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"商社マン妻"まさかの下流転落の恨み辛み

プレジデントオンライン / 2019年1月17日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mmac72)

67歳のある女性は、3年前、元大手商社マンの夫と離婚し、約40年間の専業主婦生活にピリオドを打った。以前はお金に不自由ない優雅な生活だったが、今では経済的に困窮している。相談を受けたファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは「離婚の原因は、女性が経済的自立を模索したこと。元夫はそれが嫌だったようで、とんでもない話だ」と憤る。専業主婦が“アンダークラス”に落ちる条件とは――。

■なぜ裕福な専業主婦が“アンダークラス”に落ちるのか

「お金持ちの男性と結婚して、一生安定した裕福な生活を送る」――。

世の中には、そんな「人生の勝ち組」を夢見る女性も少なくないだろう。また、夫がお金持ちではなく玉の輿と言わないまでも、「結婚して、仕事なんか辞めたい」「もう働きたくない。憧れは専業主婦」という女性の声は、いつの時代でも聞こえてくる。

そんな女性にとって、昨年12月、プレジデントオンラインで公開された記事「"結婚したら専業主婦"は下流への入り口」は、衝撃的だったに違いない。筆者である早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授によると、結婚後、夫との離別・死別によって「アンダークラス」(専門職とパート主婦を除いた低所得の非正規労働者)に転落している女性が相当いるという。

「憧れの専業主婦」に潜むリスクなど、その詳細については本文をご一読いただくとして、具体的なデータに基づいた内容は、ファイナンシャルプランナーとして、さまざまな家計の相談を受けている立場から、うなずける面が多々あった。

■専業主婦の妻が抱える「5つのリスク」とは?

確かに、専業主婦というポジションは不安定で危険と隣り合わせにある。

特に経済的リスクに関して、自分自身に実収入がなく、結果として「夫に食べさせてもらっている」状況だ。自身の生活基盤を夫の収入に100%依存しているということになる。

これは専業主婦が無価値ということではない。家事・育児はれっきとした仕事だ。しかも、かなりの労力を要する。ただ、それにより収入は得られない。こうした状況で、最低でも5つのリスクが考えられる。

(1)夫の愛情がなくなって浮気されるかもしれないリスク。
(2)夫が病気やケガで働けなくなって収入が減るかもしれないリスク。
(3)夫がリストラされて失職するかもしれないリスク。
(4)夫が死亡するかもしれないリスク。
(5)妻の状況の変化によるもので、妻に愛情がなくなって、離婚したくても経済的な理由から我慢を強いられることもあるかもしれないリスク。

■セレブ妻が自立を意識しはじめた途端、夫の嫌がらせが……

最近、ファイナンシャルプランナーとして強く思うのは、夫との死別・離別などによって、経済的に困窮する専業主婦からの相談が明らかに増加傾向にあるということだ。

いったい、なぜなのか。

実は、他人から見れば裕福で安定していた専業主婦が、ある日、「専業主婦の座にのうのうと居座っているのは高リスクなのではないか」とふと思い立ち、「自立」を意識しはじめた途端、夫から嫌がらせや妨害を受けて、離婚せざるを得なくなったケースが少なくないのだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

東京都内在住の島田マリエさん(仮名・67歳)は、3年前に離婚が成立して、現在、賃貸マンションにひとり暮らしをしている。

元夫は大手商社勤務で、マリエさんも、子どもが小さい頃は、欧米やアジア圏内など駐在員の妻として転々としていた。3歳年上の夫(現在70歳)とは、24歳のときにお見合いし、結婚した。「今思えば、本当に世間知らずだった」とマリエさんは言う。

「短大を卒業した後、地元の企業に就職しましたが、結婚を機に寿退職。1年後に長女を出産し、家族3人そろってしばらくは海外での生活が続きました。それから、娘が中学校に入学する前に、いったん家族全員で日本に帰国し、以後は、海外赴任になれば夫が単身で渡航することに。海外に駐在していた頃は、お手伝いさんを雇い、海外のお客さまを自宅にお招きしてホームパーティーを開いたり、駐在員の妻同士のお付き合いをしたり。経済的にとても恵まれた生活でした」

■夫は一切の生活費を口座に振り込まなくなった

しかし、マリエさんが40代後半になったくらいから少しずつ状況が変わってきた。娘が成長して時間に余裕ができたマリエさんは、海外にいた際、趣味で習っていたクラフトアートの活動を始めた。

もともと手先が器用だったマリエさんは、独特の世界観で作品を発表するようになり、周囲から高く評価されるようになった。その結果、知人の紹介で、カルチャーセンターのアート講座の講師を務めるようになり、収入も得るようになったのだ。

もちろん、これまで通り、家事や育児にも手を抜くことなく、きちんと主婦業もこなしているつもりだったが、作品の発表会などが近くなると、製作活動に没頭する時間が増えるようになった。夫はこれが気にくわなかったらしく、何かにつけ嫌みを言ったり、作業の邪魔をしたりするようになった。

そんな生活が10年以上続いた後、再び夫が単身で海外赴任をしたのをきっかけに、夫は一切の生活費を口座に振り込まなくなったのだ。

仕事をしているとはいえ、それで自分と娘が食べていけるほどではない。たちまち生活に困ったマリエさんは、弁護士に相談し、調停の申し立てを行うことになったが、最終的に、離婚が成立するまでに5年以上もかかったという。

「ずっと、夫と娘のために尽くしてきて、自分のやりたいことが見つかって、それに夢中になったのがそんなにいけないことだったのでしょうか?」

■「商社マン妻」を経済的困窮に陥れた「夫」の無責任

現在、マリエさんの主な収入は、夫からの年金分割で受給できることになった年金など月15万円ほど。商社で働いていた夫の給料は高く、マリエさんが受け取っていた生活費も少なくはなかったが、子どもの教育費や贅沢が当たり前の生活で、毎月すべて使い切っていた。その上、まさか、将来離婚することになるとは思ってもみなかったので、貯金もしていない。また、離婚が決まった時にわかったことだが、夫にもほとんど蓄えがなかった。こちらも負けず劣らずかなりの浪費家だったようだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/tomazl)

退職金およそ3000万円は2分割したが、マリエさんの分は、実親の老人ホーム費用や治療費、葬儀や墓を作る費用などで多額の費用がかかり、残るお金は300万円程度。現在、家賃約23万円の賃貸マンションにひとりで住んでおり、このほかトランクルームなども借りていて毎月大赤字なので、その貯金もじき底をつく。

そうした経済的な不安に加え、マリエさんはいくつか持病などもあり、定期的な通院も欠かせず、その医療費はバカにならない。筆者は、毎月の収入の3割程度である4~5万円程度の 賃貸物件への引っ越しを提案した。というのは、クラフトアートの活動で一定の収入があるものの、材料費や個展を開くための費用などがかさみ、収支は常にマイナスだからだ。年齢的に収入を増やすよりも、まずは、家計で大きな割合を占める住居費のコストを抑えるのが先決である。

「自分の好きなことができる喜びは何物にも代えがたく、充実した日々を送っている」とマリエさんは言うのだが、夫との離別によって「アンダークラス」に転じてしまったのは誰が見ても明らかだ。結婚して専業主婦となった頃、将来にこんな人生が待っているとは考えもしなかっただろう。「私の人生はこんなはずではなかった」。そう感じているに違いない。

■「アンダークラス落下組」をこれ以上増やしてはならない

今、マリエさんと同じように結婚して仕事は辞めたものの、子どもが成長したことで再び働きに出たいという女性は大勢いるし、結婚してからもずっと共働きという女性も少なくない。

マリエさんのような「アンダークラス落下組」が少なくない状況の中で、女性が結婚後も仕事を持ち収入を得ようという動きは、前述したリスク回避につながることだ。ただ、妻が働きに出る場合、夫や子どもなど家族からの協力や理解が欠かせない。

日本において、かつて主流だった専業主婦世帯に代わり、共働き世帯が増加している。しかし、「共働き世帯」は増えたけれども、「共働き社会」になったとは言えない。

共働き社会を実現させるためには、保育施設や家事支援サービスの拡充、放課後の児童クラブの整備、女性の働き方に中立な税・社会保障制度の見直し、女性登用の「見える化」など、社会的なバックアップは必須である。そして、それ以上に重要なのは、「夫は外に出て働き、妻は家を守る」といった固定観念の意識改革だ。

マリエさんのような「アンダークラス落下組」をこれ以上増やしてはならないと思う。

(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子 写真=iStock.com)

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