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中国が世界一を諦めるまで貿易戦争は続く

プレジデントオンライン / 2019年1月18日 15時15分

自民党・三谷氏とセッションするノーキスト議長。

2018年12月、全米最大の税制改革組織のトップ、グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長が来日し、Japan-USイノベーションサミット「自由経済懇話会2018」に登壇した。ノーキスト議長は米中摩擦が起きるとの予測を17年中に出し、完璧に的中させた共和党保守派の重鎮だ。

同シンポジウムは三谷英弘衆議院議員(自由民主党外交部会副部会長)とのセッション形式で、本記事の構成者である渡瀬裕哉氏(事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員、米国政治専門家)がモデレーターを務めた。三谷氏からは中国などの国家資本主義に対抗する問題意識が語られるとともに、ノーキスト議長との積極的な議論が交わされた。

米中摩擦は今後、どう展開されるのか。トランプ大統領は次期大統領選挙予備選で勝つことができるのか。プレジデント誌はノーキスト議長にインタビューした。

■トランプが勝てた本当の理由は「減税」

トランプ大統領が行った政策の中で最も評価されるべき実績は減税政策であることは間違いない。実際、同政権が実施した法人税35%から21%までの引き下げは18年の米国経済に非常にポジティブな影響を与えており、米国の国際的競争力が向上した。トランプ政権下で経済成長率は年率3%の伸びを達成しており、直近6カ月では4%という数字を実現している。オバマ政権で政権末期にかけて徐々に経済成長が鈍化してきたことと対照的である。

トランプ政権が断行してきた法人税減税は米国企業の設備投資を促進するとともに労働者の雇用・所得を改善している。また、海外に留保された企業の利益に対する課税を引き下げたことで米国内に資金が還流してきている。

一連の減税政策の影響によって、米国企業では給与やボーナスの引き上げが行われている。それと同時に、株式や不動産などの資産価格も値上がりしてきている。19年以降も米国はさらに力強く成長していくことになるだろう。

■共和党が主導権を握る州では減税政策を進めやすい

われわれ(全米税制改革協議会)はトランプ政権の最初の2年間で大きな成果を上げてきたが、米国政治において税制改革・規制廃止の観点から、われわれは国政レベルの政局だけではなく全米50州の地方レベルでの州知事・州議会の動向も注視している。

グローバー・ノーキスト●1956年生まれ。ハーバード大学卒。全米税制改革協議会議長。共和党の税制改革に対して最も影響力を持つとされる。

米国は州政府によって全く異なる税率を持っており、納税者は高税率の州では苦しみ、低税率の州では喜んでいる。トランプ政権は連邦税を変えることに成功したが、今後は各州の減税を実現していくことが重要だ。現状としては共和党が主導権を握っている州では減税政策を推し進めやすく、規制廃止についても同じことが言える。

地方レベルでの政治改革は実は大統領選挙にも影響を与えている。

大統領選挙時にラストベルトの製造業地帯の衰退が共和党支持者の増加原因とされた。同地域の衰退は国際競争の影響を受けていることも確かだが、実は米国内での地域間競争に敗北したことの影響も大きい。ラストベルトは工業化が進んだ地域であったが、民主党や労働組合の影響力が強く、地場産業に対し税金や規制による破壊的な打撃が加えられ続けてきた。

そのため、それらを嫌った企業が米国南部の共和党が強い州、特に労働権法などの労働組合の力を弱める州法が存在する地域に生産拠点を移してきたのだ。

同地域での現状に対する不満が強まった背景には、米産業が立地競争に敗北する政治を行ってきた民主党への憤りがある。トランプ政権によって連邦税が引き下げられたため、今後は各州の税率や規制などに相対的に注目が集まることになり、一層の改革を求める声が強まるだろう。

われわれは常に全米50州の州知事・州議会の勢力状況をマップ化してチェックしており、各州に対するきめ細かな選挙戦略の落とし込みをしている。

中国の不公正なルールを変えるための貿易戦争なども必要だろう。20年前に中国の貿易環境が是正されていた場合、現代にトランプ大統領が米国民から求められたかどうかはわからない。

■中国政府は自由市場のルールを侵害している

中国政府が行っている知的財産の強制移転や知的財産の窃盗行為などは、自由市場のルールを侵害しており許されるべきではない。私はあまり好きではないが、大統領は関税を使って交渉の戦術にしている。中国は最終的には何らかの合意を行うことになり、トランプ大統領は早々に合意が得られた旨の宣言を行うことになるだろう。

写真=iStock.com/Goldcastle7

関税は米中の消費者が負担するものであり、米中双方が関税をかけあうことは世界経済への影響も大きい。現状においても合意が得られるか否かによって株価が敏感に反応しており、経済成長を継続していくためにも貿易戦争の収束は必要不可欠である。

今般の米中摩擦は19年後半以降なあなあに決着する。しかし、中国が世界経済の覇者にはなれないということを受け入れるまで、対立は続く。

共和党が保護主義になったとメディアが報じることもあるが、私たちは関税をなくすことに賛同している。たしかに、経済学者の中には自由貿易を否定する人がいるが、彼らは非常に視野狭窄な人々である。貿易だけを特別視することは間違っており、減税を行うことに賛同するなら自由貿易も重要である。

■米国だけでなく中国がTPPに入る可能性もある

また、トランプ大統領は一見してTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に厳しい主張を持っているように見えるが、TPPに将来的に復帰する可能性はあるだろう。TPPの基本理念はアジアの同盟国と連携して正しい方向に進むことを意図しており、われわれはできるだけ多くの国と自由貿易協定を結ぶことがいいことだと考えている。仮に中国がわれわれと同じ方向に進むというなら中国すらTPPに入る可能性があるかもしれない。

トランプ政権はNAFTA(北米自由貿易協定)についても批判してきたが、現在はUSMCA(新NAFTA)という別の名称で合意を得た。同協定の修正内容を見てもトランプ政権が自由貿易自体を必ずしも否定していないことがわかると思う。実際に、どこまで進むかは予断を許さないが、欧州との間でも関税ゼロ、非関税障壁撤廃、補助金の削減などで議論が進んでいる。

TPPの内容が知的財産権などを含めてよりよい内容に修正できるなら、TPPに米国が戻ることも十分にありうる。実際、米国においてもTPPに近しい形の貿易協定への復帰に向けたロビー活動が活発に行われている状況となっている。中国などの国家資本主義に対抗するための最良の方法は小さな政府を実現することである。減税や規制廃止を行うことで経済の活力が創造され、結果として競争に打ち勝つことができる。

■トランプは大統領に再選できるのか

19年以降の米国政治のテーマにはインフラ投資が浮上することになるだろう。トランプ大統領は米国の有権者にインフラ設備をリノベーションすると約束している。共和党の考え方は民主党のインフラ投資の考え方とは異なる。共和党は空港や港などの人のアクセスを恒久的に改良する政策を実行するのに対し、民主党は一瞬の雇用をつくり出すために無駄な建設を行うことを求めて税金を引き上げていこうとしている。

1つ事例を挙げるならば、民主党が炭素税などの環境税の導入を求める場合、われわれは対案として公共交通機関を整備することで、米国民の交通アクセス改善と増税回避の同時実現を主張するだろう。

20年の大統領選挙については、まずトランプ大統領は共和党内の大統領候補者を決める“予備選挙”で自党内からの挑戦者を退けることが必要だ。16年大統領選挙に際して、トランプ大統領は共和党内での激戦を制することで自党からの指名を獲得した。

20年の予備選挙では、党内からの対抗馬として、オハイオ州の前知事であるジョン・ケーシック氏、12年大統領選挙の共和党候補者であったミット・ロムニー氏などにもチャンスがある。最終的には売名目的も含めて20人以上の人々が予備選挙に名乗りを上げてくることになるだろう。民主党側の予備選挙も事情は同じであり、多数の候補者が乱立する見通しだ。ジョー・バイデン元副大統領、民主社会主義者のバーニー・サンダース氏、そしてヒラリー・クリントン氏などの著名な人々の名前が挙がっている。

若者の間では学校教育などの影響を受けて、歴史を知らず社会主義の脅威を理解していない人々が増えてきている。米国メディアはベネズエラや北朝鮮などの社会主義国の問題を報道する責任があり、今こそ近代史を学び直す重要性が高まっていると言えよう。

(全米税制改革協議会議長 グローバー・ノーキスト 構成=渡瀬裕哉 撮影=原 貴彦 写真=iStock.com)

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