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豊洲市場で3時間待つ人とは付き合えない

プレジデントオンライン / 2018年11月7日 15時15分

2018年10月13日、豊洲新市場の一般公開が始まり、すしなどの飲食店に並ぶ見学者ら(写真=時事通信フォト)

人はそれぞれ価値観が異なる。価値観が合わない相手と付き合うのは、お互いにマイナスだ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「『行列に並びますか?』と聞けば、自分と合うかどうかは大体わかる。行列に並ぶ人と並ばない人が仲良くなるのは非常に難しい」と指摘する――。

■豊洲市場の人混みにウンザリ

相手が自分と合うタイプの人物かどうかを判断できる、手っ取り早い質問がある。それは「行列に並ぶことを厭わないか、それとも行列が大嫌いか」という問いだ。これをぶつけてみて、相手が自分とは真逆の答えを返すようだったら、深い関係にはならないほうが吉だろう。

2018年10月13日、東京・豊洲市場が一般向けにオープンした。この日の豊洲市場には、4万人の来場者が訪れた。これはUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の1日の来場者に匹敵する人数だという。行列嫌いな私からすれば、映像を見るだけでうんざりするほどの人混みだった。

築地に立地していたころから市場やその周辺はすでに観光地化していたとはいえ、ここまでの来場者は見られなかった。新しい商業施設やテーマパークが開業したとき、「初日に行きたい!」と勇んで出かけていく情報感度の高い人々が出現するものだが、豊洲市場もそうした人々のお眼鏡にかなったということかもしれない。

■行列に並ぶ感覚が理解できない

映像では、食事にありつくのに3時間待たされたという人や、市場施設の見学のための列と飲食店に入る列を間違えてしまい、50分並んだ末に行列を並び直す人、あまりの混雑ぶりに入場を諦めて帰る人などが紹介されていた。近隣の駐車場は軒並み満車で、市場から徒歩20分の場所にようやく見つけたという人もいた。

そうした状況を知って、私がまず考えたことは「どうせ、もとは築地にあった飲食店なのだから、すいていたであろう移転の3カ月くらい前に行くか、人出が落ち着いてくると思われる移転の2カ月くらい後に行けよ」ということだ。加えて、強く思ったのは「行列に並ばずとも食べられるウマい店なんて、豊洲市場以外にいくらでもあるだろ?」ということだ。

この段階で、行列を厭わない人の頭のなかには、すでにいくつもの反論と罵倒の言葉が浮かんでいるに違いない。しかしながら、行列が大嫌いな人間からすれば、行列に並ぶことに価値を見出す感覚のほうがまったく理解できないのだ。もちろん、そんな私でも空港や自動車運転免許の更新施設、映画館やスポーツ施設の発券所などでは手続き上必要なので、行列に並ぶ。ただ、それ以外の娯楽や食事で、わざわざ行列に並びたいとは思わない。

■行列に関わりたくない理由

行列が嫌いなものだから、週末に高速道路を使ってどこかへ遊びに行くこともない。渋滞にハマるのがイヤだし、その先に待っている行楽地での行列もイヤだからである。

東京ディズニーリゾートも行列が煩わしいので行かない。どんなになじみの店であってもミシュランの星がついたり、テレビで取り上げられたりして行列ができるようになってしまったら、落ち着くまでは足が遠のいてしまう。入ろうと思っていたラーメン屋に行列ができていた場合はすぐに諦めて、次の候補店に向かって歩き始める。

とにかく何があろうとも、行列が嫌いなのだ。なにより時間がもったいない。さらに、そこに並んでいるむさ苦しい男20人中19人がスマホを一心不乱に眺めている……みたいな状況が不気味で仕方がない。あの奇妙な一体感を醸し出している行列の一員になってしまうかと思うと、想像するだけでたまらなく惨めな気持ちになるのだ。

また、自意識過剰なのは重々承知したうえで付け加えると「あの人、わざわざ行列に並んでまでこの店のラーメンが食べたいのね。いい年したオッサンのくせに意地汚いわ」なんて思われていないだろうか、と不安になってしまうのである。

■行列に充満する「苛立ちのオーラ」に耐えられない

「行列も思い出のひとつ!」「待つのも楽しい!」などとポジティブに捉えられる人ばかりなら、まだ救いようがある。ただ、行列は大概、どこか殺伐とした空気をはらんでいるものだ。

たとえばラーメン屋の行列だったら「ほら、そこのバカップル、なに食い終わってもペチャペチャしゃべっとるんじゃ、ボケ」「さっさと丼をカウンターにあげて、自分が食べていたスペースをふきんで拭いて出ていけよ!」「この店のルールを知らないのかよ。ケッ、トーシローが。お前らみたいなニワカ客が増えたから、俺たちのような常連がなかなか食えなくなったんだ」なんてことを考えて、“早く食え、すぐに店を出ろ”オーラを露骨に出す人をよく見かける。

行列には、こうした「苛立ちのオーラ」が充満していることが多く、ときには舌打ちまで聞こえてくる。そんな環境に身を置いていると、自分がどんどんやさぐれていくのが実感でき、逃げ出したくなるのである。

このような考え方なので、絶対に混んでいることがわかっている場所に出向くことがない。そのため、本当は鑑賞したい「興福寺展」や「フェルメール展」などを観ることができず、損しているのかもしれない。とはいえ、どうせ出向いたとしても、何時間も待たされたあげく、結局「いちばんよく見えたのは他人の背中だった」みたいな結果に終わるのがわかっている。

それならば、多少高額でも美術関連の書籍を1冊購入して、家でじっくりと眺めることを選択してしまう。興福寺の阿修羅像にしても、わざわざ混雑している東京で見るより、ローシーズンに奈良の興福寺まで出かけてしまえば、それこそ30分でも1時間でも阿修羅の姿を眺め続けられる。

■行列OKな男と、行列NGな女が付き合うと……

さて、冒頭の「自分とウマが合うか」「深い関係になれる相手か」という視点に話を戻そう。仮に「行列を厭わない男」と「行列が大嫌いな女」が付き合うことになったとする。ちなみに二人とも「安くておいしいものが好き」という点では共通している。となれば、こんな会話が想像できるだろう。付き合い始めてまだ間もないころの話だ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/PeopleImages)

男:今度の土曜日、肉フェスが××公園であるから行こうよ。

女:え~っ、この手のイベントってすごく混むんでしょ? 1時間半とか2時間待ちが当たり前だったりするし、まだ暑そうじゃない。肉を食べるんだったら○○亭のステーキでも食べに行こうよ。

男:いや、今年は神戸ビーフを出す△△軒もわざわざ神戸から出展しているし、何しろ幻の和牛といわれる■■牛のハンバーガーを出す店まで出ているんだよ。

女:(面倒くさいなー。でも付き合い始めたばかりだから、彼の希望にあわせるか……)わかった。行こうね。

■一例として、肉フェスでのデートを再現してみる

そして当日、最高気温32度なんて予報も出ているなか、最寄り駅を降りると会場の××公園を目指す人ばかりである。女は「途中に百貨店もいくつかあるし、みんなそっち行くんだよね」と希望的観測を持ったりもしたが、残念ながら百貨店を通り過ぎても人が減る気配は見られない。やはり皆、肉フェス会場の××公園へ向かっているのだ。

会場に着いたところで、男は「オレは○○亭の列に並ぶから、キミは△△軒に並んで。事前に下調べしたから注文したいものはもう決めてあるんだ。△△軒では『アボカドスパイシーバーガーセット』と『A5スペシャルバーガーセット』を頼んでおいて。半分ずつ食べようよ。並びなおすのは面倒だから、ビールはお互い2杯ずつ買っておこう。先に買えたほうが席を取るということで。席の場所はLINEで送ってね」などと、喜々としながら女に指示をする。

しかし、この手のフェスでは、超人気店と人気店と不人気店では並ぶ時間がまったく異なる。女は1時間で男が指定したハンバーガーのセットとビール2杯をゲットし、席探しを開始。12分後に3人の女性グループがいた席が空き、そこにハンバーガーセット2つとビール2杯を置いて「もうすぐ、私の連れも来るので、決して一人でここを専有しているワケじゃないのよ」という空気を醸し出す。そして、「○○池の近くに席が取れたよー」とLINEで男に連絡する。

■そして、ビールはどんどんぬるくなっていく

途端に手持ち無沙汰になる女。ビールは受け取ってから12分もたってしまったため、若干ぬるくなっている。とりあえずビールを一口飲み、ハンバーガーには手をつけないようにする。男からは「あと15分ぐらいかな……」という連絡が来た。さすがにポテトくらいはいいかな、と手をつける。しかしながら、気になるのはおいしそうなハンバーガーと32度の暑さのなか、どんどんぬるくなっていくビールである。

いざとなればビールは少しすいている店で買えばいいや、と女はビールを遠慮なく飲むことにした。しかし、彼はまだ来ない。「15分たったけど、まだ?」とLINEを送ると「あと15分ぐらい……」と返事が来た。すでに、周囲には「あいつ、一人で4人掛けの席を独占しやがって……」という怨嗟の目で見る人々が何人も登場している。さらに15分待ったところで、女は「もぉぉぉ……、なんで早く来ないのよ!」と男のことを心のなかでののしる。そして「一口くらい、いいよね」とついにハンバーガーにかぶりつくのだった。

■「食べる前に、ちゃんと写真撮った?」

それから10分後、ようやく男が戻ってくる。フェスの目玉のひとつ・神戸ビーフの名店は大行列で、男は1時間40分も並び、ようやくステーキを2枚入手して、女のもとに現れた。「ごめんごめん! 遅くなった!」と男は満面の笑み。しかし、彼の顔はすぐに曇る。

男:ビール、二杯ともほぼ空じゃん。あと、なんでポテトもこんなに減っているの? あー! アボカドスパイシーバーガーがこんなに小さくなってる!!

女:ごめん! 一人で待っているのがいたたまれなかったし、ビールがどんどんぬるくなってきたから飲んじゃったの。あと、おつまみとしてポテトだけじゃなんか物足りなくて、ハンバーガーも少し食べちゃった。

男:えっ、食べる前にちゃんとアボカドバーガーの写真は撮った?

女:いや、撮ってないけど。私、食べものの写真とか撮る習慣ないから……。

男:マジかよ! オレ、この神戸ビーフのステーキと2種類のハンバーガーを並べた写真を撮って、フェイスブックに投稿しようと思っていたのに! なにやってんだよ!

この瞬間、女は心のなかで「この男とは別れよう」と決意したのであった。女が確信したのは「行列好きの人間とは、どう頑張っても価値観が合わない」ということである。

■行列好きは、お祭り好き

勝手に架空の女に私自身の嗜好を憑依させて寸劇を描いてしまったが、ここで示したもの以外にも、私が行列を厭わない人間と相いれない部分はいくらでも見出すことができる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Maxiphoto)

まず、行列好きはお祭り好きなのである。だからハロウィーンやらクリスマスやら誕生日やら「交際がスタートした日」やら、何かと記念日や季節行事にこだわり、余計なことをやりたがる。対して、私は記念日なんてどうでもいいと思っており、自分の誕生日にもまったくこだわりがない。

さらに、行列が好きな人間はたいてい、インスタグラムやツイッター、フェイスブックなどに写真を投稿するのも大好きだ。何でも写真に残しておきたい、SNSに投稿したいというなら勝手にすればいいが、私にはまったくそうした嗜好がないので、正直、共感できない場面も多い。

■“合わない相手”を無理に理解しなくてもいい

「ただの偏見だ」「それはオマエの嗜好だろ」などと非難する声が聞こえてきそうだが、そのとおりだ。これは私の考え方である。そして私が伝えたいのは「行列が好きな皆さんも、行列嫌いの人間とは深く付き合わないでいいよ」「行列を忌み嫌う私のような人間に対して、そちらも偏見を持って構いませんよ」ということだ。

つまり「合わない相手のことを、わざわざ理解しようとしなくてもよい」という、実に合理的な人間関係の基礎を提示しているだけである。価値観の異なる相手と深く付き合おうとしても、お互いに疲れるだけだ。

たとえば「行列が好きか嫌いか」という視点だけでも、実に多様な価値観の相違が顕在化してくる。パッと挙げられるだけでも、以下の4点があるだろう。

・経済感覚が違う
行列好きは、時間の価値よりも「この場の欲求充足」「目先の得」に重きをおいている。こうした刹那的な考え方には共感できない。

・自己顕示欲が強い
行列に並ぶことによって得られる“特別な何か”を誰かに見せびらかしたくて仕方がない。「そんなつもりはないよ!」と言うのであれば、他人を巻き込むな。

・新しいもの好き
新型iPhoneの発売日に行列をつくる人や、PS3の発売初日に有楽町のビックカメラに並んで「モノ売るっていうレベルじゃねぇよ!」とキレて、ネットで話題になった「レベル男」あたりがそうだ。「何週間か待てばいいだろ。そうすれば簡単に手に入るのに」としか思えない。

・旅行で“損得”にこだわる
目先の得に執着するせいか、旅行などに出かけても、とにかく活発に動きたがる。そうしないと「損をした」気分になるらしい。旅行のときくらい、ゆっくりさせてくれ。

■行列嫌いの原点はディズニーランド

私がこうした考えを抱くに至った原点は、1983年5月1日にある。この日、行列が好きな祖母の提案により、前月に開業したばかりの東京ディズニーランド(TDL)に一族で出かけたのである。

オープン以来初めてのゴールデンウィークに祖父母、4人のおじ・おばとその一家、そして私の家族と総勢21名もの大所帯で出かけたのだが、前日は松戸のおじの家に全員で泊まって朝イチの出撃に備えるという気合の入れようだった。すべて、ミーハーな祖母が「東京ディズニーランドに息子・娘一家といち早く行きたい!」などと、今の私にとってはクソ以外の何ものでもない提案をしたことが発端なのである。

これだけの人数が一般的なマンションの一室に収まるわけなので、ゆっくり休めるはずもない。食事も適当で、朝食にいたっては1分で食べられるようになるカップ麺の「クイックワン」である。これを腹に流し込み、朝7時ごろにはTDLへ車で向かったのだが、すでに駐車場に入るにも往生するほどの大混雑だった。

■価値観が合う相手と、ストレスのない関係を築く

そして開園と同時に目当てのアトラクションまでダッシュをするも、とにかくどこもかしこも大行列。結局、体験できたのは当時の「Eチケット」(要するにいちばん高いアトラクション向け)で入れる「ジャングル・クルーズ」「ホーンテッド・マンション」「カリブの海賊」のみ。いずれも3時間待ちだったのだ。

実際は夜になって「スペースマウンテン」にも並んだのだが、行列の途中で停電トラブルが発生してしまい、この日は丸々1日を費やして3つのアトラクションしか楽しめなかった。記憶に残ったのは、人混みにもまれ、延々と行列に並び、喧噪に気押された末の徒労感だけである。

このように、行列に関する強烈なトラウマ体験を9歳にして味わってしまったせいか、私はすっかり行列が嫌いになってしまったのだが、その後の人生においても、良好な恋人関係や友人関係を築けるかどうかは「行列OK?/行列NG?」という質問をするだけで、かなりの確度で予見できたように思う。

相手と良い関係を構築できるかどうかを測りたければ、付き合いが浅いうちに「行列に並ぶ? それとも並ばない?」と尋ねてみてはどうだろう。それで価値観が合うようなら、思いのほか早く仲良くなれるかもしれない。行列が好きな者どうし、行列が苦手な者どうし、それぞれで仲良くやればよいのだ。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・自分と価値観が合い、ストレスなく付き合える相手かどうかは「行列に並ぶか、並ばないか?」という質問でかなり見極められる。
・恋人や友人とは、趣味嗜好が合う者どうしで仲良くやればいい。
・誰とでも、話し合い、擦り合わせれば理解し合える――というのは幻想。価値観の相違は、そう簡単には埋められない。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com/時事通信フォト)

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