏が37歳の若手議員を強く意識して演説と会見に臨んだことがよく分かる。2人は100万人を超える党員、そして全国民に語りかけているような形を取りながら、実はたった1人の政治家をにらんで争っていたともいえる。言い換えれば国民不在の論争ということか。

それにしても、この程度のリップサービスで1人の政治家が支持を決めるのか、はなはだ疑問だ。これについては自民党の長老議員が、こう打ち明ける。

「演説に感激して支持を決めるほど進次郎氏も純朴ではないだろう。しかし、態度を決定した時、後付けで『演説に感動して支持を決めた』と理由をつけやすくなる。その誘い水だよ」

■そして進次郎氏は「貝」のまま

進次郎氏は演説会の後、記者団に取り囲まれ「やっぱり生(演説)は違いますね。14日、当青年局、女性局主催の討論会もしっかり見てみたい」とはぐらかした。進次郎氏は青年局長経験者。古巣の主催行事をちゃっかりPRするのも進次郎氏らしい。

恐らく14日には、「20日の投票日まで考え続けたい」というような返事をしてマスコミをじらし続けるのではないか。事実上、首相を決める選挙が、たった1人の政治家をめぐって動いている。これでいいのだろうか。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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