仮想通貨バブルの「次」に来る新ビジネス

プレジデントオンライン / 2019年2月12日 9時15分

国立情報学研究所 准教授 岡田仁志氏

仮想通貨のブームで知られるところとなったブロックチェーン技術。金融の分野と思われがちだが、さまざまな分野にも応用できる可能性を持つ。土地や不動産取引にはどのような影響が予測されるのだろうか──。

■「ブロックチェーン」の定義が定まっていない

仮想通貨ビットコインの投機ブームは落ち着いたが、ビットコインを支えたブロックチェーン技術は革新的で、金融だけでなく不動産などほかの分野にも活用されて定着していくのではないか――。仮想通貨ブームが去った後、こうした議論がよく交わされるようになりました。

結論を急ぐ前に、まずブロックチェーンについて整理しておきましょう。なぜならブロックチェーンという言葉の定義が現状では定まっておらず、本来ブロックチェーンに当てはまらないものまでそう呼ばれて、混乱をきたしているからです。

ブロックチェーンは、もともとはビットコインの駆動部分として開発された技術です。ビットコインなどの仮想通貨を「通貨」として機能させるためには取引が二重に行われたり、取引内容を書き換えるなどの改ざんが起こらないようにする必要がありました。

そこでビットコインでは、世界の約1万台超のコンピュータ(ノード)それぞれで、すべての通貨の取引データを保存する仕組みになっています。取引データはおよそ10分ごとにブロックとして記録され、1ブロックに約2000件の取引が格納されています。そのブロックは一定のルールに基づき作成順に接続されており、取引データが改ざんされると接続のルールが守られていない状態が検知されるため、改ざんできないシステムになっているのです。

■DLTとはプレーヤーの顔ぶれが異なる

よく似た技術として、「分散型台帳技術=DLT(Distributed Ledger Technology)」があります。DLTも複数のノードが分散してブロックを記録しますが、製品によっては中心となる親ノードが置かれます。ノードの数も製品によって数個から20個程度と限定的です。

一部の銀行がコインの導入や導入の検討をしていると報じられています。それがブロックチェーンによるものかDLTによるものかは不明ですが、メディアではブロックチェーンとDLTをひとまとめにして“ブロックチェーン”と呼ぶことがあります。ブロックチェーンとDLTは未定義語ですから、正確な使い分けはできません。けれども、似たようなものだと考えるのはよくありません。なぜならプレーヤーの顔ぶれが大きく異なるからです。

先ほどお話ししたようにDLTで管理されるシステムには、中心となる親ノードが存在します。現実の世界でその役割を果たすのは、たとえば銀行や証券会社など既存の産業で中心的な地位にいたプレーヤー。一方、ブロックチェーンは各ノードが対等で、システム全体を仕切る人がいません。それゆえ、従来とはパワーバランスが変わる可能性があるのです。社会に与えるインパクトは、DLTよりブロックチェーンのほうが大きいかもしれません。

■不動産分野での活用はありうるか

写真=iStock.com/peshkov

以上を踏まえ、親ノードがない狭義のブロックチェーンが不動産分野で活用されるかどうかを考えてみましょう。まず思いつくのは、土地登記制度への活用です。土地登記をブロックチェーンで記録できれば、土地の所有者が曖昧になることがなく、二重譲渡などのトラブルは起きなくなると期待されました。

ただ、日本の土地登記制度にブロックチェーンを導入するのは現実的には困難です。日本では、売り手と買い手の意思表示が合致した時点で契約が成立して、登記を完了しなくても土地の所有権が移転するからです。これではいくら登記の記録方式を完璧にしても、実態と記録に齟齬が生じているので二重譲渡などが起きるおそれがあります。

これを防ぐには、登記を義務化したうえで、「登記しないと所有権が移転しない」と民法を改正する必要があります。土地登記制度をゼロベースでつくっていく途上国ならともかく、すでに既存の法制度が定着している日本で、このような法改正をするのは難しい。

仮に法制度の問題をクリアできたとしても、土地取引という法律行為をした人を誰が認証するのかという問題が残ります。前提として、国土の所有者の確認・認証ができるのは事実上、国しかありません。

国が関与するなら、わざわざ分散型にしなくても、中央のサーバーで一元的に管理したほうが効率はいい。この点からも、土地登記制度へのブロックチェーン活用には、懐疑的な見方が存在します。

むしろ期待できるのは、空きスペース活用に代表されるシェアリングビジネスへの活用です。ブロックチェーンを使えば、ある物件の「何時から何時まで」という利用権を証券化して、その権利が二重になることのないように移転することができます。物件の鍵そのものを電子化すれば、物理的な鍵のやり取りも必要なくなり、また一時的な利用ならば、土地の売買ほど厳格に本人認証をする必要もない。さらに、外国人旅行者など国境を越えた権利のやり取りがある点も、中央で仕切る人がいないブロックチェーン向きといえます。

■日本が世界の主導権を握ることができる分野

シェアリングエコノミーへのブロックチェーン導入をチャンスと見る国もあります。インターネットでキープレーヤーになれなかった国も、ブロックチェーンなら勝機があるのです。

「ブロックチェーンは仕切る人がいない民主的な仕組みなのに、キープレーヤーを目指すのは矛盾だ」と考える人がいるかもしれません。たしかに資産を管理する第一層(図参照)は誰も支配することはできません。しかし、シェアリングエコノミーを動かす第二層は、その仕組みをもっとも上手につくってユーザーを獲得した企業がプラットフォーマーになっていくでしょう。幸い、日本には第一層と第二層をつなぐ技術を持つ世界的なエンジニアが何人もいます。その点でアドバンテージは大きい。

第二層を日本の企業が握れば、シェアリングエコノミーを取り巻く法制度には日本法の価値観が反映され、国際的な影響力を持つようになります。いま世界的なインターネット企業を相手に訴訟したければ、カリフォルニア州の裁判所で争うしかないのと同じです。

ただ、日本は米国や中国に比べて予算が割り当てられていません。しかも日本国内は「既存企業が主体となるDLTは信用できるが、ブロックチェーンは信用できない」という論調で、逆風が吹いています。

国を挙げて世界のプラットフォームを握ることができる分野だという認識を持ち、積極的に行動することが求められると思います。

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岡田仁志
国立情報学研究所 准教授
1965年、大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。大阪大学大学院博士前期課程修了。博士(国際公共政策)。2007年より現職。著書に『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』(東洋経済新報社)、『電子マネーがわかる』(日本経済新聞出版)など。

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■【図表】ブロックチェーンによって変わる5分野

(国立情報学研究所 准教授 岡田 仁志 構成=村上 敬 撮影=澁谷高晴 写真=iStock.com)

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