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進次郎の厚労部会長就任をプロはこう読む

プレジデントオンライン / 2018年11月12日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/philpell)

※本連載は、プレジデント誌連載「リーダーの掟」に巻頭エッセイを加筆したものです。

連載2回目の「飯島勲のスモーカーズ・コーナー」だ。前回の話では、小池知事の人気取り政策が意味がなくなってしまう可能性を指摘させてもらった。都議会自民党の関係修復を果たさないと小池知事の政治生命が終わってしまうことを述べさせてもらった。

そして、今回は、タバコ条例について、知事を支える役人の立場についても指摘させてもらいたい。

霞が関(つまり、霞が関にある中央省庁)では、タバコ関連法案の制定は、「担当の役人を精神的にトコトン追い込む」ことで有名だ。

なぜなら、禁煙を推進する勢力は、タバコを根絶やしにしない限り振り上げた拳を下ろさないし、逆に、タバコを容認する中小零細飲食店からは、「これ以上の規制をされるとお店が潰れる」という切実な悲鳴が届けられるのだ。

今、東京中の飲食店の店主が小池知事に深い恨みを持っているのは容易に想像がつく。この禁煙派、容認派はどんな落とし所を提示しても納得することは決してない。結果、担当者はメンタルをやられてしまうのだ。

だから、私はそんな危ない案件に触らず、国に面倒事を押し付けてしまって、東京都は、23ある区ごとに違う屋外規制を統一するなどの音頭を取るべきだと小池知事にアドバイスしていたのだ。実際に、外国では路上喫煙は許されている国があるのだから、路上喫煙をしてしまう人が出てくるだろう。そんな状態で、例えば千代田区では罰金2万円を取られ、隣接する中央区では罰金なしと言われたら、ますます混乱する。

東京・銀座の数寄屋橋交差点付近のガード下では、どちら側で吸ったかによって罰金2万円と無料と落差が大きい。こんな状態を放置しておいていいのか。ガード下の区域は非常に曖昧なようだ。

千代田区の職員に路上タバコを咎められても、「いやいや、中央区です、ここは」で、言い逃れができてしまう可能性すらある。中央区が風上で、千代田区が風下だった場合、中央区で吸って千代田区のほうへ吐いても罰金は取られない。やはり統一すべきだろう。

笑ってしまうが本当の話だ。

今回のテーマは、厚労部会長に就任した小泉進次郎氏についてだ。父の純一郎氏は厚生大臣に就任したことがあり、私はそれを支えていたが、医療、介護などほんとうに大事な分野である。

■どう読むべきか、厚労部会長就任

メディアを大いに賑わせた小泉進次郎議員の人事は自民党の厚生労働部会長に落ち着いた。本人の強い希望があったという。これまで進次郎議員は、当選二回で復興大臣政務官、当選三回で農林部会長、筆頭副幹事長、そして当選四回で厚労部会長となった。専門性を強く持つというよりは、日本社会全体を見渡せる政治家になろうと考えた末の希望だったのだろう。さまざまな分野を経験することは、ウイングが広がるというメリットもあるが、専門分野を持たないデメリットもある。

自民党の衆院議員の一般的なキャリアパスは、当選二回で政務官、三回で党の政調部会長、四回で副大臣や常任委員長、五回を超えると閣僚候補といった形だ。例えば、農水大臣政務官、農林部会長、農水副大臣、国会の農林水産委員長という経歴を積むと、永田町(国会議員)や霞が関(中央省庁)では「あの人は農水族」と認められる。

「族議員」は、マスコミでは政治と官僚の癒着の象徴だとか、規制緩和の敵のように批判されることも多いが、各分野の政策のスペシャリストとして、なくてはならない存在だ。官僚に匹敵する知識と高い政策立案能力、関連業界での幅広い人脈を兼ね備えた族議員がいるからこそ、国民の声を政治に生かすことができる。

そして、20年、30年先の日本にとって大事なことであっても、国民には不人気な政策を実現したい場合、官僚が頼りにするのが族議員なのである。官邸機能がどんどん強化されていく現状で、意思決定と現場の距離が遠くなってしまっている懸念があるが、そんな現場の声を届けられるのはスペシャリストとも呼べるぐらいの政策通となった国会議員だけなのだ。特定の分野に、ドカッと腰を下ろすことで、トップリーダーとして必要な能力を身につけることができるはずだ。

進次郎氏の父、小泉純一郎元首相の場合は、大蔵(現・財務)政務次官から財政部会長を経て衆院大蔵常任委員長へと進んだ。厚生(現・厚労)大臣を三期務めたことや、郵政民営化があまりにも有名で、「大蔵」のイメージは薄いかもしれないが、バリバリの大蔵族である。大蔵族議員として予算、税制などへの知識を深め、与野党の折衝も多く経験していたことが、他の分野で閣僚になっても、総理大臣になっても、生きていたと思う。逆に言えば、純一郎元首相が大蔵族議員だったから、郵政民営化も年金改革も実現したのだ。

私は、政治家は得意分野を一つ持つべきだと考えていたので、このまま農林畑でキャリアを積むのも大事なことだと考えていた。

かつての農林族は日本国内、それも地方の農家向けの政策に終始するイメージだったが、最近は活動範囲が広がっている。TPPやEPAなどで農産物が焦点となることも多いうえに、捕鯨に代表される水産関係の交渉も増えているので農水族議員には外交センスも必要だ。消費増税の際に導入される軽減税率の対象も農産物が多く含まれるから、税制にも精通していなければならない。生産者と消費者の双方と接する機会も多く、地方と都市部の両方の有権者の支持を得られる。政治家が選挙になると必ず約束する「地方創生」も、その内実を見るとほとんどが農水省の管轄である。いまや農水族議員は花形なのだ。農水分野だけでは、日本全体を見ることができないわけでは決してない。

今回、進次郎議員は、農水の常任委員長を希望したらよかったのかもしれない。あまり注目されていないが、国会の常任委員長のポストは、実務派閣僚になるための一つのキャリアパスである。まず、政務官として与党と役所のパイプ役となり、役所内での人脈を構築する。次に与党の部会長として与党と支持者の多様な意見をまとめあげる経験をしたうえで、最後に常任委員長として野党も納得させて法案を成立させるという手順を学ぶ。「とにかく反対」という野党勢力を抑えて法案や予算を実現して初めて一人前の族議員とみられる。

だから、常任委員長の経験は、大臣への登竜門とみられている。今回の内閣改造で内閣府の女性活躍担当大臣に就任した片山さつき氏も、参議院の外交防衛委員長を務めている。専門分野を持たない議員は、常任委員長への道のりが遠のき、結果として大臣就任も遅れてしまう。一方で、常任委員長が無事務まれば、どこの役所の大臣も務められるだろう。こういう一般的なキャリアパスを無視して大臣に抜擢されるケースもあるが、話題づくりだけが目的で官僚に相手にされず、仕事もできずに任期を終えるしかない。

■人気者ゆえの雑巾がけの難しさ

進次郎氏には、官房副長官就任という報道もあったが、これは政界の常識としてありえない。官邸のスタッフである官房副長官や総理補佐官は、自分を殺して任務にあたることが求められる。官邸の顔である総理以外の政治家が個人の考えを述べてはいけないのである。現在の副長官や補佐官も、「忖度」したとかしないとかで話題にはなっても、実際にどんな仕事をしているかは外には伝わってこない。それで正解なのだ。

「(あらゆる問題について)メディアから質問をぶつけられ大きく報じられる」ことがキャリアパスに大きな影響を与えてしまうと、飯島氏。調整役になったり、雑巾がけをすることが困難になる。(写真=時事通信フォト)

進次郎氏のような人気者には向かないポストである。かつて安倍首相が森内閣~小泉内閣で官房副長官を経験してステップアップした例を踏襲してほしい人も多いのだろうが、当時の安倍首相は拉致問題で多少は知られていたものの、選挙の顔として注目されるほどの人気はなかった。

さらに官邸には小泉首相という大スターがいたので、それ以外の政治家が目立つという心配もなかった。安倍首相は、官房副長官時代に、官邸の政策決定の過程をしっかり勉強できたことだろう。

しかし、いまの進次郎氏は官房副長官を務めるには発信力がありすぎる。さらに、正直で正義感も強いから、たとえ首相の意見であっても納得できなければ「私は反対です」と言ってしまうだろう。官房副長官がそんなことを言えば、大問題だ。今回の改造で彼が重要ポストにつかなかったのは、総裁選で石破茂氏に投票したことによる報復ではなく、単に時期尚早であったと見るべきだ。

進次郎氏の人気は、もちろん若さやルックスもあるのだろうが、国民が持つ不満をはっきり代弁してくれるという点が大きいと思う。しかし、それだけでは、菅義偉官房長官に代表されるような、実務的でコツコツと仕事を前に進めていくタイプにはなれない。ただ世論に迎合して、マスコミに喜ばれているだけでは、政治家としての実績は積めないものだ。

進次郎氏が日本の将来を担う政治家であることは間違いない。そして、従来の道にとらわれない一歩を、今回の人事で、自ら踏み出したのだ。私のような古い永田町の常識からすればびっくりするようなことでも、新しいタイプの政策通となって、雑巾がけを忘れずに、国民にとって具体的な成果をあげていけるような政治家になっていってほしいと願っている。

(内閣参与(特命担当) 飯島 勲 iStock.com/時事通信フォト=写真)

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