橋下徹「ダブル選挙で大阪を昔に戻すな」
プレジデントオンライン / 2019年3月27日 11時15分
■「スーパー公務員」小西副知事でもムリだった府市の調整
いよいよ大阪ダブル・クロス選挙が始まった。大阪維新の会は、前大阪府知事松井一郎さんが、大阪市長候補に。前大阪市長吉村洋文さんが大阪府知事候補に。
対する相手陣営は、元大阪府副知事の小西禎一さんが大阪府知事候補に。元大阪市議会議員柳本顕さんが大阪市長候補に。小西さんと柳本さんは自民党と公明党の正式な支援を受け、さらに国民民主党、立憲民主党、共産党は自主的に小西さんと柳本さんを支援するという。ここはちょっと分かりにくいけど、要するに自民党から共産党までが表で完全にタッグを組むと映りが悪いから、表では自民党と公明党の支援だけにしておいて、その他の政党は維新を潰すために自主的に、つまり水面下で小西さんと柳本さんを一生懸命応援するというもの。自民党を支援する各種業界団体や、国民民主党と立憲民主党の前身である旧民主党を支援していた労働組合の連合や部落解放同盟、さらには共産党を支援する各種団体が一斉に小西さん柳本さんを応援することになった。
(略)
小西候補は大阪府副知事としてスーパー公務員であったことは前号で述べた。しかしその小西さんですら、大阪市役所と協議でまとめることができなかったものが多々ある。
行政の実務というのは日々膨大な事務作業の連続だ。巨大な府庁組織と市役所では毎日毎日膨大な事務を行っており、その都度、府庁と市役所で見解がぶつかることが多い。それを主査→課長代理→課長→次長→部局長とそれぞれの役職で調整をはかるのだが、それでもまとめることができなかったものは副知事、副市長に上がってくる。そのときの組織としての最後の調整役が副知事、副市長であり、その仕事を小西さんがやっていた。
小西さんも一生懸命にやってくれていた。難しい案件もまとめてくれたこともある。しかし、今の府と市の体制、制度を前提とする限り、やはりまとまらなかったものも多々ある。これは小西さんの能力の問題というよりも、府と市の制度の問題だ。何度も繰り返すが、明治維新の時にできた府と市の制度は、府と市の分断を前提としており、府と市が一体となって政策や事業を行うには適していない仕組みとなっている。だからスーパー公務員の小西さんが、対立する府と市の見解をまとめることができなくても、むしろ当然のことなんだ。
そのようなときには最後、僕(大阪市長)と松井知事でまとめ上げた。ほぼ毎日、松井さんとは電話で協議していた。
(略)
副知事・副市長レベルでもまとめられないものは、全てこうやって僕と松井さんのトップで調整してまとめていたんだよ。そういうことをやり続けてきたから、これまで30年も40年も放置されていたビッグプロジェクトも、なんとか府市一体で実現できた。その他細かな懸案事項を2人でまとめ上げた事例まで挙げたらほんとキリがない。
松井さんと吉村さんになっても同じだ。表には出ていない膨大な調整を、松井さんと吉村さんでやってきた。僕を含めて3人でご飯を食べるときだって、ほとんどが松井さんと吉村さんの府市の懸案事項を調整する話。いまだに焼き鳥屋かおでん屋で大阪首脳会談が行われている。こういう現実を、世間はもちろん、メディアもインテリたちも知らないし、小西さんも柳本さんも知らないんだよね。
■観光案内所の府市の費用分担でさえまとまらなかった!
でも本来、こんな調整の仕事はトップの仕事じゃない。これは組織の仕事で、最終的には副知事・副市長レベルで完結する仕事だ。まさに小西さんが副知事のときに、きっちりと府市をまとめなければならないところ、現在の府庁と市役所の関係・制度を前提にするとまとめることができなかったんだよ。
しかもスーパー公務員小西副知事ですらまとめることができなかったものは、ほんと細かな行政実務のレベル。2000万円くらいの観光案内所の費用を府と市でどれくらいの割合で分担するのか、御堂筋イルミネーション費用の分担割合はどうするのかなどなど。その他細かな10項目くらいのことがどうしても副知事、副市長レベルでまとまらないから、僕、松井知事、そして府市の幹部数十人が集まって大げさな府市統合本部会議を開いて、朝から夕方まで、徹底協議・調整をした。最後は僕と松井知事でまとめていったけど、たった10項目でさえ、そんな作業をやらなければならなかった。しかも府市統合本部で議論するまでに、府庁と市役所でそれぞれ議論し、僕と松井さんも役人と膨大な議論をし、さらに僕と松井さんとで直接協議した。そして府市統合本部での朝から夕方までのぶっ通しの議論。
細かな10項目でさえ、これだけのエネルギーが必要になった。市議会議員で自分の意見だけを好き勝手に言っていればよかった柳本さんは、この調整の実態を知らない。メディアやインテリたちはもっと知らない。「都構想なんて不要で、府と市が話し合いでやればいい」なんて、そんな簡単に言うなよな! 僕と松井さんの関係ですら、これだけ大変だったんだ。
小西さんは副知事として、そのことをよくよく知っているはず。
数百億円、場合によっては数千億円単位のビッグプロジェクトになれば、いったい府と市の対立と調整はどうなるのか。副知事、副市長レベルではまとめられず、結局知事、市長のところに上がってきてトップ調整をやるはめになる。大阪は延々このようなトップ調整が必要になって、これは変化が速く都市間競争に打ち勝たなければならない時代には不適切だ。僕や松井さん、松井さんや吉村さんのような関係にない、小西・柳本体制になれば、トップ調整によってもまとめることができず、結局、大阪の成長にとって必要なビッグプロジェクトは、以前のように30年、40年放ったらかされることになるだろうというのが僕の見立てだ。
(略)
(ここまでリード文を除き約2300字、メールマガジン全文は約1万1700字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.145(3月26配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【決戦・2019大阪ダブル選挙(1)】業界団体から労組まで……その陣営に「既得権団体」の支援はあるか? 大阪維新の会と「反維新」の決定的な違いはここだ!》特集です。
(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=時事通信フォト)
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