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女医が診ると患者は「長生き」する理由

プレジデントオンライン / 2019年4月15日 9時15分

写真=iStock.com/imtmphoto

国内に約30万人いる医師の男女比は8:2。どちらのほうが「腕」が上なのか。アメリカの大学に在籍する日本人医師の研究で「意外な結果」が判明した──。

■「女性医師の手術はお断り」は是か非か

最近の一部週刊誌の人気企画に「医療批判」がある。「受けてはいけない手術」「飲んではいけない薬」「日本のがん研究のレベルは低い」といった刺激的なタイトルで医師や病院へのアンチテーゼを繰り返している。

記事の真偽はともかく、病院に世話になる高齢者が増える中、既存の医療体制に対する潜在的な不信を抱く読者も多いということだろう。そうした記事は一種の“警告”として現場に届いている面もある。だが、完全に炎上したケースも少なくない。

「週刊現代」が2018年9月22日・29日号において展開した特集記事「女性医師の手術はいやだ」もその一例だ。

漫画家や元代議士の医師が「女性は生理があるから体調に波があって信用できない」「反射速度が遅いから1分1秒を争う手術に向かない」などと主張しているのだが、そう述べる明確な理由は書かれていない。

記事は、医学部の女性受験生を「差別した」という東京医科大学の不正入試問題にからめたもの。今後、女性医師が増える流れに対して「女性医師を増やすのは国民にとって幸せか」「命より男女平等が大事か」と訴えるのが編集部のスタンスとはいえ、「ノーエビデンス(無根拠)では……」と冷ややかな目で見られてしまうのはしかたないだろう。

加えて、医療現場の女性医師からは、「医師は男性・女性に関係なく日々最新のスキルを学んでいる」「手術時に体力の強さは必要ない。求められるのは忍耐力だ」「1度だって(生理などの)体調不良などで執刀できなかったことはない」「時代錯誤の高齢男性をターゲットにした記事」などと、ネット上で猛烈にバッシングされている。

■内科疾患は、女医が診ると患者は“長生き”

では、「現実」はどうなのか。

より優れているのは、男性医師か、女性医師か。医師の性別をめぐる「患者の本音・感情」ではなく、客観的に見ていこう。

カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授の津川友介氏(医療政策学者・医師)を中心としたチームは2018年4月、英国医師会雑誌(BMJ)に論文を掲載した。要旨は次のようなものだ。

アメリカの約4.5万人の外科医が行った手術のデータを用いて、外科医の性別によって患者の術後死亡率(術後30日以内に死亡、もしくは1度も退院することなく死亡する確率)が変わるかどうか解析した。

すると、女性の外科医の場合、死亡率は6.3%、男性の外科医の死亡率は6.5%であり、統計的な有意差は認められなかった。つまり外科医の性別で患者の死亡率には差はなかったということだ。17年にはカナダのデータでも同様の研究が行われており、似た結果が得られている。

内科医に関しても津川氏らは研究し、16年に論文として発表している。

内科疾患の患者が入院して30日以内に死亡する確率を担当が男性医師と女性医師の場合で比較した。

結果は、女性医師11.1%、男性医師11.5%。こちらは女性医師の患者の死亡率のほうが統計的に有意に低いことが明らかになった。

なぜ、女性の内科医のほうが患者を結果的に「長生き」に導くことができるのか。津川氏はこう分析する。

「女性医師のほうが男性医師よりも、エビデンスに基づいた医療を選択したり、患者中心のコミュニケーションを取る(長い時間をかけてじっくりと患者から十分な情報収集)傾向があることが複数の研究で明らかになっています。このような医師としての“診療スタイル”によって、女性医師の患者の死亡率が低くなった可能性があります。日本での研究はまだ行われていないため、同じ結果が得られるかどうかはわかりませんが、同様の結果が得られる可能性はあると思われます」

■男はリスクを取る、女はリスクを回避。手術スキルは同じ

津川氏は過去の調査をもとに、性別によって次のような特徴があると語る(男女とも手術スキルに差はなし)。

男性医師→迅速に判断(リスクを取る傾向)、自信を持ち治療方針決定。
女性医師→慎重に判断(リスク回避型)、エビデンスに基づく医療行為、患者の話をよく聞く。

冒頭の「週刊現代」の記事に抗議した五本木クリニック(東京・目黒区)の桑満おさむ院長もこう語る。

「女性医師は全般的に、病気を不安に感じている患者さんの気持ちに寄り添う努力をします。患者さんの話によく耳を傾けます。また女性が多い看護師との連携もよく、看護師経由で患者さんの情報を仕入れ、自分の専門外のことは専門医から積極的に意見をもらいます。さらに、女性医師は、効果があると科学的に証明された標準治療を中心に治療をする傾向があります。きちんとした教科書的な診察で、(津川氏の研究結果には)それがよく出ていますね」

性別の傾向として、女性はどちらかといえば「保守的」で、男性は「チャレンジャー」であり、それは医師にも当てはまる、と桑満氏は言う。

「現代の医療に、基本的に“チャレンジ”は必要ありません。極端なことを言えば、名医はいらないのです。性別に関係なく、標準医療を粛々とすべきです。よほど特殊な病気や、手術の手法を新規に開発するような場合のみ、先陣を切る男性医師がいればいいのだと思います」

■女医は月イチの「生理で体調に波」は本当なのか

厚生労働省の調べ(16年)では、現在、医師の総数は約30万人。その5分の1、約6万人が女性医師だ。絶対数としては少数派だが、女性医師の割合は年々増している。このことを桑満氏は「歓迎する」と話す。

「女性医師は生理になるとイライラして、体調が悪くなったり冷静な判断ができなくなったりするのではないか、という意見もありますが、多くの女性医師は服薬するなどして心身のコントロールが可能です。一方、男性医師はどうでしょうか。例えば、アルコール依存症の傾向がある男性医師がいます。依存症ではなくても、二日酔いで勤務する男性医師も実在します。さらに、たばこを吸う男性医師も少なくない。女性医師が、ほろ酔い状態やニコチン依存症の男性医師に劣るとは思えません」

桑満氏によれば、医療用ハサミやピンセットなど外科の手術器具は男性の手のサイズに合わせて作られることが多いという。そのため器具を使うときに力が必要になる可能性はあるが、器具を自分仕様にオーダーメードすることもできるので大きな問題ではないという。

そもそも、近年では医師が1人で手術の方針を決め、執刀することはなく「チーム医療」が基本なので、「女医は嫌だ、心配だ」というのはナンセンスなものだ、とも桑満氏は語る。

診療科別の医師の男女比を見ると、外科など女性医師の割合が極端に少ない科もあるが、これまで見てきた調査の結果から言えば、今後その「偏り」も改善されていく可能性は高く、「女性医師は嫌だ」から、「女性医師に診てほしい」という声が主流となる時代もやってくるかもしれない。

なお、男性医師・女性医師の対比ではないが、前出・津川氏の研究では、内科医の場合、年配の医師よりも若い医師が治療したほうが患者の死亡率が低いという結果が出た。一方、外科医の場合、年配の医師より若い医師が手術した患者のほうが死亡率は高かった。

「内科医は医学の進歩の速度が速く、経験の集積よりも影響力が大きく、外科医は経験の集積の影響が大きいと考えられます」(津川氏)

▼ベテラン女医が見た、イマドキの女医

■「ゆるふわ女医」台頭に揺らぐ医療界

「女性医師が担当する患者は死亡率が低い」といった医学論文が発表され話題になっているが、「だからといって、すべての女医が優秀であるわけではない」と、フリーランス麻酔科医の筒井冨美氏は語る。

近年の医学部入試の過熱ぶりや、「リケジョ」こと理系女性ブームもあり、女子医学生や女医が増えています。同性の医師が増えることは大いに歓迎しますが、「壁」にぶつかる女医も少なくありません。

いわゆる臨床研修医制度が始まったのは2004年のこと。医師国家試験に合格した新人医師は2年間、特定の科に属さず「内科4カ月→精神科2カ月→小児科2カ月……」と2年間で多数の診療科で研修することが義務付けられました。そして18年4月からは新専門医制度が始まり、研修を済ませた若手医師は内科・小児科・眼科などの19の専攻のうち1つを選んで3~6年間の専門研修を行い、「眼科専門医」など専門医資格を取得できるようになったのです。

「自分はどの診療科のプロであるか」を示すことができるわけですが、現状、女医は眼科・皮膚科など「マイナー科」と呼ばれる「軽症で急変の少ない患者が主で、定時帰宅しやすい」専攻を選ぶケースが多いようです。

そうしたマイナー科を選ぶ医師はレベルが低いわけではありません。その判断には女性ならではの、出産という人生の契機が関連しています。「35歳までに2、3人子供を産みたい」と考えれば、最初の出産は30歳前後にならざるをえず、それまでに専門医資格を取得できる科となれば、そういう専攻が増えるのは自然な流れだと言えます。

ただ、「ゆるふわ女医」と呼ばれる存在の台頭はいささか残念です。ゆるふわ女医とは「医師免許は取るけどキツい仕事はしたくない。医師など高収入な夫と結婚するまでは腰掛け程度に働くけれど、結婚・出産後は時短かパート勤務のみで、手術・救急・当直・地方勤務は一切いたしません」というタイプ。

大学病院や公立病院のような大病院で、産休・育休・時短のような福利厚生をフル活用して、昼間のローリスク業務のみ担当したがる人々です。結婚・出産後に早々に引退して専業主婦になってしまうケースも見られます。「ゆるふわ女医」の増加は医療界の大きな悩みの種。こうした女医が増加している点が、多くの医大が入試で「女性受験者減点」に踏み切らざるをえない一因ではないかと私は考えています。

女医は都会志向が強い。その理由は「都市部の大病院は医師が多く、休みやすい」「地方の男尊女卑な空気がイヤ」「地方には(高学歴、一流企業社員など)ハイスペック男が少ないので婚活に不利」……と様々ですが、「女医は地方勤務を嫌がる」傾向は昔より強まっています。

女医率上昇とあいまって、外科など「メジャー科」と呼ばれる多忙な診療科の人手不足の深刻度は高まっています。特に地方では群馬・山梨・高知は18年度の外科専攻医が各1人(東京都は177人)と、地方における外科医療は危機的状況です。

個人的な考えでは、結局「男性医師は大器晩成で、女性医師は中器速成」となることが多いのではないでしょうか。

学生時代は成績優秀で首席卒業後、医師になってからは海外有名病院に留学するなど活躍していた才媛女医も、妊娠・出産というイベントがなくても、なぜか35歳頃から息切れし始め、40代以降には平凡な医師となる例を多く見てきました。一方、男性医師は、学生時代は授業サボりまくりの問題児でも、経験を積み重ね40代以降も診療のレパートリーを増やして成長し続けるようなタイプが多いように見えます。

男性医師はどんな妻であれ、使命感を持ち医師としての道を極めます。しかし、女医はどんな夫かで、「働き方」が大きく変わります。とりわけ、子持ち女医の勤労意欲は、配偶者によって大きく差が出るのです。

医師夫と結婚した女医は、概して働きません。特に20代で出産した群は、絶望的に戦力になりません。では、夫が一般サラリーマンなど非医師ならばどうかといえば、これが比較的よく働くのです。多くの場合、妻のほうが高収入になるので、夫や義理の家族は医師である妻のキャリアを支援する強い動機が働くようです。家事や育児といった本業以外の雑務を周囲の人間が買って出て、妻の負担を減らすように自主的に動くのです。そのことが、世帯収入を高め安定させる最も適切な方法だと気づいているのでしょう。

近頃、フリーカメラマン・ピアニスト・地方議員・起業家など、「アウトレット系男性」と結婚する女医が増えています。こういう夫婦では主に女医が家計を担うので、よく働きますが、もっとよく働くのはシングルマザー女医。つまり医師夫を持つ女医より、非医師の夫を持つ女医や夫なし女医のほうが医師としての伸びしろがあるのかもしれません。

■▼【図版】女医に診てもらったほうが「長生き」できるか

(フリーランス編集者/ライター 大塚 常好 写真=iStock.com)

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