面接の「第1志望は?」で落ちる人の回答
プレジデントオンライン / 2018年10月9日 11時15分
■人事担当者は、どう考えているのか
就活時期に大量に書店に並ぶ「就活マニュアル本」。エントリーシートの書き方から面接のノウハウや攻略法、想定問答まで網羅し「これさえ読めば内定確実」と謳う。もちろん面接のトレーニングは必要だが、業界・企業によってほしい人材も違えば時代やビジネス環境によって変化する。何より面接担当者も多種多様だ。
だが、どの本を見ても優等生的な模範回答が多い。たとえば「あなたの短所は何ですか」という質問。『一問一答 面接攻略 完全版』(櫻井照士著)では「私は遅刻癖があり、友達との約束の時間にも遅れることが多々あります」というのが「悪い回答」例。良い回答例が「私の短所は最初の一歩を踏み出すことが少し遅いところだと認識しています」「先のことを考え、リスクを想定してから行動に移すことがその理由だと思っています」。そして短所を語るときは「長所と短所は表裏一体であるという考え方で、短所を抽出してみてください」とアドバイスする。
長年就活生に読み継がれてきた『面接の達人』(中谷彰宏著)でも、短所は何かを聞かれたら「短所を言うふりをして、長所を言えばいい」と言う。
『絶対内定2020 面接の質問』(杉村太郎・熊谷智宏著)でも「『人と話すのが苦手です』など、仕事をする上で、決定的にまずいことは避ける」ように指導する。このような模範回答に対して、企業の人事担当者はどのように感じているのだろうか。
大手石油業の人事課長は「短所を言うふりをして長所を答えても、それって長所じゃないのと簡単にわかる。本音を引き出すまで切り口を変えて違う質問を繰り返し、真実を引き出すのは簡単だ」と指摘する。また、IT企業の人事部長は「エンジニア志望の学生の中にはコミュニケーションが苦手な学生が少なくないし、こっちも話し方で下手だなとわかる。話すのが苦手と言われると、正直な人だなと思う。一定の技術的素養があれば、コミュニケーション下手でも入社して鍛えれば何とかなる」と語る。短所を正直に話しても問題ではない場合もあるということだ。
英語力に関する質問では「『できません』『苦手です』は完全にNG。今の時代、英語はできて当然、できなければほとんどの業界で明らかに不利である」(『絶対内定2020 面接の質問』)と言う。確かに採用試験で一定の英語力を求める企業はある。だが、総合商社の人事担当者は「英語力は会社に入ってからでも身につくし、海外赴任前に集中して勉強し、赴任後に揉まれて初めて実践の英語が磨かれる。学生に求めるのはどんな変化にも主導的に切り開いていけるチャレンジ精神だ」という。就活時点で英語力が低くてもエントリーをためらう必要はない。
学歴と採用に関しては「(学校名で)あいかわらず差をつける企業も少なくない」と前置きしたうえで、「面接官はなにも気にしていないのに、気にしていると思い込んではいけない」(『面接の達人』)とアドバイスする。だが、「採用実績校でもない学生が大量に受けにくるが、合格者はほとんどいない。受けるなとは言わないが、大学のキャリアセンターがあの企業は実績がないから無理だよと言うなど、もう少し指導してほしい」(食品会社人事担当者)と言う企業もある。
今ではすっかり定着したインターンシップだが、「インターンシップをやっていないのは不利なのか」という設問に対して、インターンシップを実施する企業は「インターンをごまめ扱いする会社」「雑用などのドロ臭いことを体験させる会社」(『面接の達人』)の2つだという。だが、就職みらい研究所の調査では、約7割の企業が17年度にインターンシップを実施(予定含む)。内定者の中に自社のインターンシップ参加者がいたと回答した企業は73.6%、そのうち採用目的として実施していると回答した企業は34.8%にのぼる。インターンシップにより、企業が早い時期から優秀な学生を獲得していることが窺える。
■リップサービスのつもりが即刻アウト
悩ましいのは、「第1志望はどこか」という質問だ。「どこに行っても『御社第1志望』で押し通せばいい」(『面接の達人』)、「嘘をつかずに、正直に話したいというあなたの気持ちはわかります。しかし、少しでも入社したい気持ちがあるからこそ面接を受けているのでしょうから、『第1志望です』と答えましょう」(『受かる! 面接力養成シート』田口久人著)と指導する。あるいは優先順位を聞かれて「御社の優先順位は1位です」と答え、「第1志望群ですというあやふやな答えではなく、はっきりと言うことが大切です」(『一問一答 面接攻略 完全版』)と指南する。
第2志望、第3志望だと言えば落とされる可能性があるからだが、サービス業の採用担当者は「ウソをノックアウトファクターとして定めているので、ウソをついたら基本的に一発アウトだ。見分けるのは難しいが、1次、2次、3次面接でいろんな角度から質問し、話し方に整合性がなければウソをついているとみなし、即刻アウトになる」と指摘する。第1志望でなければ内定を出さない会社もあるかもしれないが、「ほかに受けたい会社があります」と正直に答えると「その会社を落ちたら連絡してよ、待っているから」と声をかける人事担当者もいる。企業によって対応が分かれるようだ。
どの就活本も身だしなみやマナーに注意すべしと説く。「マナーをよくすれば必ず通るというわけではない。でもマナーが悪いと必ず落ちる」(『面接の達人』)。あるいは退室のマナーについて面接会場を退室しても誰が見ているかわからないので、「会社の付近で携帯電話を使用する」「会社の近くでほかの学生とたむろする」のは厳禁とし、「面接会場から、速やかに立ち去ることが一番です」(『受かる! 面接力養成シート』)と言う。確かにホテル業などの接客業では学生の一挙手一投足をチェックしている企業もある。だが、住宅メーカーの人事担当者は「座り方やドアの開け方、身だしなみは全然気にしていない。面接官との会話でもスムーズに話せれば、敬語の使い方が乱れていても問題はない。ただ、ほかの学生とすれ違うときに挨拶しないとか、気を使わない学生はどうなのかなと思う」と指摘する。
就職支援会社モザイクワークの高橋実取締役COOは「面接の趣旨は本来、学生と面接官双方がお互いの本当の姿を知ることにある。だが、マニュアル本で武装した学生の化けの皮を剥がそうと一生懸命になり、“化かし合い面接”になっているのが今の状況。学生の本当の姿が見えることはないし、マニュアル本はまったく意味がない」と指摘する。マニュアル本は面接を理解する一助にはなるだろう。だが、業界・企業によって考え方は異なり、模範回答がそのまま通用するとは限らない。大事なのは、自分の個性を知ってもらうことなのだ。
「プレジデント」(2018年10月29日号)の特集「人生が変わる『面接』のスゴ技」では、「新卒、若手の就職」をはじめ、「ミドルの転職」「シニアの再就職」「医学部入試」「小学校入試」など、さまざまな面接をテーマに記事を展開しています。「面接」だけで特集を組むのは、これが初めてです。ぜひお手にとってご覧ください。
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ジャーナリスト
1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。----------
(ジャーナリスト 溝上 憲文 撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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