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『海賊とよばれた男』にあるビジネス鉄則

プレジデントオンライン / 2019年3月7日 9時15分

雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第10位の『海賊とよばれた男』。解説者は沖電気工業の川崎秀一会長――。

私は子どものときから本が好きで、いまでもジャンルを問わず読んでいます。そのなかでもとりわけ感銘を受けたのが、百田尚樹さんの小説『海賊とよばれた男』です。

明治から終戦、戦後の経済復興という激動期を生き抜き、日本の石油産業の礎を築いた実業家、国岡鐡造の生涯を描いた物語です。この本は2012年の夏頃、書評を読んで興味が湧き、書店で購入しました。上下2巻のボリュームですが、ページをめくるうちに引き込まれ、一気に読み通しました。

主人公の国岡のモデルは、出光興産の創業者である出光佐三氏です。本を読んで一番心に響いたのは、目の前に大きな困難が立ちはだかっていても、真正面から乗り越えていった国岡の生き方です。そうした国岡の強さの源泉となったのが、「世のため、人のため」という、若いときから守ってきたビジネスの鉄則でした。

「日本に安価な石油を供給し、国民生活を豊かにする」という経営方針は終始ブレることがない。それゆえ国岡は四面楚歌の状況に追い込まれたとしても、政府による石油販売統制にも、また国際石油資本による独占にも反対し続けた。そのような一貫した姿勢に私は魅了されました。

さらに感銘を受けたのが、国岡が神戸高等商業学校の恩師から贈られた「士魂商才」という言葉を、生涯胸に刻んで行動したことです。この言葉には、「社会・国家に尽くす武士の精神を忘れずに、ビジネスの才覚を発揮せよ」といった意味が込められています。ビジネスの世界に生きていると、ともすれば易きに流れがちです。しかし、国岡はどんなに苦しくても、長いものに巻かれることなく、最後まで信念を貫いた。戦後の日本人が忘れてしまった、国岡のそうした気高い精神が、大勢の読者の心を打ったのでしょう。

■多難な時期で、国岡の生き方に共感

私自身、国岡の生き方と自分の生き方を重ね合わせて、共感したシーンがありました。この本を読んだ12年の夏は、ちょうど当社も多難な時期でした。私が社長として陣頭指揮を執った経営再建がようやく軌道に乗りかけた矢先に、海外子会社の不祥事が発覚して企業の存在意義を問われたのです。

沖電気工業 取締役会長 川崎秀一氏

私は若いときに営業を担当していた金融機関のトップの「泣くな、逃げるな、ウソをつくな」という言葉が心に刺さり、以来それを自分にも周囲の者にも言い聞かせてきました。そして『海賊とよばれた男』に描かれた国岡の不屈の生き方や社会・国家に尽くすという信条を通じて、改めてその言葉を思い起こし、当社の信頼回復に全力を注ぐ覚悟を固めることができました。

私の読書術の基本は「面白そう」と思った本があったら読んでみることです。知識が増えるだけでなく、思考の幅が広がり、判断力も養われます。当社には、私が100冊ほどの蔵書を持ち込んだ「川崎文庫」があります。社員に本に親しんでもらうためなのですが、本について膝を突き合わせながら、楽しく語り合いたいという密かな願いも込められているのです。

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川崎秀一(かわさき・ひでいち)
沖電気工業 取締役会長
1947年生まれ。70年早稲田大学法学部卒業後、沖電気工業に入社。2009年代表取締役社長執行役員に。16年代表取締役会長となり、18年6月より現職。

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(沖電気工業 取締役会長 川崎 秀一 構成=野澤正毅 撮影=石橋素幸)

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