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子供を潰してしまう、高学歴な親の口グセ

プレジデントオンライン / 2018年11月30日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/allensima)

「親は偏差値の高い難関大学を出ているのに、子供の学力はいまひとつ」というパターンはしばしば見受けられる。「多くのケースでは、子供の能力不足が原因ではない。仕事ができる親、それも高学歴な親は、子供の成長プロセスについて、あまり理解がない。仕事と同じように、効率を求めてしまう。それが逆効果になっている」と言うのが、プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんだ。いったいどういうことか――。

■お父さんが、教えましたね?

Aくん(小6)の成績が突然下がったのは、夏休み明けの9月だった。決して成績がいいわけではなかったが、時間はかかるものの、しっかり考える子だったので、結果が出ていないが、伸びシロは十分にあった。ところが、3週間ぶりに会ったAくんの様子が、明らかにおかしかった。これまで丁寧に書いていた途中式を書かず、いきなり答えを出そうとした。原因は、すぐに見当がついた。

「お母さん、夏休みに中にお父さんが勉強を教えていませんでしたか?」

私たちの授業料は高額だ。中学受験の世界では、トップレベルだろう。そのため、おのずと経済力のある家庭が顧客になる。父親の職業は経営者、弁護士、医者、教授、政治家など。その多くは、東大卒や京大卒をはじめとする高学歴者だ。彼らは、仕事で忙しい。基本的に、子供の教育は母親任せだ。その母親は、自分では勉強を見てあげられないので、外注する。その外注先が、われわれプロ家庭教師だ。

プロ家庭教師をつけたからといって、いきなり成績が上がるわけではない。脳が発達しきっていない小学生は、知識と知識が結びつきにくく、理解をするまでに時間がかかる。ところが、高学歴の親は、そのことを理解しない。そして、Aくんの家庭のように、これまで放任だった父親が、わが子の冴えない成績を見た途端、気まぐれに介入し、勉強を教え始める。

Aくんの父親は検事で、大阪に単身赴任している。Aくんの指導に就いてからちょうど1年になるが、その間、私は父親に一度も会っていない。それはよくあるケースで、Aくんの家庭が特別なわけではない。驚いたのは、Aくんの成績に憤慨した父親が、1カ月間の休暇をとって、夏休み中、Aくんに勉強を教えたことだった。父親が子供の勉強に関心を持つことは悪いことではない。けれども、教え方を間違えてしまうと、命取りになる。

■禁断の「方程式」を教えてしまった

Aくんは、四則計算が苦手だった。解くのに時間がかかり、得点に結びつかないだけだったが、見かねた父親が方程式を教えてしまった。中学受験で方程式を使うことは御法度だが、正解を出す上では効率がいい。父親はスピードと正解だけを求めた。その結果、Aくんの頭が混乱した。速く解かないと父親が怒鳴る。怖いから、とりあえず、式に数字を当てはめる。根本的な理解を得ていないから、目の前の数字を当てはめているだけだ。

Aくんに限らず、6年生の秋、成績がガクッと下がる子が出てくる。背後にいるのは、たいていが高学歴の父親だ。彼らは、自分の成功体験から抜け出せない。優秀な大学を卒業した人にとって、成功体験とは大学受験を指す。しかし、大学受験は高校生が挑む受験であって、小学生が挑む中学受験とはあまりにも差がある。高校生は脳が完成し、知識も経験も増えている。知識と知識を結びつけて、考えることができる。

とくに地方の名門高校出身の父親は、中学受験を経験していないため、受験算数の解き方に非効率を感じている。しかし、受験算数は限られた条件の中で、工夫をしながら解くことに意味がある。その試行錯誤の末に、解けた喜びを体験し、学ぶ楽しさを知ることができる。小学生のうちから方程式という便利なツールを与えてしまうと、自分で工夫をする機会を奪ってしまう。小学生に必要な学びは、答えにたどり着くまでに「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤することであり、速く答えを出すことではない。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sunabesyou)

■できないのは、勉強量が足りないからだろ!

高学歴の親による弊害は、ほかにもある。両親ともに医師のBちゃん(小4)は、3歳のときにアスペルガーと診断された。しかし、両親はそれを受け入れられず無視してきた。でも、小学生になるとやはり周りとの差が出てくる。Bちゃんは文字や言葉に関しては天才的だが、数字は見るのもイヤ。

高学歴の親はプライドがあり、「わが子にかぎってそんなことはない」と思いたがる。Bちゃんの両親は、2人とも仕事が忙しい。必要なのは、家庭内の和やかな会話なのだが、その時間はない。そして、勉強はすべて家庭教師に丸投げだ。Bちゃんは言葉をよく知っているため、大人の言葉を何でも屁理屈で返す。学校の先生も、塾の先生も、お手上げだ。忍耐力のある家庭教師の言う事だけは、少しは実行できる。そんな調子だから、2時間の算数の授業も2問解ければいいほうで、効率的に勉強が教えられる状態ではない。ふだん、4教科を週4回のペースで受講しているBちゃんの家庭は、夏休みは授業回数をもっと増やして100万円以上の家庭教師代を支払った。しかし、このままでは成績は伸びない。

Bちゃんのケースは、特殊すぎるかもしれないが、高学歴の親が勉強でつまずいているわが子を見て、「なんで、私の子なのにできないのか」と思い、否定的な言葉を投げつけることはよくある。そういう言葉を投げ続けられた子供は、自己肯定感が下がり、勉強に対する意欲を生み出すことが難しくなる。

「頑張れば、おまえはもっとできる! できないのは、勉強量が足りないからだろ!」と根性論を押しつける親もいる。でも、それは父親の大学受験の成功体験がベースになっているのであって、小学生には通用しない。繰り返しになるが、高校生と小学生では、体力も精神力も違うからだ。そして何より、親子でも別の人格であることに気づいてほしい。

■おまえが甘いからじゃないか?

高学歴の父親の圧力は、専業主婦の母親にも重くのしかかる。Cくん(小5)の家は、家族代々東大卒の医者だ。父親も、祖父も、曾祖父も。だから、Cくんも東大に行き、医者になる人生設計があらかじめ組まれている。ところが、Cくんの成績は、難関中学にはほど遠かった。

「ひどい成績だな……。おまえが甘いからじゃないか?」

子供の成績が悪いのは母親のせい――。夫だけでなく、義父母、親戚からのプレッシャーに押しつぶされそうになる母親。そのストレスのはけ口は、自然と子供へと向かう。

「なんで、こんな点数しか取れないの!」
「なんで、できないの!」

母親のイラダチが、子供を傷つける。残念ながら、そういう環境にいる子は伸びづらい。小学生の子供の成績は、家庭環境が大きく影響するからだ。親が不在にしがちだったり、家にいても、いつもイライラしていたりすると、落ち着いて勉強ができない。極端な話、親が勉強を教えられなくても、いつもそばでニコニコ笑っていれば、子供は伸びていくものだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ziggy_mars)

■失敗させないと、子供は伸びない

学歴に関わらず、「わが子を失敗させたくない」と思う親が多い。あふれる情報の中で「これをやるといいらしい」「これをやったらよかった」などの有力情報をキャッチすると、すばやく行動に移し、子供にやらせたがる。

また、運動会でビリになったらかわいそうだから、走り方教室に通わせる。小学校で鉄棒の実技テストがあるからと、逆上がり教室に通わせる。小3の2月から始まる中学受験コースで、上位クラスでスタートしたいから、未就学児のうちから早期教育をさせる。何でもかんでも、先回りする親が増えている。Cくんの母親のように、子育てにプレッシャーを感じている親は、とくにその傾向が強い。

親はよかれと思ってやっているかもしれないが、たくさんの習い事をしている子は、受け身になりやすい。幼いころは、子供はとりあえず親の言うことを聞くしかないので、楽しみながらやっていないことが多い。

「○○に行けば、●●になる」「○○をすれば、●●になる」。因果関係だけを考えて、親は先走る。速く走れるフォームを教えても、脚力がなければ伸びないのだから、場当たり的にやらせているにすぎないのに。

ぼんやり歩いていたら、段差に気づかずに転んでひざを擦りむいた。痛かった。もうこんな思いはしたくない。そうやって、次は気をつけるようになる。でも、親からいつも守られ、手を差しのべられている子は、そういった経験ができない。人は、失敗をしないと伸びないのだ。

■仕事と子育ては、まるで別物

スピードと結果を求める父親と、失敗をさせたくない母親。どちらもわが子のためを思ってのことだ。しかし、何度も繰り返すが、小学生の子供は未発達なため、大人のように効率的に結果を出すことはできない。むしろ、たくさんの無駄を経験させることで、あとから伸びていく。無駄な経験の蓄積が、大切なものを選び取る能力を育てるのだ。

たとえば、幼児期に外遊びをたくさんした子は、さまざまな場面で、道具がなくても自分の経験と今あるものを組み合わせて工夫することができる。習い事に時間を奪われていない子は、いくらでも寄り道ができ、その中で美しい花を見たり、不思議な形の虫を発見したりする。1つひとつの小さな経験が知識となり、たとえば、理科の授業では、それらが別の知識と結びついて理解が深まっていく。

わが子の幸せを望むのであれば、幼児期にたくさん遊ばせ、小学生にはたくさん試行錯誤させることだ。高学歴で、仕事もできる親から見れば、非効率的に感じるかもしれないが、仕事と子育てはまるで違うことを肝に銘じてほしい。

(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 写真=iStock.com 構成=石渡真由美)

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