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“結婚したら専業主婦”は下流への入り口

プレジデントオンライン / 2018年12月5日 9時15分

(画像=『アンダークラス』使用図版をもとにプレジデントオンライン編集部作成)

お金持ちの男性と結婚して主婦になった女性は「人生の勝ち組」なのだろうか。そうとは限らない。実際には夫との離別・死別によって「アンダークラス」に転落している女性が相当数いるからだ。どんな女性たちが転落してしまうのか。データを紹介しよう――。

※本稿は、橋本健二『アンダークラス』(ちくま新書)の第5章「アンダークラスの女たち」の一部を再編集したものです。

■非正規女性の人生をデータからみる

日本の社会学者らが10年に1度行っている「社会階層と社会移動全国調査」(SSM調査)によると、非正規労働者のうち、非常勤の役員、管理職、資格や技能をもった専門職とパート主婦を除いた人々は、2015年現在で約928万人いると推定される。

この層の平均個人年収は186万円。正規労働者の平均個人年収が370万円なのに比べて大きな差がある。

これまでは正規も非正規も同じ労働者階級としてまとめられてきたが、非正規の人たちは労働者階級とは別の階級をなしていると考えられる。そこで、この階級に属する人々を「アンダークラス」とよび、著書『アンダークラス』(ちくま新書)でその実態を考察した。

本稿では、アンダークラスの女性たちが、これまでどのような人生を送ってきたのかをみていくことにする。

SSM調査では、これまでに就いたすべての職業を、無職の期間を含めて尋ねている。しかも結婚したことのある人については結婚したときの年齢、そして離別・死別したことのある人については、そのときの年齢を尋ねている。だから質問紙による調査でありながら、回答者のこれまでの生活歴をかなり詳しく知ることができる。生活歴は配偶関係、つまり未婚・離別・死別のいずれであるかによって大きく異なるはずだから、区別してみていこう。

■未婚者の約6割は最初から非正規

図表1は、職業経歴の概要を示したものである。

未婚者は最初から59.8%までが非正規労働者で、正規労働者が35.7%だった。20歳から59歳までの若年・中年アンダークラス男性で最初から非正規労働者だった人は43.4%であり、これを16%も上回っている。離職を経験したことのある人は76.8%である。最初の仕事を辞めた理由は多様だか、「よい仕事がみつかったから」(30%)、「職場に対する不満」(28.8%)が多かった。「家庭の理由」(2.5%)は、ごくわずかである。そして最初の仕事を辞めたあとどうしたかを尋ねると、非正規労働者が42.8%と多く、次に多いのが無職(29.4%)で、正規労働者は17.6%に過ぎなかった。

表には示していないが、さらに詳しい集計を行ってみると、最初の仕事が正規労働者だった人のうち、次の仕事も正規労働者だった人は33.3%に過ぎず、非正規労働者が35.9%、無職が30.8%だった。最初の仕事を辞めたのを機にアンダークラスへと流入したり、あるいは無職期間を経てアンダークラスに流入したりした人が多いことがわかる。未婚者のほとんどは59歳以下だから当然なのだが、若年・中年アンダークラス男性と共通点が多いことがわかる。

■「家庭の理由」で最初の仕事を辞める

離死別者は、まったくようすが違う。最初に就いた職業は正規労働者が多く、離別者71.7%、死別者で86.2%である。死別者の方が多いのは、離別者より年齢層が高く、最初の職は正規雇用が当たり前という時代に就職したからだろう。離職経験のない人は、調査対象者には一人もいなかった。そして最初の仕事を辞めた理由をみると、「家庭の理由(結婚、育児など)」が約6割(離別者58.1%、死別者62.1%)に上っている。そして離職後は、離別者で48.8%、死別者で61.7%が無職となっている。アンダークラス女性には、結婚を機に無職となった経験をもつ人が多いということがわかる。

離死別者の職業経歴を、もう少し詳しくみてみよう。図表2は職歴データを用いて、結婚前後と離死別前後のようすをみたものである。

(画像=『アンダークラス』使用図版をもとにプレジデントオンライン編集部作成)

離別者・死別者とも、結婚直前には半分以上の人が正規労働者だった。非正規労働者が離別者(26.4%)で多く、死別者(8.6%)で少ないのは、やはり年齢層の違いによるものだろう。しかし結婚後は、正規労働者が大幅に減る。離別者ではわずか7.8%、死別者でも17.2%である。離別者ではその分だけ無職が増えているが、死別者では非正規労働者も同時に増えている。結婚を機に、正規労働者からパート主婦に、または専業主婦に転身したようすが、くっきりとみてとれる。

■離婚と死別で非正規労働に

離死別1年前をみると、離別者・死別者とも、結婚直後より非正規労働者が増え、その分だけ無職が減っている。離死別までの間に、専業主婦からパート主婦になったのである。とくに死別者では増え方が大きいのは、夫が病気などですでに収入を得ることができなくなっていたケースがあるからだろう。そして離死別後には、大きな転機が訪れる。無職は大幅に減って1割強程度となり、大部分の女性たちが生計を立てるため仕事に就いたことがわかる。離別者では正規労働者も数パーセントほど増えているが、大半は非正規労働者である。死別者には高齢者が多いためか、その後無職の比率は変化しないが、離別者では無職が減り続け、3年後にはわずか4.9%となる。多くの専業主婦が、離死別を機に非正規の仕事についてアンダークラスへと流入したこと、また多くのパート主婦が、離死別によってアンダークラスへと移行したことがよくわかる。

学校を卒業して社会に出た段階では、多くの女性たちが正規雇用の職をもっていた。ところが結婚すれば家に入るのが当然という通念に従って退職したことから、彼女たちは経済的自立の基盤を失った。もはや取り返しがつかないことだが、これが現在の彼女たちの窮状の、そもそもの背景なのである。

■恵まれた家庭に育った人も多い

次に、アンダークラス女性の生い立ちをみていこう。図表3と図表4は、他の階級、そしてパート主婦、専業主婦と比較したものである(女性の資本家階級は人数が少ないので省略した)。

図表3をみると、アンダークラス女性の出身家庭は貧しかったわけではなく、貧しかったという人の比率は10.2%で、むしろ低いことがわかる。ちなみに豊かだったという人の比率は27.3%で、平均より高い。家に本が10冊以下しかなかったという人の比率は26.3%と多いが、アンダークラス男性(37.1%)に比べればかなり少ない。学校外教育を受けたことのない人は30.8%でやや多い、両親が離婚したという人、親から暴力を振るわれたという人の比率も、低い部類である。アンダークラス男性との違いは、明らかだろう。アンダークラス女性は、アンダークラス男性のように、貧困な、あるいは家族関係に問題のある家庭に育った人が多いわけではない。むしろ普通の、あるいはやや恵まれた方の家庭に育った人が多いようである。

(画像=『アンダークラス』使用図版をもとにプレジデントオンライン編集部作成)

■男性よりも多様なアンダークラスへの流入

しかし図表4をみると、少し印象が変わってくる。

(画像=『アンダークラス』使用図版をもとにプレジデントオンライン編集部作成)

成績が悪かったという人は、アンダークラス男性(49.3%)ほどではないが、31.5%とやや多くなっている。また学校でいじめにあったという人は33.7%と多く、アンダークラス男性をも上回る。調査結果によると、出身階級を問わず女性は男性に比べていじめにあった経験をもつ人の比率が高い傾向があるが、それを考慮しても、やはり高い。不登校の経験(「病気でもないのに学校を休みがちになった」)のある人も、9.8%と多い。最終学校を中退した人も10.8%で、アンダークラス男性ほどではないにしても高い。そして最終学校を出てすぐに就職した人は72%で、他よりかなり低い。しかしアンダークラス男性の56.3%に比べれば、16%ほど低い。

どうやらアンダークラス女性は、男性に比べると多様なルートでアンダークラスに流入するようである。

■主婦は転落の危険と隣り合わせ

橋本健二『アンダークラス』(ちくま新書)

アンダークラス女性には、比較的恵まれた家庭に育った人が多い。しかし学校で成績が振るわなかったり、いじめにあったり登校拒否に陥ったりし、場合によっては学校を中退する。就職に失敗した人も多い。しかし、それだけではない。普通の家庭に育ち、普通に就職して、普通に結婚したものの、何かの事情で離婚したり、あるいは不運にも死別したりして、アンダークラスに流入する。男性の場合は、下層から下層へという「貧困連鎖」のメカニズムがかなりの程度に働いているが、女性は必ずしもそうではない。というのも、女性には男性とは異なり、いったん専業主婦やパート主婦を経験したあとで、離死別を経てアンダークラスに流入するというルートがあるからである。結婚して主婦となり、何不足なく順調に女の人生を歩んでいると思われた女性が、アンダークラスに転落する。主婦という地位は、常にそんな危険と隣り合わせなのである。

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橋本健二(はしもと・けんじ)
早稲田大学 人間科学学術院 教授
1959年生まれ。東京大学教育学部卒。東京大学大学院博士課程修了。静岡大学教員などを経て、現在に至る。専門は社会学。著書に『階級都市』(ちくま新書)、『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)、『「格差」の戦後史』『はじまりの戦後日本』(河出ブックス)、『階級社会』(講談社選書メチエ)などがある。

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(早稲田大学 人間科学学術院 教授 橋本 健二 写真=iStock.com)

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