一流リーダーは先頭に立たない"羊飼い型"
プレジデントオンライン / 2018年11月14日 15時15分
「実は、サッチャーさんには何度かお会いしたことがあります。服から靴、バッグまで全身コーディネート。髪もしっかりセットされ、香水も香り、実際は“鉄の女”ではなく、まさにレディーの印象でした」
OECD(経済協力開発機構)の東京センター長として活躍し、多くの女性のロールモデルでもある村上由美子さん。元英国首相のマーガレット・サッチャー氏に会ったのは、NYが本社の投資銀行、ゴールドマン・サックスに就職し、ロンドン支社に異動になった新人時代だったという。
「まだバンカー1年目でした。日本より女性進出が進んでいたとはいえ、まだまだ金融業界は男性優位な社会で、『負けないように頑張らなきゃ』と私は肩に力が入っていた時期」と当時を振り返る。経済界の集まりなどで何度か当時の首相だったサッチャー氏を見かけることはあったが、ある時実際に話をする機会を得た。
「鉄の女と聞き、よほど怖いのかと思ったら、ぺーぺーの私にも気さくに話しかけてくれました。『女性として活躍し、素晴らしい政治家のあなたを尊敬します』というようなことをお伝えしたと思いますが、そのときに『人生はアンフェア(不公平)なのよ』と言われたのが印象的でした。彼女にとっては女性初とか男性優位なんてすでに仕方ないことで“So what?”(だから何?)というレベル。文句を言うより現状を受け入れて、自分がどう動いていくかが大切なんですよね」
その一言は、村上さんの肩の力をスッと抜いてくれた。サッチャー氏の名言で印象深いと挙げてくれた言葉も、同様だ。
「日本社会は肩書や地位を気にしますし、どの世界でも肩書を良く見せたい人はいる。たくさんのリーダーを見てきましたが、これからはまさにイノベーションを促進するリーダーシップが求められます。それはトップで引っ張るより、“羊飼い型”。さまざまな才能のある多様な人の個性を尊重し、自由に取り組んでもらいながらも、後ろから何となく同じ方向に追っていくようなまとめ方がいいといわれます。ボスがいると気付かれなくてもいいくらい。自分がリーダーだと主張する必要もない。まさにサッチャーさんの言葉は、それにつながるものを感じます」
村上さんが初めて管理職になったのは、入社10年目の30代の頃。
「リーダーになることはその人のそれまでの人格や経歴に、みんなが納得している結果だ」という上司の説明を、逆にプレッシャーに感じてしまった。模範的な上司であろうと頑張りすぎてうまくいかず、部下から厳しい評価をもらったこともある。
「外資系では360度評価は当たり前です。でもその厳しい指摘こそ、自分にとってはいい教訓でした。上になると、自分のダメなところを指摘してもらうことは滅多にありません。成長する機会をもらったと思って、今では感謝しています。日本では年功序列で管理職になることも多いと思いますが、部下の多様性とチームとしての多様性を生かしていくためにも、マネジメント層の教育は不可欠です」
管理職としての仕事にも、随所で女性初と言われることにも慣れた頃、約20年の海外生活ののち日本に戻ることになった。しかし、なつかしいはずの日本で、気分は浦島太郎のようだったという。高齢出産で3人を産んだが、働きながら育てることさえ「子どもがかわいそう」と言われることにも驚いた。
「確かに働いていたら一緒に過ごせる時間に制限はあります。でも、行事や節目など『ここぞ』というところは必ず都合をつけます。それに、働いていることでハッピーな親の姿を見せることが、何よりいいのではないでしょうか」と村上さん。家庭も仕事も両方でパーフェクトを目指す必要はなく、もっと等身大で両方を楽しんでほしいと話す。
「女性たちには、もっと取締役や執行役員など意思決定の場面にどんどん入ってきてほしい。だからこそ今は、完璧ではない自分だけれど、仕事が楽しいという姿を見せることが何より大事だと思っています」
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Power is like being a lady… if you have to tell people you are,you aren’t.
―Margaret Thatcher―
権力は淑女であることと同じなのです。その力を持っていると言わなくてはいけないのなら、本当はそうではないのです。
●マーガレット・サッチャー元英国首相(1925~2013)
イギリス保守党初の女性党首(在任1975~1990)、そして初の女性首相(在任1979~1990)となり、強硬な政治姿勢に「鉄の女」と呼ばれた。イギリス経済の立て直しを図り、水道、電気、ガス、鉄道、航空などさまざまな国営事業の民営化や経済規制緩和、社会保障支出の拡大など急進的な改革を行った。
当時の私
サッチャーさんは何度かイベントなどでお見かけしていましたが、実際にお話ししたのは2回ほど。ロンドンの後、NYのウォール街でも20年働きましたが、自分が経験を積むほど彼女の言葉への理解が年々深まっていく気がしました。
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(ライター 岩辺 みどり 撮影=小野さやか)
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