1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

親孝行なら「日持ちしないおかず」を送れ

プレジデントオンライン / 2018年11月14日 9時15分

“グー先生”の愛称で親しまれる著者の林幸子さん。料理研究家として30年以上のキャリアを持つ

離れて暮らす老親になにをしてあげればいいのか。そのひとつとして「親につくりおきの料理を届ける」が小さなブームになりつつある。火付け役は『親つく』の筆者である料理研究家の林幸子さん。林さんは「冷凍より日持ちのしない冷蔵で送ったほうがいい」とアドバイスする。その理由とは――。

■離れて住む老親の食生活が心配な子供に大ヒット中の本

内閣府の「高齢社会白書」(2018年版)によると、高齢者のいる世帯のうち6割近くは1人暮らしもしくは夫婦2人で暮らしている。こうした高齢者だけで暮らす世帯の割合は、今後さらに増えていくと推計されている。

50代以上になると、自分の老後だけでなく、両親の老後が心配になってくる。親と離れて暮らすケースはなおさらのことだ。

筆者(50代)も84歳の父と78歳の母は夫婦のみの2人暮らし。掃除、洗濯、食事など、老親の日常には心配事が山積みである。特に気をもむのが「ちゃんと食べているだろうか」という点だ。

「高齢者の暮らしで一番気をつけてあげたいのは、やはり食生活です。年をとると台所に立つのがおっくうになって同じものばかり食べたり、コンビニ弁当やスーパーのお総菜で済ませたり。食欲は『おいしい』『楽しい』があってこそわくもので、味気ない食事が続いては食べる意欲さえ失いかねません」

こう指摘するのは、料理教室「アトリエ・グー」を主宰する料理研究家の林幸子さんだ。毎日の食事は健康の源だ。一緒に食卓を囲むのが理想だが、離れて暮らしていればそうもいかない。老親に元気でいてもらうにはどうしたらいいのだろう。

■高齢化が進む中、「親つく本」が話題を集める理由

林幸子『介護じゃないけどやっぱり心配だから 親に作って届けたい、つくりおき』(大和書房)
 

その答えのひとつとして、林さんはこの秋、『介護じゃないけどやっぱり心配だから 親に作って届けたい、つくりおき』(大和書房)を出版した。本の愛称は「親つく」。コンセプトは「つくりおきの料理を離れて暮らす老親に届ける」で、すでに新聞やテレビ番組で取り上げられるなど話題を集めている。

林さんは執筆の経緯について「自身の経験がベースになっている」と話す。

「実家の母は関西でひとり暮らしをしていて、ちょっとした煮炊きはするけれど、手の込んだものはつくらない。だから、時間にゆとりができたときに母がつくらないようなおかずを送っているんです。近県の施設で生活する夫の母には、間食用のつまめる料理やお手製のスイーツを持っていきます。そんな“つくって届ける”が20年以上になった今、『教えてほしい』という声が続々と上がってびっくり。親の食生活が気になりながらも、どうしたらいいのか困っている人が多いことを痛感しました」

■なぜ、日持ちする「冷凍」ではなく「冷蔵」で送るのか?

本書の特徴は、肉・魚料理からごはん・パスタまで50種類以上のレシピだけでなく、「どのように届けたらいいか」をわかりやすく解説しているところだ。

(1)ペンネなどのショートパスタはのびにくいのでつくりおき向き(2)お湯を注げばみそ汁になる“みそ玉”。粉がつおを混ぜたみそと具を、1杯分ずつラップで茶巾に包む(3)温めて食べる料理は電子レンジ対応の容器に入れるとそのままチンできる(撮影=南雲保夫)

たとえば、料理を入れる「容器」については、意外なことに「使い捨て」のプラスチック容器が推奨されている。捨てるのはもったいない、繰り返しつかえる容器のほうがいいのではないかと思ってしまうが、すべては「親を思いやった」上での選択だ。

「高齢になると体力が落ちて洗い物が面倒になり、洗い残しも多くなる。その点、使い捨てなら衛生的ですし、『洗わなきゃ』『返さなきゃ』という親の負担感が解消されるんです」(林さん)

容器のふたにもポイントがある。ひとつは力がなくても開けやすいこと。そして、もうひとつは「透明タイプ」を選ぶことだ。年をとると一度冷蔵庫に入れたものを忘れやすく、気づいたときには中身はカビだらけ、ということが起こりがちだから。透明のふたなら中身がひと目でわかり、料理が見えることで「食べてみようかな」という気持ちになりやすい。

また保存方法は、日持ちのする「冷凍」よりも、「冷蔵」のほうがいいという。

「冷凍は解凍する手間があり、これは親世代にとってちょっとハードルが高い作業なんです。凍った料理は見た目でおいしさが伝わりにくいですし、冷凍だからすぐ食べなくていいかと放置されることもあります。もちろん、冷蔵はさほど日持ちはしないので、いつまでに食べるかは書いておく。その際、『フタを取ってチン1分』『そのままで』という具合に食べ方もマスキングテープに書いて貼っておくと迷わずに済みます」(林さん)

■特におすすめは、ピンポン球状に丸めた「みそ玉」

一方、料理のレシピにも、長年の経験から蓄積された工夫が詰まっている。

たとえば、ハンバーグは「普通サイズ」と「ちょっと食べたいときのミニサイズ」の2タイプにわける。またお好み焼きはおやつ感覚で食べられるように小さめに焼いておく。

特におすすめしたいのが「みそ玉」だ。粉かつおを混ぜた味噌の具をピンポン球状に丸めておく。お湯を注げば味噌汁ができる。いわば手づくりのインスタント食品だ。これに炊き込みご飯をそえれば、朝食や軽めのランチには十分だろう。

■つくって届けると、人生最高の親孝行ができる

こうした子供の手料理が届けば、食事が楽しくなる。食欲が増すうえに、親子のコミュニケーションも密になるはずだ。林さんも「届けた料理が会話のきっかけになる」という。

(1)透明な蓋はひと目で中身がわかり、食欲をそそる。側面に料理名を書けば、冷蔵庫から食べたいものをスムーズに取り出せる(2)つくった料理は冷ましてから冷蔵のクール便で送る(撮影=南雲保夫)

「ウチの母でいえば、料理を送ると電話がかかってきて『おいしかった』とか、『どうやってつくったの?』とか、『ちょっと味が濃かった』とか、関西の人だからもう話が止まりません(笑)。もし『硬くて食べにくかった』と言われたら、噛む力が弱っているのかもしれない。そうやって親の気力や体力の変化にも気付けるのも“親つく”のメリットですね」

この本をきっかけに、“つくって届ける”を始めた人もいる。東京在住のNさん(50代女性)の場合、両親は関西で2人暮らし。90歳の父は昭和一ケタ生まれ世代らしく家事には一切手を貸さず、80歳の母親がすべてをこなしているそうだ。Nさんは言う。

「料理を送ろうと思ったのは、母への心配からですね。父は和食一辺倒で、食べ慣れたものしか口にしません。そんな父に遠慮して、母も好物のラーメンなどはなかなか目の前では食べにくいそうです。しかも、母は脊柱管狭窄症の手術をして以来、自分用の料理を別につくるほど体力もない。唐揚げを食べたくなって、こっそりコンビニで買った、と聞いて切なくなりました」

そんな母のために、本のレシピにあった煮込みハンバーグやさつまいものレモン煮などをつくって送ったところ、食に保守的な父親がさつまいものレモン煮に箸をのばしたそうだ。

「私がつくった料理ということで、食べてくれたのかもしれません。味も気に入ったようで、『お父さんがおいしい、おいしいと食べていた』と母が嬉しそうに報告してくれました。なによりも良かったと思うのは、夫婦の会話が増えたこと。普段は黙々と2人で食べているそうですが、私がつくった料理を前にすると、『こんなんがつくれるんやな』『ようできてるな』と話が弾むそうなんです。そう聞くと、また送ってあげたくなりますよね」

■「親つく」で節約と健康管理と親孝行が同時にできる

Nさんの話を聞くうちに、私も両親につくりおきを届けてみたくなった。何か心構えはあるのだろうか。林さんは「大切なのは、無理をせず、自分のペースで送ることです」と話す。

「わざわざ親のためにつくるのでなく、自分用につくりおきするついで親の分を取り分ける。『おいしくできたからちょっと食べてみて』くらいの感覚だと親にとっても負担にならず、長続きしますよ」

レシピには電子レンジで加熱するだけの手軽な料理も多数紹介されている。親に送るだけでなく、自分用のつくりおきもできれば、外食や中食の食費が浮いて体にもいい。節約と健康管理と親孝行が同時にできるのだから一石三鳥だ。ぜひチャレンジしてみてほしい。

(フリーライター 上島 寿子 撮影=南雲保夫)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください