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なぜお金持ちはタワーマンションが嫌いか

プレジデントオンライン / 2018年11月13日 11時15分

建設ラッシュが続くタワーマンション●タワーマンションを購入するのは、IT関連や不動産関係者、医者が多い。(時事通信フォト=写真)

次々に建設されるタワーマンション。しかし、住宅ジャーナリストの榊淳司氏は「私の知る限り、代々東京に住む“本当の富裕層”は投資用に買うことはあっても、自分たちが住むことはない」という。なぜなのか。「プレジデント」(2018年12月3日号)の特集「『家・マンション』買い時、売り時」より、記事の一部をお届けします――。

■タワーマンションは、誰が買っているのか

東京・中央区や江東区などの湾岸エリアに林立するタワーマンション(超高層マンション)。好景気を背景に、建設ラッシュが続く。現代の成功者の象徴ともいえるタワマンだが、意外なことに“本当の富裕層”にはあまり人気がないという。四半世紀にわたり不動産市場を見てきた住宅ジャーナリストの榊淳司氏は次のように語る。

「タワーマンションを購入しているのは、基本的にニューカマーです。彼らは大学入学や就職のときに東京に出てきた地方出身者で、それなりに成功を収めた人。年収1500万円くらいになり家を購入する際に、なぜか好んで湾岸のタワマンを買う人が多い。だから湾岸のタワマンに住む人の職業は、IT関連や不動産関係が多いといわれています。しかし私の知る限り、代々東京に住んでいる“本当の富裕層”は、湾岸のタワマンを投資用に買うことはあっても、自分たちが住むことはあまりありません」

なぜお金持ちはタワマンに住まないのか。

「私はかつて20年ほどマンションの広告制作を手がけていたのですが、大手デベロッパーのタワマンの広告に携わったときに担当者から、タワマンは見栄っ張りが買うので、そういう人たちの虚栄心をくすぐるテイストの広告をつくるようにと指示されました」

お金持ちからすると、そういった売り出し方は逆に食指が動かなくなるようだ。

■お金持ちは、何を重視するのか

では、“本当の富裕層”はどんな家を買うのか。榊氏があげたキーワードは「上品」だ。

「彼らが好むのは、落ち着いていて、しっとりとした住宅地です。基本的に9割は場所で選びます。具体的には、都内ならば代々木上原や番町、松濤、広尾、表参道などを好まれます。あの湾岸の風景は、場合によっては殺風景というか、殺伐とした感じがするんでしょうか」

こうしたお金持ちが好むエリアには、実は共通点がある。

「基本的に東京は古いお屋敷街(江戸藩邸)がいいんです。大手町、高輪、番町、文京区の本駒込や本郷、青山あたりも旧屋敷街です。これらの場所はだいたい地盤がよく丘の上にあります。富裕層の方は古いお屋敷街だからという理由で選んでいるわけではなく、結果的にそうなるだけです。とにかく見る目が肥えていますから。個人的には、東京で一番ステータスが高い住宅地は番町か表参道周辺だと思っています。山手線の外側なら代官山ですね」

上品さや見た目の善し悪しは別にして、榊氏がタワマンをすすめない理由がほかにもある。

「これはタワマンに限らないのですが、いまの新築マンションは全体的に設備・仕様がどんどん落ちています。なぜなら建築費や土地代が値上がりしているため、販売価格が高くなってしまうからです。価格を少しでも抑えるために、デベロッパーは仕様を下げるわけです。さらにタワマンの場合、建物全体の荷重負担を軽減するため軽い素材を使います。だから防音性に難がある。隣の家の生活音が聞こえることもあるほどです」

タワマンといえばハイクオリティーで申し分のない住環境をイメージするが、そう単純な話ではないようだ。

一方、こうした現在のマンション事情にあって、やはり旧お屋敷街は違うと榊氏は話す。

「そういう高級住宅街は住民の意識も高く、街の景観を大切にしています。新築マンションでも、おかしなものを建てて街のブランド力を損ねてはいけないので、デベロッパーもしっかりとしたマンションをつくります」

■なぜ築古・低層でも、人気が高いのか

場所を重視するお金持ちにとって、中古物件も人気がある。榊氏は20年以上前の中古マンションは質が高く、それを好むお金持ちも少なくないという。

「特に1990年以前のバブル仕様のマンションはかなりいいです。バブル仕様とは、その頃までに完成したマンションで、当時は高くても売れましたから、床に大理石なんて当たり前。またバブル崩壊後も、2002年頃までにつくられたマンションは結構しっかりしています。ちょうど築20年くらいの物件ですが、当時は不動産不況で、デベロッパーは売れるように一生懸命よいものをつくっていました」

中古物件でも、特に「ビンテージマンション」とよばれる一群は人気が高い。売買なら億単位という高額物件がほとんどだ。

(左)広尾ガーデンヒルズ●年数が経っても高い価値を保ち続けるビンテージマンションの代表例。(右)代官山ヒルサイドテラス●上品な街並みがお金持ちに好まれて、空きが出てもすぐに応募があって埋まってしまう。(amanaimages=写真)

「東京のビンテージマンションの代表格と位置づけられているのが『広尾ガーデンヒルズ』です。実際に行ってみるとわかりますが、すごくいいマンションだと感じるはずです。管理面で少々問題もあるようですが、築30年以上でも、とても上品です」

「代官山ヒルサイドテラス」も低層だが高評価だという。建築家の槇文彦氏が手がけた住居・店舗・オフィスからなる複合建築で、1967年から92年まで数期に分けて段階的に建設された。

「ここは基本的に賃貸ですが、築40年ほど経っても格好いいんですよ。マンションに暮らすんだったら、一番といってもいいほど。まず、代官山は街が素敵じゃないですか。歩いていて気持ちがいい。物件が良すぎてなかなか空きは出ませんがね」

タワマンであれ、旧お屋敷街のビンテージマンションであれ、庶民には関係ないと思う向きもあろう。しかし、彼らの住宅購入に学ぶ点もあるのではないだろうか。

「あまり表面的なものにとらわれないことでしょうね。富裕層の方々は、住みたい街ランキングは気にしない。自分の好みを持っています」

なるほど大切なのは、周囲の目を気にしたりせず、自分のライフスタイルに適した、地に足のついた住居選びをすることのようだ。

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※「プレジデント」(2018年12月3日号)の特集「『家・マンション』買い時、売り時」では、本稿のほか、初めての住宅購入、住み替え、実家の処分、住宅ローンの選び方など、住まいに関わる関心事を専門家が徹底検証しています。ぜひお手にとってご覧ください。

 

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榊 淳司
住宅ジャーナリスト
1962年、京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。著書に『マンション格差』(講談社現代新書)など。
 

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(ジャーナリスト 田之上 信 撮影=石橋素幸 写真=時事通信フォト、amanaimages)

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