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「NGT事件」なぜ秋元康は謝罪しないのか

プレジデントオンライン / 2019年1月21日 15時15分

2018年1月8日、NGT48劇場2周年を記念したコンサートで歌うメンバー(写真=時事通信フォト)

■AKB商法の「闇」の一部があらわになった

おかしな事件である。

一見、単純なストーカー事件のように見えるが、秋元康がプロデュースしてきたAKB商法なるものの「闇」の一部があらわになったと、私は思う。

週刊文春(1/24号)によれば事件のあらましはこうだ。

新潟県を中心に活動をしているNGT48というグループがある。AKBグループには日本国内6グループ、日本国外6グループがあるが、NGTは5番目にできたそうである。

事件が起きたのは12月8日夜。新潟駅の近くで、すべての窓にフィルムを貼ったフルスモークの小型バスが停車した。

「バスから降りたのはアイドルグループNGT48のメンバーD子。劇場公演を終え帰途につくところだった。バスが発車すると熱心なファンであるC(20代の大学生=筆者注)がなれた調子で声をかけた。

『まほほん、バスにまだ乗っているの?』

D子がうなずくと待ち伏せる仲間に、今まさに山口(真帆・23=筆者注)が送迎バスに乗車している旨を報告」(文春)したというのである。

■山口が無事だったのが“奇跡”

Cから連絡を受けたAとBは、NGTのメンバーの1人が以前住んでいた寮(単身者向けのワンルームマンション)の対面の部屋で待ち構えていた。山口が帰宅して部屋のドアを開けたところで、Aが声を掛けた。

驚いた山口が悲鳴を上げた。するともう一人のBが慌てて出てきて、山口の口をふさごうとしたそうだ。山口はスマホで助けを呼んだ。数分後、親しいメンバーが駆け付けてくれた。

パニック状態になっている山口と、襲った男2人を外に出し、近くの公園へ移動したという。

「公園でも山口は興奮状態にあった。Cも連絡を受け、公園に駆け付けた。しばらく口論が続き、ようやく警察と今村支配人(悦朗・運営会社AKS=59)がやってきたそうです」(文春)

A、B、Cの3人は警察に連行された。被害届が出され、翌9日に、暴行容疑でAとBは逮捕されたのである。この記述が正しいならば、彼らのやった行為は明確な犯罪である。山口が無事だったのが“奇跡”というべきであろう。

だが、ここから事件は不可解な様相を呈するのだ。

■警察とは思えない「配慮」の仕方

新潟県警は、この事件の広報文を出したが、内容は県警記者によるとこうだったという。

「新潟市内在住のA(25・無職)とB(25・大学生)が、市内在住の女性(23・自営業)に暴行し逮捕された」

これでは記者たちの関心を引くわけがない。なぜ、県内トップの人気を誇るアイドルグループの1人が暴行されたと発表しなかったのだろう。

しかも、後述するが、彼らはアイドルグループを狙う半グレ集団のような連中なのである。一罰百戒をモットーとする警察とは思えない「配慮」の仕方だ。

その上、AとBを20日間拘留していたにもかかわらず、検察は「不起訴」にしてしまうのだ。

これだけの事件が起き、彼女たちの警備体制に問題があったのは明白なのに、今村という支配人らは、ダンマリを決め込むだけだった。

■なぜ被害者である女性に謝罪させたのか

事件が明らかになったのは1カ月もたってからだった。しかも当人の山口がツイッターに、「私は先月公演終わり男2人に襲われました。あるメンバーに公演の帰宅時間を教えられ、またあるメンバーに家、部屋を教えられ、またあるメンバーは私の家に行けと犯人にそそめかしていました」(原文ママ)と窮状を訴えたのである。

事件直後から不仲と噂されていた太野彩香(21)と西潟茉莉奈(23)をツイッターのフォローから外したため、2人の関与が疑われた(文春によると、2人は県警に事情を聞かれたが、事件とは無関係だったという)。

NHKをはじめメディアが一斉に報じ、取材に動いた。

だが、AKS側は「担当者が不在」だとして、何も説明しなかったのである。多くの10代、20代前半の女の子を抱えている事務所とは思えない無責任で当事者意識の欠如した対応だ。

1月10日、公演で山口自らが、「たくさんお騒がせしてまことに申し訳ありません」と謝罪したが、当然ながら、なぜ山口に謝らせるのだ、彼女は被害者ではないかという批判が巻き起こった。

仕方なく、ようやく14日になって、AKSの松村匠運営責任者兼取締役と、今村ではなく、新たに支配人になった早川麻依子が謝罪したが、AとBはすでに不起訴になっているのに「警察の捜査」を理由に詳細な説明を拒み、今村の交代は「引責ではない」といい放ったのである。

■「根源的に生身の少女たちを危険に晒す危うさを内包」

松村は会見で、秋元康から「メンバーをケアすることを考えなさい」と叱責されたと明かしたが、冗談ではない。

「そのビジネスモデルは根源的に生身の少女たちを危険に晒す危うさを内包している」(文春)のである。「秋元、出てきて謝れ!」という声が出て当然だろうと思うが、新聞やスポーツ紙、テレビ、週刊誌からもほとんどそうした批判は出てこなかった。

絡まった事件の謎を解いていくことにしよう。

まずは、Aたちが所属していたグループとは何か。文春によれば、NGTメンバーの中井りか(21)が、20代のZという男と半同棲生活を始めたそうだ。

このZという男、「もともとZは大阪のNMB48を振り出しに名古屋のSKE48.そして中井目当てでNGT48へと拠点を移した。最終的には新潟に移住した、筋金入りのアイドルハンターなんです」(古参ファン)。Zはパチスロやチケットの転売で荒稼ぎして、仲間と組んでライブで最前列を確保し、自分を「推しメン」に認知してもらうというやり方で、獲物を物色するという。

Z軍団と呼ばれる彼らの悪質なやり方に、もともとのファンからは煙たがられていたが、今村支配人は、Zらがたくさんのカネを使う「太い客」なので黙認していたという。

■彼女たちを「カネ儲けの手段」としか考えていないのか

山口を襲ったBは、握手会で一度に30万から50万も使っていたとNGTの関係者が話している。

しかし、ここ1年半ほど前から握手会に顔を見せなくなったそうだ。E子というメンバーをプライベートで自宅に泊めるほど親密な関係になったのが理由だと、Z軍団の知人が語っている。

そうしたつながりから、今度は山口を軍団の女にしようと考えたのではないのか。

これだけ見ても、AKBを始めとした多くのグループが、相当危うい環境で働かされていることが分かろうというものである。

彼女たちは研究生を含めて現在42名いるそうだが、「スタッフは支配人以下十名前後という体制で、連日公演を行っていました」(地元担当記者)。警備体制などなかったに等しいのだろう。

2014年には、岩手県で開催されたAKB48の握手会で、のこぎりを持った男が切りつけ、メンバー2人とスタッフを負傷させるという痛ましい事件が起きている。

FLASH(1/10号)によると、昨夏には、NGTの荻野由佳(19)が、レッスンの帰りに襲われ、クルマに連れ込まれそうになったことがあったという。彼女たちをカネ儲けの手段としか考えていないといわれても致し方ないのではないか。

■NGTは「今村帝国」と呼ばれていた

今村支配人というのは、テレビ業界出身で秋元とは旧知の仲。秋元が声を掛けてAKSに入社したという。

秋元の威を借りて、「態度も傲岸不遜」(地元担当記者)で、超ワンマン。NGTは「今村帝国」と呼ばれていたそうである。

だがしょせん秋元の傀儡なのだろう、事件が起きると説明責任も果たさず、慌てて逃げてしまった。一部の報道によると、本社へ戻ったというが、無責任体制ここに極まったというべきだろう。

件の山口は青森県八戸市出身で、15年から親元を離れて寮生活だというが、こんな危ないところに大事な娘を置いておいてはいけない、そう私は思う。

■2人がストーカー化する恐れはないのか

次の謎は、新潟県警が逮捕して20日間も拘留したのに、検察はなぜ不起訴にしたのだろうか。フライデー(1/23号)は、新潟警察署・梅田毅副署長のこんな言葉を載せている。

「いろいろ、思うところはあります」

12月末に2人は釈放されているが、住居侵入でもあるし、山口の住所がバレているから、不起訴になったことをいいことに、また襲うということも考えられる。

2人がストーカー化する恐れはないのかというフライデーに対して、

「男女間のトラブルである以上、そういう恐れも含めて、すべてのことを想定して対応をとっていますよ」(梅田副署長)

接近禁止令は出したのか?

「警察が何をやっているか、というのは話せません。(犯人に)そこを突かれることになりますから」(同)

どうして不起訴なのか?

「(起訴・不起訴は)地検が判断することですから。(中略)悪意があるか、ないかとか。我々は捜査をして送致しました。事件は終結しています」(同)

事件が注目され、「警察の対応がおかしい」という意見も出ているが。

「思うところはあります……」

桶川で起きた「ストーカー殺人事件」を持ち出すまでもなく、ストーカーに困って警察に相談したが、とりあってもらえず、無残に殺されてしまったケースはこれまでも多くあったではないか。

悲劇を未然に防ぐ。そのためにストーカー法ができたのに、この対応では、当事者たちは安心していられないと思う。

■10代の女性たちの「性」を売り物にする国

それに、今回のケースは、男たちが寮の中のメンバーの部屋に入って待ち伏せしていたというのだ。

勘繰りすぎだといわれるかもしれないが、秋元康は安倍政権と親しいと噂されているし、東京五輪の組織委員会理事にもなっていることで、警察や検察が「忖度」したという可能性もまったくないとはいい切れないのではないか。

または、事務所側がこれ以上騒ぎが大きくなることを恐れて、山口にいい含めて被害届を取り下げさせたのではないのか。

話は変わるが、援助交際、ブルセラショップ、メイド喫茶、JKビジネスという言葉から、読者の皆さんは何を想像するだろう。

日本ほど10代の女性たちの“性”を売り物にして、客を引き、カネを儲ける商法が大っぴらにまかり通っている国は、欧米先進国にはないと、私は思う。

AKB48商法もこの延長線上にあるといってもいいのではないか。

■AKB48が「キャバクラ」と同じやり方をする理由

かつてアメリカのCNNの記者が、秋元にインタビューした際、こう聞いたという。

「日本社会には現在、若い子たちの性的な搾取が多いとの声もあります。あなたが手がけたミュージックビデオにも、制服やビキニ、セクシーな下着に身を包んだ女の子たちが、お互いの顔をなめたり、キスしたり、お風呂に入ったりという表現があります。ご自身も、この問題に関与していると思いますか?」(J-CASTニュース2012年1月16日より)

もちろん秋元は、即座に「思わないですね」と答えている。

だが、AKB商法は、会える、触れられる(握手)アイドルというのが、秋元が考えたコンセプトである。

私の友人で、60半ばになるアイドルオタクが、「AKB48は、もともとキャバクラをやっていた戸賀崎智信が秋元と組んで始めたもの。だからキャバクラと同じやり方をやっている」と教えてくれた。

握手券を売り、CDを買えばAKB総選挙に投票できるカネカネカネという商売のやり方は、なるほどキャバクラ的である。

秋元は、歌はそれほどうまくない、踊りも容姿もそこそこの女の子たちに、私でもテレビに出られる、アイドルになれるかもしれないという夢を与えた。また、ちょっとかわいい隣の女の子とチケットを買えば握手ができるという“疑似恋愛”システムは、寂しい若者やおじちゃんたちにも夢を与えた。

だが、キャバクラでも、カネを貢いだのに靡(なび)いてくれないため、刃傷沙汰が起きることがたびたびあるように、10万人に1人でもよからぬ下心を持つファンがいて、刃物を振り回す、ストーカーになって付け狙う輩が出てくれば、それを事前に防ぐのは至難であることは、今回の事件を見てもよく分かる。

■AKBグループの「恋愛禁止」という建前は画餅に

一時は、CDや写真集が売れ、総選挙というバカ騒ぎが視聴率を稼ぎ、紅白にまで進出したから、出版社もテレビ局もAKB様様で、フライデーなどは上からAKBスキャンダルはやるなというお達しが出たと聞いた。

従って、スキャンダルは文春の一手販売となったが、それでもあきれるほどメンバーの色恋沙汰やスキャンダルが次々に暴露され、AKBグループの「恋愛禁止」(秋元本人は否定しているが)という建前が画餅であることを広く知られてしまった。

さらに驚いたのは、AKBが所属していた芸能事務所の取締役を務めていた人間が、控室やトイレなどを盗撮していたと文春が報じたことだった。

その人間は事務所を辞めてから、小学生へのわいせつ行為で逮捕され、実刑判決を受けたといわれる。その時、問題の盗撮ファイルも見つかったそうだが、なぜか事件化しなかった。どこか今回の事件と共通している気がするのだが。

■このままいけば天才・秋元康の晩節を汚すことになる

ブームは必ず下火になる。去年のAKB総選挙の視聴率は芳しくなかったそうだ。2005年に秋葉原で産声を上げたAKB商法にも、陰りが見えてきたと思う。

AKBグループのメンバーの多くが卒業していった。だが、卒業後もスターであり続けるのはごくわずかだ。その多くは、芸能界から去っていくか、栄光の日々を懐かしく思いながら下積みに甘んじている。なかにはAV業界で「元国民的アイドル」というレッテルを貼られ、好奇の目にさらされているケースもあるようだ。

縷々述べてきたように、こうした危ういやり方を続けていけば、必ず、岩手で起きた惨事や新潟で起きたような不祥事が再び起こることは間違いない。

このままいけば天才・秋元康の晩節を汚すことになる。潔く会見を開いて、この商法の危うさを認め、すべてのグループを解散すべき時だと、私は思うのだが。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦 写真=時事通信フォト)

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