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"10分72問"で会社と人の相性はわかる

プレジデントオンライン / 2018年10月22日 9時15分

どこの業界でも人手不足が経営課題の1つになっている。採用に力を入れても、なかなか定着せず、辞めてしまう。どうしたらいい人材が獲れるのか――。自身の採用経験から、「企業と応募者のミスマッチを防ぎたい」と起業した男のストーリー。

■結果で評価される世界で戦いたかった

【田原】「表」という苗字は珍しいお名前だけど、ご出身はどちらですか。

【表】私自身は東京です。両親が石川県金沢市の出身で、そちらにはほかの地域より多いと聞いています。

【田原】表さんは東京育ちなのに、大学は京大に進まれる。どうしてですか?

【表】高校は都立で、アメフト部。そこそこ強い学校でしたが、最後の大会で一回戦で負けてしまって、「もっと本気でやりたい」という気持ちが湧いてきました。大学でいうと、京大は国立だけどアメフトが強い。熱心に勧誘されていたこともあって、選びました。

【田原】学部はどこですか。

【表】法学部です。アメフトができればよかったので、学部にこだわりはありませんでした。

【田原】じゃあ、大学ではアメフト漬けの毎日ですか?

【表】そうですね。2年生から試合にも出してもらって、4年生のときは副キャプテンに。1年留年したときもコーチとして関わっていました。

【田原】卒業後はモルガン・スタンレー証券にお入りになる。

【表】本当はアメフトの選手になりたかったのですが、それはなかなか難しい。ならばスポーツと同じ要素があるところで働こうと思って、外資系証券会社の市場部門を選びました。

【田原】外資系証券会社がスポーツに近いってどういうこと?

【表】スポーツで結果を出すには、ストイックに自分を磨き続けなければいけません。ただ、努力しても運に恵まれずに敗れてしまうこともあります。一方、結果を出せばキャリアに関係なく評価される。外資系証券も同じで、厳しい世界だけど、1年目でも結果を出せば評価される。そういう環境は自分に合っていると思いました。

【田原】具体的には、どんな仕事をされていたのですか。

【表】銀行や保険会社といった大手の金融機関に、主に債券を売っていました。一番シンプルなのは日本の国債。あとは企業が発行する社債や、それらを組み合わせた債券を商品として売っていました。

■トップセールス賞を11期連続で受賞できたきっかけの一言

【田原】債券を買ってもらうには、何かノウハウがあるんですか。

【表】債券の条件は変わらないので、基本的にどこから買っても同じです。だとすると、自分という人を買ってもらうしかない。償還まで20~30年という債券もあるので、長期にわたって信頼してもらうことが大事です。

ミライセルフ代表取締役 表 孝憲氏

【田原】どうすれば信頼してもらえるんだろう?

【表】最初は「知識」だと思っていました。お客様は1年目の新人の話なんて聞いてくれません。しかし、フレッシュな情報、たとえば今年新しく出てきた商品の情報を誰よりも早く伝えると、「この小僧、やるな」と耳を傾けてくれるようになります。ただ、それだけでは限界がありましたね。結局、ある程度のところで成績は頭打ちになりました。

【田原】どうやって打開したのですか。

【表】あるお客様から「もっと懐に飛び込んで来い」と言われたのがきっかけでした。そこで朝5時までお酒につき合って、そのまま吐きながら出社したら、注文をくれた。そういうものかと(笑)。

【田原】飛び込むというのは、酒を飲むこと? 案外、古いよね。

【表】何でもいいんだと思います。結局、お客様をどれだけ思っているかどうか。ほかにも私がバングラデシュへの旅行中に、お客様の商品価格が動いていたので電話したことがありました。それもとても喜んでくださいました。

【田原】ほお。ところでバングラデシュへは何をしに行ったんですか。

【表】資本主義の権化の外資系証券会社にいたので、その対極に位置するNPOの活動に興味がありました。それでマイクロファイナンスなどを行っているバングラデシュのNPOに研修を受けに行きました。

【田原】2013年6月に会社をお辞めになる。ここで起業ですか。

【表】いや、僕はかなりビビりなので、起業家より投資家になるつもりでした。その勉強をするために、退職後に渡米してカリフォルニア大学バークレーのビジネススクールに留学。ビジネスの基礎から、起業論や組織心理学を学びました。そこでさまざまな起業家と出会ううちにインスパイアされて路線を変更。MBAが2年で終わって、ミライセルフを立ち上げました。

■2000人超の面接で体感した「人」に頼った採用活動

【田原】ミライセルフはHRテック、つまり「人事×AI」の会社ですね。そもそもどうして人材分野に興味を持ったんですか。

【表】モルガン・スタンレー時代に採用の面接官として週末の多くを費やしていました。2000人以上と会って選考をしていたのですが、すごくいいと思って採用した人が半年で辞めてしまったことがありました。彼は学生時代に塾の先生をやっていて、そこに戻りたいといって退職した。それを見抜けなかったことで、彼は遠回りすることになったし、会社としても採用費用を損する形になった。採用する前に本当に会社に合う人材かどうかがわかればいいのにと感じたことが、採用に興味を持ったきっかけでした。

■「会社」「上司」と合う合わないを可視化する

【田原】日本の企業は入社3年以内に31.9%の人が辞めてしまう。どうしてミスマッチが起きるのですか?

【表】若いときから自分のキャリアや将来のことを考えてないからではないでしょうか。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】僕もそこが問題だと思う。早稲田大学で授業を持っていたけど、大学生は自分が何をしたいのかを考えていなくて、就活は給料がいいか、残業は少ないかといった話ばかり。どうして好き嫌いの話をしないんだろうと思いました。

【表】いや、好き嫌いは持っているんです。でも、それをじっくり考えたり、言葉にして発表する場がない。欧米だと、中高生あたりからキャリアについてロジックをつくって考えて、プレゼンする機会があります。日本もそういう場をつくったほうがいいでしょう。

【田原】宮沢喜一さんが、「日本の政治家はサミットやG7でほとんど発言しない。英語のせいではない。日本の学校では正解のある問題しか教えない。サミットやG7に正解はないから、何も言えないんだ」と言っていました。キャリアもきっと正解がないから、考えられないのかもしれない。

【表】そうですね。自分のやりたいことについて説明できるに越したことはないですが、最後は好き嫌いなのだから、説明しきれなくてもいい。人と比べるのではなく、「自分はこれが好きだ」と自信を持って言えれば十分かと。幸い、好きなことを突き詰めてやっている人が活躍するようになって、「好きなことをやる」と言える社会に変わりつつあります。

【田原】企業の側はミスマッチをどうやって防ごうとしているのですか。

【表】いまのところは人で対応しています。面接官やリクルーターが自分たちの会社について一生懸命話して、逆に応募者からも話を聞いている。ただ、大企業の採用面接はせいぜい1回30分を2~3回で、見抜くのはなかなか難しい。

【田原】合わない人を採用しても、経営者がうまくやれば社員は頑張って働いてくれるんじゃないですか。僕は松下幸之助さんと10回以上お会いしたけど、「合う人間も合わない人間もうまくいく」とおっしゃっていました。

【表】たしかに経営者によってはできると思います。ただ、そういうことが無意識にできるのは天才的な経営者だけ。普通の経営者や人事部長、それに現場のマネジャーは、合わない人をどうしようかとすごく悩まれている。たとえば異動させたらうまくいくかもしれませんが、そういうことを考えて試すこと自体がコストであり、コストはできるだけ少ないほうがいい。私たちは、データを使ったアプローチならそのコストを軽減できると考えて、16年2月から「mitsucari適性検査(以下、mitsucari)」というサービスを提供しています。

【田原】mitsucariは、どんなサービスですか。

【表】一言でいうと、カルチャーフィットを調べるサービスです。モルガン・スタンレーを辞めた彼もスキルは会社とフィットしていましたが、カルチャーがミスマッチで辞めていきました。そこで会社や個人のスキル以外の特性のマッチ度を測定して、採用の参考にしてもらいます。

■松下幸之助が面接で見ていたポイントとは?

【田原】企業と応募者の価値観がマッチするかどうかは、どうやって調べるんですか? 合う合わないって感覚的だから非常に難しいと思うけど。

【表】まず応募者がその会社や部署の人たちと似ているかどうかをテストで計測します。性格や価値観に共通点が多ければ、カルチャーがマッチする確率は高い。ただ、テスト上で共通点が多くても、実際に働いてみると、やっぱり合う合わないが出てきます。たとえば人によっては、ある価値観は譲れないけどほかは気にならないという場合もある。そういった人の感じ方による違いをフィードバックしてAIで機械学習を行い、カルチャーフィットの精度を上げていきます。

【田原】それを判断するには、どれくらいの人数のデータが必要ですか。

【表】mitsucariでいうと、1社で最低10人分のデータは欲しいですね。そこから数が増えるほど精度が高まります。

【田原】合った、合わなかったの結果は、どうやって測るのですか?

【表】いろいろです。たとえば長く勤めているとか、誰に評価されて偉くなっているのかといったことも、合う合わないの評価に入れられる仕組みになっています。

【田原】でも、日本のサラリーマンは我慢強い。会社と合わなくても疑問を持ちながらも、辞めずに長く勤める人が多いんじゃないかな。

【表】たしかに合わないまま働いている方もいらっしゃいますが、一方ではすごくイキイキと働いている方もいます。たとえばイキイキと働いている社員が少数だとしても、そういう方たちの波形を取って、それに合う人たちを採用すればミスマッチを減らせるのではないかと。

【田原】表さんは「スポーツに近い」とおっしゃって証券会社を選んだ。業種と個々の会社では、どちらのほうが合う合わないに影響しますか?

【表】どちらもあります。ただ、最近は個々の会社の社風が占める割合が大きくなっています。「何をやるか」より「誰と働くか」を重視している人が増えている印象です。

【田原】幸之助さんに、どんな社員を抜擢して役員にするのかと聞いたことがあります。頭のよさかと聞いたら「自分は中学入試に失敗した」、健康かと聞くと、「自分は20歳で結核になった」、誠実さかと聞いたら、「経営者が社員一人ひとりを見ていれば社員は誠実になる」と言う。じゃあ何を見るのかと迫ったら、「運だ」と。「難しい問題にぶつかったときに面白がれる人間は運を引き連れてくるから、抜擢する」とおっしゃってました。mitsucariを使えば、そういう人を採用できますか。

【表】幸之助さんは天才だから運のいい人を独自の感覚で見抜かれたのでしょう。ただ、その感覚をほかの人が引き継ぐのは難しい。一方、mitsucariなら、幸之助さんが抜擢した人を「ユーモアの要素が強い」というように分析できます。優れたマネジャーが属人的な感覚でやっていたことを数字に落として、その人がいなくてもシステムが選別の助言をしてくれるというのがmitsucariの強みです。

【田原】企業を支えているのは2割の優秀な社員で、残りの6割は普通、2割は足を引っ張るという話がありますね。mitsucariを使えば優秀な2割が3割や4割になったりする?

【表】お客様のステージによって違います。優秀な2割を何とか3割にしようとしている会社もあれは、後ろの2割を減らすことを重視している会社もある。mitsucariはどちらにも活用できます。

【田原】ビジネスモデルを教えてください。mitsucariの検査は誰が受けて、どこからお金を取るのですか。

【表】2つのビジネスで運営しています。1つは、企業の人材採用時のテスト。採用したい企業側が自社の社員にテストを受けさせて、組織のカルチャーを調べます。ここまでは無料。そこから応募者にもテストを受けてもらって、そこでマッチ度を調べます。このときに検査代として1人につき800円をいただきます。もう1つが、人材紹介サービス。こちらは登録している個人のうち、クライアントの企業にマッチ度の高い人を紹介して、入社が決まれば紹介料をいただくモデルです。

【田原】採用試験でSPIなどの適性検査を受けさせる会社も多いですね。あれとはどう違うのですか。

【表】mitsucariはSPIよりもう少し簡易な適性検査と比較されることが多いのですが、いずれにしても従来の適性検査とは違います。たとえば従来の検査を田原さんが受けたら、「田原さんはこういう人だ」という答えが出てくるのですが、mitsucariは「○○銀行とは、これくらい合っている」「△△建設とは、これくらい合っている」というように、相手によって結論が変わります。

【田原】なるほど、従来のものは性格診断で、mitsucariは相性診断だ。テストは何分かかるのですか。

【表】72問で約10分です。最初は400~500問で回答に1時間かかるものをつくりましたが、それでは受けるのが大変なので、精度を担保したまま質問数を減らしていきました。

【田原】いまmitsucariを使っている会社はどれくらいありますか。

【表】現在、約1850社です。人数でいうと、延べで8万~9万人分。業種でというと、IT系がもっとも多くて約2割。あとはサービス業、人材教育系と続きます。

【田原】1850社が導入したのは、効果を実感したからなんでしょうね。

【表】そうですね。たとえば離職率が半分になったお客様もいるし、面接のプロセスが30分の1になって楽になったという声もいただいています。

【田原】これは新卒、中途、どちら向けですか。

【表】どちらでも使えます。お客様の数でいうと、現在は半々くらいです。

【田原】1つ聞きたい。入社時には合っていても、途中で価値観が変わって合わなくなることもありますよね。

【表】社員のほうが変わったり、会社側が成長してミッションを変更したりして変わることも多いです。ただ、途中で合わなくなって辞めるのは不幸なことではない。いまの会社にいたほうがいいのか、外に出たほうがいいのか。その判断をするための指標としてmitsucariを使ってもらえればいいと考えています。

【田原】いまいる社員が合っているかどうかわかるということは、採用だけでなく、既存社員の人事異動の参考にも使えますね。

【表】もうすでに適材適所の人材配置に利用されているお客様もいます。もともと自社の社員は無料で検査できますが、人材配置に使う場合は社内でアカウント管理費として別料金をいただいています。

■性格に合わせて訴求する新型の広告サービス

【田原】ミライセルフはいま従業員が何人ですか?

【表】正社員は10人です。

【田原】まだ企業を中心にユーザーを増やしていく段階のようですが、将来はどうしますか。たとえば省庁や地方自治体もターゲットになる?

【表】話はしています。まだ正式にはご利用いただいていませんが。

【田原】海外はどうですか。

【表】海外はまだです。たとえばアメリカは、合わなかったらすぐ辞める文化なので、採用時にそこまでカルチャーフィットを気にする必要がありません。逆に解雇規制が厳しいヨーロッパは、日本以上に可能性があるかもしれません。あとアジアですね。いずれにしても英語対応が可能な仕様にはしています。

【田原】人材分野以外への展開はありえますか。

【表】ミライセルフのビジョンは、一般的なベンチャーにありがちな明るいものではなくて、「仕事の領域からミスマッチをなくしたい」というちょっと暗めなもの。でも、だからこそ地に足をつけてしっかりとやっていきたいですね。一方、ビジョンを実現した先には、性格データと個人の情報を活用して、ほかの領域における適材適所も進めていけると考えています。

【田原】たとえば?

【表】広告は可能性を感じますね。挑戦的な性格の人には挑戦的な広告メッセージが効果的だろうし、論理的な人と感情的な人でも響くメッセージは違うはず。年齢や性別、購買履歴だけでなく、私たちが持っているデータを活かせば、広告分野でのミスマッチも解消できる。将来、そこまでいけたらおもしろいですね。

■表さんから田原さんへの質問

Q. この道で生きていくと腹をくくった瞬間は?

原点は小5のときの敗戦です。1学期まで、教師は「この戦争は正義の戦争で、君たちも天皇陛下のために名誉の戦死をしよう」と教えていました。ところが夏休みに敗戦を経て2学期に入ると180度変わった。それまで英雄視していた東条英機は悪人で、逮捕も当然だという。この経験から、大人は信用できない、自分の目で見たものだけを信じようと、ジャーナリスト志望になりました。

カルチャーフィットでいえば、入社したのがテレビ東京というのもよかった。テレビ東京は“テレビ番外地”と呼ばれて、スポンサーさえ見つけてくればどんな企画も通りました。NHKや朝日新聞に入っていたら、きっと普通のサラリーマンになっていたんじゃないかな。

田原総一朗の遺言:敗戦の夏が僕の道を決めた

(ジャーナリスト 田原 総一朗、ミライセルフ代表取締役 表 孝憲 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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