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「ウチはお金持ち」勘違いが生む親子破綻

プレジデントオンライン / 2018年11月19日 9時15分

仮想通貨に関する詐欺は年々増えている。全体の数もさることながら、高齢者を狙ったものが多く、社会問題にもなっている。※PIO-NETに登録された消費生活相談情報(2017年3月31日分まで)平成29年版消費者白書

働き盛りの世代が逃げられないのが「実家をどうするか」という問題。面倒だと放置してしまうのは危険だ。早めに手を打つにはどうすればいいか。今回、5つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第2回は「家計破綻で親子共倒れ」について――。(第2回、全5回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

■アルバイトして、子どもに仕送りをする親も

親世代のシニア破綻が注目されて久しい。そして今、心配されているのが、親世代の家計破綻が、30~50代の家計破綻を招く、つまり、“親子リレー破綻”だ。

ファイナンシャルプランナーの藤川太氏は、シニア破綻の原因をこう分析する。

「総務省の調べによると、年金を主な収入源とする高齢者の月収は年々減少傾向にあります。しかし税金や社会保険料の負担率は増加。そこに、車の買い替えや家のリフォームなど大きな支出が加わり、気がつけば貯金ゼロになっているのです」

大きな支出だけではない。日常の過ごし方にも、破綻リスクがあるという。

「仕事をしていない場合、ありあまる時間を埋めることは意外と難しいんです。ゴルフを頻繁にやっているわけではなくても、習い事をしたり、少し足を延ばして山を散策するなどちょっとしたレクリエーションでも、毎日のようにやっていれば、出費は相当なものになります」(藤川氏)

また、年を重ねるごとに増えていく「医療費・介護リスク」、孫可愛さに教育費やレジャー費を出してしまう「孫リスク」と、数々のリスクが親世代に襲いかかり、気づいたらシニア破綻をしているのだと藤川氏は言う。

▼「親」の家計破綻 5大要因
親子リレー破綻の原因
【余暇】破綻
ありあまる時間を潰すため浪費に走る。旅行や車といったイベント的な支出には、「今まで頑張ったんだし」と財布のヒモも緩みがち。
対処法:ボランティアなど、「役割」を提供する
【子・孫】破綻
子や孫の世代も懐に余裕がない時代。親世代が住宅資金や教育資金を援助しすぎると、自身の老後資金が圧迫される。
対処法:親子で話し合い、現実的な援助の額を探る
【医療費・介護】破綻
医療費も介護費も自己負担額には上限があるが、「差額ベッド代」のように自己負担の医療費も発生し、予想外にお金がかかる。
対処法:親の医療費と介護費が年間いくらか、確認する
【低年金】破綻
元自営業者の場合、毎月受け取る公的年金は約6万円。会社員でも「会社が保険を払っていなかった」ケースもあるので、要注意だ。
対処法:生活保護など公的支援を受けることを視野に
【詐欺】破綻
振り込め詐欺など、文字通り騙し取られるケースもあれば、羽毛布団などの高額商品を勧められるままに購入してしまうケースも。
対処法:親との連絡を密にし、子など第三者に相談しやすい環境を

一方、「親は金持ちだから」とボンヤリしていると、子ども世代も痛い目をみる。親から住宅費や教育費を援助してもらっているケースは典型的だ。親は「自分たちは家を買えたのに、子どもたちが買えないのは可哀想」などと、つい「援助しすぎる」きらいがある。結果、虎の子の老後資金がみるみる減ってゆく。

親の援助を得て、身の丈以上の生活レベルを手に入れてしまった子どもはどうなるか。「それはドーピングみたいなものです」と藤川氏は言う。効果が続くのは、親の金が尽きるまでのわずかな期間だけ。親からの援助が止まったとたんに、子どもは窮地に追い込まれる。生活レベルを落としたくても、身の丈を超えて高級住宅地に住んでいれば、近所の手前、高水準の生活を続けねばならなくなる。

「75歳の高齢の方が、40代の息子さんに月10万の仕送りをしていたケースがありました。アルバイトをしてお金を工面していたのですが、体が持たなくなりました。息子さんはきちんと自立されている会社員ですが、自分の仕送りをアテにしていて、仕送りをしないと教育費も払えなくなるというんです」(藤川氏)

しかし、親の懐具合を聞き出すのは、気が引ける。そこで藤川氏が勧めるのが、エンディングノートだ。遺言と違い法的な効力は持たないが、親の心情をオープンにしてもらうツールとして使える。

「親がこれからの人生をどう生きたいのか、思いをノートに記してもらいます。子どもたちはそれを実現すべく、財産の使い方を考えてあげればいいのです。どんな暮らしがしたい? そんな会話をするうちに、親の家計の状態も見えてきます」(藤川氏)

また親が長生きするほどに膨らんでいくのが、医療費や介護費だ。制度が複雑すぎて、高齢者には理解できないことも多い。「実家に戻るタイミングで、1年間にどれだけ払っているか、確認したほうがいいでしょう」と、藤川氏。健康保険や介護保険に加入していれば、どちらも自己負担は原則1割(※)。手術などで多額な支払いが発生しても、一定基準を超えた医療費は払い戻しが受けられる。

「だから普通は、医療費や介護費が家計破綻につながることは少ないのです。しかし、保険の適用範囲外のサービスを受けていたら別。実家に帰ったら、そこをチェックしましょう。例えば介護でも、食事の宅配サービスを受けたり、入浴回数を規定以上に増やした場合、全額自己負担になることもあります。自己負担額が高くなる設定になっていても、そんなものだと思って払っている人もいます。親は『専門家が決めたことだから間違いない』と信じているかもしれませんが、そこは子どもが冷静にチェックしてあげるべきです」(藤川氏)

※健康保険は75歳以上、介護保険は65歳以上。

■1度辞めたら、介護前の年収に戻れない

親の介護のために離職をする「介護離職」が社会問題化している。介護施設に預けようにもパンク状態。しかし「親を放っておくことはできない」ため、会社を辞めて介護をするという選択だ。その間の定収入は親の年金のみ、不足分は貯金を取り崩して埋め合わせをするほかない。さらに深刻なのは、親が他界したあとのことだ。ブランクが長くなるほど仕事探しは難しく、まして介護離職前と同じ額の収入を得るのは、まず不可能。介護離職は、親子破綻の直接のきっかけになりうる。

「これからは、仕事を辞めずに介護する時代です」。自身も両親を介護した経験を持つジャーナリスト、おちとよこ氏はそう断言する。

「介護は初めから寝たきりになることは稀ですから、即『施設』と慌てることはありません。それに私たち素人が親のそばについていたからといって、親が満足する介護はできませんよね。介護はプロに任せて、私たち素人は親のことを最もよく知る人間として、“マネジメント”に徹したほうがいい。ヘルパーやケアマネジャーといった専門職とコミュニケーションをとり、彼らをコーディネートしていく。それが充実した介護と介護離職を防ぐポイントです」

▼「子」に連鎖破綻 3大要因
【マイナス遺産】破綻
親世代に遺産と呼べるほどのお金がないのは当たり前の時代。しかし、親のアパート経営の失敗などでマイナスの遺産を背負うことも。
対処法:生前に親の“隠れた借金”を聞いておくこと
【介護離職】破綻
親の介護のためにと子どもが離職。介護中の生活費は親の年金頼み。復職しようとしても前職と同水準の賃金を得るのは難しい。
対処法:絶対辞めない。介護サービスなどできるだけ周りに頼ろう
【教育費】破綻
私立大学の学費など、年々上がっている教育費。親からの援助が途絶えたら、一気に家計は火の車に。
対処法:親に依存せず、身の丈に合った教育費を探る
25年間の物価や平均年収の上昇率に比べると、学費の上昇率は高く、家計を圧迫している。
※学費は入学金と授業料の合算。国立大学の平成16年度以降は国が示す標準額。私立大学は平均額。文部科学省調べ。

介護で親子破綻を防ぐには、「親が倒れる前」に先手を打つことが肝心だと、おち氏は続ける。

「介護は突然やってくるものと思いがちですが、必ず予兆があります。それを発見するには、抜き打ちで訪ねてみることです。あらかじめ子どもが帰ってくるとわかると親も頑張って掃除したり、元気なふりをします。でも予告なしにいくと、冷蔵庫には賞味期限切れのものやお酒しか入っていなかったり、庭が荒れ放題などと、異変に気づくことができます。仮に認知症でも、早期発見ができれば、進行を穏やかにできますし、地域の助けも借りやすいものです。早めに介護サービスを受けて見守れば、突然のXデーに慌てることもありません」

親を遠距離介護する場合、やっておきたいのが、「地域包括支援センター(以下、「包括」)」に足を運ぶことだ。包括は高齢期の医療や介護、生活支援など、高齢者にまつわるあらゆる相談を受け付ける、“よろず相談支援窓口”だ。住んでいる地域ごとに担当が決まっており、支所を含め全国に7000カ所以上が設置されている。

「包括は介護予防も行っているので、早めに相談するのがコツ。何歳で、どんな持病があってと細かく記録されるので、いざというときも、電話1本で話が通じる。自分がすぐに駆けつけられないときも、手が打てるので頼りになります」(おち氏)

介護保険証もチェックしよう。「65歳になるまでは介護保険証は送られてこないので、見たことがない人も多いと思います。親の介護保険証を一緒に見ることは、介護に関して親と話すいいきっかけになります」(おち氏)。裏面に要介護度や、その有効期限を記す欄があるが、そこが空白や期限切れだとサービスは受けられない。まずは親が困っていることがないか、聞き出すことから始めよう。

1人暮らしの親の場合、やっておきたいのが、健康保険証やお薬手帳、診察券のコピーと緊急連絡先を記した紙を冷蔵庫に入れておくこと。

「救急車を呼んだとき、どんな持病があるのかわからないと、適切な搬送や治療が素早くできません。親御さんが電話で救急車を呼んだ際、『医療情報は冷蔵庫にあります』とだけ伝えればすぐに対応できます。冷蔵庫の場所はどこの家でも救急隊員が見つけやすいからです」(おち氏)

帰省時に主治医に会って親の病状を聞いておくのも手。転ばぬ先の杖と肝に銘じて実行しよう。

▼親の家計破綻を防ぐために「帰省時にやるべきこと」
1.抜き打ち帰省をする
帰省を事前に言っておくと親も気構える。抜き打ちで帰省することで、家が乱雑に散らかっていたり、冷蔵庫のなかに「思わぬものが入っている」などの異常が発見できる。
2.保険証のコピーを冷蔵庫に
救急車を呼ぶような事態に備えて、介護保険証や健康保険証、診察券、お薬手帳などのコピーを冷蔵庫に入れておけば、救急隊員がすぐに発見でき、すぐに搬送・治療に取りかかれる。
3.介護保険証・介護費用見積もりをチェック
介護保険証に加え、サービスを利用しているなら「介護費用見積もり」もチェック。保険適用外のサービスがかさんでいないか確認する。これを機にケアマネジャーと話してみるのもいい。
4.実家近くの地域包括支援センターに行く
まずは訪問し、現状をざっくばらんに伝える。1度記録を残しておけば、突然の介護にも慌てない。対応が悪くても何度か訪問すれば、親身になってくれる相談員と巡り合うことができることも。
5.主治医と面談する
主治医から親の現状を聞いてみる。もし親が介護サービスを受けることを拒否している場合には、信頼関係がすでにできあがっている主治医から説得してもらうと効果的。
6.貸金庫を共同で借りる
親が貸金庫を借りている場合、親が死亡した後、開けるのに苦労する。自分が貸金庫を借りて親の貴重品を一緒に入れるようにすると、管理がしやすい。
子:「貸金庫借りたんだけど、スペースが余っているから、何か入れたいものがあったら、一緒に入れてあげるよ」
親:「あら、家に置いておくのも物騒だから、通帳と家の登記簿、入れてもらおうかしら」

7.火の元を電気に換える
認知症の場合、火のつけっぱなしや水道の閉め忘れがよく起こる。事故防止のため、コンロは電気を使ったIHヒーターが安心。一定時間で消えるガスコンロもあるので検討してみよう。
8.転倒箇所をチェックする
転倒からの骨折事故が寝たきりのきっかけになる。小さな段差など、つまずきやすい箇所をチェックし、予防対策を。段差の解消や手すりの設置などには介護保険が利用できる。

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藤川 太
ファイナンシャルプランナー
生活デザイン代表取締役。2001年に家計の見直し相談センターを設立以来、2万世帯を超える家計診断を行ってきた。著書多数。
 

おちとよこ
ジャーナリスト
作家、高齢問題研究家。介護や医療・教育・子育て、それにまつわる女性問題を中心に執筆。『一人でもだいじょうぶ 仕事を辞めずに介護する』(日本評論社)など著書多数。
 

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(東 雄介 撮影=加藤ゆき)

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