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沖縄県民投票をスルーする自民党の姑息さ

プレジデントオンライン / 2019年2月17日 11時15分

米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の是非を問う県民投票が告示され、キャンプ・シュワブ前で新基地建設に抗議する人たち=2月14日、沖縄県名護市(写真=時事通信フォト)

■「3択」ではなく「2択」でやるべきだった

沖縄・名護市辺野古への米軍基地移設の賛否を問う沖縄県民投票が2月14日に告示された。投開票は24日の日曜日だ。

投票は「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択となっている。

当初は賛成と反対の2択だった。沖縄市など5市の市長が「2択だと、多様で複雑な民意はすくえない」などと不参加を表明。5市が参加しないと、沖縄県民の3割が投票できなくなるため、沖縄県議会の知事与党会派が「どちらでもない」を追加した。

しかし沙鴎一歩は県民の3割が投票できなくとも、そのまま投票をすべきだったと思う。

なぜなら7割の民意が得られれば、県民の意向を問うには十分であるし、そもそも「どちらでもない」と考える県民はその選択肢がなければ棄権するはずだからだ。「どちらでもない」の選択肢は無用なのだ。

■「どちらでもない」はその解釈で混乱する

「どちらでもない」の解釈をめぐって、「賛成の意味合いが強い」「いや反対だ」と論争が起き、余計に混乱する危険性がある。

実際、2001年5月に行われた、東京電力柏崎刈羽原発のプルサーマル計画の賛否を求めた新潟県刈羽村の住民投票では、賛成、反対に加えて「保留」という選択肢が追加された。そのため投票前から賛成派は「保留は村長に任せるという意味だ」、反対派は「いや計画の中止だ」と激しい議論が巻き起こった。

投票の結果は、賛成が投票総数の43%、反対が53%で、保留が4%だった。幸いなことに賛成に保留の4%を加えても反対が賛成を超えないことから、投票前の論争は自然消滅したという。

沖縄県民投票条例は3択のうち、最も多いものが投票資格者全体の4分の1に達すれば、沖縄県知事はその結果を尊重し、首相と米大統領に通知するよう定めている。

どんな投票結果になろうが、その結果をベースに今後の辺野古移設問題を考えていく必要がある。

■自民党の「静観」は民主主義を無視するのと同じ

辺野古移設を認める自民党沖縄県連は、自主投票を前面に出して静観する構えを見せている。自民党得意の「組織票固めをしない」というのだから、実際にはあきらめに等しい対応だといえる。

過去に行われた米軍基地絡みの住民投票で基地反対が多数を占めた経緯や、沖縄県知事が翁長雄志氏(昨年8月死去)、玉城デニー氏と移設中止を掲げて当選したことから、今回の県民投票でも辺野古移設に伴う埋め立て反対が多数を占める公算が大きく、組織を積極的に動かすことで辺野古移設問題に悪影響を及ぼすことを警戒しているのだろう。

報道によると、自民党沖縄県連からは「自民が賛成票を求めれば求めるほど、反発を買って投票率は上がり、移設反対の民意を高めるばかりだ」とか、「どうせまた反対が多数を占める。自民に勝ち目はない」との声が出ているという。

しかしそんな消極的な姿勢でいいのか。直接投票である県民投票は、沖縄の民意がはっきりと示される。

沖縄県民は米軍基地をどう考えているのか。米国に頼ってきた安全保障をこの先、どうしたいのか。米軍基地で潤ってきた恩恵をどう評価するのか。米軍基地に配備された軍用機の事故や、度々起きる米兵による暴行事件とどう向き合うのか。

こうしたもろもろの事案に対する沖縄県民の考えを示す投票である。民主主義の原点にもつながる。自民党よ、本物の政党であるならいまこそ、積極的に打って出るべきではないか。県民投票を静観するのは、民主主義を無視するのと同じである。

■正反対の主張を繰り広げる朝日と読売の社説

この連載では各紙の社説を読み比べている。よく社説は「おもしろくない」と言われるが、「沖縄県民投票」をめぐる社説は読み比べると、とてもおもしろい。どのように書いても、その新聞社のスタンスが明らかになり、本音を知ることができるからだ。

2月15日付では多くの新聞が「沖縄県民投票」を社説のテーマに選んでいる。ここでは正反対の主張を繰り広げている朝日新聞と読売新聞の社説を読み比べていこう。

「結果はもちろん、これまでの経緯、そして運動期間中に交わされる議論や関係者の動きにも目を凝らし、この国のありようを考える機会としたい」

15日付の朝日新聞の社説は「国のあり方考える機会に」との見出しを付けて冒頭部分でこう主張する。辺野古移設に反対する朝日社説らしいが、このあとの書きぶりには首をひねってしまう。

■「3択に沖縄の苦渋」という巧いだけの表現

「『どちらでもない』の解釈をめぐって、この先、混乱が生じる懸念も否定できない」

ここは沙鴎一歩の指摘と同じだ。問題はこの次だ。

「だが、『沖縄の基地負担を減らすために沖縄に新たに基地を造る』という矛盾に、答えを出しかねる人がいるのも事実だ。3択にせざるを得なかったことに、沖縄の苦渋がにじみ出ていると見るべきだろう」

「3択に沖縄の苦渋」とは、巧みな表現のように思えるが、騙されてはならない。辺野古の移設問題についてこれまでどのくらいの時間をかけて論議してきたと朝日新聞の論説委委員は考えているのだろうか。

いまの時点で賛成か反対かの白黒の決着を付けない限り、辺野古移設問題は解決しない。沙鴎一歩は沖縄の民意を知りたい。真意を聞きたい。そのうえで政府は民意や真意を尊重すべきだと考えている。

■安倍首相は基地問題を数の力で押し通すのか

さらに朝日社説は書く。

「知事選や国政選挙で『辺野古ノー』の民意が繰り返し表明されたにもかかわらず、一向に姿勢を改めない政府への失望や怒りが、県民投票の原動力になった。しかし菅官房長官はきのうの会見でも、辺野古への移設方針に変化はないと述べ、投票結果についても無視する考えであることを宣言した」

「県民行動の原動力」や「自民党の投票結果の無視」については前述した沙鴎一歩の考えと同じである。続けて朝日社説は安部政権を「強権」とたたく。

「一度決めた国策のためには地方の声など聞く耳持たぬ――。こうした強権姿勢は、他の政策課題でも見せる安倍政権の特徴だ。同時に、基地負担を沖縄に押しつけ、それによってもたらされる果実を享受する一方で、沖縄の苦悩や悲哀は見て見ぬふりをしてきた『本土』側が底支えしているといえる」

これにも賛成だ。安倍晋三という首相は数の力で押してくる。だがその数が崩れたときに痛い目に遭うのは私たち国民である。

たとえば米国のトランプ政権が支持を失って議会でねじれを生んだ結果、行政が滞り、公務員に支払われるべき給与が支払われないなど多くの米国民が困惑させられたのは、つい最近のことである。

■「対立と混迷が深まるだけではないか」

次に読売新聞の社説(2月15日付)。「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の危険性を除去することが、基地問題の原点である。県民投票は長年の取り組みへの配慮を欠く。対立と混迷が深まるだけではないか」と書き出す。

見出しも「基地問題の混迷を憂慮する」だ。

「住宅地に囲まれた普天間は、住民を巻き込む事故の危険にさらされている。騒音被害も大きい」

「厳しい安全保障環境の中、抑止力を維持しつつ、住民生活に配慮する。辺野古移設は、この観点から、政府が米国と協議してまとめた実現可能な唯一の案である」

読売社説の主張は朝日社説とは正反対である。読売社説は辺野古移設問題を県民投票で問うこと自体を問題視する。

「住民投票は本来、市町村合併などの課題について、その地域の有権者の意見を聞くのが目的だ」

「安保政策は、国民の生命、財産と国土を守るため、国際情勢と外交関係を勘案し、政府が責任を持って進めるべきものである。住民投票にはなじまない」

■国民生活と安保政策のどちらが大切なのか

沙鴎一歩は「なじまない」とまで言い切ることに疑問を抱く。安全保障とは国民の生活を守るものであるはずだ。国民である沖縄県民が住民投票で安保問題の是非を問うことに、どんな問題があるのだろうか。読売社説の主張だと、国民生活よりも安保政策のほうが大切なように受け取れる。本末転倒である。国民が安保政策に疎外されている。

読売社説は皮肉交じりに付け足す。

「条例制定を主導した政治勢力は、4月の衆院沖縄3区補欠選挙や夏の参院選を前に、移設反対派の結束を固めたい、という思惑があるのではないか」

むしろ自民党こそ、補欠選と参院選に悪影響を及ぼさないように静観しているのではないか。

■橋本首相と大田氏の協議まで時間を巻き戻せ

読売社説は最後まで安倍政権を擁護する主張を展開する。

「1995年の米兵による少女暴行事件を受け、当時の橋本首相と大田昌秀沖縄県知事が協議し、普天間の返還や沖縄振興を進める方針で一致したのが出発点だ」

しかし政府と沖縄の関係はその後、悪化したではないか。橋本首相が宜野湾市の米軍普天間飛行場の県内移設で米国と合意し、大田氏がそれを拒否した経緯がある。どうして読売社説はそこに触れないのか。

「長年にわたり、政府と県は互いの立場を尊重しながら、移設計画に取り組んできた。この努力を無駄にすることは許されまい」

努力を無駄にしないのは、当然のことだ。橋本首相と大田氏の協議まで時間を戻し、その後のボタンの掛け違いを正さない限り、辺野古移設問題は解決しない。

■辺野古移設の代替案を検討するのは安倍政権の役目

読売社説は「玉城デニー知事は、普天間の危険性除去を求める一方、辺野古移設に代わる現実的な案は示していない。県政をあずかる立場として、無責任ではないか。幅広い民意をまとめて、政府とともに基地負担軽減を目指すべきだ」とも書くが、それこそ辺野古移設の代替案を検討するのは安倍政権の役目ではないか。

「政府は県民投票の結果に左右されず、安全を考慮しながら、埋め立てや護岸工事を粛々と進める必要がある。様々な機会を活用して県と対話を重ね、丁寧に理解を求めていく努力も不可欠だ」

こう書いて読売社説は筆を置くが、どこまでも安倍政権擁護の社説である。

そのスタンスは安倍政権と同じく、強引なところがある。数に頼る安倍首相と日本一、いや世界一の発行部数を誇ってきた読売新聞。足場とする次元は変わらないようだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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