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早大セクハラ防止室"握り潰し"の実態告白

プレジデントオンライン / 2018年11月19日 9時15分

早稲田大学のハラスメント防止室がある「28号館」の外観。開室時間は月~金の9時30分から17時00分まで。サイトには「来室前に電話またはメールで予約をしてください」とあった。(撮影=編集部)

教員のセクハラ問題が起きた早稲田大学で、新たな疑惑が浮上した。ハラスメント防止室に勤務していた女性が、プレジデントオンラインの取材に対し「早大は明らかに問題と思えるハラスメント事案まで、『不受理』として握り潰しています。私が記憶しているのは教員同士のトラブルでした」と告白した。早大はセクハラの再発を防げるのだろうか――。

■渡部直己元教授は女性へのハラスメント行為で解任

早稲田大学文学学術院の渡部直己元教授が教え子だった元大学院生の女性にハラスメント行為をした問題で、早大は7月に渡部教授を解任したほか、9月には渡部教授とは別の教員2人を訓戒処分にした。

教員の一人は女性から相談を受けた際などに、セクハラの口止めともとれる発言をした男性教授で、もう一人は女性がハラスメントを受けたあと元教授にお礼を言うよう女性に促すなど不適切な発言をした男性准教授だ。

男性准教授に関して、早大は「事前に所定の届出なくしばしば授業を休講にし、或いは遅刻するなど、所定の授業回数および学修時間を確保できておらずシラバスどおりの授業運営を行っていなかった」とも発表している。

この問題を巡っては、教員だけでなく、元大学院生の女性が駆け込んだ「ハラスメント防止室」の対応にも問題があった。防止室は女性が相談に来た際、「退学者は相談を受けられない可能性がある」などとメールで説明していた。そのことについて、早稲田が設置した調査委員会は「きわめて不適切なものである」としている。

さらに防止室は、被害女性が面談でハラスメントの内容を詳細に話しているのにも関わらず、改めて「苦情申立書」の提出を求め、被害者に書かせた。大学側は「申立書がないと正式に調査を始められない」としてきたが、調査委は「本人の意思がいずれかの段階で確認できるのであれば、開始時点における申立人による申立書提出による拘泥する必要はなかったといえる」「不適切であったと判断せざるを得ない」と報告書で指摘している。

■「自分の子供なら、防止室には絶対に行かせたくない」

こうした問題から、早大は「ハラスメント防止室の体制の見直しを行う」としており、来年1月に外部窓口を設置する予定だ。一方で、「事案を精査した結果、一部不適切な対応があったものの、懲戒事由に該当する事実はなかった」(早大広報課)とし、防止室の関係者は処分していない。

防止室の体制に問題はないのか。プレジデントオンラインの取材に対し、早大の女性教員はその実態を「学生ファーストではなく、大学ファースト」と語っていた。背景にはなにがあるのか。プレジデントオンラインは早大ハラスメント防止室に勤務経験のある女性に話を聞くことができた。女性は「仮に自分の子供が早稲田の学生で、ハラスメントを受けたとしても、防止室だけには絶対に行かせたくない」と憤る。

女性は2010年代に防止室で働いていた。仕事を始めて間もないころ、あることを聞かされて「驚いた」と振り返る。

■「あえて資格を持った人を入れないようにしている」

「防止室には法律に詳しい人はいても、自分を含め、臨床心理士の資格を持った人や、カウンセリングの専門家は誰もいませんでした。それでもいいものかと疑問に思っていたのですが、当時のハラスメント防止委員会の副委員長には『あえて資格を持った人を入れないようにしている』と説明されました。その副委員長は『防止室は大学のリスクマネジメントのためにある』とも言っており、曰く、資格を持っていると、被害者側に立ち過ぎてしまって運営がスムーズにいかなくなる、とのことでした」

女性の主張については、早大広報課は次のようにメールで回答した。

「これまでに有資格者を採用したことはあります。有資格者を意図的に採用してこなかったということはありません。(安全上の配慮から)具体的な時期については回答を差し控えさせていただきます」
「ハラスメント防止室では、相談者に寄り添うことを基本としハラスメントを適正に処理することを任務としており、そのことがハラスメント防止室に課された大学のリスクマネジメントと認識しています」

ハラスメント防止委員会のウェブサイトに掲示されている「関係資料リスト」。書籍一覧、ビデオ一覧ともに2009年で更新が止まっている(2018年11月16日閲覧)。

■委員長である教授の判断で、受理するかを決める仕組み

女性は早大ハラスメント防止室の仕組みを次のように説明する。

「ハラスメント防止室はだいたい5~6人で運営していました。ハラスメントに関する相談が寄せられた場合、まず相談員が被害を訴えている学生や教員から話を聞きます。もし生徒や教員がハラスメントに関する正式な調査を求める場合は『苦情申立書』という書類を本人に書いてもらい、直接手渡しで防止室に提出してもらいます。そこから、ハラスメント防止室は教員らで構成される“ハラスメント防止委員会”に報告し、実際に受理するかどうかを判断します」

ただ、すべての申立が防止委員会に報告されていたわけではなかったと女性はいう。

委員会の規定では、「委員長は、苦情処理の申立てが第1条に規定する目的に照らし相当でないと認めるときは、当該苦情処理の申立てを不受理とすることができる」となっている。また、早大広報課によると、「委員会委員長を『ハラスメント防止室長』とも称している」という。つまり、防止室長の判断で、受理するかどうかをある程度は決められる仕組みになっている。

■教員同士によるハラスメントは「手に負えない」と不受理

女性は「委員長と副委員長2人に加え、数名の相談員で毎週ミーティングを開き、その場で委員長と副委員長で申立を受理するかどうかを決めていました」と証言する。これに対し、早大広報課は「そうした事実はありません」と反論している。だが、女性は「議事録が残っているはずなので、それを見ればわかるはずです」と述べる。

どんなケースが不受理となるのか。女性はこう話す。

「申立の中には言いがかりのようなものもあり、そういったケースは委員長権限で不受理を決定していました。その一方、あくまでも私の感覚ですが、明らかに問題だと思われるケースも不受理にしていました。私が記憶しているのは教員同士によるハラスメントです。『教員同士のトラブルにまで手をつけてしまうと、手に負えない』という判断でした」

■弁護士「早大の体制では『握りつぶし』を防ぎきれない」

早大のハラスメント相談窓口の仕組みについて、なんもり法律事務所(大阪市)の南和行弁護士は「これではスキャンダルを大学側が握り潰せてしまう」と指摘する。南弁護士は、同級生から同性愛者であることを暴露(アウティング)され、一橋大の大学院生が2015年8月に校舎から転落死した「一橋大学アウティング事件」で遺族側代理人を務めている。

「ハラスメントの救済プロセスとして、多くの大学では早大と同じく、相談室が受けた相談を委員会に申し立てるという2段階体制を採り入れています。しかし規定を読む限り、早大は防止委員会の委員長の職務と防止室長の職務を混同しており、制度の趣旨を誤解しています。防止室にはスキャンダルも集まってきます。本来の2段階体制では、経営とは離れている多くの委員に事案を見てもらうことで、一部の人間によるスキャンダルの握りつぶしを防ぐことができますが、早大では職務が混同されていて握りつぶしを防ぎきれないでしょう」

「本来は完全に外部の有識者や弁護士が委員長を務めるべきです。ただし、フルタイムでこの仕事に就いてもらえる委員長を探しづらいことは理解します。しかし、早大のような大きな大学なら、委員長はしがらみのない外部の弁護士にやってもらったほうが、委員の報酬などのコストがかかっても、公平性を保つ意味でいいと思います」

ハラスメント防止委員会の委員長は9月21日付けで早大法学学術院の菅原郁夫教授から同学術院の内田義厚教授に代わっている。来年、新しい外部窓口を設置した後も、内田教授がそのまま委員長に就く方針だ。

■「早大のガイドラインの質はとても低い」

元防止室勤務の女性は「現場の相談員は混乱してしまっていた」とも説明する。

「経験者として、こういった職務は有資格者や訓練を受けた人がやるべきだと思うのですが、早大の防止室は全員が未経験者でした。相談員は非正規なので、定期的に採用しなおしますし、職員も定期異動で入れ替わります。対応を検討する際も、『こういうときはこうするべき』と詳細に記されたマニュアルがあるわけではなく、ホームページで公開されている簡素なガイドラインしかありません」

南弁護士も「早大が公開しているガイドラインを読み、早大はハラスメントを重大な問題としてみる意志が乏しいと感じました」と話す。

「ガイドラインの質はとても低い。組織の仕組みなどが書いてあるだけで、特に判断基準が示されていないのが問題です。他大学では、たとえば関西大学は詳細なハラスメント防止ガイドラインを公開しており、厳格なハラスメント規定を定めています。ガイドラインがしっかりしていれば、被害者だけではなく、相談員も安心して仕事に取り組めるのです」

早大広報課はガイドラインの質が低いという南弁護士の指摘について「真摯に受け止めます」とコメントしている。

防止委員会のパンフレット。「専門の相談員が相談者のプライバシーに十分配慮しながら丁寧に相談を受け付けています。相談内容が本人の許可なく他者に伝わることはありません」と書かれている。

■相談員はウソの説明で、証拠のメールを提出させた

プレジデントオンラインは過去に防止室を利用し、苦情申立書を提出した経験がある早大の現役女子学生にも話を聞いた。女子学生は、男性教授からのハラスメントに関して、ハラスメント防止室に相談に行った。その際、防止室はハラスメントの証拠としてメール等のやり取りを提出するように求めたという。

女子学生によると、メールの中にはどうしても見られたくない内容があった。しかしその後相談員が「見せられるものだけを提出すればいいから」と繰り返し説明したため、証拠のメールを印刷し、一部を黒塗りにしたうえで、工夫して提出した。

しかしその後、女性は防止室の対応に大きな衝撃を受けたと話す。

「相談員とは別の当時の委員長から、メールなどの証拠について『男性教授側から全部見せてもらった』と直接伝えられました。当初の話とは違うと思い、個人情報管理について質問しましたが、説明を拒まれました」

南弁護士は「いろはの“い”が守られていない」と怒る。

■前委員長「私はもう関係ないので、お話しすることはない」

「ハラスメント被害者にとって、自分が持つ情報のコントロールがどこにあるのか、ということはとても気になることです。そんなことはハラスメントに関わる人間であれば、いろはの“い”のはずです。だからこそ、大学として正式に調査するためには『ここまでの情報を大学側に提出してほしい』と丁寧に事前説明する必要があります。女性側からみれば、『自分が経験した忌々しい体験をそこまでさらけ出さないといけないなら、正式な調査は依頼しません』となってしまう場合もあるのです」

元防止室勤務の女性に確認したところ「情報管理の方法について、上司から詳細な手順を説明されたこともありませんし、ガイドラインに記載されていたわけでもありません。私自身も意識していませんでした」と振り返る。

プレジデントオンラインはハラスメント防止委員会の前委員長として渡部直己元教授の事案に関わった菅原教授にコメントを求めたが、「大学のほうに行ってほしい。私はもう関係ないので、お話しすることはない」との回答だった。

早稲田大学構内にある創設者・大隈重信の銅像。新宿区指定有形文化財となっている。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

■防止室には昨年度191件の相談が寄せられている

南弁護士は「今の早大防止室は、『あきらめさせ機関』になってしまっている」という。

「被害を訴えている申立人に対して大学が決めたフォーマットで『苦情申立書』を提出させたり、代理人により提出を原則認めていなかったり、申立人に対して非常に負担をかけています。これでは申立人をあきらめさせるためにあるような機関になっています。そもそもハラスメント防止室は裁判所のように法律的な対応をする場ではありません。あくまでもさまざまな案件を汲み取り、そういった生徒や教員がどうやったらつらい思いをせずにキャンパスライフを送れるようにできるか、それを考え、実行する場のはずです。その考えが早大には欠けているように感じます」

早大広報課によると、昨年度、防止室には191件の相談が寄せられ、そのうち9件が申立された。委員会も9回開かれたという。はたして、これが被害のすべてだったのだろうか。

(プレジデント編集部 鈴木 聖也 撮影=編集部)

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