あなたの老父はイチコロで"後妻業"のカモ
プレジデントオンライン / 2018年12月3日 9時15分
※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。
■相続税0円で、後妻が遺産を手に入れる条件
高齢の資産家男性に近づく「後妻業」女性や、「紀州のドン・ファン」不審死事件が世間を賑わせている。人の死によって動く金額の大きさゆえに注目を集めたが、これらの事例は極端な他人ごととは言い切れないようだ。
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女性4000人に30億円貢いだと豪語した資産家・野崎幸助氏(写真左上)が、20代女性と3度目の結婚。その3カ月後の2018年5月に不審死(享年77)を逐げた。現在も捜査は継続中(同右上)。
(2)結婚・交際した男性が7人死亡
周辺の男性が次々と不審死、4人目の夫を青酸化合物で殺害した容疑で逮捕された筧千佐子容疑者(写真右下)。10年間に10億円の遺産を得ていた。同左下は3人目の夫の墓。
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連れ合いに先立たれた老親の恋愛など、子の世代の大多数にとって想像もしたくないだろうが、実際にそういう事態になって、さらに入籍という流れになれば気が気ではない。見ず知らずの人間を家族になどしたくない気持ちもさることながら、遺産相続の“分け前”が減る。今のご時勢、わが子の養育費や家のローンに老親の遺産を当てにする人は少なくあるまい。
まずは現状を把握しよう。弁護士の河野祥多氏によると、「お金のある60~70代の中小企業の元社長と50代女性のカップルはよくいます。普段から“俺様”的で、仕事から引退すると一挙に周りから人がいなくなり、子どもも寄り付かない。その寂しさを埋めるため、優しくしてくれる女性を求める」という。
出会いの場で目立つのは、結婚相談所だという。これは小説『後妻業』(黒川博行著)もモチーフにしている。税理士の高橋安志氏が指摘する。
「後妻業で興味深いのは、夫に身内がいなければ、相続税0円で後妻が遺産を手に入れられる点です。配偶者がもらった財産は1億6000万円か、法定相続分のいずれか多い金額まで相続しても税金がかからない。彼らにとって、結婚相談所で身内のいない男性を探せば、こんなに“美味しい商売”はないのです。旦那さんが亡くなった奥さんを狙う“後夫業”もありえる」
もちろん、「本当に真摯な恋愛もあって、『お金なんていらない』『遺言書なんて書かなくていい』という女性もいる」(河野氏)が、そんな純な恋愛と遺産目当ての色恋沙汰との境界には、しばしば金目当ての魑魅魍魎(ちみもうりょう)が蠢く。きれいごとだけを言ってはいられないのは明らかだ。
そんな遺産相続の事例を見てみよう。以下は、税理士の高野眞弓氏が東京の下町で見聞きしたケースだ。
60代の男性が小料理屋の女将と再婚。当初、「相続権なんていらない」と言っていた女将が、男性の死後に前言を翻し、自分が持つ相続権を主張。男性の子どもたちともめるようになった。
「飲食店は商売柄、人の出入りが激しいし、もしかしたら入れ知恵した人がいたのかもしれない」(高野氏)
ところが途中から意外な方向へ展開する。入籍してすぐ倒れた父親の面倒を見てくれた女将さんに恩を感じた子どもたちが、「相続が0ではかわいそうだ」と思うようになった。一悶着あったが、結局3000万円を渡してお互いが納得したのである。
東京の山手線内に広い借地権を持っていた70代男性と再婚した60代女性も、男性の死後に「私の取り分は半分」と主張し始め、納得できない先妻の長男長女とのバトルが勃発(図参照)。泥沼化するかと思われたが……。
「長男が激怒して『(後妻、長男、長女)3人に対する親父の愛情は均等だ』と喚き散らしたんですね。すると、意外にも後妻さんは『そうですね』とあっさり返答。亡夫と住んでいたマンションと預貯金4000万円を懐に。長男と長女は、遺産の6割を手にした」(高橋氏)
金額だけ比べれば3等分ではないが、後妻の取り分が半分未満となったことで長男長女も納得。偶発的とはいえ、ちょうどよい落としどころを見つけた格好だ。いずれも杓子定規のセオリーとは違う次元で収まっているのが面白い。
相手の女性の人となりや、背後関係のありやなしやを見抜く手段はあるのだろうか。
「外見で見抜くのは困難。女性が語るストーリーに注意するしかない」と語るのは、探偵の金澤秀則氏だ。氏の手がけた事例を紹介しよう。
■探偵に、女性の素行調査を依頼する方法
妻と死別した1人暮らしの70代の父親。その自宅に、20代女性が出入りしているのに気づいた長男が問い詰めると、パチンコ店で知り合って一緒に食事に行くようになったという。その女性の母親が病気で手術費用に数百万円が必要だと聞いた父親が、「じゃあ俺が」と言い始めたので、長男が金澤氏に女性の調査を依頼した(図参照)。
「飲食店やパチンコ店も、よくある出会いの場です。調べを進めると、女性は若い男と同居していて、病気の母親というのも嘘でした。手口や近寄り方を見ても手馴れていて、パチンコ店にいる暇そうな老人に声をかけ、同様のことを繰り返していたのでは? とは長男の見立て。肉体関係もあったと推測しています。ただ、見た目はごくごく普通の女性。水商売風だったり派手な印象はなかった」(金澤氏)
後妻業とまでいかなくても、高齢男性がカモになる機会はその辺に転がっているのだ。とはいえ、自分の子どもの結婚相手ならともかく、自分の親の恋人の調査とは……。
「タイミングを見て探偵さんに素行調査を依頼するのもアリ。調査の報告と普段の話に整合性があるかを見ます。ちょっとした“盛る行為”は誰にもありますが、その程度が問題です。恋愛ごっこの可愛い見栄か、計画的なレベルなのか、嘘の大きさが判断基準になる。普段の話と乖離し過ぎていれば怪しい」(河野氏)
探偵の素行調査は、家や勤務先、名前、家族構成、独身・既婚の確認、同居者の有無、普段の生活などを調べるのが基本。さらに相手がどういう人たちと交流があるのか特定する。調査費用は50万~100万円。このあたりは相続する財産の金額との兼ね合いだろう。探偵事務所は弁護士からの紹介や警察の生活安全課、コンサルタントなどに紹介してもらう。「一般社団法人日本調査業協会」に相談し、自分で納得のいく探偵を見つけるという方法もある。
『後妻業』では、結婚相談所の所長が後妻に協力していたが、女性の周辺には注意が必要だ。都内のとあるスナックの事例では、ママの男が、若いホステスたちに、客の勤め先、役職、夫婦仲、単身赴任か否かなどを会話の中で聞きだすよう指示していた。フィードバックされた情報をもとにカモを定め、写真を撮ったり弱みを握り、頃合いを見計らって強請(ゆすり)に走る。カモにされたのは役所勤めや会社で要職に就いている人だった。
「住まいが高級住宅地だと狙われやすいし、自分の資産額をバラしたり、派手なお金の使い方をしている人も危ない。自慢したくなる気持ちもわかりますが、そこはわきまえないといけない」(金澤氏)
やはり近づいてくる女性には、背後に“怪しげな紳士”がいる可能性に注意しておくべきだろう。もし法律や税金に詳しい人物が協力していたら、かなり厄介だ。
「士業の中には、詐欺の片棒を担いで“小菅(東京拘置所)に入っちゃった人”もいて、資格を剥奪されたけれど税法に詳しいという人はいる。そういう人が協力すると手強くなるのでは」(高野氏)
■息子と父とで、男どうし女の話をする
恋人のできた老親とどう接すればいいのだろうか。
まず、先手を打つつもりで「あんな女はやめろ」と追い詰めるのはやめたほうがいい、と言う高野氏が身内の例を振り返る。
「子どもだって親から『あんな子とは付き合うな』と言われたらムキになるし、逆も同じ。私の叔父も家族に大反対されながら一緒になった女性がいたけど、最終的にはお互い傷つけあって滅茶苦茶になった。後でなぜ一緒になったのかを聞いたら、『反対されると、好きかどうかより一緒になることが目標になった』というのです」
純粋に心配ゆえの忠告であっても、老親の面子やプライドに障ると拗れてしまう。
まずは刺激せず、しばらくは様子を見ることだ。反対の雰囲気を露骨に出すと、老親は敵愾心をむき出しにする。「娘は父親の再婚の話になると『不潔だ』などと感情的になりがち」(高野氏)だが、息子なら「いや、親父の気持ちもわかるよ」などと、男どうしで女の話をするのもアリだろう。
お盆で帰省した際に、みんなで食卓を囲みながら半分冗談で再婚や遺産の話を始めるのも1つの手だ。重く話すと父親も構えるので、タイミングやその場の様子を見て軽く切り出すのがコツだ。
「恋愛は自由ですからお父様の自由にさせたほうがいい。遺産でもめるかもしれないから再婚に反対するのではなく、再婚したときの遺産をどうするかは、先に決めておけばいいのです。100%安心ではないですが、遺言書を作ると安心感が生まれ、当事者間で守らなきゃという意識も芽生える。遺言書は何回も作り直せるので、年に一回改めて作り直すなどルール化してもいいと思います」(河野氏)
・男60~70代、女50代が一般的。美人はまれ
・女性が語るストーリーに注意
・宗教関連の買い物や特殊な会合への出席をチェック
・相談は、まず軽いイントロから
・感情的な「交際やめろ」は逆効果
・入籍なら、女性の行動調査by探偵を
■捨て鉢になり、後妻に全部やるという発想に
結局、遺産目当ての女に引っかからぬためには、どんなことに気をつけるべきなのか――今回取材した4人から、申し合わせたように同じ答えが返ってきた。
それは「家族が普段から仲良くすること」。今さら何をと思うかもしれないが、“家を守る”には法律や合理的な方法だけでは解決できないことが多い。
「もめそうで相続の相談に来る家族は、きょうだいそれぞれお金が欲しい状態。法律で解決しようと言い出した時点で、すでに話し合いができる余地がなくなっており、家族の関係が崩壊しているケースも多いのです」(高野氏)
子どもや孫に無視された老親は「もういいよ、あいつら」と捨て鉢になり、往々にして「後妻に全部やる」という発想に至る。「配偶者が亡くなると男性は孤立する人が多い。優しくされたり親身にされたりすると、コロッと騙されてしまう」(金澤氏)のである。高齢者の孤独感や寂しさにつけ込む類い稀なる能力を持つ者に対抗するには、1人暮らしの老親に子どもや孫が定期的に連絡を取り会いに行く、電話でちょくちょく話す、手紙を出す、些細な手伝いをするなど、法律でどうこうするより、そういう繋がりの積み重ねを続けるしかない。怪しい連中につけ込まれぬためには、普段から家族の絆を深め、それを周りに示すことが一番大切だといえよう。
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弁護士
むくの木綜合法律事務所代表。1972年、埼玉県生まれ。94年早稲田大学理工学部電子通信学科卒業。2004年弁護士登録。07年より現職。専門は相続など。
税理士法人安心資産税会計代表税理士
1951年、山形県生まれ。76年中央大学卒業。税理士向け講演を多数。『相続トラブル解決事例30』ほか著書20冊超。
税理士法人アイエスティーパートナーズ代表税理士
1943年、東京都生まれ。慶應大学大学院法学研究科特別講座修了。74年税理士登録。2016年より現職。
児玉総合情報事務所代表
1988年より探偵業に従事。2012年より現職。政治犯、諜報関係、殺人事件などでも実績。著書に『こんなにおもしろい調査業の仕事』。
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(篠原 克周 撮影=的野弘路、石橋素幸、永井 浩 写真=AFLO、時事通信フォト、The Asahi Shimbun/Getty Images、共同通信イメージズ、iStock.com)
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