国会大混乱の自爆テロ「高市私案」の中身
プレジデントオンライン / 2018年11月2日 9時15分
■テレビ中継が入る本会議日程が遅れるのは異例
詳細な内容を紹介する前に、この私案のインパクトがいかに大きかったかを書いておきたい。高市氏は25日、超党派で国会改革を求める「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」メンバー、浜田靖一氏、小泉進次郎氏らの表敬訪問を受けた際、「では、まず私から皆さんに協力をお願いしたいことがある」と言って私案を示した。
「議院運営委員長として実現を目指す事柄」と名付けられた文書は
(2)法案審議の方法を改善
(3)衆院本会議場への「押しボタン方式」の導入
の3項目にわたり国会改革案が示されている。
その直後から野党は猛反発して高市氏の解任を要求。与党側にも十分な根回しがなかったため、自民党幹事長室や国対の幹部も大わらわとなった。
29日は午後1時から衆院本会議が開かれて代表質問が行われるはずだったが野党が抵抗して本会議の開会は遅れた。あらかじめ与野党で合意していてテレビ中継が入る本会議日程が遅れるのは異例のことだ。
■11年前、安倍首相が辞任表明したときと同じ
「秋の臨時国会で首相が所信表明演説を行った後、代表質問が開かれない」という流れは、自民党議員にとって不吉な展開だ。11年前、2007年9月の臨時国会冒頭も、同じような展開があった。
その時は本会議がついに開かれぬまま、当時の首相・安倍晋三氏が辞任を表明した。参院選で敗北。そのうえ体調を崩して無念の退場だった。あまりに唐突な退陣を、当時の国民の多くは無責任と受け止め、自民党は政権政党として見放されて2年後の政権転落につながっていく。
今回は、本会議の遅れは安倍氏の進退とは全く関係なかったが、当時を知る自民党議員は、どうしても11年前を想起し「不吉」な印象を持った。
■自民党議員は「これは自爆テロだ」と耳打ちする
高市氏が私案を撤回したことで本会議は45分遅れで本会議が始まったが、野党はもちろん自民党議員も高市氏のスタンドプレーには怒り心頭だ。
10月30日に開かれた党の副幹事長会議では、執行部側から「今国会は入り口でつまずいた。しかし、これは党の問題ではなく(高市氏)個人の問題だ」という突き放したような報告があった。口の悪い自民党議員は「これは自爆テロだ」と耳打ちする。
■問題は(2)の「法案審議の方法」にあった
「高市私案」は、なぜこれほど与野党を混乱に陥れたのか。
3項目の提言のうち、ペーパーレス化や、押しボタン方式採決の導入は、賛否はあるが最近の国会改革を語る時、だいたい盛り込まれる「標準装備」の内容だ。
問題は(2)の「法案審議の方法」。高市私案によると「国会冒頭の大臣所信に対する質疑日数を増やし、法案審議は続けて行う。会期末前に残った時間は、議員立法の審査や一般質疑に充てる」とある。
少し言葉を補って説明したい。大臣所信の次に行うという「法案審議」は、政府提出の法案を指しているようだ。政府提出法案の審議が終わらなければ国会議員が自らつくった議員提出の法案(議員立法)や、法案とは直接関係ない行政のチェックや疑惑追及などの一般質疑は行えないことになる。
つまり政府側からみると、政府提出法案を審議している間はスキャンダルなどを追及される心配はない。会期末ぎりぎりに法案を成立させれば、ほとんど追及されずに国会が閉じることになる。政府側からみてこんなに楽なルールはない。
■議員提出法案が日の目をみるチャンスが消える
小泉氏ら自民党若手議員たちが、疑惑などを専門的に審議するための特別調査会を提唱したことがあった。その際、野党側は「これでは法案審議と疑惑追及が、別の舞台で同時進行することになるので、悪法の成立を食い止めることができない」と反対していた。高市私案は「同時進行」どころか「法案先行」を提案しているのだから、野党の理解を得られるはずがない内容だ。
もう一つ、この提案だと議員提出法案が日の目をみるチャンスはほとんどなくなる。議員提出法案というと、野党議員がパフォーマンスで出すという印象が強いかもしれないが、実際は与党の若手議員たちが衆参両院の法制局や関係省庁と内容を詰めて提出するものも多い。高市私案の展開になれば、こういった取り組みにもブレーキがかかる。だから与党も、両手を挙げて歓迎するわけにいかない。
■女性議員たちの「出世争い」という側面も
国会改革というと思い出されるのは小泉氏。超党派の「平成のうちに」の中心メンバーでもある。
高市氏は私案を「平成のうちに」の小泉氏らの前で示した。小泉氏の注目度を利用し、国会改革をリードしようとしたのは間違いないだろう。
高市氏といえば第2次安倍内閣誕生後、政調会長、総務相などを歴任。女性議員の出世頭だった。しかし、最近は稲田朋美氏、野田聖子氏らの陰に隠れて目立たなかった印象だ。議運委員長に就任したことで、再び存在感を発揮しようと考えたであろうことも想像に難くない。与党内の女性議員たちの間での出世争いという側面もあるのだろう。
私案を撤回した高市氏だが「改革への気持ちは変わらない」と、私案の内容についてはいずれ再び提案する構えを見せている。議運委委員長は本来、円滑な国会運営のため与野党に頭を下げ、自分を捨てる仕事だが、スタンドプレー好みの彼女に、それが務まるかどうか。今国会は、初入閣の閣僚の疑惑が次々に明るみに出て波乱の展開となっているが、また新たな火種ができてしまった。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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