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40代以下は「できる副業」を探すべきだ

プレジデントオンライン / 2019年2月14日 9時15分

これから「副業」は標準的な働き方になるのだろうか。三菱総研の奥村隆一氏は「若い人ほど働き方が多様になっている。現在の30代後半から40代前半の『ロスジェネ』からは、パラレルワークが主流になるはずだ」と指摘する――。

■ロスジェネ前後から日本人の働き方は変化

今、日本人の働き方は変わり始めている。三菱総合研究所の生活者意識調査(mif<※1>)によると、世代が若いほど、多様な勤務形態の経験を持つ割合は高い(図表1)。そうした変化は「ロスジェネ」(現在の30代後半から40代前半)から始まっている。ロスジェネは不況期に就職活動を余儀なくされた経験から安定志向である一方で、これまでとは異なる働き方を選びはじめている世代といえる。本稿ではロスジェネにおいて、一人の人間が複数の職をこなす「パラレルワーク」の重要度が増している事実を論じる。

副業・兼業を進めているロスジェネの事例は多数あるが、ここでは2人の事例<※2>を紹介したい。

ロート製薬に勤務している市橋健さんはアグリ・ファーム事業部で関連会社の食品工場の衛生管理を指導している。一方、ビールの卸・小売・通信販売事業を手掛ける会社「ゴールデンラビットビール」の代表でもある。なお、ロート製薬は2016年に副業を解禁し、副業ブームの先駆けとなった企業の1社である。

市橋さんは「現在の生活の場である奈良に貢献したい」との思いから、地ビール販売のビジネスを発案し、創業した。本業で培った液剤の製造・管理のノウハウが存分に活かされている。会社の理解と協力の下で成り立っている面も少なくないが、「二足のわらじ」のどちらでも充実した日々を送っている。

サイボウズ株式会社の永岡恵美子さんは、本業では社長室に所属し、地域クラウドプロデューサーとして、起業家支援と地域活性化を掛け合わせた全国展開のイベント「地域クラウド交流会(ちいクラ)」の企画・運営を行うかたわら、副業では第一勧業信用組合の未来開発部創業支援室に所属し、アドバイザーとして創業支援全般にわたるサポート・アドバイスを行っている。第一勧業信用組合の理事長から転職の誘いを受けたのがきっかけで、逆に副業での支援を提案したところ、受け入れてもらったという。

本人が培ってきたスキルを本業以外の場でも役立てられることや、全く異なる業界に同時に所属することで通常の2倍の学びが得られることに充実感を感じているようだ。

※1 三菱総研が運営するMarket Inteligence&Forcast(生活者市場予測システム)の略称。2011年から毎年6月に設問総数約2000問、20歳から69歳を対象として日本の縮図となるような30000人を対象に実施している生活者調査。
※2 経済産業省が2017年5月31日に公表した「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」の中から取り上げた。

■若い世代ほど副業を希望している

2人のロスジェネの働き方は一般に「副業」ないし「兼業」と呼ばれている。冒頭に示したものと同じ調査(mif)の中に副業に対する意向を尋ねた設問がある。これによると、ロスジェネあたりから副業を希望する就業者の割合が高まっているのがわかる(図表2)。

働き方改革実現会議が2017年3月に決定した「働き方改革実行計画」の中で「副業・兼業の推進」を掲げているのは、「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効」(同計画)なためである。政府は、本業の収入を補完する目的で行う「守りの副業」ではなく、就業者個人が主体的に能力を高めるための手法の一つとして、すなわち「攻めの副業」を普及・浸透させようとしていることがうかがえる。

なお、副業や兼業に近い概念で、とくにキャリア形成の観点から複数の活動を行うことは「パラレルキャリア」と呼ばれる。「副」や「兼」には、主従関係が読み取れるが、副業規制がさらに緩まれば、より活動時間や活動内容が拡がり、どちらも主業となるような働き方が主流になる可能性もある。そこで、このような働き方の今後の発展可能性を期待し、ここでは「パラレルワーク」と呼ぶことにしたい。

■パラレルワークがロスジェネに向いている理由

この新たな働き方であるパラレルワークはロスジェネに向いている、と筆者は考えている。

それはなぜか。

第一に、経済社会にかかる価値観転換の時期に、社会人となった最初の世代である点があげられる。バブル世代以前は、一時期の経済低迷期を経験はしつつも、全体としては右肩上がりの経済成長の中で仕事を続けてきた。そのため、「経済は成長するもの」「企業の規模は拡大することが望ましい」という価値観がたっぷりと刷り込まれている。

しかし、2000年代初頭にわが国は、世界のどの国も経験したことのない「人口減少社会」に突入し、国内消費市場は縮小こそすれ、拡大は望めない経済環境に置かれている。明治維新以降続いてきた「人口増加社会」の発想の多くはもはや役に立たない。この事実を頭では理解していても、組織の規模も売り上げも拡大を続けるのが企業としての当たり前の姿である、との発想からなかなか抜け出せず、「拡大しない組織」を前向きに受け止められていないのがバブル世代以前のビジネスパーソンではないだろうか。

一方、ロスジェネの場合、就職時期にはすでにバブル経済は崩壊しており、浮かれたバブル期の成功体験はない。だからこそ、冷静かつ客観的に経済社会の現実を踏まえた発想や行動をとりやすいのである。パラレルワークの普及と浸透は、古いタイプの働き方の価値観に疑義を呈し、これを相対化する力を持つ。ロスジェネ以降のビジネスパーソンの新しい仕事や組織に対する価値観と親和性が高いと思われる。

組織に忠誠をつくし、組織を大きくすることに腐心し、ピラミッドを登っていくという人口増加社会におけるビジネスパーソンが志向する「組織」と「人」との関係よりも、もっと緩やかな関係を創っていくことが今後求められるとしたら、「ロスジェネ」に、その先導者としての役割を期待したい。

第二に、長い職業人生の中で、スキルやノウハウを再インストールするのに適した世代である点があげられる。精神分析学の創始者フロイトの弟子であるユングは40歳を「人生の正午」と呼んでいる。これは、人生を一日の太陽の運行になぞらえて考え、太陽の上昇から下降への転換点が40歳前後というわけである。発達心理学によると、この転換期を心理的にうまく乗り越えられるかどうかが、後半の人生の明暗を分ける、といわれている。

今、ロスジェネの平均年齢は「42歳」であり、平均寿命の伸長や定年延長の議論が始まっていることを踏まえると、ロスジェネは後半の人生を活き活きと過ごすために、新たなスキルやノウハウを身につけはじめようとするのに、まさに適した年齢といえる。パラレルワークでは、一つの会社の中では得ることの難しい異なる知見や経験、人的なネットワークを獲得できる。

第三は、新たな中堅リーダーとしての活躍の期待である。現在、ロスジェネは企業の中では会社を支える中堅層であり、マネジャー層へ移行している過程でもある。右肩上がりの量的な拡大を志向する組織と、規模の拡大よりもむしろ業務の質や効率性の向上を志向する組織ではマネジメントのありかたは異なるはずである。社外の知見を取り込みながらビジネスのかたちを変えていく、いわゆる「オープン・イノベーション」のような経営手法も重要となってきている。

バブル世代以前の旧来型の価値観を持ったマネジャーは、過去の成功体験に引きずられ、自らを改革するのは難しい面がある。そこで、マネジャー層となったロスジェネが、パラレルワークを通じて社外の知見や経験を取り込み、社内マネジメントに活かすことが望まれる。

■パラレルワーク主流時代に向けた環境整備を

ロスジェネ個人として、今、求められているのはキャリアの「棚卸し」と“とりあえず”の「デザイン」である。ここでは“とりあえず”というのがミソである。人生100年時代のキャリアは相当に長い。すべてを見通してキャリアデザインを行える人などいない。多様な人との出会いや経験を通じて、めざすキャリアは変わるものと考え、当面の目標を設定するのである。

一方、副業を許可していない会社はそれを可能にするとともに、可能な副業の対象業務を広げたり(「雇用者」としての就業を認めるなど)、活動時間の制約を緩めたり(就業時間中の活動も可能にするなど)することが望まれる。一口に副業を許容するといってもさまざまなバリエーションがある。副業解禁というより、「専業禁止」を方針として掲げるエンファクトリー、イノベーションの創出につなげる狙いを明確化しているソフトバンク、他社への就業も可能な新生銀行、就業時間内に月20時間内に限り副業を認めるフューチャースピリッツなどである。他社の制度を参考にしながら、自社にあった副業のかたちを考えていくべきだろう。

企業にとっては、パラレルワーカーを有力な社外人材として巻き込むという視点も大切である。これまでの企業は正社員のみを「中核人材」として位置づける傾向がみられるが、これからは例えば他社に勤務するパラレルワーカーを集めて、自社の新たなコアコンピタンスを創り上げる、といった発想もありうるのではないだろうか。

一般に「働き方改革」といえば、同一労働同一賃金、女性や高齢者の労働参画、高度プロフェッショナル人材など、すべて企業に勤める社員が、その会社の中でのみ活躍することを前提にしている。しかし、パラレルワークが主流になり、会社と会社の間の境界線が曖昧になる時代が訪れた場合は、会社のマネジメントも働き方もこれまでとは全く異なったものになろう。

人生100年時代には一つの会社に一生勤め続けることも、一つの組織にのみ所属し、一つの肩書しかもたない働き方もおそらくまれなケースになる。その意味では、近年注目されつつある、同じ時期に複数の「仕事」を持つパラレルワークという働き方は、むしろ標準的なワークスタイルになるかもしれない。その時、雇用制度の抜本的な見直しと新たな「働き方改革」が求められるはずである。

“パラレルワーク主流時代”をけん引する世代として、筆者はロスジェネに強く期待を持っている。

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奥村 隆一(おくむら・りゅういち)
三菱総合研究所 シニアリサーチプロフェッショナル
早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻、修士課程修了。1994年4月、三菱総合研究所入社。一級建築士。東京都市大学講師(非常勤)。プラチナ社会センターに所属し、少子高齢問題、雇用・労働問題、地方自治政策に関わる研究を行う。著書に『仕事が速い人は図で考える』(KADOKAWA)、『考えをまとめる・伝える図解の技術』(日本経済新聞出版社)、『図解 人口減少経済早わかり』(中経出版)、などがある。

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(三菱総合研究所 シニアリサーチプロフェッショナル 奥村 隆一)

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