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"トイレが清潔"なドラッグ店は価格も安い

プレジデントオンライン / 2019年1月21日 9時15分

(図表1)主な小売業態の市場規模推移(画像=小倉高宏)

利用者の満足度調査で「不動の2強」となっているドラッグストアがある。福岡を拠点に900店舗以上を展開しているコスモスと、関東圏で500店舗を展開するクリエイトだ。ドラッグストアの品揃えは、一見、どこも似通っている。なぜこの2店は圧倒的に強いのか。日本生産性本部の小倉高宏氏が「満足度調査」から秘密を探る――。

■ドラッグストア「不動の2強」

ドラッグストアの市場規模はコンビニ市場と同様、長期的に拡大し、この10年で約1.4倍にまで成長した(図表1)。2016年には百貨店の市場規模を上回り、2017年には6兆8000億円を超え、スーパーマーケットの市場規模(約13兆円)の半分を超えている。ドラッグストアの店舗数は約1万5000店舗で、コンビニ大手のローソン(約1万4000店舗)やファミリーマートの店舗数(約1万6000店舗)に匹敵する。

日本生産性本部・サービス産業生産性協議会(SPRING)では、主要なサービス業約400社を対象とした顧客満足度に関する消費者評価の総合調査「日本版顧客満足度指数(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index)」を毎年実施している。

ドラッグストア10社について、2017年11月から12月に、1社当たり約300人の実利用者(半年以内に2回以上利用)に回答を求めた結果、2017年度の顧客満足(以下、満足度)は1位がコスモス(本社:福岡)、2位がクリエイト(本社:神奈川)となった(図表2)。

(図表2)コスモスとクリエイトは1~2位の常連である(画像=小倉高宏)

九州を拠点に中四国や関西などで900店舗以上を出店しているコスモスの満足度1位と、関東圏に500店舗以上を出店しているクリエイトの2位は「定位置」である。競争が激しいドラッグストア業界で、コスモスとクリエイトが高い評価を獲得し続ける要因はなんだろうか。

■コストパフォーマンスの評価で1位

JCSIの6指標の一つに「知覚価値」がある。これは金銭的コストや手間暇の時間的コストに対する品質評価を意味し、いわゆるコストパフォーマンスに相当する。満足度が1位のコスモスは知覚価値でも1位の常連である。

知覚価値を点数化する際、3つの設問を合成して点数を算出している。その知覚価値の個別のスコアを見ると、コスモスは「支払金額に対する、商品・サービス・店舗・従業員などさまざまな点から見たドラッグストアの総合的品質」と、「他のドラッグストアと比べてのお得感」で1位であった。

■ドラッグストアなのに“食品”がPBのメイン

コスモスではどのようなものが販売されているのだろうか。コスモスには「ON365」というPBがある。ドラッグストアのPBというと、「医薬品」や「ヘアケア」等の「日用雑貨」のイメージがあるが、コスモスのPBは食品がメインである。コスモスはプライベートブランド(PB)等のオリジナル商品の充実性を聞いた項目で1位だった。

利用者が過去半年に購入経験のある商品カテゴリーをみると、ドラッグストアの10社平均とコスモスとの差が大きいのは、調味料やインスタント食品、アルコール飲料や菓子類、生鮮品、ソフトドリンクといった食品だ(図表3)。

(図表3)菓子・スナック類やインスタント食品が多い(画像=小倉高宏)

こうした食品がどの程度の安いのか。実際に山陰エリアで、販売価格を調べてみたところ、コスモスは6品目中、5品目で最安値だった。コスモスの安さはホンモノである(図表4)。

(図表4)ほぼすべての商品でコスモスが最安値(画像=小倉高宏)

■「野菜の種類が増えた」

自由意見には「オリジナルブランドが低価格であること。栄養ドリンクがその最たるものです(福岡・20代・男性)」「安かろう悪かろうかなと思いつつPB商品を試してみたところ、とてもよかったので、その後もちょくちょく買いに行ってます(大阪・60歳以上・女性)」といった、プライベートブランドを高く評価する意見が多い。

また「医薬品だけでなく食品が常に安い(和歌山・30代・女性)」「パンやお菓子なども豊富(福岡・40代・男性)」「野菜の種類が増えた(宮崎・60歳以上・男性)」「精肉まであること(岡山・50代・女性)」といった食品の品ぞろえを喜ぶコメントや、「地域で一番安いと思いますよ(香川・40代・男性)」「コスモスの値段は、いつも行くスーパーの安売りの値段と同じくらい(大分・60歳以上・男性)」といったコスパの良さを評価するコメントが多数みられる。

■「トイレが清潔」なコスモス

価格の安さや食品の品ぞろえ力がウリのコスモスで、利用者から高く評価されているのが「店舗空間」である。「店舗全体の清潔感」「トイレの清潔感」の項目で、最も評価が高かったのだ。実際にコスモスの店舗に足を運ぶと、店内の床はオープンしたての新店のようにピカピカと光沢があるため、明るく開放感を感じさせ、チープ感を抱きにくい。

また「商品を探しやすい店舗レイアウト」でもコスモスは1位で、買い回りのしやすさも顧客に支持されている。このようにコスモスは“小売業”で重要な要素とされる 「商品力」と「店舗力」が高く評価されているのだ。

利用者からは「お店の中がとても明るくキレイで、とても気持ちが良い!(福岡・20代・女性)」「トイレが綺麗で、使いやすい(福岡・40代・男性)」といった店舗の清潔さを高く評価するコメントや、「品物の陳列が見事に揃えられているし通路に不要なものがない(福岡・60歳以上・男性)」「品物の置き方がよいのかスムーズに買い物できる(宮崎・20代・女性)」といった買い回りのしやすさを評価するコメントが多数みられた。

■「身だしなみがよく礼儀正しい」クリエイト

JCSIの満足度で2位を維持し続けているクリエイトは、「ドラッグストアとしての信頼性への期待」の項目で1位だ。クリエイトが「信頼」「期待」といった項目で評価される秘密は、接客レベルの高さにある。「従業員の身だしなみ」「従業員の礼儀正しさ」は、ホテルやレストランのようなサービス業では「ウェルカム姿勢」として重視される。クリエイトはドラッグストアの「身だしなみ」と「礼儀正しさ」の両面で1位である(図表5)。

身だしなみがよく礼儀正しい従業員であれば、利用客は従業員に相談しやすくなり、話す機会が多くなるだろう。特にドラッグストアでは、調剤や市販薬、健康食品、サプリメントなどのカウンセリングは極めて重要である。それを測る、「従業員の知識」でも、クリエイトは1位である。また、「迅速な接客対応」「会計のスムーズさ」の評価も高い(図表5)。筆者自身もクリエイトを利用した際、レジで長時間、待たされた記憶がなく、クリエイトのスピーディーさは、コンビニのレジ精算に近いイメージを持っている。

(図表5)「従業員の身だしなみ」「従業員の知識」などでいずれも1位だった(画像=小倉高宏)

■自宅配送でも高評価

「商品配送の適切さ」でもクリエイトは高評価だった。クリエイトには、自宅まで届ける『お買い上げ商品配達サービス』や、重い荷物・大きな荷物を駐車場まで運ぶ『キャリーサービス』といった、ユーザーフレンドリーなサービスがある。小さな子供を連れた顧客や高齢者、体調の優れない顧客にはうれしいサービスだ。

レジの迅速さに加えて、駐車場や自宅までお届けしようというホスピタリティを合わせもつことがクリエイトらしい点である。クリエイトの従業員の印象が良く、詳しい知識を持ち、レジ精算・配送がスムーズであるということは、入店・商品選び・精算・配達といったサービスの各工程がタイムリーでシームレスに提供されているといえよう。

■「ていねい」と「早い」を両立

利用者コメントをみると、「どの店舗の店員さんも接客態度が良い(神奈川・50代・女性)」「スタッフのレジ対応の言葉使い、身のこなしの素早さ(神奈川・40代・女性)」「すごく丁寧なレジ、親しみやすい店員さん、すぐにレジが開いて精算が円滑(静岡・20代・女性)」といった声が多く、相反することが多い「ていねいさ」と「迅速さ」を両立していることがうかがえる。

また、「荷物を荷物台や車まで運んでくれる(千葉・60歳以上・女性)」「子連れで行くと買い物カートを荷物台まで運んでくれる(東京・30代・女性)」といった「キャリーサービス」を喜ぶコメントや「薬剤師の方が親身になって相談に乗ってくれて安心できた(静岡・30代・男性)」「欲しい商品があるとすぐに取り寄せてくれる(静岡・60歳以上・女性)」といった、地域密着の顧客対応を称賛するコメントもみられる。

■地域密着で親切な対応を重視

クリエイトの募集・採用のページには「あなたにとってかかりつけのドラッグストアでありたい。お客様との心暖まるエピソードをご紹介いたします」との記載がある。店員の接客エピソードが紹介されているのだ。

そもそも、小売業のホームページに接客エピソードを掲載する会社は珍しい。それに加えて驚くのは、エピソード数の多さである。「ストローが、なかった」「大切なハタチのお客様をお待ちしていました」「おばあちゃんのガラガラも……」などと題されたエピソードが、実に16タイトルもある。

趣向を凝らしたクリエイトのエピソード集が、お客様向けのページではなく、人材採用のコンテンツとして掲載されている。これは仕事の魅力、やりがいのアピールはもちろん、地域密着で親切な対応を重視する経営方針をとっているメッセージであり、ホスピタリティへのコミットのあらわれである。

■“小売業”なコスモス、“サービス業”なクリエイト

売上高が5580億円(2017年度)で、900店舗を越えるコスモスの店舗網は、南は鹿児島から北は福井、東は岐阜・愛知に及び、展開エリアを東へと広げている。今後、店舗の清潔感で高評価を維持し続けるには、店舗年齢の古い店の改装、店舗数増加に伴う従業員確保、エリア拡大にともなうロジスティクス(物流体制)の整備と物流コスト負担が経営課題になるといえる。

一方、売上高が2662億円(2017年度)で、関東圏に500店舗以上を展開するクリエイトの課題は、長期的な人手不足のなか、「量的」な従業員数の確保と「質的」な接客スキルの向上を続けるとともに、従業員満足向上によるリテンション(人材定着率向上)により、「クリエイトらしさ」を保ち続けることだ。

清潔感ある「店舗力」と低価格の「商品力」が強みの“小売業”コスモスと、接客サービスの迅速さやホスピタリティが高評価の“サービス業”クリエイト。コンセプトが明確な両社の「らしさ」は全く異なるが、競争の激しいドラッグストアにおいて、今後も1位~2位の満足度評価を維持し続けられるか、2019年2月発表予定の2018年度調査結果に注目である。

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小倉 高宏(こくら・たかひろ)
日本生産性本部 主任経営コンサルタント
コープこうべに入社1年目で営業所トップ成績、2年目で全営業所およそ1000人中トップ成績を誇ったカリスマ営業マン。2008年から現職。小売・サービス業の現場に明るく、市場分析や経営指導、従業員育成を行っている。関西大学社会学部卒、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(経営管理修士:MBA)。著書に『経営コンサルティング・ノウハウ 5 マーケティング』(中央経済社)。

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(日本生産性本部 主任経営コンサルタント 小倉 高宏)

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