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安倍首相が遅刻魔プーチンを怒れない事情

プレジデントオンライン / 2018年9月16日 11時15分

2018年9月12日、ロシア・ウラジオストクでの東方経済フォーラムの全体会合で話す(左から)安倍晋三首相、中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(写真=時事通信フォト)

■「仲が良い」というより、馬鹿にされている

これまで安倍晋三首相は「プーチン大統領との関係は良好だ」と自慢していた。しかし9月10日の日露首脳会談を見ていると、本当だろうかと疑いたくなる。北方領土問題を巡り、ロシア側にこれまでの主張を曲げる様子がみられないからだ。

しかも安倍首相が予定通りにウラジオストクに到着したにもかかわらず、プーチン氏は2時間40分も遅刻して現れた。その間、安倍首相はひたすら待ち続けた。「仲が良い」というより、馬鹿にされている。

もっともプーチン氏は「遅刻常習者」として世界中に知られている。これまでの安倍首相との会談でも、何度も遅刻してきた。被害者は安倍首相だけではない。日本以外の世界各国の首脳との会談でもよく遅刻している。

■むしろプーチン氏に揺さぶられている

10日夜、安倍首相はロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談した。

海産物養殖など5つの項目を対象にする北方領土での共同経済活動のロードマップ(行程表)で合意した。日本が調査団を10月初めに派遣することでも一致した。北朝鮮問題では非核化実現への連携を確認した。

両首脳の会談は5月のモスクワ以来で、第1次安倍政権時代を含めて22回目となった。

だが、ロシア側は肝心の北方領土問題解決と平和条約締結で「北方四島は自国領」との従来の主張を堅持したままである。

事実、プーチン氏は12日の東方経済フォーラムでも北方領土問題を棚上げし、安倍首相に対し「あらゆる前提条件を抜きにして、年末までに平和条約を結べないか」と投げかけた。安倍首相は領土問題の解決が前提との立場を崩していないが、むしろプーチン氏に揺さぶられている格好だ。

■「思わせぶりな発言でまたごまかすのか」

今回の日露首脳会談をどう判断したらいいのか。新聞各紙の社説を読みながら考えてみよう。

まずロシア嫌いの産経新聞。9月12日付の社説(主張)で手厳しく批判している。

「プーチン氏は北方領土問題について『短期間で解決できると考えるのは稚拙だが、双方が受け入れ可能な解決策を模索する用意がある』と述べた」
「思わせぶりな発言でまたごまかすのか。早期の解決を『稚拙』と語ること自体が、問題を先送りしたい本音を示している」

産経社説は「思わせぶり」「ごまかす」などと攻撃的だが、ロシアという国の本音を捉えていて分かりやすい。

■北方領土返還を本気で目指すなら実務交渉しかない

産経社説は共同経済活動のロードマップで合意したことにも批判する。

「日本は四島を不法占拠したロシアの法制度の下で活動できない。四島への『特別な制度』の導入を求めているが、ロシアは拒んでいる。活動の基盤が整わないまま行程表を作ってどうする」

活動基盤が整備されていないのに行程表に合意する。やはりプーチン氏は思わせぶりでごまかす気なのだ。

日本側の交渉にも苦言を呈する。

「そもそも、温室栽培や観光など(の5項目の共同経済活動)がなぜ四島返還に結びつくのか。明確に返還を要求し、2年前に途絶えた平和条約締結の実務交渉の再開を促すことが先決だ。

これもストレートな主張で分かりやすい。日本が北方領土返還を本気で目指すというなら実務交渉しかない。

■産経新聞は「はっきり抗議すべきだ」と安倍首相を叱責する

産経社説はその後半で10日の安倍首相とプーチン氏の会談に合わせて始まった軍事演習に言及する。

「安倍首相のウラジオストク訪問は、11日からの『東方経済フォーラム』出席のためだ。だが、ロシアは同日から、日本海やオホーツク海も含む極東で兵力30万人を動員し、1981年以来、最大規模の軍事演習『ボストーク(東方)2018』を始めた。中国、モンゴル両軍も初参加した。露中両国の軍事的接近は極めて危うい」

見出しも「疑念を募らす軍事演習だ」である。

ロシアは中国やモンゴルと組んで軍事的包囲網を築き上げ、日本と米国を牽制しようとたくらんでいるのだろう。そんなロシアに安倍首相は敢然とした姿勢を示すことができたのか。大いに疑問である。

産経社説も安倍首相をこう叱責する。

「この演習が対抗勢力に想定するのは、日米同盟や北大西洋条約機構(NATO)しかあり得ない。ロシアが露骨に牙をむいてきたといえよう。北方領土と千島列島は演習域外としたが、これは対日配慮に値しない。首相は会談で、北方領土や周辺でのロシア軍の動向に『注視している』と伝えた。もっと、はっきりとした言葉で抗議すべきだった」

■どこまでも安倍首相が嫌いな朝日新聞

朝日新聞も9月12日付の社説で日露首脳会談を取り上げているが、産経社説と違ってロシアではなく、安倍首相を批判している。

冒頭から「安倍首相は政権5年9カ月の実績の一つとして、外交を掲げる。その看板と実態がかけ離れているのがロシアとの関係だ」と指摘する。続けてこう書く。

「平和条約の交渉が進んでいるかのような発言は、誇張が過ぎる。現実から遊離した説明は国民の理解を妨げるうえ、国際的な疑念も招きかねない」

朝日は安倍首相批判に生きがいを感じているようだ。安倍首相がどこまでも嫌いなのだろう。

朝日社説は「今回も、北方四島での共同経済活動を実現させる明確な道筋は開けなかった」と述べ、「実際は2年前の合意以降、交渉は滞り続けている」と解説する。

■ならばどうすれば北方領土問題を解決できるのか

そのうえで朝日社説は北方領土問題対する社論を展開していく。

「理由は明白だ。活動をめぐる考え方そのものが異なるからだ。ロシア側は、ロシアの法律が適用されるとしている。人々の往来の仕組みも、四島に限らず、サハリン州と北海道全体が対象だと主張している」
「日本側は四島だけに適用される特別の制度をめざすが、溝は深い。そもそも仮に共同経済活動が実現しても、領土問題の打開につながるわけではない」

ならばどうすれば北方領土問題を解決できるのか。

朝日社説は「そんななか、日本は主要7カ国の一員としてロシアに制裁を科しつつ、プーチン氏を持ち上げる首脳会談を重ねてきた。法の支配などの原則を毅然と主張しない日本の姿に、疑問の目が注がれても仕方あるまい」と訴えるが、具体的解決方法にははっきりとは言及してない。そこが残念である。

■「安倍首相の狙い」を評価する読売のいやらしさ

安倍政権擁護の読売新聞の社説(9月12日付)はどうだろうか。

「共同経済活動を着実に進めよ」という見出しを掲げて書き出しからこう主張する。

「停滞する領土交渉を打開するには、首脳間の合意を着実に履行し、地道に実績を積み上げるほかに道はなかろう」

割と冷静な主張だが、読み進むと、読売のいやらしさが見えてくる。

「北方4島には1万数千人のロシア国民が居住している。経済協力や人的交流を進めることで、日露間の信頼を醸成し、領土返還につなげる狙いがある」

安倍首相は5項目の共同経済活動によって経済協力を高め、人的交流を深めようというのだ。

「期限を区切って協力案件を具体化させる取り組みは評価できる。両国は行程表の詳細を明らかにしていないが、合意を尊重し、実現の道筋を付ける必要がある」

読売社説は共同経済活動の行程表の合意を「評価できる」とまで書く。

■朝日とは違って北方領土問題解決の糸口を示唆

朝日とは反対にどこまでも安倍政権を擁護することが、大好きなのである。

後半で読売社説は「日露の領土交渉では、トップ同士の合意が欠かせない」と書き、こう主張する。

「首相はプーチン氏と会談を重ね、領土返還がロシアの利益につながることを粘り強く訴えねばならない。それが、実務的な協議を加速することになる」

ここも朝日とは違って北方領土問題解決の糸口を示唆している。こうした読売社説の姿勢は理解できなくもない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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