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"退職金振込"で浪費暴走60代の自業自得

プレジデントオンライン / 2018年9月17日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/apomares)

退職金として銀行通帳に今まで見たことのないケタ数の金額が振り込まれると、気分が大きくなりがちだ。だが、「自分にご褒美」などと浪費に走ると、たちまち後がなくなる。ある60代の夫婦は、夫の定年後は「毎月の生活費を40万円から20万円に半減させる」と計画していたが、実際には1カ月の豪華客船の旅に出た。「つつましく生活」するプランも早々に崩壊。職もなく、貯金はみるみる減っていく。どうすればいいのか――。

■退職金「¥20,000,000」振込で気が緩んだ60代夫婦の誤算

最近、退職後1~2年のシニア夫婦から、家計についてこんな相談を受けることが増えています。

「雇用延長をしたけれど、収入が予想よりはるかに低くて、毎月赤字なんです」
「退職金が思っていたより少なくて、定年後のライフプランが狂ってしまって」

いずれも「定年後の家計のやりくり」についての悩みです。

都内在住の森下徹さん(61歳・仮名)、真理子さん(56歳・仮名)ご夫婦もこのパターンでした。夫の徹さんは60歳で定年退職。ちょうど1年がたったところで、悠々自適かと思いきや、次のように老後の不安を打ち明けました。

「雇用延長を断り、生活費を節約して乗り切ろうと思いましたが、うまくいきません。住宅ローンが残っているのに、退職金をかなり使ってしまいました。どうすればいいでしょうか」

徹さんは電機メーカーの技術職一筋で、定年まで同じ会社で勤めあげました。定年後はしばらくのんびりしたいと、会社の雇用延長制度は利用しませんでした。ふたりのお子さんはすでに巣立ち、約2100万円の退職金と約850万円の貯金があります。65歳からは公的年金ももらえる。だからなんとかなると思ったそうです。唯一の経済的な不安といえば、あと9年間、70歳まで残る住宅ローンの返済くらいのはずでした。

■自分への「ご褒美」と妻への感謝の気持ちがあだに

森下家のプランはこうです。支出は、現役時代の夫婦二人の生活費約40万円を半分の20万円まで落とす。収入は、60歳から毎月支給されている徹さんの個人年金10万円と、真理子さんが主宰する料理教室の月収約11万円の計21万円でまかなう。そうすれば貯金や退職金に手をつけることなく65歳の公的年金支給までつなげられるはずでした。

徹さんは仕事一筋のまじめな性格で、お金のかかる趣味もありません。真理子さんも仕事柄、おいしいものへのこだわりはありましたが、長年料理教室の運営をしてきた経験から、「定年後の節約生活」は容易にできるものだと思っていました。

ふたりの新しい生活は、節約生活を前提にしていたにもかかわらず、それは完全に絵に描いた餅となりました。なぜでしょうか。退職金「¥20,000,000」がドーンと振り込まれた通帳を見て、つい気持ちが緩んでしまったそうです。「がんばった自分へのごほうびと妻への感謝」として、「豪華客船の旅」を楽しんできました。1カ月間の旅で、約230万円かかったそうです。

■「明日からはつつましく暮らす」と昨日も思った

旅行から帰り、「明日からはつつましく暮らす」と決意したのもつかの間、どこをどう削っていいかがわからず、現役時代と同じお金の使い方が続きます。1カ月間、家計簿をつけてみたところ、支出額は現役時代と変わらず月40万円ほど。「生活費を半分に」というプランは完全崩壊です。結果、何と月20万円の大赤字。その分を退職金から補てんしていくうちに、1年間で240万円ほどが消えました。豪華客船の旅と合わせて500万円近い出費になりました。

さすがにこれではまずいと、夫婦で家計について相談したそうです。そして出した結論が、「住宅ローンを一括返済して、毎月の支出を減らす」。

しかし、残る退職金は1500万円あまり。ローンの残高は1100万円ほどありますので、これを完済すると、退職金は400万円しか残りません。貯金850万円と合わせるとまだ1000万円以上はありますが、ほんの少し前まで約3000万円のキャッシュがあったことを考えれば、老後資金がこのままどこかへ消えていくのではないかとかなり心細くなりました。

■定年後は「月の支出を40万→20万」の大ウソ

住宅ローンを一括返済すると老後資金が足りなくなるかもしれない。しかし、一括返済しないで毎月ローンを払い続けると家計は毎月大赤字……。「いったい、私たちはどうすればいいんでしょうか?」と、不安な面持ちのおふたりに、私は「どちらの場合も、毎月の家計を立て直さない限り、行き詰まってしまいますよ」とお話しました。

家計の立て直しにはふたつのアプローチがあります。

ひとつは収入に合わせた支出に抑えること。もうひとつは支出をまかなえるだけ収入を増やすこと。森下家の場合は、この両方の取り組みが必要と感じたので、さっそく具体案を相談することにしました。

支出の削減については、「いきなり半分に」という無謀な目標設定をするのではなく、自分たちにとって不要な出費について考えてもらいました。

最初にあがったのが食費(月7.3万円)でした。真理子さんが料理教室用の食材を買う習慣で、家庭用の食材も高級スーパーやデパートで買っていました。その上、外食費(月2.8万円)もかかっています。

豪華客船の旅の後も、なんだかんだと外出しており、娯楽費は月3.5万円もかかっていました。さらに、生命保険料は月2.7万円で、子供がすでに独立したのに多額な死亡保障に入ったままです。通信費は月1.6万円と高額で、これは夫婦2人ともスマホを月額料金が高い大手キャリアと契約したままでした。

相談を進めるうちに、「不要な出費」が見えてきました。

■1100万円の住宅ローンは一括返済? 月々返済?

夫婦のこづかいについても、現役バリバリで働いているならともかく、現状の月2万円ずつは「収入の割にふたりとももらいすぎだよね」という判断になりました。

結果、削減できたのは食費と外食費で3万3000円、通信費と保険料は各8000円、こづかい計2万円など、合計で約10万円。

残りの10万円の赤字は、夫の仕事でカバーすることにしました。幸い、専門の技術を生かした仕事が前の会社の紹介で見つかり、毎月約16万円の収入が得られるメドが立ちました。

最後に残った課題は、「住宅ローンをどうするか」ということでした。

「一括返済」と「月々返済」。それぞれのメリット、デメリットをお話しし、おふたりに決断を委ねました。

▼一括返済のメリット・デメリットは

完済までの利息分を払わなくて済むので、返済総額は少なくなるが、その分貯金が減るので、もしものときの備えが心配になる。

▼月々返済のメリット・デメリットは

収入を増やし、支出を減らせば、月々ローンを返済しながらも、今の貯金を取り崩すことはないが、今後、病気などで働けなくなったときに、返済が重い負担になる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/K2_keyleter)

おふたりの結論は、「住宅ローンは残債1100万円の一括返済」でした。大変大きな出費ですが、月々10.6万円の出費は0円になります。

なぜ一括返済にしたのでしょうか。

徹さんに理由を聞くと、「再び仕事を始め、自分の技術を生かせる幸せをかみしめています。少なくなった貯金を、もう一度自分が働くことで増やしていくと思うと、がぜんやる気になるんです」とのこと。

■夫は仕事を再開、65歳の年金支給まで760万円貯まる

一括返済で月々の返済がなくなることで、当初の収入の柱にしていた徹さんの個人年金と真理子さんの料理教室収入の合計額と、支出額がトントンの状態になりました。これに当初は想定していなかった夫の再就職による月収16万円がまるまる貯金に回せることで、65歳までの4年間で約760万円も貯まることがわかりました。

65歳からは公的年金が支給されるので、その分を貯めたり、65歳以降も仕事を続けたりすれば、老後資金をさらに増やすこともできます。家計の見直しと仕事の継続で老後資金のメドが立ち、おふたりの不安はきれいになくなっているように見えました。

「定年後の生活設計は難しい」とよく言われます。

収入は減るが支出が減らず、貯金や退職金に手をつけてしまう……。老後の生活のための貯金や退職金なので、家計の赤字補填を取り崩すのは、目的に合った使い方ともいえます。しかし、年金の満額支給が始まる65歳までは、できるだけ貯金や退職金には手をつけず、「安心を先に送る」ことが大事だと私は考えています。

そのための一番のポイントは、やはり家計の見直しです。定年後の見直しは手遅れになることもあります。私の考えるタイムリミットは55歳まで。それまでには、「これからの自分たちに必要でない出費」を見直してみてください。

■計10万円!【家計費コストカット額ランキング】

1位 -10.6万円 住宅ローン
一括返済(1100万円)を実行し、月々の返済額をゼロにした
2位 -2万円 娯楽費
夫婦での外出が多かったが、格安の旅行サイトの利用や、近場の公園で「高校時代のデート作戦」を実行してコスト減
2位 -2万円 こづかい
現役時代のこづかい額のままが、見直して収入に見合う額に調整
4位 -1.9万円 食費
家庭用の食材は、近所のリーズナブルなスーパーを利用
5位 -1.0万円 外食費
回数を減らし、月1回ふたりでディナーに行くことに
6位 -0.8万円 通信費
スマホ2台を格安SIMに。固定電話とネットもセット割引に
6位 -0.8万円 生命保険料
60歳以降、高すぎた死亡保障額の設定を見直し。他と保障が重複していた共済保険も見直し
8位 -0.4万円 生活日用品
多すぎるストック品を見直して、減らすようにした
9位 -0.3万円 嗜好品
割安だからと発泡酒などのケース買いをしていたが、飲みすぎてしまう傾向があった。そこで週末に品質のいい地ビールなどを1本単位で買って満足度を高めた。

(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭 写真=iStock.com)

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