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日本企業が工場を国内回帰させている理由

プレジデントオンライン / 2019年2月13日 9時15分

日産自動車九州工場。今年2月、日産は次期エクストレイルの英生産を撤回し、九州工場に切り替えると発表した。(写真=時事通信フォト)

■資生堂、ライオン、ユニ・チャーム、日清食品が「国内回帰」

最近、大手企業を中心に、製造拠点を国内に回帰させる動きがみられる。

たとえば資生堂は今年2月、2021年に福岡県久留米市で新工場を稼働させると発表した。資生堂はすでに那須工場(栃木県大田原市)、大坂新工場(大阪府茨木市)を建設中で、合計で1700億円超の投資を見込む。

このほかライオンは21年に香川県で52年ぶりの新工場、ユニ・チャームは19年中に福岡県で26年ぶりの新工場、日清食品は今年に滋賀県で22年ぶりの新工場を稼働予定だという。

背景にはさまざまな要素が考えられる。ひとつは新興国の所得上昇だ。

■新興国の所得上昇によって、現地生産のうまみが減った

アジア新興国の所得水準の上昇に伴い、高価格帯の商品を求める消費者が増えている。彼らにとって、“Made in Japan”の製品は、技術力などに裏打ちされた安全な高級品であり、依然として憧れの的だ。

また新興国の所得上昇によって、現地での生産がわが国企業にとって必ずしも有利とは言いづらくなっている。人件費などに着目すると国内で生産を行い、コスト削減を重ねたほうが有利と考えられる部分も出てきた。

国内で生み出される製品には、わが国ならではの技術力、品質管理力、デザイン性といった“ブランド価値”が反映されている。今後、その価値をさらに引き上げ、ブランド価値と競争力を高めることができるか否かが重要になる。

■生産拠点が有望な消費市場に変わってきた

もうひとつの要因は、“Made in Japan”のブランド価値や競争力が再評価されつつあることだ。所得水準の上昇によって、生産拠点として重視してきたアジア新興国が、有望な消費市場(顧客)としての存在感を示すようになった。所得が上がったことで、今まで手が届かなかった日本製品に消費範囲が広がっている。

これまで、わが国の多くの企業は、賃金水準の低さなどから海外に生産拠点を移した。各企業は生活必需品などの汎用品をメインに生産を行い、それを世界の市場で販売して収益を上げてきた。この取り組みは為替レートからの影響を抑制しつつ収益を確保するために重要だった。

同時に、アジア新興国などは、先進国企業の直接投資を受け入れることで資本を蓄積し、所得を上昇させてきた。一人当たりGDP(国内総生産、企業収益と給与の合計額)の推移を見ると、新興国の所得増加のマグニチュードは圧倒的だ。

■なぜ中国経済が減速でも、レクサスの販売は好調だったか

2007年から2017年までの間、ベトナムでは一人当たりGDPが1.5倍増加した。タイやフィリピンでの増加率は70%前後に達した。中国では2.3倍程度も一人当たりGDPが増えた。それに伴い、中間層の厚みが増し、富裕層も増えた。この間、OECD加盟国の平均的な一人当たりGDPの伸び率は8%にとどまった。

所得上昇に支えられ、アジア新興国の人々はより良いモノを手に入れたいと思うようになった。景気が上向き給料が増えるに伴い、高額消費が増えるのは自然だ。その結果、わが国の化粧品や自動車など、高付加価値の商品への人気(需要)が高まった。

いい例がトヨタの“レクサス”だろう。2018年、中国の新車販売台数は前年割れだった。2017年末で小型車減税が終了したことが大きく響いた。その中で、トヨタの高級自動車ブランドである“レクサス”の販売台数は増加した。中国経済が減速する中でレクサスの販売が好調だったことは、わが国ブランドへの人気が高まっていることをよく示している。

■「ユニットレイバーコスト」では日本とアジアの差はない

企業経営者の立場から考えた場合、新興国における所得の上昇は、生産にかかるコスト増加に他ならない。それは、海外で生産活動を行う意義が低下したことを意味する。

最も大きいのは、人件費の問題だ。いま“人手不足”は世界各国共通の課題だ。特に、潜在成長率が高いアジア新興国では労働需給がひっ迫している。すでに、生産1単位当たりの労働コストを示す“ユニットレイバーコスト”を基準にすると、わが国とアジア新興各国の賃金コストに大きな差はない。賃金の上昇圧力が高まる新興国で生産能力を増強する経済合理性は薄れている。

新興国に比べ、わが国の賃金上昇圧力は弱い。それは、新興国での生産に比べ、ファクトリーオートメーション(FA)などの先端技術を導入して労働生産性の向上を目指す余地があることと言い換えられる。それは企業の収益確保に欠かせない。

その上で、わが国の価値観に基づいて品質管理を徹底し、海外で生産するよりもより良い品質を備えた製品(高付加価値製品)の生産を重視する企業が増えている。言語や文化の問題を考慮すると、この考えには相応の説得力がある。

また、工場の自動化などIT先端技術の導入によって、国内と海外の生産技術の格差も収斂してきた。その結果、海外で生産しても、国内で生産しても、コストが大きく変わらなくなってきたと考えられる。

■国内回帰は「一過性」の変化ではない

わが国企業の海外戦略は、重要な局面を迎えたと考えるべきだ。

労働コスト、生産活動を支えるテクノロジーの両面で国内外の差は縮小している。従来のように海外で生活必需品などの汎用品を生産し、それを世界各国の市場で販売するビジネスモデルの優位性は低下したといってもよい。変化に対応するために、国内に生産拠点を設立し、より付加価値の高い商品を生産して、中国市場などでのシェアを高めようとする企業が増えている。

わが国企業の製造拠点が国内に回帰していることを“一過性”の変化として扱うことは適切ではないように思う。

英国から福岡県へ、日産自動車は新型SUVの生産拠点をシフトする。背景には、英国のEU離脱(ブレグジット)の先行きが読めないことがある。それに加え、日産には、国内で完成品を生産することの意義、優位性を再評価し、それを競争力につなげる考えもあるはずだ。それがなければ、日産は生産拠点を英国以外の海外に移していただろう。

■日本企業が世界に情報発信するための条件

今後、求められることは、各企業が“Made in Japan”のブランド価値を高め、世界でシェアを得ることだ。汎用品の分野では、中国や韓国企業の追い上げが熾烈になっている。デジタル家電分野では、中国企業の競争力向上が著しい。ブランド力が問われる高付加価値分野で、ドイツの自動車やフランス、イタリアの高級ブランドなどに対抗していかなければならない。

そのために、より良い品質をもつ製品を生み出さなければならない。不適切な検査実態や管理データの改ざんなどは許されない。それは、“Made in Japan”のブランド価値を失墜させる。

より重要なことは、蓄積してきた技術力を発揮しつつ、最先端のテクノロジーやデザインを実装した、新しい商品を生み出していくことだ。それは、わが国の企業が自力で“ヒット商品”を創造し、新しい市場を手に入れることと言い換えてよい。かつて世界のポータブル音楽再生機市場を席巻したソニーの“ウォークマン”は、そのよい例だ。

足元、電気自動車、自動運転技術など、今後の世界経済を支えるとの期待を集める新しい商品・テクノロジーの開発が急速に進んでいる。そうした分野で、実用に耐えうる製品を生み出し、世界に向かって情報を発信できれば良い。それは、国内で生産活動や研究・開発(R&D)を行う意義を実感する企業の増加につながり、日本経済のダイナミズムを引き出すことにつながるだろう。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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