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少子化でも"プラレール"が過去最高の理由

プレジデントオンライン / 2019年2月7日 9時15分

「DXS01 シンカリオン E5はやぶさ」と「DXS02 シンカリオン E6こまち」(画像提供=タカラトミー)

タカラトミーが手がける男児向けおもちゃ「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズが人気だ。実在する新幹線がロボットに変形するもので、ベースは同社の定番商品「プラレール」。その結果、少子化にもかかわらず2017年度のプラレールの売上は過去最高水準だったという。なぜ定番商品から新たなヒットが生まれたのか――。

■アニメも人気の「新幹線変形ロボ」

タカラトミーが手がける男児向けおもちゃ「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズが人気だ。「実在する新幹線がロボット“シンカリオン”に変形する」というアイデアをキーに、主力商品の「デラックス シンカリオンシリーズ」では、タカラトミーの看板商品であるプラレールがロボットに変形。現在までに13種類を発売している。

2018年からは同タイトルのテレビアニメを放送。主人公「速杉ハヤト」と周囲の人々が共に戦って成長する姿を描き、子供から大人まで幅広いファンを獲得した。おもちゃの「デラックス シンカリオンシリーズ」は、劇中で描かれる多数のシンカリオンの変形・合体シーンのギミックを再現して立体化している。

主役ロボットである「E5はやぶさ」は、2018年9月に発表された「おもちゃ屋が選んだクリスマスおもちゃ2018」(玩具小売・流通関係者1000名が選出した、クリスマス商戦で売れる/売っていきたいおもちゃのランキング)の男の子向け商品部門で4位を獲得した。

■「胸に新幹線」が子供から人気だった

「シンカリオン」は、タカラトミー単独のオリジナル作品ではない。企画自体は、ジェイアール東日本企画と小学館集英社プロダクションの主導で2014年に発表された「Project E5」が前身となっている。マーケティング本部プラレールマーケティング部「シンカリオン」シリーズを担当する長沼豪氏は、「以前からプラレールの販売に関して関係があったジェイアール東日本企画から声をかけられて参加した形になります」と説明する。そこから2015年9月に第一弾商品となる旧版のE5はやぶさが発売されるまでには、紆余曲折があった。

「最初の開発時、各社でデザイン案を20パターンくらい用意したんです。今のデザインに近い、胸に新幹線の先頭車両がついているものや、トランスフォーマーのように車体がバラバラに分解されて各部に配置されたものもありました。参加各社もアイデアを出して子供たちにアンケートをとったんですが、どこで調べても新幹線が胸についているパターンが一番ウケましたね。当初は子供っぽいかなとも思ったのですが、結果的に子供に分かりやすくカッコイイ、今のデザインを採用しました」

■売れ行きに地域差が少ない「新幹線」の強さ

デザインの決定前から、タカラトミーでは「シンカリオン」はプラレールで展開することを考えていた。その理由は、遊びのインフラとしてレールが多くの家庭に行き渡っていた点、そしてプラレールと新幹線という認知度の高いブランドをそのまま活かせる点が決め手だった。

「そもそもプラレールの車両は、うちの商品としては珍しく、売れ筋に地域差が出るものなんです。ですが新幹線は全国的に売れる、非常に強いアイテムでした」

プラレールは鉄道を題材にしたおもちゃだ。それゆえ、基本的にユーザーの子供たちは自分の住んでいるエリアを走っている車両を購入する。例えば山手線のプラレールであれば、東京都内の売れ行きが圧倒的に強くなるのだ。タカラトミーとしても極力全国の広い範囲の車両を販売しようとしているが、どうしても沿線の人口が少ないエリアの車両は出しづらい。そのため鉄道会社とプロモーション連動としてグッズ販売したり、キャラクターでラッピングされた車両など地域差がなく売れる題材を選んだりと、売れ行きのバランスをとることには腐心しているという。

「DXS01 シンカリオン E5はやぶさ」(画像提供=タカラトミー)

■アニメ放送前の3年間も売れていた

「その点、新幹線は沿線に住んでいる人の数がケタ違いです。例えば東海道・山陽新幹線であれば、東京から博多まで沿線全体をターゲットにできる。ただ『シンカリオン』の関連商品でも、売れ行きの地域差はあります。普通のアニメコンテンツであれば、アニメを放送しているエリアだったら満遍なく売れるのですが、九州でしか走っていない新800系新幹線がモデルのシンカリオンは、他シンカリオンの比率と比べるとやっぱり九州で売れる比率が高いです」

実は「シンカリオン」のおもちゃは、アニメ放送前後で大きくリニューアルされている。放送以前の2015年に発売された旧版のおもちゃでは各部にバネが仕込まれており、半ば自動で変形するギミックが売りだった。当時はまだ1分半ほどのプロモーション映像しか動画が存在していなかったので、おもちゃのギミックの面白さでもコンテンツを盛り上げていきたいという事情があったそうだ。旧版は、発売から3年かけて複数ラインナップが揃う売れ行きになっていた。それをなぜわざわざリニューアルしたのか。

■「難しすぎず簡単すぎない」を狙う

「同じ商品を3年売ると、商品の鮮度が落ちてくるんですよ。だからそのタイミングで、アニメ化に合わせて商品をリニューアルしようということになりました。そこで設計したのが現行のデラックスシリーズで、アニメそのままのディテールに寄せる作りにしています。旧版は変形ギミックのためにプロポーションが犠牲になっていたので、もっと違和感のないカッチリした作りのものにしよう、と」

このときにこだわったのが、変形の難易度だ。試作品を3~6歳の未就学児に遊ばせ、どのくらい遊べるか、一度説明したら変形させられるかなど、細かくデータを取った。

「設計は全て、実際に子供に遊んでもらって決めています。アニメは大人も楽しめるように作っていますが、おもちゃはあくまで子供が遊べるのが前提です。子供にとって初めての変形玩具になる可能性があるので、お父さんお母さんが変形させることができて、なおかつ子供でも慣れれば一人で変形させられるラインが理想。そこでコミュニケーションも生まれるし、『難しすぎず簡単すぎない』という難易度は狙っていますね」

「DXS08 ブラックシンカリオン」ドラグーンモード(画像提供=タカラトミー)

■子供が遊びやすいように関節を工夫

「シンカリオン」のおもちゃを設計する上でネックになるのが、新幹線形態での車体を絶対にプラレールのレール幅以上のサイズにできないという点だ。特に腰から脚の付け根にかけての部分は、車両先端の一番細くなっている部分に位置するため、スペースの都合で強い構造の関節を入れることができなかった。また、子供は可動部分がかっちりとした構造でないと変形させられないため、必要な可動箇所には動かす範囲を決めるロックが入っている。

「最初の試作品では腰のロールや股関節の可動もあったんですが、そのあたりを作り込むと変形が難しくなりすぎ、遊びづらくなってしまうので削っています。最近のお子さんは、一人あたりが買ってもらえるおもちゃの数が多いので、ちょっと難易度が高くてうまく遊べないと、すぐに飽きてしまう傾向がある。そこは極力気を使いました」

■放送開始から3カ月で売り上げが急増

アニメ本編では、まず主役ロボットであるE5が登場し、他の機体が登場してリンク合体した。加えて初年度のゴールデンウィークにはN700Aのぞみが登場し、機体自体が第二段階にパワーアップする機構を見せる。さらに夏にはライバルであるブラックシンカリオンが登場。「敵味方のおもちゃを戦わせる」という形で、段階を追って遊び方のプレゼンテーションを行った。

1月の放送開始からアニメはネットで話題となっていたが、おもちゃ自体は3月まで社内では爆発的な売れ行きというほどではなかったという。しかし4月に入ってから売り上げが急増、さらにゴールデンウィークに登場したN700Aは品切れが続出するヒット作となった。

「なぜ4月に売り上げが伸びたかというと、子供たちが幼稚園や小学校という、新しいコミュニティに一斉に移る時期だったからだろうと分析しています。それまでは各家庭でアニメやおもちゃに触れていた子供が、新たな環境で他の友達に『シンカリオン』の話をしたりおもちゃで遊んだりして、そこで一気に広まった。それに合わせて、ゴールデンウィークに強力な新型機をぶつけました」

「DXS11 シンカリオン ドクターイエロー」(画像提供=タカラトミー)

■主役以外のロボットもよく売れている

「もちろん売り上げで言えば主役のE5がナンバーワンなのですが、他の機体だとN700Aとブラックシンカリオン、それからクリスマスに合わせて発売したドクターイエローもいい成績を出しています。ブラックシンカリオンは、初速だけであればE5を抜いています。敵のロボットなので、実は売れるかどうか社内の反応は半信半疑だったんです。だから付属品をたくさんつけて、機能も盛りだくさんにしました。購入者アンケートでは子供用に購入していただいたパターンが大半で、やはり子供自身が『欲しい』ということで売れたのだと思います」

「シンカリオン」最大の強みは「完全に架空のロボットではないこと」だという。完全に架空のSF的な世界観をモチーフとしている題材は、長期間の展開に耐えづらい。

「子供は想像力が育ちきっていないので、100%架空のストーリーやメカには乗り切れないんです。出だしはよくても徐々に失速して、如実に数字に出ます。やっぱり実在のメカの要素が入っていたほうがいい」

■全国を「1/1シンカリオン」が走っている

「シンカリオン」は、テレビアニメ放送前の時点ですでに3年の展開に耐えていた。前述のように「3年」は子供向けの商材では重要な数字であり、目新しさがなくなった題材をそれ以上展開できるかどうかの分水嶺となる時期だ。

「そこを超えられたのも、本物の新幹線が登場するという圧倒的な強みだと思います。実物の新幹線を見たことがある子供にとっては、シンカリオンというロボットは架空の存在じゃない。1/1シンカリオンのシンカンセンモードが全国を走っている状態なんです。実際のものをベースにすることでおもちゃの内容などで自由にできなくなるところはありますが、それ以上に得るもののほうが大きいですね」

画像提供=タカラトミー

■従来のユーザー層より上の年齢層を獲得

タカラトミーは2014年前後に大きく業績が悪化していた。立て直しのために掲げられた、当時の前中期経営方針が「定番商品の強化」だ。そのターゲットになったのが、トミカ、リカちゃん、そしてプラレールだった。この戦略などが功を奏し、2019年3月期第2四半期は最高益を更新した。前述の3ブランドの売上高は、過去4年(13~17年度)で1.5倍の水準を達成している。プラレール単体でも17年度は「過去最高水準」だったという。

「『シンカリオン』によって、従来のプラレールのユーザー層よりも上の年齢層を獲得することができました。トミカもプラレールも、多くのお子さんは3~4歳くらいで卒業してしまう。『シンカリオン』は、その数歳年上の子供たちをつなぎとめることに成功しました。これは2014年以来の方針の結果だと思います」

「シンカリオン」のテレビアニメは、すでに放送開始から1年を過ぎている。放送期間に関しては未定だが、「新幹線はこれから先も続いていく。『シンカリオン』もこれからもずっと続けていける、息の長いコンテンツにしたいとして考えています」という。これからも「シンカリオン」は各家庭のレールの上を走り続けていくことだろう。

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しげる
ライター/編集者
1987年生まれ。模型誌編集者として勤務の後、現在フリー。専門はおもちゃ・プラモデルや映画など。ウェブサイト「ねとらぼ」などに寄稿。

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(ライター/編集者 しげる 画像提供=タカラトミー)

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