JKがこぞって読む"恋愛ポエム本"の中身
プレジデントオンライン / 2018年12月7日 9時15分
■「死ぬまで追いかけ回すけど」
今の若者はどんな本を読んでいるのか。今年2月に発表された「第53回学生生活実態調査の概要報告」(全国大学生協連実施)によると、1日の読書時間を「0分」だと答えた大学生の割合は53.1%だった。1日のうちにまったく読書をしない人の割合が半数を超えている。
しかし、この「本を読まない」世代をターゲットにした恋愛本が、いま密かなヒットを重ねている。そこに載っているのはこんなポエムだ。
――ニャン著『好きな人を忘れる方法があるなら教えてくれよ』(KADOKAWA)
こっちが病的に愛するからそっちは適当にフラフラして。適当にエサまいてくれればいいし好きに遊んで。死ぬまで追いかけ回すけど。
――みやめこ著『好きとか遊びとか本気とか浮気とか駆け引きとか、もうどうでもいいから愛してくれ』(KADOKAWA)
それぞれ別の書籍からの引用だが、いずれも恋愛に振り回されて思い悩む者の心情を代弁する内容だ。いずれの著者もツイッターで大量のフォロワーをもつ。「ニャン」(@radran10)のフォロワー数は約66万2700、「みやめこ」(@miyameko_chan)のフォロワー数は約32万3200だ(いずれも11月末時点)。ツイートの内容は、ユーモアや自虐を交えた自分の恋愛話や、恋愛に関する「名言」が中心。書籍は書き下ろしだが、ツイッターでの投稿と同様に独り言のような短い散文で構成されている。
■人気の「メンヘラ恋愛ツイッタラー」
こうしたアカウントはネット上で「メンヘラ恋愛ツイッタラー」と呼ばれている。「メンヘラ」とは、もともとは「メンタルヘルスに問題がある人」を意味するネットスラングだった。今では、精神疾患を抱えているかどうかにかかわらず、「考え方や性格が難儀な自分に苦労している人」といった程度のニュアンスでも使われている。
紹介した2冊のうち前者は発売3カ月強で6万部、後者は発売1年半で3万部を超えている。好調を受け、この2冊のような「メンヘラ恋愛本」が、ひとつのジャンルになりつつある。中心読者は10代後半~20代前半の女性。現在進行系で恋愛に悩んでいる世代に「リアルな言葉」として刺さり、ヒットにつながっているとみられている。
■モテ指南より「わかる」が大事
このジャンルにいち早く力を入れているのが、KADOKAWAだ。2017年4月から18年10月末までの1年半に「メンヘラ恋愛本」を6冊刊行している。その1冊目が、前出の『好きとか遊びとか本気とか浮気とか駆け引きとか、もうどうでもいいから愛してくれ』だ。担当編集の植田真衣さんは、「ツイッターのダイレクトメッセージで著者を口説きました」という。
「ツイッター発の恋愛本は数年前から好調でした。代表作は『僕の隣で勝手に幸せになってください』(蒼井ブルー著、2015年/KADOKAWA)や『だから、そばにいて』(カフカ著、2015年/ワニブックス)です。そうした状況の中で、“メンヘラキャバ嬢”を名乗るみやめこさんのツイートが面白いと思い、『本を書くことに興味はないですか?』と打診したんです。結果、発売1週間で大型重版がかかり、手応えを感じました」(植田さん)
その後、次々とツイッターから著者をスカウト。若い世代に支持されている人気アカウント発の本をつくるうちに、ジャンルが形成されていった。
■ネットより書店での購入割合が高い
ネットに親しんでいる10代前半~20代前半が読者層だが、まだクレジットカードを持っていない学生が多いため、ほかの書籍より書店での購入割合が高いという。
『好きな人を忘れる方法があるなら教えてくれよ』を手掛けた編集者・間有希さんは、「読者の中には、お小遣いを貯めて買ったという人、3~4軒の書店を回ってようやく手にした人、また『初めて自分のお金で買った本』という人も多く、本への思い入れが強いんです」という。
買った本の表紙や自分の心に響いた言葉のページを写真に撮り、著者宛にツイッターで感想と一緒にリプライを送る。編集側もそうした需要をくみ取り、表紙は「とにかくかわいくて、写真映えするもの」(植田)を意識した。写真に撮っても読みやすい、巨大な文字でごく短文を載せたページが差しこまれている本もある。いわば「フォトスポット」が設けられているわけだ。
「ツイッター発の著者は、短い言葉で伝える能力が非常に高いので、彼女たちの文章はこうしたデザインによく映えます。おもしろいのは、パソコンを持っていなかったり使い慣れていなかったりする著者が多いので、ワードやテキストファイルではなく、LINEで文章が入稿されてくることですね」(間さん)
若い女子がこうした恋愛ポエムにひきつけられるのは、なぜだろうか。編集者はこう分析している。
「読者にとって著者は言いたいことを代弁してくれる人。『わかる』『共感』というのが、彼女たちにとって重要なのです」(植田さん)
「読者層である若い世代は、何かに悩んだときの相談先はSNSだと考えている人が多いようです。“リア友”相手だとカッコ悪い、恥ずかしいという思いがあり、SNS、しかも裏アカウント(本名や実生活での知り合いとつながらないアカウント)のほうが本音を言える。著者には、そうしたアカウントから恋愛相談のリプライやDMも多く届くそうです」(間さん)
悩み多き時期に、自分の言いたいことを代弁してくれる本が人気を博すのは世の常。若年層女性を対象にしたヒット作といえば、2000年代初頭にヒットした『Deep Love』(Yoshi/スターツ出版)、『赤い糸』(メイ/ゴマブックス)などの“ケータイ小説”がある。メンヘラ恋愛本とケータイ小説は類似点が多い。
多くの書き手は読者と同世代の女性。主観が多く、一文は短く、顔文字や半音(ゎ)といった「特殊な表現」を共有している。そして思春期の女子の精神的な不安定さを言語化している。そうした不安定さは、ケータイ小説全盛期には「病み」と呼ばれた。
■「女子の8割がメンヘラ」の時代
ただし、同じ「病み」をテーマにしていても、当時人気だったケータイ小説作品が“主人公である少女のいじめや妊娠、自殺未遂”といった悲劇的で、大半の読者には当事者性の薄い内容だったのに対し、メンヘラ恋愛本が扱うのは「うまくいかない恋愛」という誰しもが通る普遍的な悩みだ。
「『好きな人を忘れる方法が~』の中でニャンさんが『女子の8割がメンヘラ』と書いているのですが、今はまさにそういった時代。もちろん度合いは人それぞれですが、若い子にとっての“メンヘラ”という自己認識はそれぐらい珍しくないという前提がある。『こういう本を買っている私もカワイイ』というぐらいまで、メンヘラという概念が変化しているんです」(間さん)
「恋愛で悩む(病む)」という普遍的な要素と、SNS時代の特色をつかんでヒットとなったメンヘラ恋愛本は、今後どうなっていくのか。KADOKAWAでは、メンヘラ恋愛本を含むSNS発の若い世代向け新レーベル「@night」を今年5月に立ち上げた。書店側もメンヘラ恋愛本の存在を認知し始め、売り場でフェアを展開する店舗も出てきたという。悩める女子を救う本は、今後も増え続けていきそうだ。
(ライター、編集者 佐伯 香織)
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