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GAFAの法人税を上げて"富の再分配"せよ

プレジデントオンライン / 2019年2月19日 9時15分

国立情報学研究所教授 新井紀子氏

2011年から人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を始めた新井紀子教授。今後、人間の仕事はAIに奪われるのか。社会はどう変わるのか。

■技術を無償で提供して、雇用を生む一方で

私たちは現在、いわゆる「知識基盤社会」の中で生活しています。この言葉は、人々の繁栄と幸福のために知識を創り出し、共有し、活用する社会を意味するとされています。

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるテックジャイアンツと呼ばれる最大手テクノロジー企業は、ネット上に売買、広告宣伝、交流などの「場」を提供するプラットフォーマーであり、この場を活用してさまざまな企業やサービスが国境を超えて連携し、多くの人々の日常を支える仕組みを生態系(エコシステム)になぞらえて、デジタルエコシステムと呼びます。

このデジタルエコシステムの中核にある彼らプラットフォーマーは、情報技術のおかげで「いまや地球上の誰もが平等に情報にアクセスできるようになった」と誇らしげに主張しています。確かにある面、これは事実です。今日では農村で過酷な性差別を受けながら育つ少女でさえ、ウェブ上で素晴らしい学習教材を無料で利用することができ、懸命に学習をして、世界有数の大学の奨学金を手にすることができます。テックジャイアンツは、自分たちは「驚くほど役立つ技術を無償で提供し、世界中で新たな仕事を生み出している」とも言っています。これもまた、ある面では事実です。いまや、政情が不安定な国の危険な地域で暮らす女性でさえ、世界全体を網羅するオンライン決済システムやスマートフォンのおかげで、小さなビジネスを起こすことができるのです。

このような発展は確かに素晴らしいことです。20世紀には想像もつかないことでした。ですが私たちは、新しいデジタルエコシステムの負の側面にも目を向けなければなりません。いま、世界で最も富裕な上位1%の人たちが、世界全体の富の半分以上を所有しています。

わずか8人の大金持ちが、世界の半分に匹敵する富を所有しているとも言われています。このような展開も、前世紀には思いもよらなかったことでした。これは容認できることではなく、持続可能なことでもありません。なぜこのようなことが起きたのでしょうか。デジタルエコシステムの誤った働きが、少なくとも一因であることは間違いありません。

テックジャイアンツのプラットフォームは商品やサービスを販売しません。代わりに、人々の注目を集めてデータを収集し、「無料」と銘打つサービスに換えてデータを販売します。彼らのサービスはとても魅力があり、役に立ちます。人々が夢中になって、やみつきになるように考えられているため、さらに人々の注目とデータを集められます。そして何より、それらはアナログの同様なサービスと異なり無料なのです。

グローバルなデジタルエコシステムは、容易に国際的な寡占状態になる傾向があります。そして日々、信じがたいほど巨額のお金が蓄積されていきます。この潤沢な資金を使って、テックジャイアンツは世界中の地域社会から極めて有能な人材を雇えます。こうして雇われた人材は、デジタルエコシステムの最適化に努め、雇用主のために利益性を最大へと高め続けます。地域で事業を行う企業は、このような巨大企業と競い合うことはできません。地域社会が立ち上がって、巨大企業に「ノー」と言うことはできないのです。

しかしこうした優秀な人材は誰が育てたのでしょうか。彼らの教育費を負担したのは誰でしょうか。それは地域社会です。

■民間企業は、富の再分配をしない

いったん、国際的にデジタル寡占が達成されてしまうと、その回路を断ち切ることは大変難しくなります。しかしテックジャイアンツのプラットフォームは、富の再配分という機能を持つ国家ではないことを思い出さなくてはなりません。彼らは富の蓄積を目指す民間企業なのです。

そして厄介なことに、人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)は、この寡占状態へのプロセスを加速させようとしています。

2011年に、私は「ロボットは東大に入れるか」と題した人工知能プロジェクトを開始しました。これは、日本最高学府の東京大学の入学試験に、AIを合格させることを目指すプロジェクトです。

私がなぜ大学入試に着目したのか。それは人間との比較でAIの性能を研究する必要があると思ったからです。特に、人間だけが、そして教育を通してのみ獲得できると考えられている、スキルや専門知識を比較して研究するためでした。

これが東大ロボット(東ロボくん)です。言うまでもなく、ロボットの脳は遠隔のサーバー上で作動しています。東ロボくんは、17世紀の海上貿易に関する600語の小論文を執筆しました。ロボットは教科書とウィキペディアから文章を取り出し、それらを組み合わせて、何一つ理解することなく論文を書きます。ですが驚いたことに、この読解力のない機械は、大半の学生よりも優れた小論文を書き上げました。そして数学のテストでは、成績上位0.5%の中に入りました。

図は東ロボくんと同じ試験を受けた50万人の学生の成績分布グラフです。東ロボくんは上位20%以内に入っていて、日本の70%以上の大学に合格する能力を備えていますが、東大には受かりません。AIが将来ホワイトカラー労働者になる学生たちの大部分より上に位置していることにご注目ください。

問題なのは、AIが仕事を創り出しているかどうかや、私たちから仕事を奪うかどうかではありません。バランスと持続可能性が問題なのです。もし人々が仕事や家を失ったら、スマートスピーカーを利用することはできません。もし電子商取引のせいで地元の商店が潰れてしまったら、住所を持たない人々はどうやってオンラインで買い物をし、それを配達してもらえばいいのでしょう。できるはずがありません。

多くのテックジャイアンツがとても楽観的にCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んでいます。しかし私たちはそれに満足してはいけません。

私たちが必要としているのは、デジタルエコシステムを健全で持続可能なものとして維持するために、富の再分配に変化をもたらすことです。

私はこうした企業の慈善事業に期待しているわけではありません。必要なのは規則の変更です。法人税を引き上げたり、あるいはロボットが生み出した利益に税を課したり、企業が法人税逃れできない仕組みをつくることで、財源をつくり、富の再分配が適正に行われるようになれば、私たちにとって有益なだけでなく、長い目で見ればテックジャイアンツにとっても利益をもたらすと、私は考えています。

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新井紀子(あらい・のりこ)
国立情報学研究所教授
同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学大学院数学研究科単位取得退学。東京工業大学より博士を取得。専門は数理論理学。著書に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』がある。

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(国立情報学研究所教授 新井 紀子 構成=プレジデント編集部 撮影=尾関裕士)

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