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患者が激減"東大病院"ブランド失墜の原因

プレジデントオンライン / 2019年2月28日 9時15分

2003年01月16日、東京大学医学部付属病院の入院棟外観(写真=時事通信フォト)

東京大学医学部附属病院の患者数が激減している。2008年~2017年の9年間で、入院患者は約3.8万人、外来患者は約10万人減った。患者離れの背景にあるのは、相次ぐ不祥事だ。昨年9月の医療事故では「隠蔽」と疑われる対応もあった。東大病院は今後どうなってしまうのか――。

■東大病院で起きた医療事故

東京大学医学部附属病院(東大病院)の医療事故が世間を騒がせている。

きっかけは昨年11月30日、ワセダクロニクルが「検証 東大病院 封印した死」という連載を始めたことだ。第1回の記事によると、昨年9月21日、僧帽弁逆流による重症心不全の治療目的にカテーテル治療を受けた患者が、術後16日目に血気胸の合併症で死亡した。

この患者に用いられたのは、マイトラクリップというカテーテルだ。昨年4月にアボットバスキュラージャパンが販売を開始したもので、新しく開発された医療機器の事故だ。

新しい医療技術は何がおこるかわからない。臨床現場への導入は慎重であるべきだ。厚労省はマイトラクリップを承認するにあたり、さまざまな条件をつけた。特に心機能を重視し、その指標である左室駆出率が30%以上の患者しか使用を認めなかった。ところが、この患者は心機能の低下が著しく、術前の検査では17%しかなかった。本来、マイトラクリップの適応ではなかった。積極的治療が裏目に出たことになる。

■治療の経過は正直に説明しなければならない

私は、東大病院の担当医が、厚労省の定める適格基準を守らなかったことを批判するつもりはない。医療現場では厚労省の基準を無視して、患者を治療することは珍しくない。患者は、一縷の望みにかけて、新しい治療を選ぶ権利がある。ただ、どのような経緯であれ、治療の結果が悪かった場合には正直に経過を家族に説明しなければならない。

ところが、東大病院が作成した死亡診断書では、「病死及び自然死」の項目にチェックがあり、「手術」の項目は「無」だった。さらに、医療事故を調査する日本医療調査安全機構にも報告していなかった。常識では考えられない対応である。

12月1日には総合情報誌『選択』が「東大病院で『手術死亡事故』隠蔽事件」と報じた。その直後、参議院厚生労働委員会で足立信也議員が、この問題を取り上げ、「報道が事実とすると完全に隠蔽」と批判した。ここまでの状況を知れば、誰が考えても隠蔽だろう。東大病院の対応は理解に苦しむ。

このような動きを受けて、1月16~17日、厚労省関東信越厚生局および東京都保健福祉局が、東大病院に立ち入り調査に入った。

■「回答書は支離滅裂」内部告発も

この時、東大病院に取材が殺到したようだ。1月17日、東大病院はマスコミ各社に「回答書」を送付し、その中でワセダクロニクルと「選択」を念頭に、「断片的な情報にもとづく一連の報道においては、当該患者の背景もふくめて診療経過が過って理解され、結果として事実と大きくかけはなれた、偏った内容が多いことを憂慮しておりました」と説明した。

この文章では「当該患者の治療に至る背景」、「適応について」、「当該患者本人およびご家族への説明について」という詳細な説明があるが、東大病院の態度に疑いを抱くマスコミを説得できなかったようだ。

1月24日に毎日新聞が「東大病院が死亡事故 カテーテル使用の心臓病最先端治療」という記事を掲載した。朝日新聞をはじめ、他のマスコミも追随し、多くの国民が知るところとなった。

その後、ワセダクロニクルは2月7日の配信で、「回答書は「支離滅裂」と東大専門医」という内部告発の記事を配信した。

さらに、朝日新聞など複数のメディアが、東大病院が方針を変更し、この患者の死亡を日本医療安全調査機構に報告していたことを報じた。死亡診断書の記載が間違っていたことを東大病院が認めたことになる。

■東大病院の不祥事は今に始まったことではない

ここまでの経過を見ると、東大病院の言い分は信頼できそうにない。このような対応を繰り返せば、社会の信頼を失ってしまう。

実は、東大病院の不祥事は今に始まったことではない。

2013年には、血液腫瘍内科(黒川峰夫教授)が白血病治療薬の臨床研究で、患者に無断で、販売元のノバルティスファーマに患者の情報を提供していたことが明らかとなった。同年には岩坪威・東大教授が代表を務めるアルツハイマー病の多施設共同研究(J‐ADNI)で、データの改竄を指摘された。2014年には、大学院進学を希望する医局員から、教授昇格祝いの名目で100万円を受け取っていた眼科教授が諭旨解雇された。

2015年には、今回医療事故を起こした研究室を主宰する小室一成・循環器内科教授が、前任の千葉大学在籍中に実施したノバルティスファーマが販売する降圧剤の臨床研究で不正を指摘された(ディオバン事件)。千葉大学は調査を行った108例のデータのうち、拡張期血圧の45%、収縮期血圧の44%に誤りがあったとし、東大に処分を求めた。日本高血圧学会は、この論文を撤回した。

■不正を指摘された教授たちはどうなったか

2016年には、東京大学や文部科学省などに研究データ改竄を訴える告発文が届いた。その中には小室一成教授の論文もあったが、もっとも多かったのは、門脇孝・糖尿病代謝内科教授の研究室から発表されたものだった。2003~13年に発表された7つの論文で18カ所の不正の可能性が指摘された。その中には、「データ本体の長方形に、あたかも釘を打ち込むように不自然に下に伸びるエラーバーが隠されていた」、「700日、710日、720日などとキリの良い数字の日に死亡するマウスが不自然に多い」などが含まれていた。

では、このような不正を指摘された教授はどうなったのだろう。驚くべく事だが、諭旨解雇された眼科教授を除き、誰も責任をとっていない。いずれも第三者委員会が設けられたが、黒川教授が文書による厳重注意を受けた以外、不問に付された。定年退職した門脇孝教授を除き、いずれも東大教授の地位にある。

■「アルバイトの合間」に病院で働いているのか

彼らの問題は本業である教育、診療、研究に真面目に取り組んでいないように見えることだ。ワセダクロニクルと私が主宰する医療ガバナンス研究所が共同で立ち上げた「マネーデータベース『製薬会社と医師』」を用いて調べたところ、2016年度に小室一成教授は、製薬企業の講演会などを80回こなし、1123万2,334円を受け取っていた。

門脇孝教授は86回で1163万6,265円、黒川峰夫教授は17回で273万791円、岩坪威教授は12回で129万6,963円を受け取っていた。小室教授や門脇教授は「製薬企業のアルバイトの合間に大学病院で働いている」と言われても仕方ない。

門脇教授は2011~14年まで東大病院長を務めた。トップがこのような振る舞いをすれば、組織は緩む。実は東大病院は地盤沈下を続けている。患者は減少し、東大病院の経営は火の車だ。

2017年の入院患者は35万8,923人、外来患者は69万8780人だった。だがこれは2008年の入院患者39万6436万人と外来患者80万931人に比べて、入院患者は約3万8,000人、外来患者は約10万人減っている。その結果、東大病院の財務状況は「すでに経営破綻している」といわれるほど悪化しているのだ。(後編に続く)

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上 昌広(かみ・まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長・医師
1968年、兵庫県生まれ。93年、東京大学医学部卒。虎の門病院、国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究する。著書に『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)など。

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(医療ガバナンス研究所理事長・医師 上 昌広 写真=時事通信フォト)

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