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"スマホ不通"また起きると断言できる理由

プレジデントオンライン / 2018年12月8日 5時15分

2018年11月5日、決算記者会見で話すソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。(写真=時事通信フォト)

■5時間弱、ソフトバンクの携帯が不通になった

「あれ、スマホ、つながらない?」

12月6日午後、ソフトバンクとワイモバイルのモバイルネットワークに、大規模な通信障害が発生した。ソフトバンクの発表によると、被害の対象は4G(LTE)ネットワークで、発生した時間帯は午後1時39分から午後6時4分だという。その間、両社のネットワークはもちろん、それを用いてサービスを提供しているMVNOやWi-Fiなどにも通信できない状態が生じた。

筆者の周囲でも、生き残っていた3Gネットワークへのトラフィックの集中などの影響で、少なくとも同日午後の間はまったく使えないという雰囲気だった。連絡が取れない、仕事にならない、目的地にたどりつけない……。こうした悲鳴や恨み節が聞こえたのはもちろん、モバイルSuicaやコンサートなどのデジタルチケット、金融や航空サービスの一部でも障害が生じていたようだ。

これは普及率が7割を超えたスマホが、都市部を中心に社会インフラとなっていることの裏返しであり、一方でNTTドコモやKDDIが正常にサービスを提供していたことから、日頃忘れられがちな「通信サービスの品質」へ久しぶりに注目が集まった事例だった。

■「証明書の期限切れ」でエラーが生じたと発表

今回の通信障害の理由は、ソフトバンクのコアネットワークを供給するエリクソンの機器トラブルによるものだと、両社からそれぞれ発表されている。

コアネットワークとは、基地局間を結び、通信サービスの根幹を形成するネットワークである。ここにトラブルが生じると、基地局(端末と直接通信をする、ビル屋上等に設置された無線局)や端末が正常に動作しても、通信はまったく成立しない。

本稿執筆時点では、トラブルの詳細な原因は明らかにされていないが、エリクソンからは第一報として、MME(Mobility Management Entity)と呼ばれるコアネットワーク機器のソフトウェアについて、「証明書の期限切れ」があったことでエラーが生じた、と発表されている。MMEとは、端末がネットワークに接続する(つまり通信サービスを利用する)ために不可欠な「コントロールプレーン」を制御する機器であり、これが正常に機能することがLTEサービスの大前提となる。

■世界11カ国で「同じタイミングに同じトラブル」が起きた

今回、このMMEをつかさどるソフトウェアの、さらにその前提である電子証明書(筆者註:執筆時点ではまだ詳細は発表されていないが、おそらくソフトウェアのバージョン管理に関する証明書ではないか)の期限切れが、エリクソンの多くの機器で起きた。

そのため、日本だけでなく、エリクソンの機器を利用する世界11カ国の通信事業者で、同じタイミングに同じトラブルが起きている。なかでも英国O2の障害は深刻で、復旧までにかなりの時間を要したようだ。

そんな深刻な事態が「証明書の期限切れ」という、ありふれた原因で起きた。それはつまり、パソコンやスマホのウェブブラウザで頻発するような現象と同じ理由で、インフラ全体が止まり、社会システムに幅広く影響が及んだ、ということだ。もし本当ならば、われわれはなんと脆弱な社会に生きているのか――。

そんな印象を抱くかもしれないが、実はその通りで、案外われわれの社会は脆くて弱いのである。

■金融、ヘルスケア、テレビ放送でも進む「IP化」

なぜ脆くて弱いのか。大きな要因は、われわれの社会がデジタル化(特にIP化)を進めていることに他ならない。IP化とは、インターネット・プロトコルを使ってシステムを構成するということだ。

インターネットの基盤技術は、インターネットそのものだけでなく、通信インフラを含めた多くの産業装置の制御に使われるようになっている。これは日本を含めた世界のメインストリームであって、日本でも金融サービスやヘルスケア、テレビ放送などもIP化が進みつつある。

このIP化は通信インフラでも大きく進み、すでにLTEネットワークはオールIP化を達成している。そしてインフラを支える機器にも、われわれが日頃使っているインターネット機器と同じような、簡便さや効率性がもたらされた。

それはすなわち、われわれが日頃引っかかるようなトラブルと同じような構造で、生活に重要なインフラが躓く時代が訪れたということである。

■「単純かつ致命的なエラー」はGoogleでも起きた

もちろんIP化といっても、通信機器がオープンなインターネットに「むき出し」になっているわけではない。またこうした事態に備えて、通信事業者や通信機器ベンダーはさまざまな対策を事前に講じてきた。

システムの冗長化や多重化、または複数ベンダーを採用して完全に別の系を作り出すことに取り組んでいる企業は多い(コスト削減を理由に取り組んでいない企業もあるが)。しかしそうした対策は万全ではなく、むしろ今回のような単純かつ致命的なエラーが、「そんなことは想定外なので結局は対策できなかった」という理由で起きてしまう。

実際、2017年8月25日には、Googleが間違った経路情報(ネットワーク間の接続に必要な情報)を誤って流したことによって、日本を中心としたインターネットの一部が数時間使えなくなるという事故も起きた。今回とは対象も構造も原因も異なるが、「びっくりするほど単純な間違いで、インフラがあっさり使えなくなる」という意味では、似たような話である。

12月7日現在、ソフトバンクのウェブサイトには「おわび」が掲示されている。

■デジタル化にともない「信頼」を再構築する必要がある

その意味で、今回5時間弱での復旧を果たしたソフトバンクとエリクソン・ジャパンの関係各位の努力には、一定の敬意を表したい。もちろん、総務省からの行政指導が想定される重大事故であり、彼らはその責任から免れない。だからわれわれが彼らを批判することは簡単だ。

しかし現時点では「事故は起きうるもの」であり、インフラ事業者とて万能ではない。だからこそ、事前対策だけでなく事後対応に向けた備えも、次善の策として重要なのだ。

デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、トラスト(信頼)を再構築する必要に、私たちは迫られている。そしてしばらくの間は、かつてのような社会システムの安定とは異なる状況を、ある程度は受け入れなければならないのかもしれない。

それでも、デジタル技術は最終的にさまざまな社会インフラの運用を自動化し、社会全体の効率化と便益の拡大を促していく。ここで「昔のほうが良かった」と言ってデジタル化に背を向けては、元の木阿弥なのである。

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クロサカ タツヤ
企 代表取締役、慶應義塾大学大学院 特任准教授
1975年生まれ。慶應義塾大学大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルタントを務める。2008年に株式会社企(くわだて)を設立。2016年5月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務。

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(企 代表取締役 クロサカ タツヤ 写真=時事通信フォト)

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