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熊本の零細航空会社"CA3人が泣いた理由"

プレジデントオンライン / 2019年2月24日 11時15分

黒木 亮氏(毎日新聞社=写真)

「みぞか号」の機首にはイルカの顔を模した目と口が描かれていた。両翼エンジンは子イルカをイメージした青色のカラーリング。天草弁でかわいいを意味する「みぞか号」は、2000年から16年間、熊本県の天草エアラインで運航した航空機である。

「48人乗りの小さな飛行機と言われますが、側で見ると本当に大きい。天草の生活、医療、観光の要であるダッシュ8(みぞか号)を天草エアのスタッフや自治体職員、そして天草の島民が支えてきたんです」と黒木亮さんは語る。

黒木さんがはじめて「みぞか号」に搭乗したのは11年。機上から見た普賢岳に目を奪われた。当時のダイヤは1日10便。しかもたった1機で運航していた。金融マン時代、航空機ファイナンスにたずさわった黒木さんは「ここにはドラマがある」と直感し、天草エアの取材をはじめる。

3年の歳月を要して上梓した新作『島のエアライン』で、県庁職員による運輸省への航空会社誘致の直談判、飛行機購入、パイロット採用やCAの訓練など、熊本県がゼロから作った天草エアの歩みが詳細に描かれる。

胸を打つのは開業前検査のエピソードだ。訓練の成果が発揮できず、国交省の検査官から打ち切りを言い渡される。このままでは開業できない。民間航空会社出身で運航を担う高橋力が、検査官に育成と開業の必要性を根気強く訴え、検査継続にこぎ着ける。

「ある人に業務日誌を貸していただいたんです。合格した日、CA3人みな泣く、という記述があった。ダッシュ8が天草に到着したときも、みんな泣いた。今時、泣けるほど仕事に打ち込めるなんて、と感じるものがあった」

天草エアは小さな会社ゆえに、1人が欠けても業務はままならない。そんな職場でえられるのは、みぞか号を自分たちの力で飛ばすやりがいと充実感だ。

「他社によりよい条件でスカウトされてもおかしくない技量を持つスタッフも大勢います。でも彼らが天草エアに残るのは、地元の思いを背負っている誇りがあるからです」

登場人物はすべて実名。誇りに対する共感が、事実を積み重ねるノンフィクション・ノベルとして結実した。

「人口15万人ほどの島で飛行機を飛ばすのがいかに大変か。それをやり遂げた人たちの努力がいかに尊いか。16年間、天草の空を飛んだダッシュ8の一生を通して、知っていただければ、と」

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黒木 亮
1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。都市銀行、証券会社、総合商社を経て作家となる。

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(ノンフィクションライター 山川 徹 写真=毎日新聞社)

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