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万引き繰り返す人に"反省"させても無意味

プレジデントオンライン / 2018年9月27日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AndreyPopov)

万引きを繰り返す人たちがいる。いったい何を考えているのか。家族はどう対応すればいいのか。精神保健福祉士で、加害者臨床が専門の斉藤章佳氏は、「万引き依存症者は万引きがバレたら全力で反省を示すが、その後も繰り返す。捕まっても、本人のなかでは『悪いことをしたから捕まった』ではなく『失敗したから捕まった』でしかない」と分析する。万引きをやめさせるために、本当に必要なこととは――。

※本稿は、斉藤章佳『万引き依存症』(イースト・プレス)の第4章「なぜやめられず、エスカレートするのか」を再編集したものです。

■盗んだ側が、被害者意識に苛まれる

嘘つきは泥棒のはじまり――みなさんも子どものころからたびたび聞いてきたと思います。嘘をついたとき、そう大人から説教された経験がある人も多いでしょう。

ところが、実際はその逆なのです。

「泥棒は、嘘つきのはじまり」

私はクリニックで万引き依存症者とその家族と接しているうちに、そう確信するようになりました。

生まれながらの嘘つきはいません。

みなさんもこれまでの人生、大なり小なりの嘘をついてきたでしょう。そのときのことを振り返ってもらえればおわかりになると思いますが、私たちは何かしら自分にとって不利な状況を切り抜けるために嘘をつきます。処世術のひとつとして、嘘をつくことを学習してきたのです。私もそうして嘘をついたことが何度もあります。

万引き依存症の人が嘘をつくのは、「なぜ盗ったのか」と問い詰められたときです。トリガーが引かれれば条件反射的に盗ってしまう人たちに、「なぜ」も何もありません。けれど、家族からそう問い詰められれば、無理にでも答えなければ納得してもらえません。

そこで、なんとか考えて「万引きする理由」を作り出すのです。

■「なぜ盗ったか」は難しい問い

「お義母さんの介護でイライラしていたから」
「子どもの受験のことで頭がいっぱいで、気づいたら盗っていた」

たいていは、それらしいことを言います。背景には家族の問題があるので、まったく見当はずれのこととも言えません。

しかし、子どもの受験が終わったら万引きが治まるのかというと、依存症である以上、いきなり止まることはありません。実際は受験そのものより、そのことをめぐる夫との関係が原因のひとつだったとしても、それは口に出せません。そして、また万引きをします。結果、夫からすればそれは「嘘をついた」ということになります。

万引き依存症になると、「なぜ盗ったか」というのは、とてもむずかしい問いです。万引きに依存していったきっかけや遠因はあっても、そのときどきには盗む理由というのは特になく、トリガーが引かれ条件反射の回路が作動して盗っただけだからです。その仕組みを本人も理解していない状態だと、余計に説明のしようがありません。

たとえて言うなら、花粉症の人がくしゃみをしたとき、「なぜくしゃみをしたのか?」と聞かれるようなものです。くしゃみは症状です。そこに理由はありません。ですが、何か答えなければその場が収まらない……苦肉の策としての、嘘なのです。

これは、思わずそう聞いてしまう家族が悪いという意味ではありません。万引き依存症ということを知らなければ、家族も問い詰めたくなるのは当然です。

悪いことをしたら、反省する――一般的に疑いようのないことだと思われています。万引きを繰り返すといずれ実刑を受けることになりますが、刑務所は反省をするところです。自分のしたことを省みてから社会に戻ることが、更生にとって重要とされています。

しかし依存症の臨床の現場では、その人が反省しているかどうかにはあまり重きをおきません。なぜなら、その人の「行動変容」にあまり関係ないからです。行動変容とはここでは「万引きする自分」から「万引きしない自分」に変わることです。

「反省しなさい」と言われたとき、みなさんはどうするでしょう。相手がものすごく怒っていれば、その場を収めたいと思うのではないでしょうか。

自分が仕事のミスなど何か悪いことをしたのだとしても、上司から長時間お説教されると、「もういやだ、早く終わらせたい」と思うものです。そのときにどんな言葉を使い、どんな態度で謝罪をすればいいのか。多くの人がこれまでの人生のなかでそのスキルを身につけてきたことでしょう。

■全力で反省を示すがまたすぐ繰り返す

万引き依存症者は全力で反省を示します。Gメンに捕捉されたあと、被害店舗の従業員の前で土下座までして謝罪します。もうしないと約束した家族を裏切ったときも、土下座します。警察でも「もうしません」と神妙な顔をします。そんな態度を見て「今回は本当に反省しているな」「信じてみようか」と思うものですが、ほどなくして再び万引きをする……。

その場を取り繕うための反省と、「万引きしない自分への変容」とはまったくの別物で、反省を強く求めれば求めるほどその距離は大きく開いていきます。

そこで、当クリニックでは治療プログラムをはじめるときに、その人がどれだけ反省しているかということはまったく問いません。それよりもまず「万引きをしない自分」になるための具体的な方法を学ぶことを最優先としています。

万引き依存症者に反省が見られない理由のひとつに、「被害者意識」があります。

スーパーやコンビニから商品を盗んでおきながら被害者とは、と驚かれるかもしれませんが、これはさまざまなジャンルの加害者に共通して見られます。

DV加害者であれば自分が暴力をふるっておきながら、相手から訴えられると「そこまでひどいことをしたわけではないのに訴えられた自分はむしろ被害者だ」と思いますし、痴漢加害をした男性が逮捕されたら、「ちょっと触っただけなのに自分の人生が終わってしまう」と思います。自分が加害者だという意識は、完全に抜け落ちています。

万引き依存症者は特にその意識が欠けています。「たいしたものを盗っていないんですけどね」――これは、彼らから本当によく聞く言葉で、クリニックに通うようになってもぽろっと口に出ます。認知の歪みに向き合い、修正しにきている場でそう言ってしまうということは、そういう言い訳をすることが日常的に習慣化しているということです。たいしたものを盗っていないのに逮捕されたり叱責されたりすることで、気分はすっかり被害者なのです。

■「失敗したから捕まった」でしかない

万引きをした帰り道、Gメンや警察が追ってくるのではないかとビクビクする人もいます。万引きという加害行為をしたことを忘れ、自分のことを怖い人たちに追われている被害者のように思っています。

それでも、さすがに何度も逮捕されると反省をするのではないか、加害者という意識も芽生えてくるのではないか、という期待はむなしく裏切られることが多いです。

逮捕も何度目かになると、家族も「今度こそ」、「さすがに反省して変わってくれるだろう」と切実に祈りますが、残念なことにそれは叶えられません。彼らのなかでは「悪いことをしたから捕まった」ではなく「失敗したから捕まった」でしかないのです。

「やり方が甘くてGメンに見つかるようなヘマをしてしまった」
「この店はマズかった」
「今日は気づかないうちに盗ってしまったけど、次はもっと注意して盗ろう」
「運が悪かっただけ、私は悪くない」

といった程度の考えです。要はバレなければそれでいいという考えなので、そこにはやはり認知の歪みがあります。

逮捕後、罰金刑を言い渡されることがあります。刑法上は50万円が上限ですが、最初は20~30万円ぐらいが相場です。盗んだものの金額は、まったく額に反映されません。300円のものを盗んで30万円の罰金というのは、彼らにとって「割に合わない」ことになり、「何もそんな高額な請求しなくても」という被害者意識にすり替わります。

けれど実際に払うのは本人ではなく家族というケースが多く、そうなると本人は痛くもかゆくもありません。真の反省はますます遠ざかります。そのうちまた万引きをし、家族はさらに疲弊していくのです。

■「病気なら許せます」と前を向ける家族

こうした過程を経て、思い詰めてクリニックにきた家族に、万引き依存症という病気であり、衝動制御障害が見られると伝えると、ほっとした顔をされることが多いです。発覚して以来さまざまな理不尽に振り回されてきた末に、やっと光明を見た瞬間です。

斉藤章佳『万引き依存症』(イースト・プレス)

「病気なら許せます」

そう話す家族も多いです。ということは、許すかどうか迷っていたのです。

診断されたことで、本人と家族が和解し、同じ方向を向いて再発防止について真剣に考えられるようになります。治療を進めていくうえで周囲の足並みがそろい、本人へ同じ対応ができることはとても重要です。「あっちではこう言われたのに、こっちではこう言われる」と混乱させると、安定した治療を継続できません。

ここで気をつけなければいけないのは、単純な病理化は危険だということです。依存症の診断がついたことで本人が「そういう病気なんだから、私が万引きするのは仕方のないこと」という世界観につながってしまうと、いつまでも回復はできないでしょう。行為に対する責任も一切取れません。

そうならないよう、私たちのクリニックでは、反復する万引き行為が周囲に与える影響について彼ら自身に考えてもらいます。常にこちらから行為責任について考えてもらい、それを受けて本人は自分がしたことの責任性について考えます。

■離婚を選ぶケースは意外と少ない

しかし家族が「病気なら許せます」と受け取ることには、一定の意味があると思います。万引き依存症からの回復には、家族の協力があったほうが治療中断率も低く回復率もいいからです。

妻なり夫なりの万引き依存症が発覚したとき、離婚を選ぶケースは少ないです。それでもやめない相手に対して「次やったら離婚」とプレッシャーをかけることがあっても、クリニックに通っている人たちにかぎっていえば婚姻関係は継続されます。「離婚しない代わりに、ちゃんと通院しなさい」と言われてクリニックを訪れる人もいます。不思議に思われるかもしれませんが、「万引きさえしなければ」いい妻であり、いい夫だからだと思われます。

万引きに耽溺した遠因が家族にあるのであれば、家族内でその問題を解決する方向に舵を切らなければなりません。家族もまた、自分自身のコミュニケーションを省みる必要があるのです。

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斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)などがある。

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(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳 写真=iStock.com)

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