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安倍首相は「健康弱者」に関心があるのか

プレジデントオンライン / 2018年9月26日 9時15分

高病原性鳥インフルエンザの発生を受け、現地対応の準備をする新潟県職員(2016年11月30日、新潟県上越市)(写真=時事通信フォト)

■「利益になるかどうか」で政策を選んでいる

感染症が流行したとき、甚大な被害を受けるのは「健康弱者」だ。今年7月以降、「風疹」が首都圏を中心に流行している。風疹の場合、健康弱者は妊婦のお腹の中の赤ちゃんだ。

先天性風疹症候群と呼ばれ、妊娠初期の女性が感染すると、ごくわずかな確率だが、赤ちゃんが難聴や心臓病、白内障になる危険がある。妊婦とその家族は、注意が必要だ。

国立感染症研究所が9月19日、今年の患者数が計496人に上ったと発表した。すでに昨年1年間の患者数の5倍を超えたことになる。

ところで翌20日、自民党総裁選の投開票が行われ、予想通り安倍晋三首相が連続3選を果たし、引き続いて総裁と首相を務めることが決まった。

安倍政権は風疹の流行や健康弱者の問題をどう考えているのだろうか。

総裁選の論戦からは、風疹という言葉は聞こえてこなかった。

これまでの国会答弁を含めて思い起こすと、確か、安倍首相は「もり・かけ疑惑」に絡む加計学園設立の経緯を国会で説明するなかで「鳥インフルエンザの流行が懸念され、獣医師を増やす必要がある」という趣旨の答弁を繰り返していた。

しかし、獣医師を増やせば、養鶏場で鳥インフルエンザの発生を防げるわけではない。そこまで強弁したのは、なぜだろうか。それは刎頸の友である加計学園の加計孝太郎理事長を利するためだ。それは自らの利益につながることでもある。きっとそのうち、風疹の流行も利用するはずだ。

■患者の大半が成人で、特に30代以上の男性が多い

話を風疹に戻そう。

妊娠の予定がある女性とそのパートナーには、ワクチン接種が求められる。ただし妊娠すると、お腹の赤ちゃんへのリスクからワクチン接種はできない。

大半の患者は熱も発疹も3日ほどで治る。そのため三日ばしかともいわれる。症状の出ない不顕性感染のケースも多い。

しかし決して侮ってはならない。

風疹ウイルスは、感染者のくしゃみやせきで人にうつる。潜伏期間は2~3週間程度。感染力はインフルエンザよりも強い。治療薬はなく、治療は症状に応じた対症療法に頼っている。それゆえワクチンの接種が欠かせない。

近年の流行では患者の大半が成人で、なかでも30代以上の男性が多い。厚生労働省は国の制度変更で定期接種対象から外れた30~50代の男性を中心に、ワクチン接種を徹底するよう呼び掛けている。

■「風疹のない日本」は本当に実現できるのか

2014年に厚労省の専門委員会が、風疹の流行を防止する指針案をまとめている。

それによると、免疫のない成人男性らにワクチンを打つように働きかけ、東京オリンピックの2020年までに「風疹の流行がない日本」にする。風疹を制圧しようというわけだ。

厚労省によれば、2013年の風疹の患者数はその前年の6倍に当る1万4000人に上った。発生の報告が義務付けられた1999年以降、最多となった。

風疹に感染した妊婦から生まれた先天性風疹症候群の赤ちゃんは2012~14年にかけて45人にも上り、そのうち11人が死亡している。

日本から風疹をなくすことには大賛成だが、果たして制圧できるだろうか。

過去の感染症を振り返ると、確かに水疱性の発疹ができて高熱を出し、古来から「悪魔の病気」と恐れられてきたあの天然痘(疱瘡)は根絶することができた。

牛痘ウイルスによって人の体に抗体を作り出す方法、つまり種痘ワクチンが大きな効果を発揮したからである。

■「感染症を制圧できない」と考えたほうがいい

その天然痘の根絶について触れておく。

1958年、WHO(世界保健機関)は世界から天然痘を根絶する計画を採択する。アフリカや南米などの熱帯地域の高温に耐えられるように種痘ワクチンを改良してその質を上げるとともに量を確保し、65年から根絶作戦をスタートした。

その結果、1977年10月26日に発病したアフリカのソマリアの青年を最後の患者として天然痘は姿を消した。

2年半後の80年5月、WHOは天然痘根絶を宣言し、83年にはこの10月26日を「天然痘根絶の日」と定めた。この成功で多くの研究者が「感染症は克服できる」と考えた。

しかしちょうどこのころ、エイズウイルス(HIV)が出てきた。1981年6月にエイズの最初の公式報告が米国疾病対策センター(CDC)発行の報告書に掲載され、その後エイズが全世界に広がっていった。

天然痘の制圧成功はレアケースだったのである。感染症を制圧することはできない、と考えたほうがいい。

制圧できないならばどうすればいいのか。日頃からの予防はもちろんのこと、ワクチンや抗ウイルス薬を使いながらウイルスや細菌をコントロールしてうまく感染症と付き合っていくしかない。

鳥インフルエンザを刎頸の友を擁護するために使う安倍首相に、この感染症との付き合い方が理解できるだろうか。はなはだ疑問である。

■風疹のコントロールには首相のリーダーシップが必要

風疹の流行について新聞社説は、最初に日経新聞がテーマに取り上げている。

9月13日付の社説で「検査とワクチンで風疹を防げ」との見出しを掲げ、「国や自治体は感染が目立つ成人男性の検査と予防接種を促すよう、対策を急ぐべきだ」と主張している。

日経社説は「政府は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年度までに国内の風疹をなくす目標を掲げる。だが、このままでは目標達成はおろか、20年ごろに流行がピークとなる恐れすらある」とも指摘する。

しかし感染症のコントロールは前述したようにかなり難しい。覚悟を決めてかからないと、風疹は制圧できない。

安倍首相自らが先頭に立って抗体(免疫)検査を呼び掛け、抗体がない人に必ずワクチンを接種するよう求めていかない限り、日本から風疹はなくならない。一時的に制圧できたとしても、海外から入ってきて流行を繰り返すことも考えられる。

■流行の背景には、国や自治体の予防策がちぐはぐさ

日経社説はワクチン接種や抗体検査の問題点も指摘する。

「乳幼児期の2回の定期接種が導入される前の世代は受けていない人も多い。30代後半~50代の男性の2割前後は、ウイルスに対する抗体をもたない」
「この比率は過去10年ほど下がっていない。抗体検査が広がらないうえに、費用が数千~1万円程度かかるため、ワクチン接種を受けない人が多いからだ」
「国は自治体を通して、成人の抗体検査の費用を補助している。しかし自治体によっては、対象は妊娠を予定または希望する女性のみで、夫や同居男性を含まない」
「ワクチン接種に対する補助も、自治体によって独自の制度があったりなかったりする。流行の背景には、国や自治体の予防策がちぐはぐで十分な効果をあげていないことがある」

やはり問題の根幹には行政の不備が存在している。沙鴎一歩は、安倍政権がそこに早く気付くことを強く望む。だが、勝利に有頂天の安倍首相には無理だろう。

■産経は「足元の感染症への認識が薄い」と批判

9月19日には産経新聞も風疹をテーマにした社説を展開し、日経社説と同様にワクチン接種の重要性を訴えている。

さらにワクチンについて産経社説は「ワクチンを2回接種すれば99%免疫ができるが、徹底されておらず、ほぼ5年おきに局地的な流行が起きている」と指摘する。

その通りなのだが、この問題の背景には皮肉な事情がある。

制圧を目指すことによって日本国内では風疹の患者自体が少なくなる。患者が少なくなればなるほど、私たち国民は風疹ウイルスと遭遇する機会が減る。減ると、これまで1回のワクチン接種で抗体を高めることができたのができなくなる。その結果、費用と手間が倍になる2回接種が必要となるのである。

日経社説も産経社説もその辺りの説明がないのが残念だ。読者になぜ、2回接種が必要なのかを背景を含めて説明して訴えるべきだ。

続けて産経社説は指摘する。

「政府は東京五輪・パラリンピック開催年度までに風疹の『排除』を目指しているが、流行がこのまま1年以上続くと困難になる」
「訪日客の増加で新しい感染症が警戒され、水際対策が求められているとき、足元の感染症への認識が薄く、対策が不十分ではどうしようもない」

まさに3選を果たした安倍首相の真価が問われるときだ。しかし、安倍政権は足元の風疹の流行に目を向けることができるだろうか。大いに疑問である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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