すり傷に消毒液を塗ると"治り"が遅くなる

プレジデントオンライン / 2019年1月10日 9時15分

京都大学・本庶佑特別教授のノーベル賞受賞で注目された小野薬品工業のオプジーボ。2018年11月からは薬価が下がり、今後の使用者拡大が予想される。

ノーベル医学生理学賞の受賞で注目を集めた新しいがんの免疫療法。がんだけではなく、身近な病気でも新しい治療法や薬が次々と現れている。いつも通っている病院での治療は果たして最先端のものなのか。医師に話を聞いた。

※本稿は、「プレジデント」(2018年12月31日号)の特集「本当にいい病院は、どっち?」の特集記事を再編集したものです。

■手術、抗がん剤、放射線に代わる新しい治療法

▼ガン

薬の「常識」が変わったといえば、肺がんの治療薬「オプジーボ」が話題をさらっている。呼吸器内科が専門の園田氏が言う。

「肺がんの治療は劇的に変わっています。学会のガイドラインも頻繁に変わっていて、専門医であってもキャッチアップするのが大変です。まず、ここ数年で分子標的薬が一般的になりました。簡単に言うと、がんが持っている分子だけを狙って攻撃する薬です。また、がんが持つ免疫から逃れる仕組みを働かせないようにして治療する薬も研究が進んでいて、その代表格がオプジーボなんです。1年で1000万円ともいわれる高額な費用のため患者さんのどの治療法を受けたいかの判断が慎重になりがちです。しかし、実際の肺がん治療では、治療開始までのスピードが大事。治療も薬も、セカンド・オピニオンを聞きにいくことは大切なものの、可能なかぎり早く治療を受けるほうが望ましい」

がんを根治するには手術で切ることが最初の選択肢に挙がるケースが多い。しかし、前立腺がんにおいては「切らない」という考えも有力になってきている。

「前立腺がんは手術だけでなく放射線治療でも根治が狙えるので、手術の後遺症が不安な人にとっては、放射線治療は有力な選択肢になります。また、悪性度の低い前立腺がんは寿命に影響しないことも多いので、すぐに治療を始めずに様子をみるという選択はしばしば行われています」(MEDLEY・斎木寛医師)

■最新版ステロイドの効果のある使い方

▼アトピー

同じように、アトピーの原因であるアレルギーについても、分子標的薬が使用されるようになった。ただし、「ステロイド薬や免疫抑制製剤を塗るのが治療法の基本なのは今も変わらない」と園田氏は言う。

「ステロイドはたしかに副作用があり、なかには過剰に嫌う患者さんもいらっしゃいます。しかし、あらゆる薬には大なり小なり副作用があり、アレルギーの病気にはステロイドが効果を発揮します。過剰投与はいけませんが、副作用に注意しながら上手に使っていくことがポイントです」

■定番「吸引」ではない新しい薬の投与方法

▼喘息

もう1つ、分子標的薬によって劇的に変わっているのが喘息の治療法だ。今までは吸入をして薬を肺に入れる治療がメインだったが、注射で分子標的薬を打つことができるようになった。しかし、やはり問題はコストにある。

「アレルギー物質を抑える薬が使われ始めています。ただし、このタイプの分子標的薬には副作用がありますし、1回数万~数十万円かかる薬を1カ月で1~2回注射することになります。これに対して、吸引薬だと1カ月で1万円以下ですから。実際に患者さんが払うのはこの額の1~3割とはいえ、どの治療法を選ぶかについては費用対効果も考えなければいけません。もちろん難治性の人が分子標的薬を使用することは問題はありません。治療の選択肢が広がったからこそ、多くの治療薬についてしっかりと知っておくことが大切です」(園田氏)

■「尿酸値は下げましょう」は最適解ではない

▼痛風

年末年始の飲み会が増えるビジネスパーソンも多いことだろう。そこで気になるのが痛風だ。発症を恐れて、健康診断で尿酸値を気にする人は多いだろう。しかし、この尿酸値でも論争が巻き起こっているという。園田氏が言う。

「かつて尿酸値は7.0mg/dLを超えたら治療して下げたほうがいいという考え方が一般的でした。しかし最近は、年に数回痛風の発作が出るだけなら、尿酸値を下げるのではなく、『痛みがあるときだけ薬を飲めばいい』という考え方も出てきています。いずれが正しいのか結論が出ているわけではありませんが、自分のライフスタイルと照らし合わせながら医師に相談することが望ましいと思います」

とはいえ、痛風が重症化すればQOL(クオリティオブライフ)は大幅に低下する。尿酸値を気にしなくていい、というわけではなさそうだ。

■「消毒」して、「乾燥」させるは昔の話

▼切り傷・すり傷

身近なところでは、傷の扱いも時代とともに変わっている。その最たるものが「乾かすのか、潤すのか」。園田氏と聖路加国際病院で循環器内科医として勤務する水野氏は「感染がない場合は、潤った状態にするほうがいいといわれています」と口をそろえる。園田氏が言う。

写真=iStock.com/AndreyPopov

「感染がないと判断される場合は、ほとんどの場面で消毒液もいらないかもしれません。柔らかくて敏感な部分があらわになっているところに消毒液のような刺激物が置かれると、細胞組織が壊れてしまい、かえって治りが遅くなる可能性があるからです。激しい傷にガーゼを使うことはありますが、日本は水道水が清潔なので、多くの場合はまず、傷口を水で洗い流すことが効果的です」

しかし、消毒液を塗る医師は「まだまだいる」(園田氏)と言う。

「昔はラップを使って湿気を閉じ込めたりもしていました。昔いた病院で、傷口にオロナインを塗ってラップを上から巻いて来院された患者さんがいました。これはリスクが高い。バイ菌感染が起きている場合は覆わないことも大切です。今はより適切に湿気を保つための絆創膏もドラッグストアなどで販売されています。時代が変わってきています」

■症状緩和ではなく、症状を出なくする最新治療とは

▼花粉症

毎年春になると話題になる花粉症についても、治療法は日々進化している。園田氏はこう話す。

「減感作療法が一般化したことが最大の変化です。減感作療法とは、アレルギーを起こす物質を少量から継続的に体に投与していけば、体が慣れていき、症状が出なくなるという治療です。舌の下に投与する薬剤が主流になりつつあります。ポイントとなる時期の受診は必要ですが、毎日のように通院しないでも、自宅で治療が可能です」

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園田 唯(そのだ・ゆい)
日本内科学会認定内科医
日本呼吸器学界専門医。日本赤十字社医療センター、静岡がんセンターなどでの勤務を経て2016年より現職。
 

水野 篤(みずの・あつし)
聖路加国際病院心血管センター・循環器内科QIセンター急性期看護学・臨床准教授。
2005年、京都大学医学部卒業。17年より現職。著書に『研修医のアタマと心とからだ』など。
 

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(伊藤 達也 撮影=研壁秀俊 写真=PIXTA、iStock.com)

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